snobbism(龍如)
DREAM
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夢を追う人たちの話。
(2012年なずな26歳)
「えーと、あと何がいるんだっけなー」
スカイファイナンス蒼天堀支店は、基本的には暇だった。まあ都市伝説のような会社なので仕方ない。そして社長の秋山さんもたまに来るくらいなので、私も秋山さんが来る日の前後含めて月に数日くらい出社して事務所の掃除や書類整理、残りは会計の勉強をして勤務時間を終えるのが日常となった。
そして月日は流れ、12月。明日は秋山さんが蒼天堀に来るので、一人で買い出しをしているところだ。先月空にした事務所の冷蔵庫に、食料品を補充してあげよう。あとは何がいるだろうか。
うーんと悩みながら歩いていたら、橋を渡った先、招福町の方面に人だかりが出来ているのが見えて足を止めた。なんだろう。蒼天堀だし、芸能人とかいるのかな。もしくは芸人さんかもしれない。どちらにせよ、テレビカメラがあるとまずいのでさっさと離れるに限る。
芸能人、といえば、桐生さんのところの遥ちゃんはどうしているだろうか。スカウトを受けたらしく、テレビで遥ちゃんの姿を見た日は驚いたものだ。思えば沖縄旅行以降、桐生さんとその話について話したことがないな。せっかくだし、秋山さんに雇われた事とか話すついでに遥ちゃんの近況でも聞いてみようかな。
そうと決まれば!と携帯を取り出して、適当なベンチに座って早速桐生さんに電話してみる事にした。
何度目かのコールの後、もしもし、と控えめな声が返ってくる。
「あ!桐生さん!久しぶり!元気してるー?」
『なずな。……ああ、久しぶりだな』
「……?元気ないみたいだけど、何かあった?」
電話に出た桐生さんは、ひどく消耗しきった声をしていて、覇気がないようだった。どうしたんだろう。
『お前は、本当に凄いな』
「へ?!急になに?!」
『こんな生活を、何年も続けて……会いたい奴にも会わないで、たった一人でずっと生きてきたのか……お前は強い奴だ』
「ど、どうしたの?!え、もしかして桐生さん、今一人でいたりする?!な、なんで?!今沖縄にいないの?!」
『……ああ、アサガオを出たんだ。俺の経歴は、遥の夢の邪魔になる。ずっと、わかっていた事だったんだがな』
桐生さんの経歴は、おそらくヤクザだったことだろう。アサガオから出たという事は、遥ちゃんが元ヤクザの桐生さんに育てられた事を隠すため?でも、それは事実で、今は隠せてもいつかはバレてしまうんじゃないの?そんな一時しのぎで、桐生さんと遥ちゃんは離れ離れになってしまったなんて。
「桐生さんのバカ!」
『!なずな……?』
「遥ちゃんが言ったの?!桐生さんの事邪魔だって!言うわけないよね?!だって、遥ちゃん桐生さんの事大好きだもん!何バカなお別れしてんの!もっとちゃんと話し合って!心から応援したいなら、最後まで側で見守ってやるのが親じゃんか!!」
電話の向こうで桐生さんが言葉を詰まらせたのがわかった。こんな事で、私の気持ちを理解されるなんて心外だ。だって、桐生さんと遥ちゃんは、死んでないじゃないか。たくさんの困難を乗り越えて、一緒に暮らせてたじゃないか。なのに、そんなバカな別れ方して、どちらも悲しんで、何が夢だ。遥ちゃんだって、きっとそんな事望んでないのに。
「いい?!これから桐生さんの事叩きに行くから今どこにいるか教えて!!」
『いや、それは……』
『あれ?誰と電話してるの?』
『ま、まゆみ……!』
「まゆみ?!誰その女?!バカ!!」
まさか、すでに誰かと同棲している、だと?!
わなわなと手が震え、思わず電話口に彼女のような台詞を言って電話を切ってしまった。リアルで「誰よその女」を言う羽目になるとは。
「え、谷村さん、浮気してるの……?」
「ほぎゃああ?!」
落ち着こうと息を整えていたら、いつの間にか背後に来ていた秋山さんが私を覗き込んでいた。驚いてベンチから落ちそうになる。なんでここに?!と目で訴えると、秋山さんは融資客について少し事情があって早く来たと教えてくれた。
「あ!違います違います!相手桐生さんです!谷村さんはそんな事しません!」
「よ、よかったー……結構焦ったよ……え?桐生さんって、一体何があったの?」
「いや、私も詳細聞かずに怒っちゃったんですけど……なんか、今沖縄にいないらしくて」
「ええ?」
「……とりあえず、それについては落ち着いたらもう一回連絡してみます。私も頭冷やさなきゃ……ほんとダメだなぁ、すぐカッとなっちゃう……落ち着いたら謝って、ちゃんと話聞かないと……」
「……ふふ、なずなちゃんはそれで良いんじゃない?何があったかはわからないけど、桐生さんもちゃんとわかってくれてるよ」
あ、せっかく会えたしご飯食べに行く?それとも宅飲みする?と秋山さんが明るく言ってくれたので、じゃあ宅飲みで!と買い出しを終えてからまた秋山さんを連れて家に帰ると、よし兄に「報連相」という言葉とともにデコピンを食らってしまった。
翌日、秋山さんが連絡のあった融資客の元へ出かけると、事務所は私一人きりとなる。つまり暇なのである。事務所の掃除や片付けをして、冷蔵庫で冷やしておいたデザートを頬張り、ぼんやりとしているくらい暇である。
「はあ、テレビでも見るか」
そういえばこのテレビ、最初は地面に直置きされてたから、秋山さんって本当に片付けしないんだなあと笑ったっけ。今は買ってきたテレビ台に設置されたテレビをつけて、ニュース番組を映す。ふむふむ、招福町にある芸能事務所ダイナチェアの社長が失踪……え?!
「それって、さっき秋山さんが向かった会社じゃん!もしかして、この事で……?」
テレビに映される事務所は見覚えがあった。あれはたしか、そうだ。去年のクリスマスに会った堀江さんが勤めている場所だ。そういえば芸能事務所ダイナチェア。名前も見た覚えがある。もしかして、あの時会釈した女性が、社長だったりしたんだろうか。
「様子見に行きたいけど、でも、ううーん……」
警察が動く事件だ。あまり認識されるような行動はしたくはないが、気になって仕方ない。けれど、脳裏に谷村さんの傷ついた姿がよぎって、立ち上がった体をもう一度ソファに沈ませた。
……いや、やっぱりダメだ。やっぱり秋山さんが帰ってくるまで待とう。私が動いて、また誰かを巻き込むようなことがあったら、今度こそ心が折れてしまうかもしれない。
「ううー!ソワソワするー!!よし兄に電話しよ……」
「!!お、お前……っ!!」
「へ?」
突然事務所に乱入者が現れた。
飛び込むように入ってきた髪を束ねた男の人に肩を掴まれて、持っていた携帯が滑り落ちていく。痛いくらいに力を入れてくる男の人は、尋常じゃない汗をかきながら青い顔をしていた。
「え、あ、あの、どちら様でしょうか?!」
「ここに、お前と同じ髪色の男はおらんか?!眼鏡かけて男や!!」
それは、もしかして、私の実の兄貴の事だろうか。
実の兄貴の見た目はもちろん私と同じ髪色をしており、伊達だが眼鏡をかけている背の高い男だ。けど、どうしてこの人は、兄を探しているのだろうか。何にせよ、ここにはいないし私が一番会いたい。
「いないです。あの、どうしてその人の事探してるんですか?」
「おらんわけあるか!前に見たんや、あの男がこの事務所に花束持って入ってくのを!色男が花束なんてキザなもん持ってたから、覚えてんねん!」
花束というと、就職祝いのやつだろうか。
「で、でも、本当に知らなくて……いったっ!!」
「あいつ、俺の事なんかゆうとったか?!ああ、なんでこないなことになってもうたんや……!あの女の居場所聞き出さな、殺されてまう……!代わりにお前連れてったら、何とかなるやろか……」
うわー!!なんか大変な事が起きているー!!兄貴何やったのー!!
錯乱状態の男の人は、私の腕を引いてどこかへ連れて行こうとする。慌てて「やめてください!」と拒絶しながら、留まろうとするが、かなり力が強い。くそう。
「ていうか、その人に何されたんですか?!その辺詳しく聞きたいんですが?!」
「あの男、俺らが何やってたか全部知っとったんや!!あの女、朴のこと連れて逃げよった!あかん、もう俺はおしまいや、早く手紙を、朴を見つけな……」
「手紙?」
「!!!あ、あああ!!」
「っ!ガッ……」
ゴン、と硬いもので頭を殴られた。倒れる瞬間、また頭を過ぎったのは谷村さんのことだった。やっぱり、痛いし苦しい。気にするなって言ってくれた谷村さんが、こんな思いをしたのかと頭の痛みよりも胸が痛かった。
ごめんなさい、谷村さん。
(2012年なずな26歳)
「えーと、あと何がいるんだっけなー」
スカイファイナンス蒼天堀支店は、基本的には暇だった。まあ都市伝説のような会社なので仕方ない。そして社長の秋山さんもたまに来るくらいなので、私も秋山さんが来る日の前後含めて月に数日くらい出社して事務所の掃除や書類整理、残りは会計の勉強をして勤務時間を終えるのが日常となった。
そして月日は流れ、12月。明日は秋山さんが蒼天堀に来るので、一人で買い出しをしているところだ。先月空にした事務所の冷蔵庫に、食料品を補充してあげよう。あとは何がいるだろうか。
うーんと悩みながら歩いていたら、橋を渡った先、招福町の方面に人だかりが出来ているのが見えて足を止めた。なんだろう。蒼天堀だし、芸能人とかいるのかな。もしくは芸人さんかもしれない。どちらにせよ、テレビカメラがあるとまずいのでさっさと離れるに限る。
芸能人、といえば、桐生さんのところの遥ちゃんはどうしているだろうか。スカウトを受けたらしく、テレビで遥ちゃんの姿を見た日は驚いたものだ。思えば沖縄旅行以降、桐生さんとその話について話したことがないな。せっかくだし、秋山さんに雇われた事とか話すついでに遥ちゃんの近況でも聞いてみようかな。
そうと決まれば!と携帯を取り出して、適当なベンチに座って早速桐生さんに電話してみる事にした。
何度目かのコールの後、もしもし、と控えめな声が返ってくる。
「あ!桐生さん!久しぶり!元気してるー?」
『なずな。……ああ、久しぶりだな』
「……?元気ないみたいだけど、何かあった?」
電話に出た桐生さんは、ひどく消耗しきった声をしていて、覇気がないようだった。どうしたんだろう。
『お前は、本当に凄いな』
「へ?!急になに?!」
『こんな生活を、何年も続けて……会いたい奴にも会わないで、たった一人でずっと生きてきたのか……お前は強い奴だ』
「ど、どうしたの?!え、もしかして桐生さん、今一人でいたりする?!な、なんで?!今沖縄にいないの?!」
『……ああ、アサガオを出たんだ。俺の経歴は、遥の夢の邪魔になる。ずっと、わかっていた事だったんだがな』
桐生さんの経歴は、おそらくヤクザだったことだろう。アサガオから出たという事は、遥ちゃんが元ヤクザの桐生さんに育てられた事を隠すため?でも、それは事実で、今は隠せてもいつかはバレてしまうんじゃないの?そんな一時しのぎで、桐生さんと遥ちゃんは離れ離れになってしまったなんて。
「桐生さんのバカ!」
『!なずな……?』
「遥ちゃんが言ったの?!桐生さんの事邪魔だって!言うわけないよね?!だって、遥ちゃん桐生さんの事大好きだもん!何バカなお別れしてんの!もっとちゃんと話し合って!心から応援したいなら、最後まで側で見守ってやるのが親じゃんか!!」
電話の向こうで桐生さんが言葉を詰まらせたのがわかった。こんな事で、私の気持ちを理解されるなんて心外だ。だって、桐生さんと遥ちゃんは、死んでないじゃないか。たくさんの困難を乗り越えて、一緒に暮らせてたじゃないか。なのに、そんなバカな別れ方して、どちらも悲しんで、何が夢だ。遥ちゃんだって、きっとそんな事望んでないのに。
「いい?!これから桐生さんの事叩きに行くから今どこにいるか教えて!!」
『いや、それは……』
『あれ?誰と電話してるの?』
『ま、まゆみ……!』
「まゆみ?!誰その女?!バカ!!」
まさか、すでに誰かと同棲している、だと?!
わなわなと手が震え、思わず電話口に彼女のような台詞を言って電話を切ってしまった。リアルで「誰よその女」を言う羽目になるとは。
「え、谷村さん、浮気してるの……?」
「ほぎゃああ?!」
落ち着こうと息を整えていたら、いつの間にか背後に来ていた秋山さんが私を覗き込んでいた。驚いてベンチから落ちそうになる。なんでここに?!と目で訴えると、秋山さんは融資客について少し事情があって早く来たと教えてくれた。
「あ!違います違います!相手桐生さんです!谷村さんはそんな事しません!」
「よ、よかったー……結構焦ったよ……え?桐生さんって、一体何があったの?」
「いや、私も詳細聞かずに怒っちゃったんですけど……なんか、今沖縄にいないらしくて」
「ええ?」
「……とりあえず、それについては落ち着いたらもう一回連絡してみます。私も頭冷やさなきゃ……ほんとダメだなぁ、すぐカッとなっちゃう……落ち着いたら謝って、ちゃんと話聞かないと……」
「……ふふ、なずなちゃんはそれで良いんじゃない?何があったかはわからないけど、桐生さんもちゃんとわかってくれてるよ」
あ、せっかく会えたしご飯食べに行く?それとも宅飲みする?と秋山さんが明るく言ってくれたので、じゃあ宅飲みで!と買い出しを終えてからまた秋山さんを連れて家に帰ると、よし兄に「報連相」という言葉とともにデコピンを食らってしまった。
翌日、秋山さんが連絡のあった融資客の元へ出かけると、事務所は私一人きりとなる。つまり暇なのである。事務所の掃除や片付けをして、冷蔵庫で冷やしておいたデザートを頬張り、ぼんやりとしているくらい暇である。
「はあ、テレビでも見るか」
そういえばこのテレビ、最初は地面に直置きされてたから、秋山さんって本当に片付けしないんだなあと笑ったっけ。今は買ってきたテレビ台に設置されたテレビをつけて、ニュース番組を映す。ふむふむ、招福町にある芸能事務所ダイナチェアの社長が失踪……え?!
「それって、さっき秋山さんが向かった会社じゃん!もしかして、この事で……?」
テレビに映される事務所は見覚えがあった。あれはたしか、そうだ。去年のクリスマスに会った堀江さんが勤めている場所だ。そういえば芸能事務所ダイナチェア。名前も見た覚えがある。もしかして、あの時会釈した女性が、社長だったりしたんだろうか。
「様子見に行きたいけど、でも、ううーん……」
警察が動く事件だ。あまり認識されるような行動はしたくはないが、気になって仕方ない。けれど、脳裏に谷村さんの傷ついた姿がよぎって、立ち上がった体をもう一度ソファに沈ませた。
……いや、やっぱりダメだ。やっぱり秋山さんが帰ってくるまで待とう。私が動いて、また誰かを巻き込むようなことがあったら、今度こそ心が折れてしまうかもしれない。
「ううー!ソワソワするー!!よし兄に電話しよ……」
「!!お、お前……っ!!」
「へ?」
突然事務所に乱入者が現れた。
飛び込むように入ってきた髪を束ねた男の人に肩を掴まれて、持っていた携帯が滑り落ちていく。痛いくらいに力を入れてくる男の人は、尋常じゃない汗をかきながら青い顔をしていた。
「え、あ、あの、どちら様でしょうか?!」
「ここに、お前と同じ髪色の男はおらんか?!眼鏡かけて男や!!」
それは、もしかして、私の実の兄貴の事だろうか。
実の兄貴の見た目はもちろん私と同じ髪色をしており、伊達だが眼鏡をかけている背の高い男だ。けど、どうしてこの人は、兄を探しているのだろうか。何にせよ、ここにはいないし私が一番会いたい。
「いないです。あの、どうしてその人の事探してるんですか?」
「おらんわけあるか!前に見たんや、あの男がこの事務所に花束持って入ってくのを!色男が花束なんてキザなもん持ってたから、覚えてんねん!」
花束というと、就職祝いのやつだろうか。
「で、でも、本当に知らなくて……いったっ!!」
「あいつ、俺の事なんかゆうとったか?!ああ、なんでこないなことになってもうたんや……!あの女の居場所聞き出さな、殺されてまう……!代わりにお前連れてったら、何とかなるやろか……」
うわー!!なんか大変な事が起きているー!!兄貴何やったのー!!
錯乱状態の男の人は、私の腕を引いてどこかへ連れて行こうとする。慌てて「やめてください!」と拒絶しながら、留まろうとするが、かなり力が強い。くそう。
「ていうか、その人に何されたんですか?!その辺詳しく聞きたいんですが?!」
「あの男、俺らが何やってたか全部知っとったんや!!あの女、朴のこと連れて逃げよった!あかん、もう俺はおしまいや、早く手紙を、朴を見つけな……」
「手紙?」
「!!!あ、あああ!!」
「っ!ガッ……」
ゴン、と硬いもので頭を殴られた。倒れる瞬間、また頭を過ぎったのは谷村さんのことだった。やっぱり、痛いし苦しい。気にするなって言ってくれた谷村さんが、こんな思いをしたのかと頭の痛みよりも胸が痛かった。
ごめんなさい、谷村さん。