snobbism(龍如)
DREAM
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命を詩う人の話。⑤
(2016年なずな30歳)
下水道を最奥まで進んでいくと、どこかへ繋がる階段が隠されていた。ここに入口があると予想を立てなければ見つからないように、丁寧に隠してある。よし兄が「これだな」と呟き躊躇いなくその階段を上り始めるので、私も慌てて後を追った。
マンホールを持ち上げ、横にずらしてやっと見えた地上。先に外に出たよし兄に引っ張り上げられて、眼前に広がる光景に絶句する。
なんか、花町のような煌びやかな空間に出てしまった。というか、神室町の地下に町がありますが?!
「ここがサイの河原だ。花屋はあの奥の屋敷にいる」
「いやいやそれよりも何ここ?!なんで神室町の地下にこんなエリアが?!ゾンビ対策?!」
「なんでゾンビなんだ。金持ちってのは表じゃできないようなことに金が使いてえんだろ」
「うーーーーん。わかるようでわからない!」
「……だが、以前来た時とは様子が違うな。人の気配がねえ」
たしかに、パッと見渡す限り人の姿はない。隠れているようには見えないし、よし兄が言うには以前は人がいたのだから、今の状態がきっとおかしいのだろう。
とにかく今は、呼び出されているという花屋さんに会いに行くために私達はこの静まり返った空間を歩き始めた。
大きな屋敷にたどり着き中に入ると、これまた大きな広間があり、壁一面の水槽の前に人が座っていた。小柄な男の人が、私達を見てふっと笑う。
「よお、無事に救出できたみたいだな。峯義孝さん」
「えっ?!なんでよし兄の名前?!」
「……ええ、あなたの情報と携帯のおかげです。世話になりました」
「いいってことよ。お嬢ちゃん、俺の事は花屋って呼んでくれたらいいぜ」
なんと、この人が件の花屋さんだったか。それならば、言いたかったことがある。
「花屋さん、十年前、私の事を助けてくれてありがとうございました。それに今回も。本当に、本当にありがとうございました」
「そんな昔のこと、よく覚えてたな。大した事はしちゃいねえよ。俺は情報提供しただけだ。助けに来てくれたそいつらが強かったから、おめえさんも無事だったんだろうよ」
「それでも、場所がわからなかったら来てももらえませんでした。本当に感謝してるんです」
「……そこまで言うならまあ、素直に受け取っておくよ」
へへ、と笑ったら、花屋さんはむず痒いような顔をしていた。少しの間があり、話を切り出したのはよし兄だ。
「それよりも、サイの河原はこんなにも寂しい場所でしたか?」
「今、神室町には少し厄介な奴らが入り込んでてな。閉めてんだよ。再開はいつになるかわかりゃしねえが、無駄に血が流れるよりはいいだろう」
「花屋の情報を持ってしても、厄介な相手だと?」
「なんたってあのフィクサーが関わってんでね。逃げざるをえねえ。ただ親切な奴の情報提供があったおかげで先手を打ってサイの河原の情報をかく乱することができてな。被害は今んとこゼロだ」
「……情報提供元は、こいつの兄ですね」
「ご明察。さすがは東城会の金庫番だった男だな。おめえさんがいなくなってからの東城会はそりゃもうボロボロだったぜ」
「……」
花屋さんに危険を知らせてくれたのは、実兄だったという。もしかして、花屋さんが昔私を助けてくれたから、その恩返しだったりするのだろうか。まさか、これも私のためだとかいうのだろうか。それなら、もちろん素直にうれしく思うけど、また無茶をやっていないだろうか心配にもなる。兄貴、今どうしてるんだろう。
さて、フィクサーとはなんぞや、とか聞きたいことはあるけれど、先ほどからの二人の会話は以前からの知り合いのようで、好奇心はそちらに向いてしまった。
「あのー、よし兄と花屋さんって知り合いだったんですか?」
「おお。七年前のことは、忘れたくても忘れらんねえよ。あれは、なあ?桐生の弟分なんて吐いちまってたぜ」
「ただのケジメですよ。あの後礼儀として火葬しています」
「会話が不穏なんだけど、よし兄一体何したの……?」
そして二人が私と目を合わせてくれないんだけど、本当に何したのよし兄。
「それよりも、用があると伺いましたが」
「そうだ。おめえらに頼みてえことがある。俺には息子がいるんだが、よりによって今神室町に夫婦で戻ってきててよ、フィクサーの連中が目をつけてんだ。悪いが、息子夫婦が無事に神室町から出れるよう見てやってほしい。それを見届けたら、俺も姿を眩ますつもりだ」
「息子さん夫婦の護衛、ってこと?!なにそれ、かっこいい……!つまり私達はSP!!」
「はしゃぐなバカ妹。内容は理解しました。その夫婦には普通に接触して構わないんですか?」
「問題ない。ただ、護衛というのは伏せてくれ。息子夫婦は今日神室町を出る予定なんだが、知り合いの兄妹が神室町にいるからついでに駅まで一緒にいってやってくれって頼んでんだ」
「では、花屋ではなく警察時代のあなたの知り合いとして観光客を装い、護衛すればいいわけですね」
「理解力が早くて本当に助かるな。だからこそ、暴走するときはあっという間なんだろうけどよ」
きっと、七年前の話だ。私は話を聞いたくらいで詳しい状況は知らないけど、花屋さんはよし兄のやってきたことを知っている。よし兄が押し黙ると、花屋さんはまたふっと笑っていた。
「まあ、七年前に峯義孝はその暴走のケジメをとって死んだんだろ?今は斎藤義孝という人間の真っ当さを拝ませてもらうよ。息子夫婦のこと、よろしく頼む」
「……わかりました」
「わっかりました!最強兄妹にお任せあれ!」
「騒ぐなバカ妹」
お前ら本当に仲がいい兄妹だなあ、と花屋さんはおかしそうに笑っていた。
その後、サイの河原を出た私達は息子さん夫婦と合流して、身辺警護をしつつ一緒に神室町を出た。ちなみに私達の方もスターダストでもめ事を起こしたというのに追手はなかった。何事もなく神室町を出られて息子さん夫婦が新幹線に乗るまで見送った後、よし兄がハッと何かに気付いた顔をした。
「もしかして、息子夫婦に紛れさせて俺達も神室町から出られるようにしてくれたのか。フィクサーとやらの話も本当だろうが……お人よしの情報屋だな、全く」
「ええー?!め、めちゃくちゃお世話になりすぎてる……!事が落ち着いてまた会えたらちゃんとお礼しないと!」
「ひとまず花屋の意図を汲んでさっさと神室町を離れるぞ。……忙しい一日だったな」
少し名残惜し気な瞳で、神室町の方向を見つめるよし兄に、私もそうだねと頷いて東京を後にするのだった。
(2016年なずな30歳)
下水道を最奥まで進んでいくと、どこかへ繋がる階段が隠されていた。ここに入口があると予想を立てなければ見つからないように、丁寧に隠してある。よし兄が「これだな」と呟き躊躇いなくその階段を上り始めるので、私も慌てて後を追った。
マンホールを持ち上げ、横にずらしてやっと見えた地上。先に外に出たよし兄に引っ張り上げられて、眼前に広がる光景に絶句する。
なんか、花町のような煌びやかな空間に出てしまった。というか、神室町の地下に町がありますが?!
「ここがサイの河原だ。花屋はあの奥の屋敷にいる」
「いやいやそれよりも何ここ?!なんで神室町の地下にこんなエリアが?!ゾンビ対策?!」
「なんでゾンビなんだ。金持ちってのは表じゃできないようなことに金が使いてえんだろ」
「うーーーーん。わかるようでわからない!」
「……だが、以前来た時とは様子が違うな。人の気配がねえ」
たしかに、パッと見渡す限り人の姿はない。隠れているようには見えないし、よし兄が言うには以前は人がいたのだから、今の状態がきっとおかしいのだろう。
とにかく今は、呼び出されているという花屋さんに会いに行くために私達はこの静まり返った空間を歩き始めた。
大きな屋敷にたどり着き中に入ると、これまた大きな広間があり、壁一面の水槽の前に人が座っていた。小柄な男の人が、私達を見てふっと笑う。
「よお、無事に救出できたみたいだな。峯義孝さん」
「えっ?!なんでよし兄の名前?!」
「……ええ、あなたの情報と携帯のおかげです。世話になりました」
「いいってことよ。お嬢ちゃん、俺の事は花屋って呼んでくれたらいいぜ」
なんと、この人が件の花屋さんだったか。それならば、言いたかったことがある。
「花屋さん、十年前、私の事を助けてくれてありがとうございました。それに今回も。本当に、本当にありがとうございました」
「そんな昔のこと、よく覚えてたな。大した事はしちゃいねえよ。俺は情報提供しただけだ。助けに来てくれたそいつらが強かったから、おめえさんも無事だったんだろうよ」
「それでも、場所がわからなかったら来てももらえませんでした。本当に感謝してるんです」
「……そこまで言うならまあ、素直に受け取っておくよ」
へへ、と笑ったら、花屋さんはむず痒いような顔をしていた。少しの間があり、話を切り出したのはよし兄だ。
「それよりも、サイの河原はこんなにも寂しい場所でしたか?」
「今、神室町には少し厄介な奴らが入り込んでてな。閉めてんだよ。再開はいつになるかわかりゃしねえが、無駄に血が流れるよりはいいだろう」
「花屋の情報を持ってしても、厄介な相手だと?」
「なんたってあのフィクサーが関わってんでね。逃げざるをえねえ。ただ親切な奴の情報提供があったおかげで先手を打ってサイの河原の情報をかく乱することができてな。被害は今んとこゼロだ」
「……情報提供元は、こいつの兄ですね」
「ご明察。さすがは東城会の金庫番だった男だな。おめえさんがいなくなってからの東城会はそりゃもうボロボロだったぜ」
「……」
花屋さんに危険を知らせてくれたのは、実兄だったという。もしかして、花屋さんが昔私を助けてくれたから、その恩返しだったりするのだろうか。まさか、これも私のためだとかいうのだろうか。それなら、もちろん素直にうれしく思うけど、また無茶をやっていないだろうか心配にもなる。兄貴、今どうしてるんだろう。
さて、フィクサーとはなんぞや、とか聞きたいことはあるけれど、先ほどからの二人の会話は以前からの知り合いのようで、好奇心はそちらに向いてしまった。
「あのー、よし兄と花屋さんって知り合いだったんですか?」
「おお。七年前のことは、忘れたくても忘れらんねえよ。あれは、なあ?桐生の弟分なんて吐いちまってたぜ」
「ただのケジメですよ。あの後礼儀として火葬しています」
「会話が不穏なんだけど、よし兄一体何したの……?」
そして二人が私と目を合わせてくれないんだけど、本当に何したのよし兄。
「それよりも、用があると伺いましたが」
「そうだ。おめえらに頼みてえことがある。俺には息子がいるんだが、よりによって今神室町に夫婦で戻ってきててよ、フィクサーの連中が目をつけてんだ。悪いが、息子夫婦が無事に神室町から出れるよう見てやってほしい。それを見届けたら、俺も姿を眩ますつもりだ」
「息子さん夫婦の護衛、ってこと?!なにそれ、かっこいい……!つまり私達はSP!!」
「はしゃぐなバカ妹。内容は理解しました。その夫婦には普通に接触して構わないんですか?」
「問題ない。ただ、護衛というのは伏せてくれ。息子夫婦は今日神室町を出る予定なんだが、知り合いの兄妹が神室町にいるからついでに駅まで一緒にいってやってくれって頼んでんだ」
「では、花屋ではなく警察時代のあなたの知り合いとして観光客を装い、護衛すればいいわけですね」
「理解力が早くて本当に助かるな。だからこそ、暴走するときはあっという間なんだろうけどよ」
きっと、七年前の話だ。私は話を聞いたくらいで詳しい状況は知らないけど、花屋さんはよし兄のやってきたことを知っている。よし兄が押し黙ると、花屋さんはまたふっと笑っていた。
「まあ、七年前に峯義孝はその暴走のケジメをとって死んだんだろ?今は斎藤義孝という人間の真っ当さを拝ませてもらうよ。息子夫婦のこと、よろしく頼む」
「……わかりました」
「わっかりました!最強兄妹にお任せあれ!」
「騒ぐなバカ妹」
お前ら本当に仲がいい兄妹だなあ、と花屋さんはおかしそうに笑っていた。
その後、サイの河原を出た私達は息子さん夫婦と合流して、身辺警護をしつつ一緒に神室町を出た。ちなみに私達の方もスターダストでもめ事を起こしたというのに追手はなかった。何事もなく神室町を出られて息子さん夫婦が新幹線に乗るまで見送った後、よし兄がハッと何かに気付いた顔をした。
「もしかして、息子夫婦に紛れさせて俺達も神室町から出られるようにしてくれたのか。フィクサーとやらの話も本当だろうが……お人よしの情報屋だな、全く」
「ええー?!め、めちゃくちゃお世話になりすぎてる……!事が落ち着いてまた会えたらちゃんとお礼しないと!」
「ひとまず花屋の意図を汲んでさっさと神室町を離れるぞ。……忙しい一日だったな」
少し名残惜し気な瞳で、神室町の方向を見つめるよし兄に、私もそうだねと頷いて東京を後にするのだった。