snobbism(龍如)
DREAM
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命を詩う人の話。⑥
(2016年なずな30歳)
大阪へ戻ると、ポストに白い封筒が入っていた。開けてみれば、どこかの物件の契約書といつもの付箋が貼られている。
≪落ち着いてきたところ悪いが引っ越ししてくれ≫
≪引っ越し先は谷村のみ教えていい≫
「ま、また引っ越し……それも今度は谷村さん以外には教えちゃダメなんだ……」
「ジングォン派とフィクサーとやらは、お前の実兄でもさすがに厄介みたいだな。仕方ねえ、さっさと荷物を片付けるか」
「はーい……それにしても、六代目さんに会えなくて残念だったね、よし兄。まさか逮捕されてたとは……」
そう、神室町から大阪へ戻る新幹線の中で、暇つぶしに買った雑誌を読んでいたら、小さい記事だが東城会のことが書いてあったのだ。ほんの少し前に、亜細亜街の大火事について責任を問われた東城会は、六代目さんと大幹部の真島さんが逮捕されることで収拾をつけていた。
せっかくよし兄が六代目さんと会えると思ったのに、なんでこんなことになったのか。しかしよし兄は少し残念そうな顔をしたものの、すぐに怒りの表情へと切り替わった。
「どいつこいつも会長の手を煩わせやがって……しかも菅井が会長代行だと?あんな老害に東城会の看板が背負えるわけねえだろうがくそが」
「出た!口悪よし兄!ていうかその会長代行さんのこと知ってるの?」
「俺より前から東城会にいた相談役だ。ただどうやって六代目を引きずり落そうか考えているのが見え見えの狸爺でな。狂犬が傍にいれば大丈夫だろうと思っていたが、まさかその真島さんまでも逮捕させるとはな。あまりにも菅井に都合がよすぎる」
舌打ちしながらよし兄が段ボールを組み立てている。今の神室町で、一体何が起こっていて、何が起きようとしているのだろう。私がジングォン派に人質扱いされたことを考えると、桐生さんもまた巻き込まれてしまっているのだろうか。
「とりあえず荷物まとめて、今日中には引っ越しを終わらせるぞ。谷村には場所はまた後日伝えるが引っ越しするってだけ伝えとけ」
「イエッサー!!次はどんなとこかな!!」
楽しまなきゃやってられないと、次の引っ越し先に思いを馳せながら急いで荷物の整理をすることにした。
「いや、広すぎるんだが?!」
どうにか荷造りが終わり、その日のうちに荷物と共に引っ越し先へ向かうと、前以上に広いマンションの一室へ案内されて思わず突っ込みを入れてしまった。ロフトはあるし、部屋も寝室が三つあるし、リビングは広いし、どうなってんのこの部屋?!
「何度も引っ越しさせて悪いと思っての計らいだろ。素直に喜んでおけ」
「よ、喜びたいけど、それにしても広すぎない?!私達部屋を持て余してない?!」
「谷村には教えてもいいってのは、いつかあいつもここに引っ越してきてもいいって意味じゃねえのか?」
「ほへえ?!そ、そういうことなの?!えっ、でも……」
「なんだ」
「寝室離れるの寂しい」
「しね」
「口が悪い!!」
よし兄のチベスナ目を受けながら、ひとまずコンビニで買ってきたおでんをテーブルの上に並べることにした。荷ほどきは明日にしよう。今はとにかくご飯だ!
「はー。でもようやく落ち着けるねー。あ、谷村さんにメール送っとこっと」
「ついでに六代目の状況も聞いておいてくれ」
「いつも聞いてるからついでじゃないんだよなあ」
ひとまず谷村さんに引っ越ししたことと、そのことは谷村さん以外には内緒だということを伝えておいた。うちによく遊びに来ていたのは谷村さんと秋山さんだけだが、今秋山さんとは連絡がつかなくなっている。一応音信不通になる前に、本格的に潜るから落ち着いたら連絡するねと言われていたが、大丈夫だろうか。
メールを送ってからおでんを食べていたら、しばらくして谷村さんから返信があった。来週研修で大阪に行くから、終わったら新居に来るとのことだ。思わずにやあと笑ったら、よし兄から「きめえ」と辛らつな言葉を投げられる。泣いてないよ!
「いや、広すぎない?」
週末、研修終わりに我が家へやってきた谷村さんは部屋に入るなりそう言った。一週間前の私と同じ感想だったので、よし兄が噴き出したのは少し面白かった。
「何人住みを想定した広さなの?もう平気で四人くらい住めるじゃん」
「いやほんとそうだよね……ち、ちなみに?よし兄は後々谷村さんもここに住む想定なのでは?とか考察してたりしますが?!」
「俺を巻き込むな」
「でも俺の部屋はなずなと同部屋だから一部屋余りますね」
「何の迷いもなく言ったなこいつ。まあこいつも寝室離れたら寂しいとか言ってたからいいんじゃねえか?」
「よし兄口軽いーっ!!」
「はー、早くここ住みてえー」
谷村さんに背後から抱きしめられて、肩に頭をぐりぐりと押し付けられる。よし兄の「いちゃつくなら寝室行け」という冷たい視線を受けつつ、ひとまずリビングでくつろぐよう促した。少し不満げにむーんとしている谷村さん、可愛いです!
「で、谷村。六代目はどのくらいで出られそうだ?」
「それについては悪い話になります。六代目と真島さんは、このまま刑務所送りなんですよ」
「なんだと?!」
「え、えっと?これまでも逮捕されたけどすぐ釈放されてたよね?今回は何か違うの?」
よし兄が動揺するなんてよっぽどだけど、これまでだってそんな話はあったと思う。今回も同じようなことで、すぐに釈放されるものだと思っていたけど、違うのだろうか?そう思っておそるおそる尋ねると、谷村さんが説明してくれた。
「ざっくりいうと、これまでは逮捕されても勾留止まりだったから金さえ払えばすぐに出てこられた。けど今回は違う。勾留期間もなく刑務所直送ってことは、もう金で釈放はできない。少なくとも3年は出てこられないだろうな」
「3年もあれば、会長のいない東城会なんて今の代行どもに簡単に乗っ取られるだろう。……大吾さんの東城会がなくなってしまうんだ」
そういえば刑務所に入った桐生さんは3年で釈放されたんだっけ。今回冴島さんは脱獄の罪で刑務所に入っているが、二度目の脱獄だから出てくるのはもっと遅くなると聞いた気がする。
それじゃあ、六代目さんや真島さん、冴島さんが戻る場所が、なくなってしまうじゃないか。これまでも、東城会を守るために頑張ってきたと聞いている。桐生さんにとっても、身を綺麗にしたとしても大切な場所のはずだ。
東城会の人のせいでひどい目にあったけど、私を助けたのだって東城会の人だった。だから、こんな形で壊れてほしくなかった。でも。
「私にできることなんて、きっとないんだよね」
これまでだってそうだ。事件が起きても私は関われず、関わったところで何もできない。
もう10年も経つのに、谷村さんを巻き込んでしまった日のことを鮮明に思い出せてしまうから、関わることも怖くて、何もできないままだ。情けないなあ。
べこべこ凹んでいたら、よし兄に鼻で笑われてしまった。
「お前が気に病んでどうすんだ。これは当事者たちの問題で、俺達はいつだって蚊帳の外だっただろ」
「……よし兄」
「すべてを救うつもりかお前は?そんなことしなくていい。お前は、お前の手の届く範囲でもがけばいいんだ。あとはお前を命がけで守ってるやつに任せておけ」
「俺も義孝さんと同意見。そもそも、俺だって懲り懲りなんだよ。俺の見えないところで、無茶して怪我されたりなんて。それに、お前にしかできないこと、いつもやってただろ」
「私にしかできないこと?」
「全部終わったときに、安心して帰ってこれる場所で待っててやること。そういうの、結構大事だと思うよ、俺は」
あんなことで、よかったのか。もっと役に立たないと、と思っていたけど、それだけでよかったのか。今の私に、私にしかできないこと。
友達が疲れた時に、「お疲れ様」って言って待っていてあげるだけで、救われてくれるのなら。
「……うん。私、待ってる。全部終わって、みんなが疲れたーって言って帰ってきた時に、お疲れ様って言ってあげるんだ」
「そうそう。あ、でも飲み代は自腹にさせて、高い酒持ってこさせような。お前が言ったらあのおっさん達喜んで持ってくるだろ」
「ついでに大吾さんに迷惑をかけた詫びとして高い肉も買わせるか」
「二人の欲望入ってない?!でも……頼んじゃおっか!」
ヒヒっと笑ったら、よし兄に「真島さんの笑い方になってんじゃねえか」と呆れたように言われた。
(2016年なずな30歳)
大阪へ戻ると、ポストに白い封筒が入っていた。開けてみれば、どこかの物件の契約書といつもの付箋が貼られている。
≪落ち着いてきたところ悪いが引っ越ししてくれ≫
≪引っ越し先は谷村のみ教えていい≫
「ま、また引っ越し……それも今度は谷村さん以外には教えちゃダメなんだ……」
「ジングォン派とフィクサーとやらは、お前の実兄でもさすがに厄介みたいだな。仕方ねえ、さっさと荷物を片付けるか」
「はーい……それにしても、六代目さんに会えなくて残念だったね、よし兄。まさか逮捕されてたとは……」
そう、神室町から大阪へ戻る新幹線の中で、暇つぶしに買った雑誌を読んでいたら、小さい記事だが東城会のことが書いてあったのだ。ほんの少し前に、亜細亜街の大火事について責任を問われた東城会は、六代目さんと大幹部の真島さんが逮捕されることで収拾をつけていた。
せっかくよし兄が六代目さんと会えると思ったのに、なんでこんなことになったのか。しかしよし兄は少し残念そうな顔をしたものの、すぐに怒りの表情へと切り替わった。
「どいつこいつも会長の手を煩わせやがって……しかも菅井が会長代行だと?あんな老害に東城会の看板が背負えるわけねえだろうがくそが」
「出た!口悪よし兄!ていうかその会長代行さんのこと知ってるの?」
「俺より前から東城会にいた相談役だ。ただどうやって六代目を引きずり落そうか考えているのが見え見えの狸爺でな。狂犬が傍にいれば大丈夫だろうと思っていたが、まさかその真島さんまでも逮捕させるとはな。あまりにも菅井に都合がよすぎる」
舌打ちしながらよし兄が段ボールを組み立てている。今の神室町で、一体何が起こっていて、何が起きようとしているのだろう。私がジングォン派に人質扱いされたことを考えると、桐生さんもまた巻き込まれてしまっているのだろうか。
「とりあえず荷物まとめて、今日中には引っ越しを終わらせるぞ。谷村には場所はまた後日伝えるが引っ越しするってだけ伝えとけ」
「イエッサー!!次はどんなとこかな!!」
楽しまなきゃやってられないと、次の引っ越し先に思いを馳せながら急いで荷物の整理をすることにした。
「いや、広すぎるんだが?!」
どうにか荷造りが終わり、その日のうちに荷物と共に引っ越し先へ向かうと、前以上に広いマンションの一室へ案内されて思わず突っ込みを入れてしまった。ロフトはあるし、部屋も寝室が三つあるし、リビングは広いし、どうなってんのこの部屋?!
「何度も引っ越しさせて悪いと思っての計らいだろ。素直に喜んでおけ」
「よ、喜びたいけど、それにしても広すぎない?!私達部屋を持て余してない?!」
「谷村には教えてもいいってのは、いつかあいつもここに引っ越してきてもいいって意味じゃねえのか?」
「ほへえ?!そ、そういうことなの?!えっ、でも……」
「なんだ」
「寝室離れるの寂しい」
「しね」
「口が悪い!!」
よし兄のチベスナ目を受けながら、ひとまずコンビニで買ってきたおでんをテーブルの上に並べることにした。荷ほどきは明日にしよう。今はとにかくご飯だ!
「はー。でもようやく落ち着けるねー。あ、谷村さんにメール送っとこっと」
「ついでに六代目の状況も聞いておいてくれ」
「いつも聞いてるからついでじゃないんだよなあ」
ひとまず谷村さんに引っ越ししたことと、そのことは谷村さん以外には内緒だということを伝えておいた。うちによく遊びに来ていたのは谷村さんと秋山さんだけだが、今秋山さんとは連絡がつかなくなっている。一応音信不通になる前に、本格的に潜るから落ち着いたら連絡するねと言われていたが、大丈夫だろうか。
メールを送ってからおでんを食べていたら、しばらくして谷村さんから返信があった。来週研修で大阪に行くから、終わったら新居に来るとのことだ。思わずにやあと笑ったら、よし兄から「きめえ」と辛らつな言葉を投げられる。泣いてないよ!
「いや、広すぎない?」
週末、研修終わりに我が家へやってきた谷村さんは部屋に入るなりそう言った。一週間前の私と同じ感想だったので、よし兄が噴き出したのは少し面白かった。
「何人住みを想定した広さなの?もう平気で四人くらい住めるじゃん」
「いやほんとそうだよね……ち、ちなみに?よし兄は後々谷村さんもここに住む想定なのでは?とか考察してたりしますが?!」
「俺を巻き込むな」
「でも俺の部屋はなずなと同部屋だから一部屋余りますね」
「何の迷いもなく言ったなこいつ。まあこいつも寝室離れたら寂しいとか言ってたからいいんじゃねえか?」
「よし兄口軽いーっ!!」
「はー、早くここ住みてえー」
谷村さんに背後から抱きしめられて、肩に頭をぐりぐりと押し付けられる。よし兄の「いちゃつくなら寝室行け」という冷たい視線を受けつつ、ひとまずリビングでくつろぐよう促した。少し不満げにむーんとしている谷村さん、可愛いです!
「で、谷村。六代目はどのくらいで出られそうだ?」
「それについては悪い話になります。六代目と真島さんは、このまま刑務所送りなんですよ」
「なんだと?!」
「え、えっと?これまでも逮捕されたけどすぐ釈放されてたよね?今回は何か違うの?」
よし兄が動揺するなんてよっぽどだけど、これまでだってそんな話はあったと思う。今回も同じようなことで、すぐに釈放されるものだと思っていたけど、違うのだろうか?そう思っておそるおそる尋ねると、谷村さんが説明してくれた。
「ざっくりいうと、これまでは逮捕されても勾留止まりだったから金さえ払えばすぐに出てこられた。けど今回は違う。勾留期間もなく刑務所直送ってことは、もう金で釈放はできない。少なくとも3年は出てこられないだろうな」
「3年もあれば、会長のいない東城会なんて今の代行どもに簡単に乗っ取られるだろう。……大吾さんの東城会がなくなってしまうんだ」
そういえば刑務所に入った桐生さんは3年で釈放されたんだっけ。今回冴島さんは脱獄の罪で刑務所に入っているが、二度目の脱獄だから出てくるのはもっと遅くなると聞いた気がする。
それじゃあ、六代目さんや真島さん、冴島さんが戻る場所が、なくなってしまうじゃないか。これまでも、東城会を守るために頑張ってきたと聞いている。桐生さんにとっても、身を綺麗にしたとしても大切な場所のはずだ。
東城会の人のせいでひどい目にあったけど、私を助けたのだって東城会の人だった。だから、こんな形で壊れてほしくなかった。でも。
「私にできることなんて、きっとないんだよね」
これまでだってそうだ。事件が起きても私は関われず、関わったところで何もできない。
もう10年も経つのに、谷村さんを巻き込んでしまった日のことを鮮明に思い出せてしまうから、関わることも怖くて、何もできないままだ。情けないなあ。
べこべこ凹んでいたら、よし兄に鼻で笑われてしまった。
「お前が気に病んでどうすんだ。これは当事者たちの問題で、俺達はいつだって蚊帳の外だっただろ」
「……よし兄」
「すべてを救うつもりかお前は?そんなことしなくていい。お前は、お前の手の届く範囲でもがけばいいんだ。あとはお前を命がけで守ってるやつに任せておけ」
「俺も義孝さんと同意見。そもそも、俺だって懲り懲りなんだよ。俺の見えないところで、無茶して怪我されたりなんて。それに、お前にしかできないこと、いつもやってただろ」
「私にしかできないこと?」
「全部終わったときに、安心して帰ってこれる場所で待っててやること。そういうの、結構大事だと思うよ、俺は」
あんなことで、よかったのか。もっと役に立たないと、と思っていたけど、それだけでよかったのか。今の私に、私にしかできないこと。
友達が疲れた時に、「お疲れ様」って言って待っていてあげるだけで、救われてくれるのなら。
「……うん。私、待ってる。全部終わって、みんなが疲れたーって言って帰ってきた時に、お疲れ様って言ってあげるんだ」
「そうそう。あ、でも飲み代は自腹にさせて、高い酒持ってこさせような。お前が言ったらあのおっさん達喜んで持ってくるだろ」
「ついでに大吾さんに迷惑をかけた詫びとして高い肉も買わせるか」
「二人の欲望入ってない?!でも……頼んじゃおっか!」
ヒヒっと笑ったら、よし兄に「真島さんの笑い方になってんじゃねえか」と呆れたように言われた。