★番外編
DREAM
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元関西の龍と。
(2008年なずな22歳)
「たこ焼き一つくーださい!」
関西から遠く離れた東京都内、とある町。色々と騒動を起こしてかき乱した神室町のとなりの町で、細々と営業しているたこ焼き屋に、騒がしい声が響き渡る。いつもの娘だ。
「大声で言わんでもええわ。何味にするんや」
「伝統の味でよろしく!この間頼んだんだけど、おいしかったからもう一回食べようと思って!」
「せやろ。ワシのおすすめやからな」
客を待たせる時用に備えてある簡易な丸椅子に慣れたように座り込むと、にこにことこちらの作業を見守り始めるこの娘は、数週間前は死にそうな顔をしていたのだ。
弟子入りしたたこ焼き屋のおやっさんが不運な事故で他界し、教わったことを継ぐと決めてどうにか営業していた頃のことだ。夜の営業を終えようと店じまいをしていたら、あ、と小さい声がした。
振り返ると、キャリーケースを引きずる娘が、残念そうに屋台を見つめている。
『なんや、たこ焼き食いたかったんか?』
『あ、えっと、はい。でももうお店閉める時間だったんですね。邪魔してごめんなさい』
『気にすなや。けど悪いなあ、今日の分の材料のうなってしもたんや』
『大丈夫です。失礼しました』
ガラガラと力なく引きずられていくキャリーケースの音が離れる前に、ちょい待ち、と声をかける。
『明日は休業の予定やったが、あんたの為に店開いたるからちゃんときいや』
『えっ?!いやそこまでしてもらうわけには?!だ、大丈夫です!それに、あの、私もう町出ますし!ほんと気にしないでください!』
『どうせ宛のない旅しとるんやろ。一日くらいたこ焼きに使っても損はないで』
『なっ?!え、な、なんでわか……?!』
分かるに決まっている。自分もそうだったからだ。
桐生に敗れ右腕を失い、近江連合からは破門をたたきつけられた挙句、恨みつらみで終われる始末。復讐する気もなければ、だんだんと返り討ちするのにも疲れてきていた時に、たこ焼き屋のおやっさんに出会った。行く宛がない自分を、おやっさんが拾ってくれて、今の自分がある。
この娘を見たとき、あの日の自分はきっとこんな顔をしていたのだろうと呆れたのだ。なんて、死にそうな顔なのかと。
『ワシのたこ焼きは美味いで。楽しみにしときや』
『……はい』
翌日、おそるおそるといった様子でやってきた娘にたこ焼きをふるまってやれば、目を輝かせて幸せそうに笑ったのでこちらも思わずふっと笑ってしまった。
「はー!やっぱり龍司くんの作るたこ焼きは格別だなー!」
「暇なら客引きでもしいや」
「私お金払ってる客なんだが?!って、そういえばさ、ずっと聞きそびれてたんだけど、そこの壁に飾ってある雑誌の裏表紙って何か意味があるの?」
屋台の中の右の壁に、額縁に入れた雑誌の裏表紙が飾ってある。意味はある、というかこれはただの切り抜きではない。
「よーく見てみい。サイン書いてあるやろ」
「えっ?……ほんとだ!!誰のサイン?んーと……」
「シナタツや。昔名古屋ワイバーンズって球団におったプロ野球選手のサイン飾ってんねん」
まだ右腕も健在だった頃、韓国人の面白い男を連れて日本横断をしていた頃の話だ。元々ファンだった自分は、名古屋で見かけたシナタツを追いかけて、まあ色々あった後にサインをもらうことができた。今の生活になる前に、宝物の一つとしてこれだけはどうにか持って出ることができたのは幸運だった。そういえば、あの時出会ったシナタツは腐りかけていたが、今はどうしているだろうか。
そんな昔話を思い出していたら、娘はサインとこちらを何度か往復して見てきた後大声で叫ばれる。
「はああ?!いやうそだー!!シナタツがこんなスケベな雑誌の裏にサインするわけないじゃん!!」
「なんや嬢ちゃん。シナタツ知っとるんか」
「もちのろんよ!私小学生の時からファンだもん!!あのサヨナラホームラン、すごかったよね!」
「おお、すごかったわ!ほんまええホームランやったで!」
「ねー!!」
しばらくシナタツの話題で盛り上がった後、いつか自分もサインもらいたいなあというので、名古屋で会ったことを教えてやった。名古屋は行ったことないな!と笑っていたので、旅先の候補になったかもしれない。
「それ食ったらどないするんや?どっか行くんか」
「そうだねえ。いい加減未練がましいかなって思ってたから、当分ここにも来ないかも。龍司くんのたこ焼きおいしいからちょっと残念だけどね」
「誰か探しとるんか?」
「……そう、かも」
探しているが、会うのが怖いといったところか。自分にも会いたい家族がいるが、風のうわさで海外へ行ってしまったと聞いた。会う機会は、もうないかもしれない。だが、こいつはまだチャンスがあるのではないだろうか。この辺りにいることを考えると、近いがここではない場所に探している奴がいるのだろう。なら、神室町かもしれない。
「神室町」
「ぐえっ」
「図星やな。うじうじしとらんと、会いたいときにあってきいや」
「でも、私のせいで……」
怪我をさせてしまった、と小さな声を拾った。罵られるのが怖いのだろうか。嫌われるのが怖いのだろうか。きっとどちらでもない。こいつは、それでもなお与えられるかもしれないやさしさが、きっと怖いのだ。
「なんちゅー名前の男や。ワシが直々に引っ張ってきたるから言え」
「えっ?!いややめてね?!急に怖いお兄さん来たら美人局だと思われるじゃん?!」
「人をそない雑魚扱いすなや。内臓の一つくらいとってきたるわ」
「こわあ?!もっと怖くなったよ?!ほんとやめてね?!」
きゃんきゃん騒ぐ娘を適当にあしらっていると、ふっと静かになる。作業を止めないまま顔を上げれば、どこか泣きそうな顔で笑っていた。
「龍司くんありがとね。んー!元気出た!よっし、次は名古屋行く!」
「何の礼かわからんけど、まあ元気になったならええ。名古屋やったら小倉トーストおすすめやで」
「うわあ美味そう!絶対食べる!……それじゃ、私行くね!」
「おお、またたこ焼き食べに来いや。ワシはここでずっと焼いとるからな」
「!……うん!」
「次来るときはその探しとる男もつれてくるんやで。お前にふさわしいかワシが見定めたるさかい」
「なななななんで男ってわかったの?!いや別にそういうんじゃないですしおすし!!」
わかりやすいんやお前は、と笑ってやれば、顔を真っ赤にした娘こと、なずなはひとしきり騒いだ後、とうとうこの町を去っていってしまった。あの騒がしさがなくなるの少しはさみしく思えたが、また会えるだろうと確信している。ひとりぼっちというのは、寂しいものなのだ。それに、あいつは人を引き寄せる体質だろう。今すぐではなくても、いつかそばにいてくれる奴が表れて、そして会いたい奴にも会いに行くことになる。あいつの幸福を願うやつらきっと、そう導いてくれるはずだ。自分にできることはそんな大それたことではなく、たこ焼きをふるまってやることくらいだが。
(あいつが連れてくる男、どんな奴やろうなあ。もしうさんくさい男やったらどっちもどついたるか)
「あれ、郷田さん。今日楽しそうですね?あ、たこ焼き三つもらえます?うちの秘書の子への手土産にするんで」
「……こないな奴やったらどつくなあ」
「何の話です?!」
最近常連になった神室町の金貸しの男を見ながら、どつくと思いながらもこいつとあの娘なら突っ込み気質同士わりと仲良くなるかもしれんあとも思った。
数年後、ようやくきたと思ったらこの金貸しを連れてきたものだから、とりあえず二人ともどついたのだが。
蹲る二人を見下ろしていたら、遅れて警察の男がやってきた。どうやら探していた男はこいつだったらしいが、まあええやろと言ったら「どついたの謝ってくれる?!」と突っ込み二人が騒いでいたのは少し面白かった。
(2008年なずな22歳)
「たこ焼き一つくーださい!」
関西から遠く離れた東京都内、とある町。色々と騒動を起こしてかき乱した神室町のとなりの町で、細々と営業しているたこ焼き屋に、騒がしい声が響き渡る。いつもの娘だ。
「大声で言わんでもええわ。何味にするんや」
「伝統の味でよろしく!この間頼んだんだけど、おいしかったからもう一回食べようと思って!」
「せやろ。ワシのおすすめやからな」
客を待たせる時用に備えてある簡易な丸椅子に慣れたように座り込むと、にこにことこちらの作業を見守り始めるこの娘は、数週間前は死にそうな顔をしていたのだ。
弟子入りしたたこ焼き屋のおやっさんが不運な事故で他界し、教わったことを継ぐと決めてどうにか営業していた頃のことだ。夜の営業を終えようと店じまいをしていたら、あ、と小さい声がした。
振り返ると、キャリーケースを引きずる娘が、残念そうに屋台を見つめている。
『なんや、たこ焼き食いたかったんか?』
『あ、えっと、はい。でももうお店閉める時間だったんですね。邪魔してごめんなさい』
『気にすなや。けど悪いなあ、今日の分の材料のうなってしもたんや』
『大丈夫です。失礼しました』
ガラガラと力なく引きずられていくキャリーケースの音が離れる前に、ちょい待ち、と声をかける。
『明日は休業の予定やったが、あんたの為に店開いたるからちゃんときいや』
『えっ?!いやそこまでしてもらうわけには?!だ、大丈夫です!それに、あの、私もう町出ますし!ほんと気にしないでください!』
『どうせ宛のない旅しとるんやろ。一日くらいたこ焼きに使っても損はないで』
『なっ?!え、な、なんでわか……?!』
分かるに決まっている。自分もそうだったからだ。
桐生に敗れ右腕を失い、近江連合からは破門をたたきつけられた挙句、恨みつらみで終われる始末。復讐する気もなければ、だんだんと返り討ちするのにも疲れてきていた時に、たこ焼き屋のおやっさんに出会った。行く宛がない自分を、おやっさんが拾ってくれて、今の自分がある。
この娘を見たとき、あの日の自分はきっとこんな顔をしていたのだろうと呆れたのだ。なんて、死にそうな顔なのかと。
『ワシのたこ焼きは美味いで。楽しみにしときや』
『……はい』
翌日、おそるおそるといった様子でやってきた娘にたこ焼きをふるまってやれば、目を輝かせて幸せそうに笑ったのでこちらも思わずふっと笑ってしまった。
「はー!やっぱり龍司くんの作るたこ焼きは格別だなー!」
「暇なら客引きでもしいや」
「私お金払ってる客なんだが?!って、そういえばさ、ずっと聞きそびれてたんだけど、そこの壁に飾ってある雑誌の裏表紙って何か意味があるの?」
屋台の中の右の壁に、額縁に入れた雑誌の裏表紙が飾ってある。意味はある、というかこれはただの切り抜きではない。
「よーく見てみい。サイン書いてあるやろ」
「えっ?……ほんとだ!!誰のサイン?んーと……」
「シナタツや。昔名古屋ワイバーンズって球団におったプロ野球選手のサイン飾ってんねん」
まだ右腕も健在だった頃、韓国人の面白い男を連れて日本横断をしていた頃の話だ。元々ファンだった自分は、名古屋で見かけたシナタツを追いかけて、まあ色々あった後にサインをもらうことができた。今の生活になる前に、宝物の一つとしてこれだけはどうにか持って出ることができたのは幸運だった。そういえば、あの時出会ったシナタツは腐りかけていたが、今はどうしているだろうか。
そんな昔話を思い出していたら、娘はサインとこちらを何度か往復して見てきた後大声で叫ばれる。
「はああ?!いやうそだー!!シナタツがこんなスケベな雑誌の裏にサインするわけないじゃん!!」
「なんや嬢ちゃん。シナタツ知っとるんか」
「もちのろんよ!私小学生の時からファンだもん!!あのサヨナラホームラン、すごかったよね!」
「おお、すごかったわ!ほんまええホームランやったで!」
「ねー!!」
しばらくシナタツの話題で盛り上がった後、いつか自分もサインもらいたいなあというので、名古屋で会ったことを教えてやった。名古屋は行ったことないな!と笑っていたので、旅先の候補になったかもしれない。
「それ食ったらどないするんや?どっか行くんか」
「そうだねえ。いい加減未練がましいかなって思ってたから、当分ここにも来ないかも。龍司くんのたこ焼きおいしいからちょっと残念だけどね」
「誰か探しとるんか?」
「……そう、かも」
探しているが、会うのが怖いといったところか。自分にも会いたい家族がいるが、風のうわさで海外へ行ってしまったと聞いた。会う機会は、もうないかもしれない。だが、こいつはまだチャンスがあるのではないだろうか。この辺りにいることを考えると、近いがここではない場所に探している奴がいるのだろう。なら、神室町かもしれない。
「神室町」
「ぐえっ」
「図星やな。うじうじしとらんと、会いたいときにあってきいや」
「でも、私のせいで……」
怪我をさせてしまった、と小さな声を拾った。罵られるのが怖いのだろうか。嫌われるのが怖いのだろうか。きっとどちらでもない。こいつは、それでもなお与えられるかもしれないやさしさが、きっと怖いのだ。
「なんちゅー名前の男や。ワシが直々に引っ張ってきたるから言え」
「えっ?!いややめてね?!急に怖いお兄さん来たら美人局だと思われるじゃん?!」
「人をそない雑魚扱いすなや。内臓の一つくらいとってきたるわ」
「こわあ?!もっと怖くなったよ?!ほんとやめてね?!」
きゃんきゃん騒ぐ娘を適当にあしらっていると、ふっと静かになる。作業を止めないまま顔を上げれば、どこか泣きそうな顔で笑っていた。
「龍司くんありがとね。んー!元気出た!よっし、次は名古屋行く!」
「何の礼かわからんけど、まあ元気になったならええ。名古屋やったら小倉トーストおすすめやで」
「うわあ美味そう!絶対食べる!……それじゃ、私行くね!」
「おお、またたこ焼き食べに来いや。ワシはここでずっと焼いとるからな」
「!……うん!」
「次来るときはその探しとる男もつれてくるんやで。お前にふさわしいかワシが見定めたるさかい」
「なななななんで男ってわかったの?!いや別にそういうんじゃないですしおすし!!」
わかりやすいんやお前は、と笑ってやれば、顔を真っ赤にした娘こと、なずなはひとしきり騒いだ後、とうとうこの町を去っていってしまった。あの騒がしさがなくなるの少しはさみしく思えたが、また会えるだろうと確信している。ひとりぼっちというのは、寂しいものなのだ。それに、あいつは人を引き寄せる体質だろう。今すぐではなくても、いつかそばにいてくれる奴が表れて、そして会いたい奴にも会いに行くことになる。あいつの幸福を願うやつらきっと、そう導いてくれるはずだ。自分にできることはそんな大それたことではなく、たこ焼きをふるまってやることくらいだが。
(あいつが連れてくる男、どんな奴やろうなあ。もしうさんくさい男やったらどっちもどついたるか)
「あれ、郷田さん。今日楽しそうですね?あ、たこ焼き三つもらえます?うちの秘書の子への手土産にするんで」
「……こないな奴やったらどつくなあ」
「何の話です?!」
最近常連になった神室町の金貸しの男を見ながら、どつくと思いながらもこいつとあの娘なら突っ込み気質同士わりと仲良くなるかもしれんあとも思った。
数年後、ようやくきたと思ったらこの金貸しを連れてきたものだから、とりあえず二人ともどついたのだが。
蹲る二人を見下ろしていたら、遅れて警察の男がやってきた。どうやら探していた男はこいつだったらしいが、まあええやろと言ったら「どついたの謝ってくれる?!」と突っ込み二人が騒いでいたのは少し面白かった。