★番外編
DREAM
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お巡りさんと金貸しと。
(2011年なずな25歳)
わかってはいたことだが、俺の彼女は大層モテる。
当の本人はそれに無自覚であり、俺としても胃が痛いところである。
たとえば、道を聞かれた時。
なぜか道だけでなく人生相談まで始まってしまい、最後にはなずなの手を離さまいとするかのごとく両手で握りしめてくるものだから、警察手帳をチラつかせて追い払うこともしばしば。
たとえば、チンピラに絡まれた時。
最初は襲われて反撃していたものの、そいつが弱音を吐き始めたら、なぜかまた人生相談に乗ってやることになり、最後には違う意味で襲おうとしてくるので、手錠をかけて蹴り飛ばしている。
たとえばを挙げるときりがないが、とにかく俺としてはとても困っているのだ。
「それで、今もそのチンピラ蹴り飛ばして椅子にしてるってこと?」
「あいつに踏まれたいっていうんで、俺が代わりに踏んでやってるんですよ」
「うーーん。なずなちゃん変態も呼び寄せるタイプだったかー」
しばらくすると応援を呼んでいた警察官がやってきたので、踏まれたい男を引き渡してから秋山さんと並んでタバコをふかした。
「相手の心を救っちゃうところは魅力的なんだけどね。救いすぎてるんだろうね、きっと」
そうだ、問題はそこなのだ。あいつは、救いすぎてるのだ。
ありがとうと感謝されるところまではいい。だがあいつの場合は心の奥底まで救ってしまうが故に、ありがとうの言葉だけではすまなくなっている。何かしてあげたい、何か恩返しがしたいと思わせてしまうほど、救ってやるのだ。これもまた、本人無自覚で。
そのせいで、悪い奴らに狙われて、死なないといけなくなったというのに。
「そう思うとさ、谷村さんに会うまでの4年間……今お兄さんと同居してるんだっけ?じゃあ、一人だったのは3年かな。その間、よく無事だったよね」
「ええ、何もなくてよかったです」
「ちなみになずなちゃんが隠してる可能性は?」
「あいつ嘘つけないし、初日に徹底的に問い詰めたんで」
「怖ぁ……そういえばなずなちゃんと一緒じゃないの?」
「真島さんに連れていかれました。今日は二人でショッピングするんだそうです」
「あーわかった!置いてかれて拗ねてるんだ!だからチンピラボコってたんでしょ?そうだよね?絶対そうだ!」
「スカイファイナンスガサ入れされたいんですか?」
「それはやめて!」
ふーっとタバコの煙を吐き出して、あいつが一人だった3年間を思う。無事だったのは、きっと実の兄が守ってきたからというのもあるだろうけど、一番の理由は。
「多分あいつ、一人で死のうとしてたんですよ。あんなに人と喋るのが好きな奴が、誰とも仲良くならないで、帰る場所も作らず、各地を転々として、どこかで一人で死ぬ気だったんです。だから他人とあまり関わらなかったんだと思います」
「……そうだね、あの子はそういう子だ。自分のせいで谷村さんを傷つけたって、今もずっと思ってるんだものね」
「あれは俺がクソだせえだけだったんですけどね。はー、不意打ち食らってリンチされるとかマジでだせえ。挙句にはあいつ、俺を助けるためにそいつらについていくって泣いて懇願したんですよ。あの日、俺が最後に聞いたあいつの言葉、なんだったと思います?……巻き込んでごめんなさい、楽しい一日をありがとう、だったんです」
「それはなんとまあ……引きずるねえ」
「ええ、見事四年も引きずりました」
助けてと言ってほしかった。俺なんかのために泣かないでほしかった。ごめんなさいもありがとうも、何もできなかった俺に、言わないでほしかった。
死んだと聞かされても死亡届を確認したのは、いなくなったと信じたくなかったからだ。あいつにとって楽しかった一日が誕生日だったと知って、流れる涙を止められないほど、会いたかったからだ。
「大事にしなきゃね、谷村さん。でもちょっと過保護すぎるとこもあるから、そこは手加減してあげて」
「考えときます」
「しないね、こりゃ。あー、でもいいよねえなずなちゃん。初めて会った時はびっくりしたなあ。まさか困ってる女の子助けたら、それが桐生さんが呼んだ女の子で、谷村さんの探し人だったなんて。なんだか運命みたいだよね」
「は?淫行罪でしょっぴきますよ?」
「本気でやめてね??」
一服を終え、携帯灰皿で煙草の火を消していたら、携帯に着信が入った。仕事だったらいやだなあと相手を見れば、なずなからだった。
「どうした?」
『おお谷村。わしやわし。すまんのー、甘い声やったのに聞いたのがわしで!』
「何罪がいいですか?」
『しょっぴこうとすな!ってコントやっとる場合ちゃうねん。お前、なずなちゃんの痛み止め持ってへんか?』
「どこに行けばいいですか」
『神室町ヒルズの54階の救護室や。はよきいや』
通話を終えると、秋山さんがどうしたの?と聞いてくるので、胸ポケットから錠剤を取り出して腹の傷用の痛み止めだと伝える。
「真島さんから早く来いって連絡でした。あいつ、すぐ俺に隠そうとするんで何かあったら連絡してくれって言ってたんです」
「そっか。それじゃ早く行かなきゃね。なずなちゃんに我慢しちゃダメだよって伝言よろしく」
「了解」
きっとこの先も、あいつは自分よりも他人を優先して傷を隠そうとするのだろう。
つらいことも隠して、一人で抱えていこうとするのだろう。
だから俺は、それを全部暴いて一緒に背負ってやると決めた。
「わ、わわっ谷村さん!」
「起き上がらなくていいよ。ほら、薬。忘れるなんてドジだな全く」
「へへ……ありがと、谷村さん」
救護室の簡易ベッドに寝転ぶ彼女に薬を差し出し、頭をポンと撫でてやれば、なずなは嬉しそうに微笑むので、俺はそれだけで幸福を感じるのだ。
「うっわー、なんちゅうデレデレした顔や、谷村」
「まだいたんですか?」
「おるに決まっとるやろがい!!誰がお前呼んだおもてんねん!」
(2011年なずな25歳)
わかってはいたことだが、俺の彼女は大層モテる。
当の本人はそれに無自覚であり、俺としても胃が痛いところである。
たとえば、道を聞かれた時。
なぜか道だけでなく人生相談まで始まってしまい、最後にはなずなの手を離さまいとするかのごとく両手で握りしめてくるものだから、警察手帳をチラつかせて追い払うこともしばしば。
たとえば、チンピラに絡まれた時。
最初は襲われて反撃していたものの、そいつが弱音を吐き始めたら、なぜかまた人生相談に乗ってやることになり、最後には違う意味で襲おうとしてくるので、手錠をかけて蹴り飛ばしている。
たとえばを挙げるときりがないが、とにかく俺としてはとても困っているのだ。
「それで、今もそのチンピラ蹴り飛ばして椅子にしてるってこと?」
「あいつに踏まれたいっていうんで、俺が代わりに踏んでやってるんですよ」
「うーーん。なずなちゃん変態も呼び寄せるタイプだったかー」
しばらくすると応援を呼んでいた警察官がやってきたので、踏まれたい男を引き渡してから秋山さんと並んでタバコをふかした。
「相手の心を救っちゃうところは魅力的なんだけどね。救いすぎてるんだろうね、きっと」
そうだ、問題はそこなのだ。あいつは、救いすぎてるのだ。
ありがとうと感謝されるところまではいい。だがあいつの場合は心の奥底まで救ってしまうが故に、ありがとうの言葉だけではすまなくなっている。何かしてあげたい、何か恩返しがしたいと思わせてしまうほど、救ってやるのだ。これもまた、本人無自覚で。
そのせいで、悪い奴らに狙われて、死なないといけなくなったというのに。
「そう思うとさ、谷村さんに会うまでの4年間……今お兄さんと同居してるんだっけ?じゃあ、一人だったのは3年かな。その間、よく無事だったよね」
「ええ、何もなくてよかったです」
「ちなみになずなちゃんが隠してる可能性は?」
「あいつ嘘つけないし、初日に徹底的に問い詰めたんで」
「怖ぁ……そういえばなずなちゃんと一緒じゃないの?」
「真島さんに連れていかれました。今日は二人でショッピングするんだそうです」
「あーわかった!置いてかれて拗ねてるんだ!だからチンピラボコってたんでしょ?そうだよね?絶対そうだ!」
「スカイファイナンスガサ入れされたいんですか?」
「それはやめて!」
ふーっとタバコの煙を吐き出して、あいつが一人だった3年間を思う。無事だったのは、きっと実の兄が守ってきたからというのもあるだろうけど、一番の理由は。
「多分あいつ、一人で死のうとしてたんですよ。あんなに人と喋るのが好きな奴が、誰とも仲良くならないで、帰る場所も作らず、各地を転々として、どこかで一人で死ぬ気だったんです。だから他人とあまり関わらなかったんだと思います」
「……そうだね、あの子はそういう子だ。自分のせいで谷村さんを傷つけたって、今もずっと思ってるんだものね」
「あれは俺がクソだせえだけだったんですけどね。はー、不意打ち食らってリンチされるとかマジでだせえ。挙句にはあいつ、俺を助けるためにそいつらについていくって泣いて懇願したんですよ。あの日、俺が最後に聞いたあいつの言葉、なんだったと思います?……巻き込んでごめんなさい、楽しい一日をありがとう、だったんです」
「それはなんとまあ……引きずるねえ」
「ええ、見事四年も引きずりました」
助けてと言ってほしかった。俺なんかのために泣かないでほしかった。ごめんなさいもありがとうも、何もできなかった俺に、言わないでほしかった。
死んだと聞かされても死亡届を確認したのは、いなくなったと信じたくなかったからだ。あいつにとって楽しかった一日が誕生日だったと知って、流れる涙を止められないほど、会いたかったからだ。
「大事にしなきゃね、谷村さん。でもちょっと過保護すぎるとこもあるから、そこは手加減してあげて」
「考えときます」
「しないね、こりゃ。あー、でもいいよねえなずなちゃん。初めて会った時はびっくりしたなあ。まさか困ってる女の子助けたら、それが桐生さんが呼んだ女の子で、谷村さんの探し人だったなんて。なんだか運命みたいだよね」
「は?淫行罪でしょっぴきますよ?」
「本気でやめてね??」
一服を終え、携帯灰皿で煙草の火を消していたら、携帯に着信が入った。仕事だったらいやだなあと相手を見れば、なずなからだった。
「どうした?」
『おお谷村。わしやわし。すまんのー、甘い声やったのに聞いたのがわしで!』
「何罪がいいですか?」
『しょっぴこうとすな!ってコントやっとる場合ちゃうねん。お前、なずなちゃんの痛み止め持ってへんか?』
「どこに行けばいいですか」
『神室町ヒルズの54階の救護室や。はよきいや』
通話を終えると、秋山さんがどうしたの?と聞いてくるので、胸ポケットから錠剤を取り出して腹の傷用の痛み止めだと伝える。
「真島さんから早く来いって連絡でした。あいつ、すぐ俺に隠そうとするんで何かあったら連絡してくれって言ってたんです」
「そっか。それじゃ早く行かなきゃね。なずなちゃんに我慢しちゃダメだよって伝言よろしく」
「了解」
きっとこの先も、あいつは自分よりも他人を優先して傷を隠そうとするのだろう。
つらいことも隠して、一人で抱えていこうとするのだろう。
だから俺は、それを全部暴いて一緒に背負ってやると決めた。
「わ、わわっ谷村さん!」
「起き上がらなくていいよ。ほら、薬。忘れるなんてドジだな全く」
「へへ……ありがと、谷村さん」
救護室の簡易ベッドに寝転ぶ彼女に薬を差し出し、頭をポンと撫でてやれば、なずなは嬉しそうに微笑むので、俺はそれだけで幸福を感じるのだ。
「うっわー、なんちゅうデレデレした顔や、谷村」
「まだいたんですか?」
「おるに決まっとるやろがい!!誰がお前呼んだおもてんねん!」