snobbism(龍如)
DREAM
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お巡りさんととある男の話。
(2015年……?歳)
しくじったなあ。
亜細亜街で火災が起きたと聞いて一目散に署を飛び出した後、群衆をすり抜けて滑り込むように亜細亜街へ入ったはいいものの、崩れ落ちた家財に出口をふさがれてしまった。予想より火災の規模が大きかったのも問題だった。いつもならある程度逃げ道もあり、取り残された住人がいなか確認したら出る算段だったのだが、そのすべてが使えないほど燃え広がっていた。どうしたものか。
「俺のせいですまない」
足を火傷して後ろの壁にもたれかかる男が、本当に申し訳なさそうに謝罪する。
「いや、気にしないでくれ。むしろ感謝してるんだよ。あんたのおかげでみんな無事に逃げ切れたみたいだ。本当に、ありがとう」
そう、俺が来た時には、逃げ遅れは誰もいなかったのだ。この男が趙さんを逃がしているところを目撃して駆け寄ると、俺に気づいた趙さんが「みんな無事だよ!この人のおかげ!」と教えてくれて安堵するもつかの間。頭上から降ってきた屋根の一部に男が潰されそうになった。逃れるように男を抱えて飛びのくが、その先は出口とは真逆であり、しかもさらに色んなものが降り注いでくるものだから、どうにか安全な位置まで移動した結果、行き止まりまで来てしまい、帰り道もふさがれてしまったわけだ。ただ、ここにたどり着くまでに、遺体は一つも見なかった。本当に逃げられたのだろう。
「それより、足はどう?」
「問題ない。少し焼けたが、しばらく安静にしていれば治るだろう」
「うわ、それ少しって焼け方じゃないだろ。……外に俺の上司がいるから、必ず助けがくる。それまで耐えてくれ。幸い、ここはまだ火の勢いが弱いみたいだし、少しの間なら安全だから」
「……色々とすまない」
さて、ただ待っていても仕方ない。動けるうちに、どう脱出するか考えないと。今いる場所からの脱出ルートを想像するが、なかなか良いルートが出てこない。
「その指輪、結婚しているのか?」
悶々としていると、男が声をかけてきた。指輪と言われて胸元を見ると、いつもはシャツの中に入れているネックレスにしてぶらさげているそれが飛び出していた。ここへ飛び込む前に上着を脱ぎ棄てて、シャツ一枚になって走っていたから、その時飛び出してきたのだろうか。
指輪を手にとり、男の質問にいや、と答える。
「してないよ。理由はまああるんだけど、これからも結婚はしない。それでも、形だけでも繋ぎとめておきたい子がいてね」
「……その子は、どんな子なんだ?せっかくだから、人の惚気が聞いてみたい。話してくれ」
「変な食いつき方してくるな……まあ、暇だしいいよ。そうだなあ、どんなっていうと、元気な子、かな」
第一印象は、元気な子。それから、自分を殺して笑おうとする、涙を流さまいとする、意地っ張りな子。俺なんかのために泣いて、四年も会いに来なかった。会ったら会ったで、自分の人生に俺を巻き込まないために振ってほしいなんて言ってきた。
好きだと言われた時、俺がどれだけ嬉しかったのか知らないで。
「だから、絶対に手放さないって決めた。俺といて幸せだって一生思ってもらおうって。……友達の金貸しには重いって言われたけどね」
「だが、それくらいの思いで傍にいてやらないと、その子は幸せだと言ってくれないんだろう?」
「まあ、ね。自分以外が幸福なら、笑って自分自身を犠牲にできる子だから。その自己犠牲の精神は直してほしいけどさ、全部ひっくるめてその子のことが好きだから、困っちゃうよね」
「……そうか」
そういえばこれ惚気だったな、と少し照れるが、なぜだか男は俺よりも幸福そうに微笑んでいた。
……ー…っ!
ふと、叫ぶ声が聞こえて炎の向こうを凝視する。姿は見えないが、声は確実に近づいてきている。あれは誰の声だろう。わからないが、助けが来たのかもしれない。
思わず男を振り返ると、やっとか、と立ち上がろうとしていた。
「あんたも聞こえたよな?多分、助けが来たんだ」
「ああ、そのようだ」
しかし近づいてきた声は、日本人ではないようだ。この言語はどこのものだ?アジア圏の言語なら大抵はわかるはずなのだが、一体これは……?
ガラガラ、と崩れた瓦礫が壊されて、抜け出せるだけの道ができた。やはり助けが来たようなのだが、誰が来たのだろうか。俺には聞き取れない言語でこちらに呼びかけている。
『騒がなくても聞こえている。多少傷を負ったが問題ない』
「!あんた、言葉がわかるのか?」
「さあ、先に出てくれ。火を抑えておくのもきついらしい」
たしかに、今はそんな問答をしている場合ではなかった。作られた抜け道を急いで出ると、ようやく火のない街の風景が見えてきた。もうすぐ外に出るという直前、背後にいた男が言う。
「少しの間だったが、話せてよかった。これからも俺の妹をよろしく頼む、谷村正義」
「……えっ?!」
振り返ると同時に亜細亜街への道は炎に閉ざされ、男は出てくることはなかった。いや、本当に出てこなかったのか?別のルートから逃げたのかもしれない。なんとなく、ここで死ぬような人間ではないと確信していた。
「……なずなの兄さん、マジで何者なんだよ」
鳴り響く着信音に、携帯を手に取り相手を確認する。電話を取ろうとしていた矢先に伊達さんに見つかり、救急車へ連行される中どうにか電話の向こうで泣きそうになっているだろう恋人に無事を知らせることにした。
(2015年……?歳)
しくじったなあ。
亜細亜街で火災が起きたと聞いて一目散に署を飛び出した後、群衆をすり抜けて滑り込むように亜細亜街へ入ったはいいものの、崩れ落ちた家財に出口をふさがれてしまった。予想より火災の規模が大きかったのも問題だった。いつもならある程度逃げ道もあり、取り残された住人がいなか確認したら出る算段だったのだが、そのすべてが使えないほど燃え広がっていた。どうしたものか。
「俺のせいですまない」
足を火傷して後ろの壁にもたれかかる男が、本当に申し訳なさそうに謝罪する。
「いや、気にしないでくれ。むしろ感謝してるんだよ。あんたのおかげでみんな無事に逃げ切れたみたいだ。本当に、ありがとう」
そう、俺が来た時には、逃げ遅れは誰もいなかったのだ。この男が趙さんを逃がしているところを目撃して駆け寄ると、俺に気づいた趙さんが「みんな無事だよ!この人のおかげ!」と教えてくれて安堵するもつかの間。頭上から降ってきた屋根の一部に男が潰されそうになった。逃れるように男を抱えて飛びのくが、その先は出口とは真逆であり、しかもさらに色んなものが降り注いでくるものだから、どうにか安全な位置まで移動した結果、行き止まりまで来てしまい、帰り道もふさがれてしまったわけだ。ただ、ここにたどり着くまでに、遺体は一つも見なかった。本当に逃げられたのだろう。
「それより、足はどう?」
「問題ない。少し焼けたが、しばらく安静にしていれば治るだろう」
「うわ、それ少しって焼け方じゃないだろ。……外に俺の上司がいるから、必ず助けがくる。それまで耐えてくれ。幸い、ここはまだ火の勢いが弱いみたいだし、少しの間なら安全だから」
「……色々とすまない」
さて、ただ待っていても仕方ない。動けるうちに、どう脱出するか考えないと。今いる場所からの脱出ルートを想像するが、なかなか良いルートが出てこない。
「その指輪、結婚しているのか?」
悶々としていると、男が声をかけてきた。指輪と言われて胸元を見ると、いつもはシャツの中に入れているネックレスにしてぶらさげているそれが飛び出していた。ここへ飛び込む前に上着を脱ぎ棄てて、シャツ一枚になって走っていたから、その時飛び出してきたのだろうか。
指輪を手にとり、男の質問にいや、と答える。
「してないよ。理由はまああるんだけど、これからも結婚はしない。それでも、形だけでも繋ぎとめておきたい子がいてね」
「……その子は、どんな子なんだ?せっかくだから、人の惚気が聞いてみたい。話してくれ」
「変な食いつき方してくるな……まあ、暇だしいいよ。そうだなあ、どんなっていうと、元気な子、かな」
第一印象は、元気な子。それから、自分を殺して笑おうとする、涙を流さまいとする、意地っ張りな子。俺なんかのために泣いて、四年も会いに来なかった。会ったら会ったで、自分の人生に俺を巻き込まないために振ってほしいなんて言ってきた。
好きだと言われた時、俺がどれだけ嬉しかったのか知らないで。
「だから、絶対に手放さないって決めた。俺といて幸せだって一生思ってもらおうって。……友達の金貸しには重いって言われたけどね」
「だが、それくらいの思いで傍にいてやらないと、その子は幸せだと言ってくれないんだろう?」
「まあ、ね。自分以外が幸福なら、笑って自分自身を犠牲にできる子だから。その自己犠牲の精神は直してほしいけどさ、全部ひっくるめてその子のことが好きだから、困っちゃうよね」
「……そうか」
そういえばこれ惚気だったな、と少し照れるが、なぜだか男は俺よりも幸福そうに微笑んでいた。
……ー…っ!
ふと、叫ぶ声が聞こえて炎の向こうを凝視する。姿は見えないが、声は確実に近づいてきている。あれは誰の声だろう。わからないが、助けが来たのかもしれない。
思わず男を振り返ると、やっとか、と立ち上がろうとしていた。
「あんたも聞こえたよな?多分、助けが来たんだ」
「ああ、そのようだ」
しかし近づいてきた声は、日本人ではないようだ。この言語はどこのものだ?アジア圏の言語なら大抵はわかるはずなのだが、一体これは……?
ガラガラ、と崩れた瓦礫が壊されて、抜け出せるだけの道ができた。やはり助けが来たようなのだが、誰が来たのだろうか。俺には聞き取れない言語でこちらに呼びかけている。
『騒がなくても聞こえている。多少傷を負ったが問題ない』
「!あんた、言葉がわかるのか?」
「さあ、先に出てくれ。火を抑えておくのもきついらしい」
たしかに、今はそんな問答をしている場合ではなかった。作られた抜け道を急いで出ると、ようやく火のない街の風景が見えてきた。もうすぐ外に出るという直前、背後にいた男が言う。
「少しの間だったが、話せてよかった。これからも俺の妹をよろしく頼む、谷村正義」
「……えっ?!」
振り返ると同時に亜細亜街への道は炎に閉ざされ、男は出てくることはなかった。いや、本当に出てこなかったのか?別のルートから逃げたのかもしれない。なんとなく、ここで死ぬような人間ではないと確信していた。
「……なずなの兄さん、マジで何者なんだよ」
鳴り響く着信音に、携帯を手に取り相手を確認する。電話を取ろうとしていた矢先に伊達さんに見つかり、救急車へ連行される中どうにか電話の向こうで泣きそうになっているだろう恋人に無事を知らせることにした。