迷子のレクイエム(狩人)
DREAM
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天空闘技場でゴンくんの試合を見たいと言ったら、ゴンくん含めウイングさんにまでダメだと言われてしまった。凹む。
「戦ってるゴンくんみたいんだけどなあ!」
「ですが、ゴン君が傷つく姿は見たくないでしょう?」
「う……み、見たくない。本音を言えば少し傷ついて喘ぐところは見たいかもしれない」
「やっぱりヒソカと同レベルの変態じゃねえか!」
「あれと一緒にしないで?!」
とにかくダメです、と言われてしまい、めそおと凹んで膝を抱えて座っていると、その正面にゴンくんがやってきて、かがんでこちらを覗き込んできた。
「お兄さん探し、オレのせいで止まっちゃってるんでしょ?オレ、ユウキの足かせにはなりたくないよ」
「ご、ゴンきゅん……」
ゴンくんにこんなことを言わせてしまった。そうだ、そもそもの旅の目的は兄を探すことだ。昨日の宴会で聞いたところによればゴンくんもこの闘技場でヒソカに借りを返したらお父さん探しを始めるというし、いつまでも縋っていても迷惑にもなるのだ。うん、と頷いて立ち上がると、ゴンくんも一緒に立ってくれる。
「そうだよね。なんか、やっぱりゴンくんは大人だなあ」
「そんなことないよ」
「これはキルアくんが惚れるのも納得というか」
「おいまておい!勝手なこというなよおい!おおおオレはゴンに惚れてなんかいなくて友達として大事ってだけで」
「(あからさまに動揺していますね)」
ウイングさんがふふと微笑ましくキルアくんを見つめると、そんなんじゃねえって!と噛みついていた。いやほんと猫ちゃんかな?可愛いね?
私は正面に立つゴンくんを、むぎゅっと抱きしめる。くすぐったいと言われるが、全力の頭なでなでをお見舞いしてやった。
「連絡先渡しとくから、また会おうね。無茶しないでね。ヒソカに襲われないようにね(性的な意味で)」
「大丈夫だよ。ユウキも無理はしないでね」
「あ、キルアくんもむぎゅう!」
「うわあーっ!やめろよなっ」
うるせえむぎゅうさせろと抱きしめたら犯行モードの猫のようにじたばたされた。いややはりかわいい。こちらもかわいいショタ。
「ミルキくんに少し優しくしてあげてね。よく拗ねてるから」
「あいつはいっつも拗ねてるからいいよ今更」
「はー、生意気弟は最高だなー!!それじゃあ、私もう行きますねウィングさん!」
「はい、次は私の弟子も紹介しますよ」
「楽しみにしてます!!」
キルアくんを離して、もう一度みんなに別れの挨拶をすませると、名残惜しいがそっと部屋を出て扉を閉める。
これ以上とどまったら、さみしくて動けなくなりそうだったので、振り返らずに廊下を走った。連絡先も聞いたから会えなくなるわけじゃない。それはそれとしてやっぱりさみしい、とめそめそしながらエレベーターに乗って降りて、そして天空闘技場を出ると、少し建物を見上げてしまう。
(ゴンくん、たくさん怪我してたなあ)
大丈夫だったと言っていたけど、擦り傷や殴打の傷がたくさんあったのにいくら鈍感な私でも気づいていた。キルアくんも同じような怪我をしていて、二人とも修羅場をくぐっていたに違いない。私はというと、兄探しもままならない状態で宙ぶらりんだ。肩書だけは先輩ハンターだというのに。
(……なんか、一気にさみしくなっちゃったなあ)
本当に兄がいるのかとか、考えたくなくても考えてしまう。その答えは、ヨークシンにあると信じて私は探すしかないのだ。ピロンと電話が着信を告げる。はい、と力なく電話に出たら、ふっと笑う声がした。
『元気がないな。悩み事があるなら、兄さんに話してみなさい』
「いやほんとブレないなこの人」
自称兄に突っ込みを入れたらなんだか気持ちが少し浮上したので、団員の変態行為をやめさせるように進言したら即答で「無理」と帰ってきた。おいこら団長。
ーーー……
ダメだ。何の成果もない。適当に入った喫茶店で、ぐったりとして携帯を開いていた。
天空闘技場を出た後、兄がヨークシンから動いた気配がないことをもう一度確認して件の街へやってきたのだが、名前だけの人間の情報を探ろうにも聞き込みしても意味はなく、お腹は空いたし、何も得られるものはなかった。世界最大のオークションがあるという九月にはまだ二ヶ月は早いし、どこかに潜んでいるのだろうか。
はぁ、とため息を吐きながら注文したパフェを口に含む。あー、疲れたら甘いものに限るなー!おいしー!
「すみません、このプリンの乗ってるパフェもう一つください」
「ブゴフッ!!」
突如聞こえた声にゲホゲホと咳き込む。食べていたパフェを噴き出すところだった。
正面を見れば、やはりというか、クロロさんだ。私と同じパフェを注文したクロロさんだ。神出鬼没なの?
「お願いだから声かけてよ……心の準備をさせて……」
「驚かせるのが目的だったから難しいな」
「団員の皆さんもそれやるんだからね?!いつか私を一番驚かせた奴の勝ちみたいなバトルされそう」
「……なるほど」
「いややれとは言ってないから考えるのやめて?!」
冗談だよと笑っているが、本当だろうか。怪しい。今のところノブナガさんとマチさん、パクノダさん、ヒソカにしか会ってないけど、他の団員の皆さんも驚かせてきたらどうしような。その時は団長であるクロロさんにしっかり怒ってもら……いやこの人自体驚かせてくるから意味がないな。ちくしょう。
「で、兄探しは順調か?」
「全く!全然!これっぽっちも順調じゃない!くっそー、渡航歴はここから動いてないのになー。まさか偽名使ってどこか行っちゃった?はー、もうこうなったら幻影旅団に賭けて、二ヶ月待つしかないか」
「なら二ヶ月暇なんだな」
「暇っていうのやめて?そもそもクロロさんだって劇団の仕事は?」
「オレの方もしばらくは仕事は入ってないんだ。さ、暇人同士デートしようか」
「だから暇っていうのやめて?!いやそもそもデートしないけど?!」
「たまには兄妹団欒しようじゃないか。おっとまずはこのプリンパフェを食べないとな」
「だから妹じゃないんだが?!」
結局パフェを食べ終えた後、デートであり兄妹団欒と称して街中を連れ回された。途中からもう今日は難しいこと考えるのやめるかーと楽しんでいたけれど、高級料理店の個室で夜景を眺めていた時にようやく正気に返った。
「普通に満喫してしまった……」
「それなら良かった。ほら、ここの肉は美味いらしいから思う存分食べてくれ」
用意されていた高そうな肉のステーキに目が眩むが、正気に返ったなら改めて聞いておかないといけない。
「どうして遊びに連れてってくれたの?」
「兄妹団欒といっただろ?これでもちゃんと、お前の兄のつもりなんだぞオレは」
「いやだから兄じゃない……まあ、今日はいっか」
実際楽しかったし、ゴンくんたちと離れた寂しさも兄の見つからないもどかしさも薄れた。もしかして、この間電話で私の声色が寂しそうだったから、気にかけてくれたのかな。そうだとしたら、本当に兄みたいだ。実の兄のこと全然覚えてないけど。
「……へへ!ありがとね、クロロさん!」
「ふむ、まだ兄さんとは呼ばないか……もっとどろっどろに甘やかせばいけるか?」
「怖い怖い!!真剣に考えるのやめて?!もー、いいからお肉食べよ!」
「ふふ、そうだな」
これは自称兄の独白である。
最初は好奇心から。彼女を加護する恐ろしい攻撃性を持ったオーラを見て、その使い手に興味が湧いた。ぜひ旅団に引き入れたい。顔が見てみたい。どんな輩が、こんな善良でひ弱な人間に執着し、全ての危険から守るための殺戮マシーンを生み出したのか、知りたいと思った。
だから、彼女が探しているという兄というポジションに成り代わればどうするのかリアクションを待ったのだが。
彼女を守る防衛機構は、どうやら彼女に危害を加えない限りは何もしないようだった。オレが彼女を抱き上げても、何もしてこなかった。あくまで、彼女が傷つくのが条件なのだろう。それなら、傷をつけてみようか。そう思ったのだけど。
彼女の何も知らない笑顔に毒気が抜かれた。オレ達を本気で劇団だと思い込み、笑う彼女が傷つくのは、見たくないと思ってしまった。
彼女には何の価値もなく、力もない。唯一役立ちそうな持ち物はハンターライセンスのみ。さっさとそれだけ盗んで、殺すか離れてしまえばよかった。
気配を消して話しかけて、驚かせるのが楽しい。共に食事をするのが楽しい。最近読んだ本の感想を言い合うのが、楽しい。
馬鹿な話だ。オレは関係のない人間を殺せるし、盗賊団よろしく盗みもする。今度のオークションに幻影旅団総出で襲撃すれば、彼女はオレ達が盗賊団だと知るかもしれない。きっと、怖がるだろう。そうなれば今度こそ傷つけることができる。実の兄とやらも黙ってはいないはずだ。当初の目的は達成されるのだ。そう、わかってはいるのに。
(一生、知らなくて良い。このままオレの妹でいればいい)
オレはどうすればオークション開始までにこの子がヨークシンから離れてくれるか、それだけを考えていた。