snobbism(龍如)
DREAM
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夢を追う人たちの話。⑤
(2012年なずな26歳)
翌日、谷村さんが雀荘の前で待っててと言って出勤していき、言われた通り谷村さんが入り浸っているという六雀荘の前で待っていた。
開店時間になったらしく、お客さんがゾロゾロと入っていくのを見送りながら携帯を眺めていると、「おい」と声をかけられた。顔を上げると、そこにいたのはなんと伊達さんだ。
「伊達さん!お久しぶりです!」
「やっぱりなずなだったか。久しぶりだな。怪我は大丈夫なのか?」
「はい!傷は浅かったみたいで、今は塞がってます。あ、えっと、谷村さんがお見舞いに来てくれたんですけど、伊達さんが取りなしてくれたって聞きました。本当にお世話になりました」
「いいんだよ。大事な奴が怪我してんのに仕事だなんだ言ってらんねえだろ」
「か、カッコいい……!!さすが名刑事!!」
「それ谷村が言ってんだろ……で、なんでまたこんなところにいるんだ?」
「えっと、谷村さんがここで待ってろって言うので。伊達さんこそ何故ここに?」
「その谷村がここにサボりに来るだろうって思ってな。案の定だったわけだ」
「お待たせなずな……わ、伊達さんだ」
伊達さんの背後から谷村さんがやってきて、伊達さんを見て驚いた顔をした。伊達さんも振り返って「こらあ!!」と説教モードに入り始めてしまう。おっと、これは私どうしたらいいんだ?とりあえずフォロー入れるか?
「あ、あのー、別に谷村さん、お仕事サボりに来たわけじゃないのでは?」
「そうそう。なずなの言う通りですよ、伊達さん。ほら、この間だって雀荘で悪い奴見つけたりしたじゃないですか」
「この間はこの間だ!お前、今日は警らの日じゃねえだろ!ただでさえ著名人が殺されてバタバタしてんのに」
「えっ著名人って……ま、真島さんのこと……?」
「あ、いや違う違う!まあそっちもどうなってんだって事件なんだが、今朝のニュース見てないか?元東京ギガンツの監督が殺されたんだ。現場には近江連合のバッジが落ちてたが……いやすまん。これはなずなに話す内容じゃなかったな」
東京ギガンツ、というと有名な澤田選手がいる野球チームだ。その元監督が殺された。しかも近江連合のバッジがあったということは、極道絡みの事件なのか。なんだか、真島さんもこの事件に絡んでそうな気がしてきたな。
とはいえ、これは私が関わっていい話ではない。大丈夫です、と聞かなかった事にしておいた。とりあえず朝はニュースを見る習慣をつけようかな。
「まあまあ伊達さん。今日は聞き込みなんですよね?しかも女子高生やOLが相手だって聞いてます。となると、男二人で行くと話しにくいでしょう?なずながいると助かりますよね?」
「たしかにそうだが……一般人を巻き込むわけには」
「捜査協力って事で」
「ううむ……」
「捜査、協力……!!なにそれカッコいい!!やりたいです!!伊達さん、私頑張ります!!」
「あーもう!わーったよ!!けど勝手な真似はダメだからな!いいな?!」
「はい!!」
やったー!!谷村さんのお仕事のお手伝いだー!!伊達さんの名刑事っぷりも見れるかなー!!
「お前、最初からこれが狙いだったのか……?俺がここに来る事も予測済みで……?」
「まさか。偶然ですよ偶然」
「お前は本当に仕事してるのかサボってんのかわからねえ奴だよ……まあ、なずなの事はしっかり見てやれよ」
「ええ、もちろんです」
「二人とも何話してるんですかー?!聞き込み!行きましょう!!」
伊達さんと谷村さんが抱えている事件はいくつもあるらしい。色んな事件の聞き込みをしていて、警察って大変だなあと改めて思う。
二人が聞き込みをする時、私が近くにいると女性達は安心するようで、主に私の方を見ながら質問に答えてくれた。面食いの女性達に当たった時は、彼女達の視線が完全に谷村さんに向かっていた時は、伊達さんが疲れたような顔をしていて少し面白かった。頬を染めながら谷村さんに答えていく彼女達を見て、嫉妬はするものの、私も側から見たらあんな風なのだろうかと照れてしまったり。
イケメンはずるいよなあ!あんなカッコいい刑事さんに質問されたら何でも答えちゃうよなあ!
お昼は伊達さんに奢ってもらい、午後も同じく聞き込みをして周り、気づけば今日もあっという間に空は真っ暗だ。
途中食い逃げ犯が現れて谷村さんが追いかけて捕まえたのだが、前にもあったような?と思っていたらどうやら常習犯らしく何度捕まえても無銭飲食をするのだとか。世の中には色んな人がいるものだ。でも人に迷惑をかけるのはやめようね!
「おっと、わりい。署からだ」
じゃあな、と伊達さんが電話に出ながら離れていき、谷村さんも一応なのか携帯を確認していた。電話はとくに入っていないようだ。
「あー良かった。俺、伊達さんの部下だから伊達さんに連絡あると焦るんだよね」
「じゃあ今日は一応、お仕事終了?」
「そうだな。けど、署に戻って報告書出して来ないといけないから、スカイファイナンスでチケット貰うついでにお茶してて」
「了解!お仕事お疲れ様です!」
ポン、とケガに響かない程度に頭を撫でられて、口元がにやけてしまう。そんな私のだらしない顔を見て笑った谷村さんは、足早に職場へと戻って行った。さて、私もスカイファイナンスに向かおうか。
「こんばんはー!」
「あ!なずなちゃん!久しぶりー!」
「わー!久しぶりです花さん!」
スカイファイナンスに入ると、事務処理をしていたらしい花さんが顔を上げて出迎えてくれた。秋山さんの姿は見えないから、昨日からずっと忙しいのかもしれない。
「チケットだよね?秋山さん、今出かけてていないの。多分今日はここに戻ってこないだろうし、私ももう帰ろうと思ってて……あ、チケットは私が預かってたから大丈夫。はい、どうぞ!」
「ありがとうございます!秋山さん、忙しそうですね……でもこれからどうしよう、ネカフェ行こうかな……」
「若い女の子がこんな時間に一人でネカフェなんて危ないでしょ!そうだ、ニューセレナはどう?たしか、桐生さん達が集まってたと思うし」
「え?!桐生さんがここに?!」
花さんが聞いたところによると、秋山さん曰く大阪での一悶着と桐生さんがここに来たのには繋がりがあるらしい。花さんがスクラップされた新聞を見せてくれて、簡単に説明をしてくれる。
大阪、福岡、北海道、愛知、そして東京神室町。五大都市で起きた極道絡みの事件は全て繋がっていて、それは遥ちゃんのコンサートへも影響がある、とのこと。詳しくはわからないけれど、とにかく大きな事が起きようとしているのだとか。
「そっかあ……遥ちゃんのコンサート大丈夫かな……」
「あの秋山さんが率先して頑張ってるんだから、きっと大丈夫よ!」
「そうですよね!よし、私達は信じて、遥ちゃんのコンサート楽しみましょうね!」
「もちろん!」
花さんを駅まで見送りに行ってから、早速ニューセレナに向かおうとすると谷村さんからもう終わったので合流しようと連絡が入った。少し早いような気もするけど、谷村さん、仕事誰かに押し付けてないよね、大丈夫だよね……!!
そして神室町へ戻ると、ニューセレナがある建物の前で谷村さんがすでに待っていて、先程の不安を抱えつつ駆け寄る。
「谷村さん!お仕事お疲れ様!……ちゃんと自分で報告書出した?」
「出した出した。俺、こういうの要領良いから大丈夫」
「谷村さんがだんだん小悪魔に見えてきたよ……いや小悪魔な谷村さんとか最高だな……いひゃいいひゃい」
「変な妄想するなっての。ほら、ニューセレナ行くんでしょ?それにしても秋山さん、珍しく暇じゃなかったんだなー」
秋山さんも色々頑張ってるんだよ、と言うと、谷村さんがまたむーんとした顔で私を見た。これは多分、ヤキモチの顔だ!どこに焼いたのかわからないけど、可愛い谷村さんいただきました!
ふへへ、と笑いながらニューセレナの扉を開けると、ママさんが私達に気づいて笑顔で出迎えてくれた。
「いらっしゃい、二人とも。ちょうど良かった。今みんなの話がまとまったみたいで、私も帰るところなの」
「そうなんですか?あ、伊達さんがいる?!」
「おう。さっきぶりだな。じゃあ俺は帰るが、戸締りは頼むぞ桐生」
「わかった。ありがとう、伊達さん」
よせよせ、と照れくさそうに笑いながら、伊達さんはママさんと店から出て行った。残されたのは、私と谷村さん。それから、桐生さんだ。その奥にも誰かいるが、私は桐生さんの姿を見ていてもたってもいられず駆け寄った。谷村さんも桐生さんも驚いているが、言わないと。
「桐生さん!電話!ごめんなさい!」
「!……俺こそ、お前の気持ちをわかった気になって悪かった。谷村と再会するまでのお前は、俺なんかよりずっと寂しかったはずなのに……」
「そっ!そこはたしかに、ちょっと怒ってたけど……私だって、桐生さんがどんな覚悟で遥ちゃんから離れたか考えもしないで一方的に怒っちゃって……ごめんなさい、桐生さん。でもやっぱり、桐生さんと遥ちゃんは、一緒にいられる内は一緒にいてほしいよ。一人は、寂しいよ、桐生さん」
口に出すと、あの頃を思い出して寂しさが込み上げてくるようだった。新しい町を転々としてどこにも留まる事もせず、一人で生きてきた三年間。思い返せば、よく泣かずに過ごせたものだ。いや、泣いたらもう耐えられなくなるとわかっていたから我慢していたのだと思う。
よし兄がいなかったら、真島さんが笑わせてくれなかったら、桐生さんが背中を押してくれなかったら、私はずっと一人だった。
「……ああ、そうだな。俺達の事、気にかけてくれてありがとな、なずな」
「……じゃあ、仲直りって事で良い?」
「もちろんだ」
「ところでまゆみって誰?」
「うっ……それは、まあ、おいおいな……」
「こらあ!!まゆみって誰だー?!詳しく教えろー!!」
うおおおと桐生さんに飛びかかったら、片手で制されてしまった。くそー!
ワタワタしていたら谷村さんにやんわりと桐生さんから引き剥がされる。
「はいはい、そこまででお願いします、桐生さん」
「谷村、目が怖いんだが……」
「別に?桐生さん、まるで浮気を疑われてる彼氏みたいなセリフをなずなに言われてるなあ、なんて気にしてませんよ?」
「うわあ、思いっきり嫉妬してるよー……」
「秋山さんいたんですか。え?ロシアンルーレットがしたい?」
「言ってないよ?!」
また谷村さんと秋山さんが楽しそうにしてる。いいなあ。
桐生さんのいた後ろ、奥の席には秋山さんともう一人、冴島さんが見えた。髪の毛が坊主になっていて、そういえば刑務所にいて現在進行形で脱獄中なんだっけ。冴島さんは私の方を見て、手を上げて挨拶してくれた。
「冴島さん!お元気ですか?!」
「おう、元気や。久しぶりやな、なずな」
「あ、そうだ。今回もう一人仲間がいてね、ほら品田、せっかくだしなずなちゃんに挨拶してよ」
「うっす!」
秋山さんに促されて、背中を向けていた男の人が元気よく返事をして立ち上がった。そのまま振り返り、私の正面に立った彼は、人懐っこい笑顔で私を見下ろして手を差し出してくる。
「品田辰雄です!よろしく!」
その手を握り返す事を忘れて、私はポカンと口を開いて彼の顔を見ていた。私の様子に、谷村さんが「どうした?」と聞いてくるし、桐生さんも秋山さんも冴島さんも顔を見合わせて疑問符を飛ばしているが、私の方はそれどころではなかった。震える唇を動かして、なんとか絞り出した声はやっぱりか細かった。
「し、シナタツ……?」
「えっ?!もしかして、俺の事知ってるの……?」
「は、はわ……ほぎゃあああ?!えっ?!名古屋ワイバーンズのシナタツ?!ほんとに?!うそうそ、えっ?!」
思わず谷村さんの後ろに隠れて覗いて、顔を見ては叫ぶを繰り返してしまう。
「なずなちゃん、品田の事知ってるんだ?」
秋山さんが驚いたようにそう言うので、私は谷村さんの後ろから飛び出して興奮気味に頷いた。
「知ってますよ!!私、小学生の頃にテレビで野球の試合を見てて、シナタツのホームランに感動して野球覚えたんです!!あのサヨナラホームラン、もうすっごかったんですから!!あの後何故かシナタツが悪い事したってテレビで言われててめちゃくちゃ腹が立ったの今でも覚えてますよ!!」
「!そう、なんだ……」
「はわっ?!あ、あの、私、ずっと品田選手のファンです!よ、よかったら、さ、サインとか……」
「俺ので良かったら、もちろんいいよ」
「ひぎゃああ!!ありがとうございますありがとうございます!!えっと色紙……持ってない!!ちょっとそこのコンビニで買ってきます!!」
サインを貰えたら、よし兄に自慢しよう。それから、一人旅の時に出会った隣町のたこ焼き屋の金髪のお兄さんにもだ。あのお兄さん、「シナタツにサインもろたんや」って雑誌の裏に書かれたサイン持ってたけど、本物かどうか私のと見比べてやるんだ!
「俺が思ってるより、俺を信じてくれてる人っていたんだなあ」
慌ただしくなずなちゃんがニューセレナを出て行った後、品田はそう言って少し涙ぐんでいた。なずなちゃんの言葉は、いつも真っ直ぐだから尚更響いたのだろう。まさか品田のファンだとは思わなかったけど、こういうのも運命だったりするのだろうか。
「なんや、恋する乙女みたいな反応やったなあ」
「あっちょっ、冴島さん……!」
「……あ、すまん……」
和やかになった空気に気が抜けた冴島さんが谷村さんの地雷源を踏み抜くので止めたものの、時既に遅し。谷村さんの目が据わっている。怖い。
「お、落ち着け谷村……あいつのはただのファンとしての好きで、お前はちゃんと恋人だろ……」
「わかってますが?」
「そ、そうか……」
ああー!負けないで堂島の龍ー!!
谷村さんがぐるりと視線を品田に移すと、品田が小さく悲鳴を上げた。
「品田さん、そういうことなので、変な気は起こさないでくださいね」
「この人すごく怖いんですけど……!」
嫉妬が限界突破している谷村さんは品田に言葉の圧をかけて怯えさせていた。後に桐生さんの因縁の相手である亜門との戦いに谷村さんがボイコットして、その場にいた品田が強制参戦する事になるのだが、もしやこれも計算のうち……いや、考えるのはやめておこう。
(2012年なずな26歳)
翌日、谷村さんが雀荘の前で待っててと言って出勤していき、言われた通り谷村さんが入り浸っているという六雀荘の前で待っていた。
開店時間になったらしく、お客さんがゾロゾロと入っていくのを見送りながら携帯を眺めていると、「おい」と声をかけられた。顔を上げると、そこにいたのはなんと伊達さんだ。
「伊達さん!お久しぶりです!」
「やっぱりなずなだったか。久しぶりだな。怪我は大丈夫なのか?」
「はい!傷は浅かったみたいで、今は塞がってます。あ、えっと、谷村さんがお見舞いに来てくれたんですけど、伊達さんが取りなしてくれたって聞きました。本当にお世話になりました」
「いいんだよ。大事な奴が怪我してんのに仕事だなんだ言ってらんねえだろ」
「か、カッコいい……!!さすが名刑事!!」
「それ谷村が言ってんだろ……で、なんでまたこんなところにいるんだ?」
「えっと、谷村さんがここで待ってろって言うので。伊達さんこそ何故ここに?」
「その谷村がここにサボりに来るだろうって思ってな。案の定だったわけだ」
「お待たせなずな……わ、伊達さんだ」
伊達さんの背後から谷村さんがやってきて、伊達さんを見て驚いた顔をした。伊達さんも振り返って「こらあ!!」と説教モードに入り始めてしまう。おっと、これは私どうしたらいいんだ?とりあえずフォロー入れるか?
「あ、あのー、別に谷村さん、お仕事サボりに来たわけじゃないのでは?」
「そうそう。なずなの言う通りですよ、伊達さん。ほら、この間だって雀荘で悪い奴見つけたりしたじゃないですか」
「この間はこの間だ!お前、今日は警らの日じゃねえだろ!ただでさえ著名人が殺されてバタバタしてんのに」
「えっ著名人って……ま、真島さんのこと……?」
「あ、いや違う違う!まあそっちもどうなってんだって事件なんだが、今朝のニュース見てないか?元東京ギガンツの監督が殺されたんだ。現場には近江連合のバッジが落ちてたが……いやすまん。これはなずなに話す内容じゃなかったな」
東京ギガンツ、というと有名な澤田選手がいる野球チームだ。その元監督が殺された。しかも近江連合のバッジがあったということは、極道絡みの事件なのか。なんだか、真島さんもこの事件に絡んでそうな気がしてきたな。
とはいえ、これは私が関わっていい話ではない。大丈夫です、と聞かなかった事にしておいた。とりあえず朝はニュースを見る習慣をつけようかな。
「まあまあ伊達さん。今日は聞き込みなんですよね?しかも女子高生やOLが相手だって聞いてます。となると、男二人で行くと話しにくいでしょう?なずながいると助かりますよね?」
「たしかにそうだが……一般人を巻き込むわけには」
「捜査協力って事で」
「ううむ……」
「捜査、協力……!!なにそれカッコいい!!やりたいです!!伊達さん、私頑張ります!!」
「あーもう!わーったよ!!けど勝手な真似はダメだからな!いいな?!」
「はい!!」
やったー!!谷村さんのお仕事のお手伝いだー!!伊達さんの名刑事っぷりも見れるかなー!!
「お前、最初からこれが狙いだったのか……?俺がここに来る事も予測済みで……?」
「まさか。偶然ですよ偶然」
「お前は本当に仕事してるのかサボってんのかわからねえ奴だよ……まあ、なずなの事はしっかり見てやれよ」
「ええ、もちろんです」
「二人とも何話してるんですかー?!聞き込み!行きましょう!!」
伊達さんと谷村さんが抱えている事件はいくつもあるらしい。色んな事件の聞き込みをしていて、警察って大変だなあと改めて思う。
二人が聞き込みをする時、私が近くにいると女性達は安心するようで、主に私の方を見ながら質問に答えてくれた。面食いの女性達に当たった時は、彼女達の視線が完全に谷村さんに向かっていた時は、伊達さんが疲れたような顔をしていて少し面白かった。頬を染めながら谷村さんに答えていく彼女達を見て、嫉妬はするものの、私も側から見たらあんな風なのだろうかと照れてしまったり。
イケメンはずるいよなあ!あんなカッコいい刑事さんに質問されたら何でも答えちゃうよなあ!
お昼は伊達さんに奢ってもらい、午後も同じく聞き込みをして周り、気づけば今日もあっという間に空は真っ暗だ。
途中食い逃げ犯が現れて谷村さんが追いかけて捕まえたのだが、前にもあったような?と思っていたらどうやら常習犯らしく何度捕まえても無銭飲食をするのだとか。世の中には色んな人がいるものだ。でも人に迷惑をかけるのはやめようね!
「おっと、わりい。署からだ」
じゃあな、と伊達さんが電話に出ながら離れていき、谷村さんも一応なのか携帯を確認していた。電話はとくに入っていないようだ。
「あー良かった。俺、伊達さんの部下だから伊達さんに連絡あると焦るんだよね」
「じゃあ今日は一応、お仕事終了?」
「そうだな。けど、署に戻って報告書出して来ないといけないから、スカイファイナンスでチケット貰うついでにお茶してて」
「了解!お仕事お疲れ様です!」
ポン、とケガに響かない程度に頭を撫でられて、口元がにやけてしまう。そんな私のだらしない顔を見て笑った谷村さんは、足早に職場へと戻って行った。さて、私もスカイファイナンスに向かおうか。
「こんばんはー!」
「あ!なずなちゃん!久しぶりー!」
「わー!久しぶりです花さん!」
スカイファイナンスに入ると、事務処理をしていたらしい花さんが顔を上げて出迎えてくれた。秋山さんの姿は見えないから、昨日からずっと忙しいのかもしれない。
「チケットだよね?秋山さん、今出かけてていないの。多分今日はここに戻ってこないだろうし、私ももう帰ろうと思ってて……あ、チケットは私が預かってたから大丈夫。はい、どうぞ!」
「ありがとうございます!秋山さん、忙しそうですね……でもこれからどうしよう、ネカフェ行こうかな……」
「若い女の子がこんな時間に一人でネカフェなんて危ないでしょ!そうだ、ニューセレナはどう?たしか、桐生さん達が集まってたと思うし」
「え?!桐生さんがここに?!」
花さんが聞いたところによると、秋山さん曰く大阪での一悶着と桐生さんがここに来たのには繋がりがあるらしい。花さんがスクラップされた新聞を見せてくれて、簡単に説明をしてくれる。
大阪、福岡、北海道、愛知、そして東京神室町。五大都市で起きた極道絡みの事件は全て繋がっていて、それは遥ちゃんのコンサートへも影響がある、とのこと。詳しくはわからないけれど、とにかく大きな事が起きようとしているのだとか。
「そっかあ……遥ちゃんのコンサート大丈夫かな……」
「あの秋山さんが率先して頑張ってるんだから、きっと大丈夫よ!」
「そうですよね!よし、私達は信じて、遥ちゃんのコンサート楽しみましょうね!」
「もちろん!」
花さんを駅まで見送りに行ってから、早速ニューセレナに向かおうとすると谷村さんからもう終わったので合流しようと連絡が入った。少し早いような気もするけど、谷村さん、仕事誰かに押し付けてないよね、大丈夫だよね……!!
そして神室町へ戻ると、ニューセレナがある建物の前で谷村さんがすでに待っていて、先程の不安を抱えつつ駆け寄る。
「谷村さん!お仕事お疲れ様!……ちゃんと自分で報告書出した?」
「出した出した。俺、こういうの要領良いから大丈夫」
「谷村さんがだんだん小悪魔に見えてきたよ……いや小悪魔な谷村さんとか最高だな……いひゃいいひゃい」
「変な妄想するなっての。ほら、ニューセレナ行くんでしょ?それにしても秋山さん、珍しく暇じゃなかったんだなー」
秋山さんも色々頑張ってるんだよ、と言うと、谷村さんがまたむーんとした顔で私を見た。これは多分、ヤキモチの顔だ!どこに焼いたのかわからないけど、可愛い谷村さんいただきました!
ふへへ、と笑いながらニューセレナの扉を開けると、ママさんが私達に気づいて笑顔で出迎えてくれた。
「いらっしゃい、二人とも。ちょうど良かった。今みんなの話がまとまったみたいで、私も帰るところなの」
「そうなんですか?あ、伊達さんがいる?!」
「おう。さっきぶりだな。じゃあ俺は帰るが、戸締りは頼むぞ桐生」
「わかった。ありがとう、伊達さん」
よせよせ、と照れくさそうに笑いながら、伊達さんはママさんと店から出て行った。残されたのは、私と谷村さん。それから、桐生さんだ。その奥にも誰かいるが、私は桐生さんの姿を見ていてもたってもいられず駆け寄った。谷村さんも桐生さんも驚いているが、言わないと。
「桐生さん!電話!ごめんなさい!」
「!……俺こそ、お前の気持ちをわかった気になって悪かった。谷村と再会するまでのお前は、俺なんかよりずっと寂しかったはずなのに……」
「そっ!そこはたしかに、ちょっと怒ってたけど……私だって、桐生さんがどんな覚悟で遥ちゃんから離れたか考えもしないで一方的に怒っちゃって……ごめんなさい、桐生さん。でもやっぱり、桐生さんと遥ちゃんは、一緒にいられる内は一緒にいてほしいよ。一人は、寂しいよ、桐生さん」
口に出すと、あの頃を思い出して寂しさが込み上げてくるようだった。新しい町を転々としてどこにも留まる事もせず、一人で生きてきた三年間。思い返せば、よく泣かずに過ごせたものだ。いや、泣いたらもう耐えられなくなるとわかっていたから我慢していたのだと思う。
よし兄がいなかったら、真島さんが笑わせてくれなかったら、桐生さんが背中を押してくれなかったら、私はずっと一人だった。
「……ああ、そうだな。俺達の事、気にかけてくれてありがとな、なずな」
「……じゃあ、仲直りって事で良い?」
「もちろんだ」
「ところでまゆみって誰?」
「うっ……それは、まあ、おいおいな……」
「こらあ!!まゆみって誰だー?!詳しく教えろー!!」
うおおおと桐生さんに飛びかかったら、片手で制されてしまった。くそー!
ワタワタしていたら谷村さんにやんわりと桐生さんから引き剥がされる。
「はいはい、そこまででお願いします、桐生さん」
「谷村、目が怖いんだが……」
「別に?桐生さん、まるで浮気を疑われてる彼氏みたいなセリフをなずなに言われてるなあ、なんて気にしてませんよ?」
「うわあ、思いっきり嫉妬してるよー……」
「秋山さんいたんですか。え?ロシアンルーレットがしたい?」
「言ってないよ?!」
また谷村さんと秋山さんが楽しそうにしてる。いいなあ。
桐生さんのいた後ろ、奥の席には秋山さんともう一人、冴島さんが見えた。髪の毛が坊主になっていて、そういえば刑務所にいて現在進行形で脱獄中なんだっけ。冴島さんは私の方を見て、手を上げて挨拶してくれた。
「冴島さん!お元気ですか?!」
「おう、元気や。久しぶりやな、なずな」
「あ、そうだ。今回もう一人仲間がいてね、ほら品田、せっかくだしなずなちゃんに挨拶してよ」
「うっす!」
秋山さんに促されて、背中を向けていた男の人が元気よく返事をして立ち上がった。そのまま振り返り、私の正面に立った彼は、人懐っこい笑顔で私を見下ろして手を差し出してくる。
「品田辰雄です!よろしく!」
その手を握り返す事を忘れて、私はポカンと口を開いて彼の顔を見ていた。私の様子に、谷村さんが「どうした?」と聞いてくるし、桐生さんも秋山さんも冴島さんも顔を見合わせて疑問符を飛ばしているが、私の方はそれどころではなかった。震える唇を動かして、なんとか絞り出した声はやっぱりか細かった。
「し、シナタツ……?」
「えっ?!もしかして、俺の事知ってるの……?」
「は、はわ……ほぎゃあああ?!えっ?!名古屋ワイバーンズのシナタツ?!ほんとに?!うそうそ、えっ?!」
思わず谷村さんの後ろに隠れて覗いて、顔を見ては叫ぶを繰り返してしまう。
「なずなちゃん、品田の事知ってるんだ?」
秋山さんが驚いたようにそう言うので、私は谷村さんの後ろから飛び出して興奮気味に頷いた。
「知ってますよ!!私、小学生の頃にテレビで野球の試合を見てて、シナタツのホームランに感動して野球覚えたんです!!あのサヨナラホームラン、もうすっごかったんですから!!あの後何故かシナタツが悪い事したってテレビで言われててめちゃくちゃ腹が立ったの今でも覚えてますよ!!」
「!そう、なんだ……」
「はわっ?!あ、あの、私、ずっと品田選手のファンです!よ、よかったら、さ、サインとか……」
「俺ので良かったら、もちろんいいよ」
「ひぎゃああ!!ありがとうございますありがとうございます!!えっと色紙……持ってない!!ちょっとそこのコンビニで買ってきます!!」
サインを貰えたら、よし兄に自慢しよう。それから、一人旅の時に出会った隣町のたこ焼き屋の金髪のお兄さんにもだ。あのお兄さん、「シナタツにサインもろたんや」って雑誌の裏に書かれたサイン持ってたけど、本物かどうか私のと見比べてやるんだ!
「俺が思ってるより、俺を信じてくれてる人っていたんだなあ」
慌ただしくなずなちゃんがニューセレナを出て行った後、品田はそう言って少し涙ぐんでいた。なずなちゃんの言葉は、いつも真っ直ぐだから尚更響いたのだろう。まさか品田のファンだとは思わなかったけど、こういうのも運命だったりするのだろうか。
「なんや、恋する乙女みたいな反応やったなあ」
「あっちょっ、冴島さん……!」
「……あ、すまん……」
和やかになった空気に気が抜けた冴島さんが谷村さんの地雷源を踏み抜くので止めたものの、時既に遅し。谷村さんの目が据わっている。怖い。
「お、落ち着け谷村……あいつのはただのファンとしての好きで、お前はちゃんと恋人だろ……」
「わかってますが?」
「そ、そうか……」
ああー!負けないで堂島の龍ー!!
谷村さんがぐるりと視線を品田に移すと、品田が小さく悲鳴を上げた。
「品田さん、そういうことなので、変な気は起こさないでくださいね」
「この人すごく怖いんですけど……!」
嫉妬が限界突破している谷村さんは品田に言葉の圧をかけて怯えさせていた。後に桐生さんの因縁の相手である亜門との戦いに谷村さんがボイコットして、その場にいた品田が強制参戦する事になるのだが、もしやこれも計算のうち……いや、考えるのはやめておこう。