迷子のレクイエム(狩人)
DREAM
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私ユウキは、兄探し以外でライセンスを悪用しました。
レオリオとクラピカと別れた後、すぐに電脳ページを開いた。検索をかけた時のあのドキドキはとてつもなく背徳感があった。しかし、これはライセンスを持っている特権でもあり、なによりゴンくんが心配で会いたいからやっていること。断じてストーカーではない。そう言い聞かせながら調べた結果、ゴンくんはとある都市行のチケットを購入していたことが判明した。
そこで有名な場所といえば、天空闘技場だ。ゴンくんが行くかどうかはわからないが、とりあえず大きな施設や観光名所を辿ることにしようと初めての天空闘技場へ足を運ぶことにした。入場は以前人助けをしたときに会員証をもらっていたので、それで問題なく入れた。
そして、さっそく名前を見つけて、これから200階に挑戦するという情報をキャッチした私は意気揚々と200階の見学へと向かった!そう、そこまではよかった!わくわくとエレベーターに乗った私が200階に到着し開いた扉から見たものは。
ゴンくんと見知らぬ少年が、廊下の途中で立ち止まっており、私の目の前の背中は見覚えのあるもので、さらにゴンくんたちの奥には奇抜な格好の男がいて、情報量が多い光景だった。エレベーターが開いたことで、全員がこちらを見た。そしてゴンくんが、「あっ」と声を漏らす。やっと、やっと!!
「ゴンきゅんんんんん!!やっと会えたうおおおんんん!!」
「わっ、わっ、ユウキ落ち着いてっ!わわわっ」
「ああああすべすべお肌は健在だよかったああああずっと心配してたんだよハンター試験合格おめでとおおおおお!!」
「あ、ありがとう!じゃなくて!今はほんと危なくてっ」
ゴンくんに飛びついてすべすべお肌を撫でまわしていたら腕の中でゴンくんが慌てたように廊下の奥をちらりと見た。危ないとは、と視線を追うと、奇抜な格好の男はこちらを見て目を細めて薄ら笑いを浮かべている。はっ、まさか。
「へ、変態なんだね?!あの男はゴンくんの生足を狙う変態なんだね?!ほらだから心配だったんだよおおお!!ゴンくんの生足はショタコンホイホイなんだからもしもしポリスメン?!」
「失礼だなあ。ボクは変態じゃないよ」
「変態はみんなそういうんだ!!」
「あいつはれっきとした変態だよ。だって、ゴンがどこ行きのチケット買ったか調べてここに先回りしてるストーカー野郎なんだぜ!」
「……あ、そ、そうなんだ、へ、へえー……」
「おいまてまさかお前も」
ぴゅーぴゅーなんて吹けもしない口笛を吹いて誤魔化そうとするも銀髪つんつん頭にはばれたらしく、素早くゴンくんを回収されてしまった。そんな私の様子を見たストーカー男はくっくと肩を揺らして笑った。
「なあんだ、キミ変態だったんだね」
「うわああああ変態に変態って言われたあああああ!!」
「コントはもういいですから、あなたも行きますよユウキ」
変態に変態認定されたのがショックで喚いていたら、ぽんと肩を叩かれて振り返るとそこには2年前お世話になった人、ウイングさんがあきれたように立っていた。エレベーターを出てすぐに見えた見覚えのある背中は彼だったようだ。
ウイングさんは私がハンターライセンスを得た後、ネテロ会長から紹介されて会ったハンターだ。他にもたくさんのハンターと顔合わせしたんだけど、あれライセンスもらったらみんなするのかな……。
ほら行くぞ、と銀髪つんつん頭の子がゴンくんを連れてエレベーターに乗り込んで、私はウイングさんに首根っこを掴まれて引きずられる。その様子をあの変態男はにやにやしながら見ていたので、「次会ったらゴンくんを賭けて勝負しろちくしょおおおお」とほぼ負けセリフに近い言葉を残しておいた。泣いてないよ!
「さて、君達への説明は後でしましょう。まずはユウキ。なぜここに来て……ああ、そういえばゴン君のストーカーをしてたんでしたか。こんな幼い子に手を出そうとはなんて不届きな娘になってしまったんでしょう。嘆かわしいです」
「誤解ですからああああ!!私はただゴンくんに合格おめでとうって言いたくて追いかけてたわけで、や、やましい気持ちなんてこれっぽっちも」
「目が泳いでますよ。ひとまず、少し話をなさい」
ぽんと肩をおされて、ゴンくんの前に出る。さっきはようやく会えて嬉しくてテンション高く飛びついてしまったが、幾分か落ち着いてきたのでふうと一息ついて、やっとゴンくんの顔を正面にとらえることができた。
「ゴンくん、ハンター試験合格ほんとおめでとう!これで本格的にお父さん探しできるね」
「うん、ユウキもありがとう」
「いや私お礼言われること何にもしてないけどね!」
「ううん、そんなことないよ。試験会場まで一緒にいてくれたでしょ?すごく心強かった。オレがハンターを目指してるって言ったときも笑わないで応援してくれた。オレ、本当にうれしかったんだ。だから、ありがとうユウキ」
「はーーーーーー天使かーーーーーーえ、もしかしてこの天使っぷりを発揮した結果あんな変態に目をつけられたってことなの?レオリオとクラピカは何してたの?こんな生足魅惑のマーメイドが狙われてるというのにあいつらああああ」
「こいつレオリオたちも知ってんのかよ」
「あ、そうだ紹介してなかったね。この人はユウキっていって、オレが試験会場に着くまで一緒にいてくれた恩人なんだ。で、こっちはオレの友達のキルア!よろしくね!」
「えー、変態に挨拶するのやなんだけど」
「やめて変態認定するの!!って、キルアくん?あ、そういえばゾルディック家に友達を迎えに行くって聞いてたっけ。じゃあミルキくんの弟なの?」
「ミルキくん?!兄貴のこと知ってんの?!」
「うん、友達だし」
えええ、とキルアくんが驚愕を隠せない顔をしている。まあ、ミルキくん基本家からほぼ出ないし、あんなに大きな家だと遊びに行くのも難しいだろうし仕方ない。ミルキくんとはマブダチよ、と無駄に胸を張って見せたら、ますます不審がられてしまった。なんて警戒心の強い子だ。猫ちゃんかな?かわいいね。
「そっかあ、君がキルくんもといキルアくんかあ。ほかにイルミって兄弟いるよね?私その人にはまだ会ったことないんだよなあ」
「……会わないほうがいいよ、イル兄には」
ぼそりとつぶやかれた言葉。私にはわからないけど、どうやらキルアくんがイルミというお兄さんに何か思うことがあるようだ。それならあまり話題を続けるのもよくない。そう思って話題転換をと二人にここにきた理由を尋ねることにした。
「二人はなんで天空闘技場に?」
「お金稼ぎと、ちょっと強くなりたくて。オレ、ヒソカに返さなきゃならないものがあるんだ」
「ヒソカ?」
「さっきの変態」
キルアくんの言葉に、思わず発狂してゴンくんにひしっとしがみついた。
「返すって何を?!キッス?!キッスなの?!それとも貞操?!いやあああ私のゴンくんが変態に手を出されてるいやああああ!!」
「いや、このナンバープレートなんだけど……」
「ダメだ聞いてないぜ。ていうかこいつだって変態じゃんか」
「けれど、彼女も名義上はハンターですから」
「げえ、こいつハンターなの?どう見ても弱そうなんだけど」
「ええ、今のあなたたちではその感想でしょうね」
「え?」
「ほら、いい加減落ち着きなさい。二人とも、彼女もしばらくここにいるでしょうから連絡先を教えてあげてください。彼女を部屋から追い出しますので」
うおんうおんとゴンくんにしがみついていたら、突如ウイングさんに首根っこを掴まれぽいっと部屋の外に放り投げられた。一応やさしめに投げられたようで、高そうな絨毯に着地すると、キルアくんがはいこれと紙切れを渡してくる。
「なにこれ」
「連絡先。オレらこの人と話があるから、また後でな」
「へ?」
ばたんと、無情にも扉を閉められる。一瞬どういうことかわからなかったが、そうか、追い出されたのかと理解してめそおと凹んでしまう。ひとまず200階の観客用客室の確保に向かおうととぼとぼと歩き出したのだった。
廊下を通ると、陰からひょこりと男が飛び出してきて心臓が飛び出るかと思うほど驚いた。悲鳴を押し殺して、相手を見るとゴンくんを狙う変態、ヒソカという男だった。
「出たな変態!ゴンくんの魅惑の生足は渡さん!」
「いいよ、ボク捧げられるより奪うほうが好きだから」
「ひいん!やべーやつだよおおお!!ゴンくんは私が守らないと!!」
あっちいけしっしっ、と虫を追い払う仕草で手を振るも、ヒソカは逃げてはくれずむしろ近寄ってくる。
「いやこわ!なになになんなの!」
「仲間として、挨拶しておかないとなって思っただけ」
「いやなんの仲間?!変態?!変態の仲間だと思われてる?!違うんだが?!」
「ほら、キミ団長の妹なんでしょ?ボクも団員だし、仲間」
語尾にハートがつくような口調で言われて、一瞬フリーズする。えっと、団長、団員、妹。ポンと脳内に黒髪イケメンがよぎる。
「く、クロロさんのとこの団員だったの?!……あー、だからそんな奇抜な格好をしてるのか。普段からもその格好って、役者意識めちゃ高いな……ちょっと見る目変わっちゃうな……」
「だから……って何のこと?」
「え、だって、クロロさんの旅団って劇団でしょ?その格好ってことはサーカスっぽい演目もあるんだよね」
「ああ、そういう……ブフォッ」
「わあなんで噴き出すの?!」
なんでも、ない、よ、ととぎれとぎれに言われるが、ほぼ初対面でなんでこう噴き出して笑うやつが多いのか。クロロさん、あなたのとこの芸人仲間失礼な人ばかりですよほんと!ひとしきり笑った後、満足したらしくすっきりした面持ちで顔を上げたヒソカ。
「あー面白かった。で、キミの名前は?団長妹って呼んだほうがいい?」
「いやそもそも妹じゃないんだが?!普通にユウキでいいよ!あっやべ変態に名前教えちゃった!」
「ふうん、ユウキね」
「覚えられてしまった!!」
翌朝忘れていますように!いつまでも変態に構っていても仕方ない、早く客室確保に向かおうと今度こそ無視して歩き出す。いまだ背後で笑われていたが、もう無視を決め込んで私は観客用の窓口へ向かうのだった。
室内にて。荒療治になるといって、開かれたオレ達の念能力。これで、ヒソカによる牽制で通れなかったあの廊下を越えることができる。もっと、強くなれる。来てくれているユウキにも教えてあげようと意気込んでいたら、ウイングさんが「ダメです」と言ってきた。
「ユウキには念能力については口外無用です」
「えっどうして?」
「知らないほうがいいことも世の中にはあるのです。彼女は今まで念を知らなかったからこそ健やかに生きてこられた。その理由は、きっとあの廊下を越えて彼女に会えばわかります。二人とも、どうかお願いです。彼女を怖がらないであげてください」
「それって、どういうこと?」
「会えばわかりますよ」
そう言って送り出されたオレ達はヒソカが立ちはだかる廊下を纒(てん)をまとい通り抜けた。そんなオレ達を見てヒソカはまた奇妙に目を細めて見せた。洗礼は受けずにすみそうだねと微笑まれるが、あまりうれしくはない。やっと土俵に上がる資格を得ただけなのだから。
一勝したら戦ってくれるというので、了承してキルアと一緒に受付に向かう途中、「そうだ」とわざとらしい声をこちらに聞かせてきた。キルアに聞かなくていいと言われるが、つい耳が声を拾ってしまう。
「あの変態の子、キミ達の友達なのかな?それとも、これから友達ではなくなってしまうのかな?」
「……なんで?」
「だって今のキミ達じゃあ、あの子を見たらきっと怖くて震えちゃうんじゃないかい」
くっくと笑って、ヒソカは廊下の暗闇に消えていく。どうして、オレ達がユウキを怖がるのか。ウイングさんもヒソカも、念が使える人間にはユウキの何が見えているというのか。キルアは会ってみないとわかんねえだろと、いつの間にか立ち止まってしまったオレの腕を引いてくれた。
ちょうど窓口で手続きをすませた時、オレの携帯にユウキという変態2号から連絡が入った。ゴンはもっと話がしたいと言うのでひとまずゴンの部屋に集合することとして、部屋番を教えて先に部屋で待っていた。
これから念を学んで強くなる。少しわくわくしていた時、部屋の前に明らかに異様な気配を感じて鳥肌が立った。それはゴンも同じだったようで、冷や汗を流して部屋の扉を凝視している。こんこん、とノックオンがした。
「ゴンくーん!きたよー!ユウキだよー!」
あの気配が、ユウキだって?誰かが彼女の真似をして、オレ達に奇襲をしかけてきたのではと疑うが、ゴンがそれに返事をした。
「今鍵開けるから待ってて!」
「おい、ゴンつ」
「……あの声は、ユウキだよ。気配は、少し怖いけど、ユウキだと思う」
そう言いながら扉に向かうゴンの体は震えていた。ゴンはオレの家に来た時、ミケを正面から見たと言っていた。動物の類に怖いと思ったことはなかったが、あの時怖いと思ったんだとこの街に来る前に乗った飛行船の中で、少し悲しそうに教えてくれたのを覚えている。きっと、今その時と同等の恐怖を感じているのだ。ゴンよりも修羅場をくぐっているはずのオレですら、思わず攻撃態勢をとろうとしてしまうほど、恐ろしいものが扉の前にいると感じていた。
ゴンの背後に控えて、扉が開かれるのを待つ。施錠を外すと、ゆっくりと扉が開いて、そこに立つ人間の顔が見える。
「あっゴンくん!それにキルアくんもさっきぶり!」
にこーっと笑う彼女は、先ほどと変わらない様子のユウキ本人だった。お邪魔しますと部屋に入ってきて、買ってきたというお菓子をせっせと並べはじめている。
念を覚えたオレ達は、ようやくウイングさんとヒソカの言っていたことを理解した。
(なんだよ、あれは……!)
禍々しく強大な力を持ったオーラが、ユウキを守るように覆っていたのだ。あれは、ユウキが念で作り上げたものではない。ならばきっと他者の念でできた、ユウキを守るためだけの防衛機構。
彼女に危害を加えてはいけない。彼女を貶めようとしてはいけない。そんなことをすれば、きっとあの防衛機構は殺戮マシーンと化す。今感じている恐怖は、まるでイル兄を前にした時のようで、足が進まない。
「?どしたの二人とも」
「な、なんでもないよ。お菓子たくさん買ってきてくれたんだね」
「だってお祝いしなきゃだし!あ、ルームサービスでご飯注文できるっぽいから頼んじゃおうよ!今日はパーティーだー!」
固まるオレとは裏腹に、ゴンはなんでもない風を装って近づいていく。思わず止めそうになるが、ちらりとこちらを見たゴンが力強く頷いて大丈夫だと視線で訴えてくる。ユウキを守るそれを見上げると、とくにゴンに対してアクションはない。
そうか、こいつはオレ達の恐怖に反応して出てきているんだ。ただ、恐怖の感情を向けるだけなら攻撃はしてこない。おそらく殺意の感情でも攻撃はしてこないだろう。実行に移せば襲ってくるものなのだ。そこまで推察して、ウイングさんの言っていたことを思い出す。
ー知らなかったからこそ健やかに生きてこられたー
ー怖がらないであげてくださいー
(……オレはまだこいつのこと、何にも知らねえけど)
自分のせいで周囲を怖がらせていたと知れば、どこかゴンに似てお人よしそうな彼女は深く悲しむのだろう。そもそも、あの強大なオーラは怖いけれど、それでこいつを怖がるのはお門違いだと思いなおす。
こいつはただの変態で、ゴンやレオリオ、クラピカの友達。それだけだ。少しずつ恐怖が薄れていくと、ユウキを守ろうと出ていた防衛機構は薄くなり、気が付けば見えなくなっていた。
後日、修行中にウイングさんから聞いた話だが、あの防衛機構は基本的には表に出てはこないが、ここ天空闘技場には悪意を持った人間が多く、その負のオーラに反応して発現していたらしい。
近くにいる二人が怖がらないでいてくれれば、出てくる必要もないので見えなくなりますよと言われて、もう昨日の途中から見えてないと教えたら心から嬉しそうに「ありがとう」と感謝されてしまって少しむず痒かった。