snobbism(龍如)
DREAM
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家族生活。~元六代目来訪~
(2019年なずな33歳)
「こんばんは、六代目さん!よし兄がそわそわして待ってましたよ!」
あと、もう六代目じゃないから、堂島大吾として呼んでくれと言われたので、しばし悩んだ後に堂島さんと呼ぶことにした。大吾さんだとよし兄が「馴れ馴れしくするんじゃねえ」とドスをきかせてきそうだからだ。
少し前によし兄に連絡があり、住所を教えると一時間ほどでインターホンが鳴ったが、そわそわしていたよし兄が自室に戻っていたので代わりに私が出迎えることになった。よし兄は堂島さんが絡むと少しポンコツだ。
「そういえば、君はあいつを兄と呼んでるんだったな」
「もうかれこれ10年兄妹やってます」
「……あいつが、飛び降りてからか」
「私が闇医者先生のとこに痛み止めもらいに行ってたら、よし兄がそこに運ばれてきたんですよ!それで、薬もらう代わりに看病してて、リハビリも手伝って……なつかしいなあ」
「でも、どうして兄妹に?」
「えっと、私その頃あてもなく一人旅してまして、結構メンタルが限界だったんですよ。そんな時、リハビリを終えたよし兄が来て、お前の旅についていってもいいかって言ってくれて……峯義孝は死んだから、お前の性を名乗るって兄になってくれたんです」
「そうだったのか。峯の……義孝の傍にいてくれて、ありがとな、なずな」
「いやいや!私こそよし兄がいてくれて本当によかったです!!一人じゃなくなったし、色々あって行くのをためらってた神室町に行って来いって背中押してくれたし、もう感謝してもしきれないんですよ」
よし兄がいなかったら、私は今も一人だったかもしれないし、神室町にも行かなかったかもしれない。
あの時、行けばいいと言ってくれて、頭を撫でてくれたから、行く勇気が持てたのだ。
へへっと笑ったら、堂島さんも嬉しそうな顔をしていた。
「たく、俺より若い女の子の方がいいんじゃねえか。あれだけ聞いても女はいないだの興味ないだの言ってたくせにな」
「よし兄は堂島さんに会いたがってましたよ?」
「え?」
「今日も言ってたじゃないですか、合わせる顔がないって。あれ、会いに行けって言う度にずっと言ってましたよ。それこそ10年ずっと。会いたいけど、会う資格がないって」
「なんだよそれ。あいつ、そういう変にかたっ苦しいところあるんだよな」
「ほんとはあと3年は早く会いに行く予定だったんですけど、桐生さん……かずま叔父さんがアサガオに帰れなくなっちゃって、そうなると俺だけが救われていいわけがないってまた頑なで!でも今日やっと!二人が会えてよかったです!」
「俺こそ、今日は来てくれて本当に助かったよ。まさかあんなに激しいカーチェイスが始まるとは思ってなかったけど」
「ヒヒ!テンションぶち上げやったで!!」
「君、真島さんと本当に仲が良いんだな……」
リビングまで案内していると、ばたばたっとよし兄の自室から音がした。鍋を準備していたかずま叔父さんは、物音を聞いておかしそうに笑っている。
「よく来たな。今あいつ、身なりを整えてるんじゃねえか?」
「ああ、そういうところありますからね。たまにはずぼらな姿も見てみたいんですが」
「よし兄わりとずぼらなんだけどなあ……前に浴室からパンツ一枚で出てきてかずま叔父さんに怒られてたし」
「いや、まさか男がいる女と住んでて半裸で出てくるとは思わねえだろ……その後お前も下着でうろつき始めたから思わず並ばせて説教しちまったな」
「何やってんだこの兄妹」
「本当ですよね」
「?!」
「あ、どうも。神室署の谷村です。何年か前に、ミレニアムタワーの屋上で顔だけは見たことあるかもしれないですね」
かずま叔父さんの話を聞きながらソファに座った堂島さんは、すでに座っていた谷村さんに気が付かなかったらしい。隣からいきなり返事が返ってきて驚いて振り向いていた。谷村さんの顔をまじまじと見て、そういえばと顎に手を当てている。
「上野誠和と警察とのもめ事の時の、宗像を殴り飛ばしていた刑事か?」
「よく覚えてましたね。その節はどうも」
「あの新井が褒めてた刑事だからな、印象深かったんだ。そうか、君が真島さんから聞いていたなずなの恋人か」
「真島吾朗!!」
「はは、まあ怒らないでやってくれ。真島さん、君の事娘みたいに可愛いみたいでね、幹部会が終わった後とかよく君の話をしていたよ」
「嬉しいけど!!今日に至るまで顔も合わせたことなかったのに恋人情報だけ知られていた私って一体!!」
うぐおおおと悶えていると、控えめに扉が開き、部屋からよし兄が出てきた。服装もいつもよりはきっちりとしていて、首が疲れるといってたワイシャツを着ているものだからつい噴き出してしまった。ぎろりとよし兄が私を睨むが、好きな子を前にして身なりを整えるよし兄が可愛いので許してほしい。ちなみにイヒヒと笑っていたら、堂島さんが「笑い方が完全に真島さんだ」と引いていたのには気づかなかった。
「こんばんは、大吾さん。道に迷いませんでしたか?」
「おお、なんとかな。ここ、建物はしっかりしてる割には入口にたどり着くまで少し迷う構造になってんだな。いかにも裏稼業御用達って感じだ」
「そうですね。自分達にはちょうどいい物件です」
「……俺もこの隣に引っ越そうかな」
「えっ」
「お前、目を離してる隙に俺なんか忘れてさっさとどっかいっちまいそうだし。それに桐生さん……一馬さんもいるし、楽しそうだしな」
「いいですね!!おまけに私もついてきますよ!!」
「お前は谷村とよろしくやってろ」
「こら!よし兄口悪いよ!!」
「はいはい、お前はこっちで俺とよろしくやってましょうね」
「わキャー?!!顔も声も良い!!」
「知ってる知ってる」
谷村さんにさらっと横抱きされて、そのまま自室に運ばれていく。積もる話もあるだろうから、と部屋に入ってから言われて、気が利かなかったなあと落ち込んだら、谷村さんに頭をぽんぽんされて慰められた。
「向こうが落ち着くまでこっちでゆっくりしてようぜ。早く鍋食いてえなあ」
「ほんとだよね!でも、うん、わかった!それじゃあ映画でもみよっか!!おすすめはね、キリコちゃんシリーズ7作目だよ!」
「なんでそんなに超大作化してんだよそれ……まあいいけど」
「やったー!ところで、もうおろしてくれても大丈夫なのですが?!」
「やだ」
「ひええええ!!恥ずかしいからおろしてえええ!!」
ベッドの上で横抱きにされたまま、キリコちゃんシリーズ7作目を見ることになったのだが、まあ案の定羞恥心が勝って内容が頭に入んなかったよね!谷村さんがかっこいいことしか覚えてないよね!!
うるさい妹を気の利く恋人が連れていくと、防音がしっかりしているので妹の自室から音は聞こえない。どうせいちゃついてなどおらず、映画でも見ているのだろうが。
「お前の妹、可愛いなあ」
「それはちょっと、同意しかねますが……」
「いやしてやれよ。可愛いですよね、一馬さん」
「ああ、もちろんだ。義孝も照れてるだけだろうよ。それより、これからどうするんだ」
照れていないと抗議する間もなく、一馬さんが一番聞きたかったことを聞いてくれる。そうだ、東城会も近江連合もなくなって、その後はどうするのだろうか。しかし、もうすでに次に動いているらしく、大吾さんは動揺することもなく大丈夫だと笑った。
「組員達の受け皿になってやろうと思って、渡瀬と一緒に蒼天堀で警備会社を起ち上げました。東京の方にも支部を作って、極道から上手くカタギに戻れない奴らを雇うつもりです」
「なるほどな。いいんじゃねえか?兄さんは退屈しそうだが」
「まあ、そうはいってもあの人もいい歳ですから。いい加減落ち着いてもらわないと。というか、暴れないでほしいんですよね……冴島さんもストッパーかと思いきや天然で突き進むところがありますし……」
これまでの東城会会長としてやっていた苦労話を聞いて、俺がいなくても大吾さんの時間は過ぎていたんだと改めて実感した。そういえば、谷村と再会したての頃になずなもそんなことをぼやいて谷村に説教されていたな。会わないと決めたのは自分だったのに、少し寂しく思うなんて、本当に欲深い人間だな俺は。
同じように話を聞いていた一馬さんは、俺とは反対に嬉しそうに聞いていた。子供の成長を見守る父親の顔をしていて、そういえば叔父設定にしたけど、父親設定でもよかったななんてふと思った。いや、俺と一馬さんは歳がそんなに離れていないから少し無理があるか?
「おい、聞いてんのか義孝」
「あ、はい。聞いてますよ」
大体の昔話の区切りがつき、大吾さんは「そうだ」と紙袋をこちらに差し出してきた。首を傾げていると、開けろと目で訴えられる。
慎重に仲のものを取り出す。瓶なので、酒だろうか。取り出したそれを見た時、とある記憶が脳裏に再生された。
『そのボトルは会長と私が飲むために用意した物。私一人で飲む訳にはいきません』
10年前、大吾さんと一緒に飲もうと約束した酒だ。覚えていてくださったのか。あの店に、足を運んでくださったのか。忘れないでいてくれたのか。
酒を見て固まる俺を見て、いたずらが成功したような顔で大吾さんが笑っていた。
「よかった、忘れてたらもう一発ぶんなぐってるところだった。やっと、一緒に飲めるな」
「本当に、あなたと言う人は……」
「嬉しいだろ?」
「ええ、もちろん」
歳をとり涙もろくなった、なんて言葉をよく耳にしていたが、本当にそうなのかもしれない。嬉しい時も、涙は出るものなのだと、なずなを見て知っていた。涙が流れる時は、我慢をする必要もないことも、知っていたのだ。
「おい、鍋を食べるから出てきていいぞ」
「ひゃい!!いっ、行きます!!」
横抱きされたままではテレビの方に顔を向けるのが大変だと途中で気が付いた。そしてついつい真上にある谷村さんの顔を見ることになるのだが、いやほんと顔が良い。時折私の視線に気づいて「ん?」という優しい声色で微笑むので、何年たってもイケメン耐性のない私には顔を真っ赤にして「ひえ」と声を震わせることしかできなかった。そんなこんなで映画の内容など頭に入らず、ひたすらイケメンを拝んでたのだが、どうやら積もる話は終わったようだ。扉の向こうでかずま叔父さんが呼んできたので、谷村さんにようやくおろしてもらえた私は急ぎ足で部屋を出て恥ずかしい空間を脱出した。そんな私を見て、かずま叔父さんは少し気まずそうな顔をした。
「なんだ、本気でよろしくやってたのか?」
「いいえ?」
「そそそそもそもよろしくやるって何さ?!ほほほら!鍋!!私セッティングするね!!」
とりあえず台所でタオル濡らして顔を冷やさなきゃ!!ひいんイケメンには一生慣れないよー!!
慌ただしくなずなが台所に向かった後、「それで、やってたのか?」と堂島さんが尋ねてきたので、もう一度いいえと首を横に振る。
「あいつを横抱きしたまま映画見てました。まああいつずっと照れてたんで内容なんか頭に入ってなさそうでしたけど。そもそも、今そういうことやったらそこの二人に殺されるんで」
「殺しはしねえよ。しばらく家に入れねえだけだ」
「俺はしばらく連絡ブロックさせますけどね」
過保護な二人がこちらを見ている。俺達の事を祝福してくれているのも本当だが、それよりあいつが嫌がることをされたら誰が相手だろうと許さないといった姿勢でもあるので、地雷を踏まないように気を付けている。まああいつが嫌がることは俺自身やるつもりはないんだけど。ポンと、堂島さんに肩を叩かれる。
「なるほどなあ。ちなみに、もしあの子を泣かせることがあったら俺も怒るし、真島さんにもすぐ連絡するからよろしくな」
また保護者が増えたようだ。俺の恋人は極道ホイホイなのかもしれないと思ったものの、過去のことを思うとあまり笑えないので口に出すことはなかったが。
(2019年なずな33歳)
「こんばんは、六代目さん!よし兄がそわそわして待ってましたよ!」
あと、もう六代目じゃないから、堂島大吾として呼んでくれと言われたので、しばし悩んだ後に堂島さんと呼ぶことにした。大吾さんだとよし兄が「馴れ馴れしくするんじゃねえ」とドスをきかせてきそうだからだ。
少し前によし兄に連絡があり、住所を教えると一時間ほどでインターホンが鳴ったが、そわそわしていたよし兄が自室に戻っていたので代わりに私が出迎えることになった。よし兄は堂島さんが絡むと少しポンコツだ。
「そういえば、君はあいつを兄と呼んでるんだったな」
「もうかれこれ10年兄妹やってます」
「……あいつが、飛び降りてからか」
「私が闇医者先生のとこに痛み止めもらいに行ってたら、よし兄がそこに運ばれてきたんですよ!それで、薬もらう代わりに看病してて、リハビリも手伝って……なつかしいなあ」
「でも、どうして兄妹に?」
「えっと、私その頃あてもなく一人旅してまして、結構メンタルが限界だったんですよ。そんな時、リハビリを終えたよし兄が来て、お前の旅についていってもいいかって言ってくれて……峯義孝は死んだから、お前の性を名乗るって兄になってくれたんです」
「そうだったのか。峯の……義孝の傍にいてくれて、ありがとな、なずな」
「いやいや!私こそよし兄がいてくれて本当によかったです!!一人じゃなくなったし、色々あって行くのをためらってた神室町に行って来いって背中押してくれたし、もう感謝してもしきれないんですよ」
よし兄がいなかったら、私は今も一人だったかもしれないし、神室町にも行かなかったかもしれない。
あの時、行けばいいと言ってくれて、頭を撫でてくれたから、行く勇気が持てたのだ。
へへっと笑ったら、堂島さんも嬉しそうな顔をしていた。
「たく、俺より若い女の子の方がいいんじゃねえか。あれだけ聞いても女はいないだの興味ないだの言ってたくせにな」
「よし兄は堂島さんに会いたがってましたよ?」
「え?」
「今日も言ってたじゃないですか、合わせる顔がないって。あれ、会いに行けって言う度にずっと言ってましたよ。それこそ10年ずっと。会いたいけど、会う資格がないって」
「なんだよそれ。あいつ、そういう変にかたっ苦しいところあるんだよな」
「ほんとはあと3年は早く会いに行く予定だったんですけど、桐生さん……かずま叔父さんがアサガオに帰れなくなっちゃって、そうなると俺だけが救われていいわけがないってまた頑なで!でも今日やっと!二人が会えてよかったです!」
「俺こそ、今日は来てくれて本当に助かったよ。まさかあんなに激しいカーチェイスが始まるとは思ってなかったけど」
「ヒヒ!テンションぶち上げやったで!!」
「君、真島さんと本当に仲が良いんだな……」
リビングまで案内していると、ばたばたっとよし兄の自室から音がした。鍋を準備していたかずま叔父さんは、物音を聞いておかしそうに笑っている。
「よく来たな。今あいつ、身なりを整えてるんじゃねえか?」
「ああ、そういうところありますからね。たまにはずぼらな姿も見てみたいんですが」
「よし兄わりとずぼらなんだけどなあ……前に浴室からパンツ一枚で出てきてかずま叔父さんに怒られてたし」
「いや、まさか男がいる女と住んでて半裸で出てくるとは思わねえだろ……その後お前も下着でうろつき始めたから思わず並ばせて説教しちまったな」
「何やってんだこの兄妹」
「本当ですよね」
「?!」
「あ、どうも。神室署の谷村です。何年か前に、ミレニアムタワーの屋上で顔だけは見たことあるかもしれないですね」
かずま叔父さんの話を聞きながらソファに座った堂島さんは、すでに座っていた谷村さんに気が付かなかったらしい。隣からいきなり返事が返ってきて驚いて振り向いていた。谷村さんの顔をまじまじと見て、そういえばと顎に手を当てている。
「上野誠和と警察とのもめ事の時の、宗像を殴り飛ばしていた刑事か?」
「よく覚えてましたね。その節はどうも」
「あの新井が褒めてた刑事だからな、印象深かったんだ。そうか、君が真島さんから聞いていたなずなの恋人か」
「真島吾朗!!」
「はは、まあ怒らないでやってくれ。真島さん、君の事娘みたいに可愛いみたいでね、幹部会が終わった後とかよく君の話をしていたよ」
「嬉しいけど!!今日に至るまで顔も合わせたことなかったのに恋人情報だけ知られていた私って一体!!」
うぐおおおと悶えていると、控えめに扉が開き、部屋からよし兄が出てきた。服装もいつもよりはきっちりとしていて、首が疲れるといってたワイシャツを着ているものだからつい噴き出してしまった。ぎろりとよし兄が私を睨むが、好きな子を前にして身なりを整えるよし兄が可愛いので許してほしい。ちなみにイヒヒと笑っていたら、堂島さんが「笑い方が完全に真島さんだ」と引いていたのには気づかなかった。
「こんばんは、大吾さん。道に迷いませんでしたか?」
「おお、なんとかな。ここ、建物はしっかりしてる割には入口にたどり着くまで少し迷う構造になってんだな。いかにも裏稼業御用達って感じだ」
「そうですね。自分達にはちょうどいい物件です」
「……俺もこの隣に引っ越そうかな」
「えっ」
「お前、目を離してる隙に俺なんか忘れてさっさとどっかいっちまいそうだし。それに桐生さん……一馬さんもいるし、楽しそうだしな」
「いいですね!!おまけに私もついてきますよ!!」
「お前は谷村とよろしくやってろ」
「こら!よし兄口悪いよ!!」
「はいはい、お前はこっちで俺とよろしくやってましょうね」
「わキャー?!!顔も声も良い!!」
「知ってる知ってる」
谷村さんにさらっと横抱きされて、そのまま自室に運ばれていく。積もる話もあるだろうから、と部屋に入ってから言われて、気が利かなかったなあと落ち込んだら、谷村さんに頭をぽんぽんされて慰められた。
「向こうが落ち着くまでこっちでゆっくりしてようぜ。早く鍋食いてえなあ」
「ほんとだよね!でも、うん、わかった!それじゃあ映画でもみよっか!!おすすめはね、キリコちゃんシリーズ7作目だよ!」
「なんでそんなに超大作化してんだよそれ……まあいいけど」
「やったー!ところで、もうおろしてくれても大丈夫なのですが?!」
「やだ」
「ひええええ!!恥ずかしいからおろしてえええ!!」
ベッドの上で横抱きにされたまま、キリコちゃんシリーズ7作目を見ることになったのだが、まあ案の定羞恥心が勝って内容が頭に入んなかったよね!谷村さんがかっこいいことしか覚えてないよね!!
うるさい妹を気の利く恋人が連れていくと、防音がしっかりしているので妹の自室から音は聞こえない。どうせいちゃついてなどおらず、映画でも見ているのだろうが。
「お前の妹、可愛いなあ」
「それはちょっと、同意しかねますが……」
「いやしてやれよ。可愛いですよね、一馬さん」
「ああ、もちろんだ。義孝も照れてるだけだろうよ。それより、これからどうするんだ」
照れていないと抗議する間もなく、一馬さんが一番聞きたかったことを聞いてくれる。そうだ、東城会も近江連合もなくなって、その後はどうするのだろうか。しかし、もうすでに次に動いているらしく、大吾さんは動揺することもなく大丈夫だと笑った。
「組員達の受け皿になってやろうと思って、渡瀬と一緒に蒼天堀で警備会社を起ち上げました。東京の方にも支部を作って、極道から上手くカタギに戻れない奴らを雇うつもりです」
「なるほどな。いいんじゃねえか?兄さんは退屈しそうだが」
「まあ、そうはいってもあの人もいい歳ですから。いい加減落ち着いてもらわないと。というか、暴れないでほしいんですよね……冴島さんもストッパーかと思いきや天然で突き進むところがありますし……」
これまでの東城会会長としてやっていた苦労話を聞いて、俺がいなくても大吾さんの時間は過ぎていたんだと改めて実感した。そういえば、谷村と再会したての頃になずなもそんなことをぼやいて谷村に説教されていたな。会わないと決めたのは自分だったのに、少し寂しく思うなんて、本当に欲深い人間だな俺は。
同じように話を聞いていた一馬さんは、俺とは反対に嬉しそうに聞いていた。子供の成長を見守る父親の顔をしていて、そういえば叔父設定にしたけど、父親設定でもよかったななんてふと思った。いや、俺と一馬さんは歳がそんなに離れていないから少し無理があるか?
「おい、聞いてんのか義孝」
「あ、はい。聞いてますよ」
大体の昔話の区切りがつき、大吾さんは「そうだ」と紙袋をこちらに差し出してきた。首を傾げていると、開けろと目で訴えられる。
慎重に仲のものを取り出す。瓶なので、酒だろうか。取り出したそれを見た時、とある記憶が脳裏に再生された。
『そのボトルは会長と私が飲むために用意した物。私一人で飲む訳にはいきません』
10年前、大吾さんと一緒に飲もうと約束した酒だ。覚えていてくださったのか。あの店に、足を運んでくださったのか。忘れないでいてくれたのか。
酒を見て固まる俺を見て、いたずらが成功したような顔で大吾さんが笑っていた。
「よかった、忘れてたらもう一発ぶんなぐってるところだった。やっと、一緒に飲めるな」
「本当に、あなたと言う人は……」
「嬉しいだろ?」
「ええ、もちろん」
歳をとり涙もろくなった、なんて言葉をよく耳にしていたが、本当にそうなのかもしれない。嬉しい時も、涙は出るものなのだと、なずなを見て知っていた。涙が流れる時は、我慢をする必要もないことも、知っていたのだ。
「おい、鍋を食べるから出てきていいぞ」
「ひゃい!!いっ、行きます!!」
横抱きされたままではテレビの方に顔を向けるのが大変だと途中で気が付いた。そしてついつい真上にある谷村さんの顔を見ることになるのだが、いやほんと顔が良い。時折私の視線に気づいて「ん?」という優しい声色で微笑むので、何年たってもイケメン耐性のない私には顔を真っ赤にして「ひえ」と声を震わせることしかできなかった。そんなこんなで映画の内容など頭に入らず、ひたすらイケメンを拝んでたのだが、どうやら積もる話は終わったようだ。扉の向こうでかずま叔父さんが呼んできたので、谷村さんにようやくおろしてもらえた私は急ぎ足で部屋を出て恥ずかしい空間を脱出した。そんな私を見て、かずま叔父さんは少し気まずそうな顔をした。
「なんだ、本気でよろしくやってたのか?」
「いいえ?」
「そそそそもそもよろしくやるって何さ?!ほほほら!鍋!!私セッティングするね!!」
とりあえず台所でタオル濡らして顔を冷やさなきゃ!!ひいんイケメンには一生慣れないよー!!
慌ただしくなずなが台所に向かった後、「それで、やってたのか?」と堂島さんが尋ねてきたので、もう一度いいえと首を横に振る。
「あいつを横抱きしたまま映画見てました。まああいつずっと照れてたんで内容なんか頭に入ってなさそうでしたけど。そもそも、今そういうことやったらそこの二人に殺されるんで」
「殺しはしねえよ。しばらく家に入れねえだけだ」
「俺はしばらく連絡ブロックさせますけどね」
過保護な二人がこちらを見ている。俺達の事を祝福してくれているのも本当だが、それよりあいつが嫌がることをされたら誰が相手だろうと許さないといった姿勢でもあるので、地雷を踏まないように気を付けている。まああいつが嫌がることは俺自身やるつもりはないんだけど。ポンと、堂島さんに肩を叩かれる。
「なるほどなあ。ちなみに、もしあの子を泣かせることがあったら俺も怒るし、真島さんにもすぐ連絡するからよろしくな」
また保護者が増えたようだ。俺の恋人は極道ホイホイなのかもしれないと思ったものの、過去のことを思うとあまり笑えないので口に出すことはなかったが。
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