snobbism(龍如)
DREAM
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命を詩う人の話。④
(2016年なずな30歳)
7年ぶりに足を踏みいれた神室町。歩きたばこをする人間などおらず、迷惑な客引きも控えめ。ネオンがあの頃よりも眩しく感じて、時間の流れを痛感していた。
少し感傷に浸りそうになるが、当初の目的を思い出し周囲を慎重に見渡す。この町に、今三つの勢力が終結しているということだが、よりにもよって広島の陽銘連合会が関わってくるとは。あそこは古参ヤクザも、あの大吾さんでさえ関わらないように気を配っていた。できれば接触しないようにしたいところだ。
ジングォン派については、一度桐生さんが壊滅させたということだが、復活したということだろうか。あの銀髪の男、おそらくジングォン派だろう。東城会の現状も気になるが、今はあのバカ娘の方だ。少し周囲の様子を観察して、さりげなく聞いてみるか。
「こんにちは」
七福通りを歩いていると、ホームレスに声をかけられた。こういった連中が自ら声をかけてくるなど滅多にないため不審に思いかけた時、その手に花束を抱えているのが目に入った。これは、たしか。
「入り口は児童公園のマンホールです」
花束を俺に渡してそれだけ言うと、ホームレスはさっさとその場を離れていく。受け取った花束を抱え、人目のつかない路地裏へ入り花束を調べると、案の定メッセージカードが入っていた。花屋だ。七年前、ケジメを取らせた男の首をアタッシュケースに入れて、訪れた場所の主。
カードを見ると、なずなが今いる場所はスターダストだ、と書かれていた。それから、救出が終わったらおつかいを頼みたいからサイの河原へ来てほしいとも。
あの花屋から頼まれるおつかいとは一体……とはいえ、場所はわかった。裏口から行っても意味はないだろう、となずなの兄からの付箋を思い返す。こそこそと行って救出できるのなら、あいつの兄がとっくにやっている。おそらく、表立って入る必要があるのだ。その上で、あいつを連れて逃げなければならない。少し気合を入れて、スターダストへ向かうことにした。
「おい、なんだお前は」
スターダストの看板を見て、ここかと足を止める。桐生さんの馴染みの店の一つだと情報としては知っているが、来る機会もなければ行く必要もなかったため初めて来る店だ。ホストクラブは男は入れてもらえるのか?と少し考えていたら、店の前にいたホストらしき男にガンつけられる。見たところ、日本人ではなさそうだ。
「失礼しました。こちらに私の妹がいるようですので、店に入ってもよろしいでしょうか?それとも、妹を呼んでいただけますか?」
「ここには女が大勢入ってんだ。誰がお前の妹かなんてわかりゃしねえよ」
「では、言い方を変えましょう。ハン・ジュンギが連れてきた女を出せ」
「!!てめえっ?!」
名前を聞いて、この反応。おそらくあの銀髪の男は今のジングォン派のトップだ。目立つのは困るので、向かってくる男を静かにいなしていると、スターダストの扉が開かれる。外の騒がしさに気が付いたのか、それとも待ち人が来たか確認したのか、銀髪の男が出てきた。とりあえず捻り上げていた手を離すと、入口にいた男は俺から離れて銀髪の男へ縋りついた。
「(何事だ)」
「(こ、こいつが妹を出せって!あの女、桐生をおびき出す餌だったんじゃないんですか?!)」
「……ああ、なるほど。そこのあなた、彼女のお兄さんですか。よくここにいるとわかりましたね」
「言っておくが、桐生一馬は今沖縄にいる。女が連れ去られたことも知らないし、ここにも来ない」
「ええ、そのようですね。ですが、我々は彼を呼び寄せる手段を考えていたのですよ。そのための人質だったのですが、そこまで事情を知っているのであれば穏便にはすみそうにありませんね。どうぞ、お入りください」
「……あいつに手ぇ出してねえだろうな」
「もちろん。丁重に扱ってますよ」
促されて入ったホストクラブの中は、異様に静まり返っていた。客も見当たらない、ホストの姿もどこにもない。不審に思っていると、銀髪の男はくすりと微笑んだ。
「今は裏で営業していましてね、こちらへどうぞ」
「うおおお!がんばれマックスー!」
連れていかれたのはホストクラブとは思えない下品な空間。客の女達がホストと呼んでいいのかもはやわからない男達に絡みつき、卑猥な行為に没頭している。真ん中におかれたリングでは、男達が取っ組み合いをしているが、男の好みがあるのか見ている人間はまばらだ。その中でひときわ真剣にプロレス観戦をしているかのごとく応援している女を見つける。俺は頭を抱えつつ、そいつに近寄り握った拳を垂直に振り下ろした。
「あいたぁっ?!なんぞなんぞ?!って、あれっ?!よ、よし兄?!なんでここに?!」
「てめえを助けに来たんだろうがぶっ殺すぞ」
「いつもより口の悪さに磨きがかってる!!」
違うんだ、とバカ娘は両手をバサバサ振っている。仕方ないので話を聞いてやろうと続きを促すと、しどろもどろになりながらも現在に至るまでを話し始めた。
まず、ここに連れてくるにあたってなずなを気絶させたのは部下の失態だったということ。そのせいで誘拐のようになってしまったが、目を覚ましてからは何も暴力やらひどい扱いは受けていない。むしろ良くしてもらっていたという。
スターダストには来たことがあるが、知っている人が一人もいないと尋ねると、自分が買い取ったのだと包み隠さず答えられたらしい。
どうして桐生さんに会いたいのかという質問には、男のプライドの話だと言われたらしいが、どういう意味だろうか。
「ここもね、桐生さんが来るまでの暇つぶしにどうぞ、って案内されてね。私プロレス観戦とかしたことなくて、つい夢中に……」
「……お前、周囲見渡してみろ」
「へ?…………なんじゃこりゃあ?!」
無防備さに頭痛がする。どうやらリングの上の戦いに夢中で周囲の下品さに気付いていなかったようだ。一度谷村と一緒に説教する必要があるな。
ほらいくぞ、と今更顔を赤らめているなずなを立たせて部屋を出ようとすると、扉の前で足止めをされた。後ろでにこやかに笑う銀髪の男に視線を向けると、またくすりと微笑まれる。
「言ったでしょう。彼女は桐生一馬を呼び寄せるために連れてきたと。そういう相手はなかなか捕まりません。ただで返すわけには行かないんですよ」
「どうするつもりだ」
「そうですね……お二人とも桐生一馬のお仲間のようですし、どちらかに死んでもらいましょうか。そうすればあの男もここへ来ざるを得ないでしょう」
さらりと、俺達のどちらかを殺すとこの男は言う。なるほど、たしかにジングォン派だ。こいつらは人を殺すことに躊躇がない。さすがのなずなも異様な空気を感じ取れたらしく、焦った表情になっていた。
「な、なんで?!もしかして、ジュンギさんほんとは悪い人だったの?!桐生さんのことも、ただの喧嘩じゃなくて悪いことをしようと思って呼び出そうとしてたってこと?!」
「そう見えるかもしれませんね。なずなさん、短い間でしたが楽しかったですよ。で、どちらが死んでくれますか?」
「俺が何の対策もなく敵の根城に入ったと思ってんのか」
「なんですって?」
ポケットに入れていたスマホに手を突っ込み、電源を押す。その瞬間、ムードを演出するために淡く光っていたライトを含め、部屋の明かりが全て落ちて暗闇が広がった。
これはあの時の花束に紛れ込んでいたスマホだ。メッセージカードの裏に、スターダストの主電源とだけ書いてあったが、やはりブレーカーを落とす意味であっていたようだ。
慌てふためく女達の声、そして事態が呑み込めていない男達の声。俺はなずなの手を引いて、音の合間を縫っていく。すでに非常口は確認済だ。
「(あいつらはどこだ!探せ!)」
銀髪の男が叫んでいる。部屋全体の騒ぎに乗じて、俺となずなはこの異様な空間からまんまと逃げおおせることができたのだった。
まさか悪い人達だったとは。いや、うすうすはそうじゃないかと思っていたけども。
よし兄とすっかり雰囲気も人も変わってしまったスターダストを脱出して、逃げ込んだ先はマンホールの下、下水道だった。追手は来ないようだ。
「俺に言うことあるんじゃねえか?」
「はい!迷惑かけてすみません!助けに来てくれてありがとうございます!」
「たく、どう見ればあいつらが善人に見えるんだ」
「でもね、本当にひどいことはされなかったんだよ。ジュンギさんも、桐生さんとサシで戦いたいんだって言ってて、だから……」
「ジングォン派は武力集団だ。殺すと言ったら躊躇はない。お前が生きてたのは運が良かっただけだからな」
「ひええ……あの、このこと、谷村さんには内密に……」
「するわけねえだろ。みっちり説教してもらえ」
「ひん……」
凹む私に立てと言うと、よし兄は下水道の奥へ歩き出す。ばたばたとそれについていくが、どこに向かっているのだろう。
「サイの河原に呼び出されててな。花屋には貸しを作っちまったから要望通りに会いに行く」
「花屋さんって誰??」
「伝説の情報屋だ」
「!!昔桐生さんが言ってた、あの?!わーわー!私もいつか会いたかったんだーっ!!やったーっ!!」
10年前、もうそんなに前になるのか。優姫が死んだ日、私を助けに来てくれた桐生さん達が私の居場所を伝説の情報屋に教えてもらったと言っていたのを覚えている。いつか会ってみたいと思っていたが、名前も変わり神室町を離れたことでその機会はなく、今の今まですっかり忘れてしまっていた。
どんな人なんだろうとわくわくしながらよし兄の後ろをついていく私は、振り返ったよし兄が少しだけ安堵したように笑ったことには気づくことはなかった。
(2016年なずな30歳)
7年ぶりに足を踏みいれた神室町。歩きたばこをする人間などおらず、迷惑な客引きも控えめ。ネオンがあの頃よりも眩しく感じて、時間の流れを痛感していた。
少し感傷に浸りそうになるが、当初の目的を思い出し周囲を慎重に見渡す。この町に、今三つの勢力が終結しているということだが、よりにもよって広島の陽銘連合会が関わってくるとは。あそこは古参ヤクザも、あの大吾さんでさえ関わらないように気を配っていた。できれば接触しないようにしたいところだ。
ジングォン派については、一度桐生さんが壊滅させたということだが、復活したということだろうか。あの銀髪の男、おそらくジングォン派だろう。東城会の現状も気になるが、今はあのバカ娘の方だ。少し周囲の様子を観察して、さりげなく聞いてみるか。
「こんにちは」
七福通りを歩いていると、ホームレスに声をかけられた。こういった連中が自ら声をかけてくるなど滅多にないため不審に思いかけた時、その手に花束を抱えているのが目に入った。これは、たしか。
「入り口は児童公園のマンホールです」
花束を俺に渡してそれだけ言うと、ホームレスはさっさとその場を離れていく。受け取った花束を抱え、人目のつかない路地裏へ入り花束を調べると、案の定メッセージカードが入っていた。花屋だ。七年前、ケジメを取らせた男の首をアタッシュケースに入れて、訪れた場所の主。
カードを見ると、なずなが今いる場所はスターダストだ、と書かれていた。それから、救出が終わったらおつかいを頼みたいからサイの河原へ来てほしいとも。
あの花屋から頼まれるおつかいとは一体……とはいえ、場所はわかった。裏口から行っても意味はないだろう、となずなの兄からの付箋を思い返す。こそこそと行って救出できるのなら、あいつの兄がとっくにやっている。おそらく、表立って入る必要があるのだ。その上で、あいつを連れて逃げなければならない。少し気合を入れて、スターダストへ向かうことにした。
「おい、なんだお前は」
スターダストの看板を見て、ここかと足を止める。桐生さんの馴染みの店の一つだと情報としては知っているが、来る機会もなければ行く必要もなかったため初めて来る店だ。ホストクラブは男は入れてもらえるのか?と少し考えていたら、店の前にいたホストらしき男にガンつけられる。見たところ、日本人ではなさそうだ。
「失礼しました。こちらに私の妹がいるようですので、店に入ってもよろしいでしょうか?それとも、妹を呼んでいただけますか?」
「ここには女が大勢入ってんだ。誰がお前の妹かなんてわかりゃしねえよ」
「では、言い方を変えましょう。ハン・ジュンギが連れてきた女を出せ」
「!!てめえっ?!」
名前を聞いて、この反応。おそらくあの銀髪の男は今のジングォン派のトップだ。目立つのは困るので、向かってくる男を静かにいなしていると、スターダストの扉が開かれる。外の騒がしさに気が付いたのか、それとも待ち人が来たか確認したのか、銀髪の男が出てきた。とりあえず捻り上げていた手を離すと、入口にいた男は俺から離れて銀髪の男へ縋りついた。
「(何事だ)」
「(こ、こいつが妹を出せって!あの女、桐生をおびき出す餌だったんじゃないんですか?!)」
「……ああ、なるほど。そこのあなた、彼女のお兄さんですか。よくここにいるとわかりましたね」
「言っておくが、桐生一馬は今沖縄にいる。女が連れ去られたことも知らないし、ここにも来ない」
「ええ、そのようですね。ですが、我々は彼を呼び寄せる手段を考えていたのですよ。そのための人質だったのですが、そこまで事情を知っているのであれば穏便にはすみそうにありませんね。どうぞ、お入りください」
「……あいつに手ぇ出してねえだろうな」
「もちろん。丁重に扱ってますよ」
促されて入ったホストクラブの中は、異様に静まり返っていた。客も見当たらない、ホストの姿もどこにもない。不審に思っていると、銀髪の男はくすりと微笑んだ。
「今は裏で営業していましてね、こちらへどうぞ」
「うおおお!がんばれマックスー!」
連れていかれたのはホストクラブとは思えない下品な空間。客の女達がホストと呼んでいいのかもはやわからない男達に絡みつき、卑猥な行為に没頭している。真ん中におかれたリングでは、男達が取っ組み合いをしているが、男の好みがあるのか見ている人間はまばらだ。その中でひときわ真剣にプロレス観戦をしているかのごとく応援している女を見つける。俺は頭を抱えつつ、そいつに近寄り握った拳を垂直に振り下ろした。
「あいたぁっ?!なんぞなんぞ?!って、あれっ?!よ、よし兄?!なんでここに?!」
「てめえを助けに来たんだろうがぶっ殺すぞ」
「いつもより口の悪さに磨きがかってる!!」
違うんだ、とバカ娘は両手をバサバサ振っている。仕方ないので話を聞いてやろうと続きを促すと、しどろもどろになりながらも現在に至るまでを話し始めた。
まず、ここに連れてくるにあたってなずなを気絶させたのは部下の失態だったということ。そのせいで誘拐のようになってしまったが、目を覚ましてからは何も暴力やらひどい扱いは受けていない。むしろ良くしてもらっていたという。
スターダストには来たことがあるが、知っている人が一人もいないと尋ねると、自分が買い取ったのだと包み隠さず答えられたらしい。
どうして桐生さんに会いたいのかという質問には、男のプライドの話だと言われたらしいが、どういう意味だろうか。
「ここもね、桐生さんが来るまでの暇つぶしにどうぞ、って案内されてね。私プロレス観戦とかしたことなくて、つい夢中に……」
「……お前、周囲見渡してみろ」
「へ?…………なんじゃこりゃあ?!」
無防備さに頭痛がする。どうやらリングの上の戦いに夢中で周囲の下品さに気付いていなかったようだ。一度谷村と一緒に説教する必要があるな。
ほらいくぞ、と今更顔を赤らめているなずなを立たせて部屋を出ようとすると、扉の前で足止めをされた。後ろでにこやかに笑う銀髪の男に視線を向けると、またくすりと微笑まれる。
「言ったでしょう。彼女は桐生一馬を呼び寄せるために連れてきたと。そういう相手はなかなか捕まりません。ただで返すわけには行かないんですよ」
「どうするつもりだ」
「そうですね……お二人とも桐生一馬のお仲間のようですし、どちらかに死んでもらいましょうか。そうすればあの男もここへ来ざるを得ないでしょう」
さらりと、俺達のどちらかを殺すとこの男は言う。なるほど、たしかにジングォン派だ。こいつらは人を殺すことに躊躇がない。さすがのなずなも異様な空気を感じ取れたらしく、焦った表情になっていた。
「な、なんで?!もしかして、ジュンギさんほんとは悪い人だったの?!桐生さんのことも、ただの喧嘩じゃなくて悪いことをしようと思って呼び出そうとしてたってこと?!」
「そう見えるかもしれませんね。なずなさん、短い間でしたが楽しかったですよ。で、どちらが死んでくれますか?」
「俺が何の対策もなく敵の根城に入ったと思ってんのか」
「なんですって?」
ポケットに入れていたスマホに手を突っ込み、電源を押す。その瞬間、ムードを演出するために淡く光っていたライトを含め、部屋の明かりが全て落ちて暗闇が広がった。
これはあの時の花束に紛れ込んでいたスマホだ。メッセージカードの裏に、スターダストの主電源とだけ書いてあったが、やはりブレーカーを落とす意味であっていたようだ。
慌てふためく女達の声、そして事態が呑み込めていない男達の声。俺はなずなの手を引いて、音の合間を縫っていく。すでに非常口は確認済だ。
「(あいつらはどこだ!探せ!)」
銀髪の男が叫んでいる。部屋全体の騒ぎに乗じて、俺となずなはこの異様な空間からまんまと逃げおおせることができたのだった。
まさか悪い人達だったとは。いや、うすうすはそうじゃないかと思っていたけども。
よし兄とすっかり雰囲気も人も変わってしまったスターダストを脱出して、逃げ込んだ先はマンホールの下、下水道だった。追手は来ないようだ。
「俺に言うことあるんじゃねえか?」
「はい!迷惑かけてすみません!助けに来てくれてありがとうございます!」
「たく、どう見ればあいつらが善人に見えるんだ」
「でもね、本当にひどいことはされなかったんだよ。ジュンギさんも、桐生さんとサシで戦いたいんだって言ってて、だから……」
「ジングォン派は武力集団だ。殺すと言ったら躊躇はない。お前が生きてたのは運が良かっただけだからな」
「ひええ……あの、このこと、谷村さんには内密に……」
「するわけねえだろ。みっちり説教してもらえ」
「ひん……」
凹む私に立てと言うと、よし兄は下水道の奥へ歩き出す。ばたばたとそれについていくが、どこに向かっているのだろう。
「サイの河原に呼び出されててな。花屋には貸しを作っちまったから要望通りに会いに行く」
「花屋さんって誰??」
「伝説の情報屋だ」
「!!昔桐生さんが言ってた、あの?!わーわー!私もいつか会いたかったんだーっ!!やったーっ!!」
10年前、もうそんなに前になるのか。優姫が死んだ日、私を助けに来てくれた桐生さん達が私の居場所を伝説の情報屋に教えてもらったと言っていたのを覚えている。いつか会ってみたいと思っていたが、名前も変わり神室町を離れたことでその機会はなく、今の今まですっかり忘れてしまっていた。
どんな人なんだろうとわくわくしながらよし兄の後ろをついていく私は、振り返ったよし兄が少しだけ安堵したように笑ったことには気づくことはなかった。