snobbism(龍如)
DREAM
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私と四代目の話。
(2010年なずな24歳)
「昨日はね、ムードというのを考え込んでたらそのままテーブルで寝ちゃってね。起きたらベッドで谷村さんと寝てたよ。健全に。桐生さん、笑いたければ笑いなよ」
「笑いずれぇよ」
神室町滞在四日目。今日も今日とて谷村さんはお仕事で、他の面々も都合がつかず、暇なのは私と桐生さんだけだった。現在桐生さんは沖縄で養護施設を営んでおり、今は事件が収束してから一度沖縄に戻った後、一週間はこちらに滞在するとして神室町に来ているらしい。理由はおそらく私のためだ。私と谷村さんを会わせるために神室町で待っていてくれたのだ。
暇人二人で喫茶アルプスのモーニングを満喫し、これからどうするかと食後のコーヒーを味わっていた。
「桐生さんはいつ沖縄に帰る予定なの?」
「お前と谷村を会わせることもできたし、予定より早めに帰ろうかと思ってる。遥や子供達も心配だからな」
「アサガオの皆だよね!やっぱり、帰る場所があると安心するよね。私はいつ帰ろうかなぁ……元々飲み会終わったら帰るつもりで来たからなぁ」
「帰るってお前、谷村と離れるのか?」
なるほど。たしかにそうなるのか。
谷村さんは東京在住で、仕事も神室町勤務で、亜細亜街の人達の事をこれからも見守っていくのだろう。けど私は大阪に家があって、よし兄が待っている。いや、待ってないかもしれないけど、それでも私とって唯一の帰る場所は、やはりよし兄と暮らすあの家だ。
「……遠距離恋愛……というやつになる……のかな……」
「まあ、そうなるのか。今は兄と住んでるとか言ってたな」
「そうそう!神室町に来れたのも、斎藤になってからできた兄さんが後押ししてくれたんだよ」
いい加減はっきりさせてこい、と背中を押してくれたよし兄。ちゃんと報告して、ありがとうって言わないとな。
とはいえ。
「やっぱり谷村さんと離れるのは寂しいなあああ!」
「……後々一緒に住む、とかの選択肢はねえのか?」
「……いいのかな。それはちょっと、贅沢すぎるのでは……あたっ!!」
「お前の兄貴は、自由に生きてほしいって言ってたぜ」
桐生さんから軽めのデコピンをされて、そう言われた。顔を上げると、四年前の話をしてくれる。
「お前が気を失った後、ほんの少しだが話をしたんだ。自分の我儘で、お前の人生を変える事を悔やんでいた。それでも、あいつはお前に自由に生きてほしかったんだ。だから、もっと好きに生きてもいいんじゃねえか?」
「……でも、兄貴は……」
「あいつは誰かに強制されて、今の生き方を選んだわけじゃない。自分の意思で、たった一人の家族を守る道を選んだんだ。それを可哀想と言うのは、少し違うと思うぜ、俺は」
「……そっか。兄貴、意外とシスコンなとこあったしね」
「本人にも自覚はあったみたいだぞ」
へへっと、兄貴と共に暮らしていた日々を思い出して笑った。今も過保護なところがあるし、私が思うより悲しい生き方ではないのかもしれない。まだ、割り切るのは難しいけど、たしかに私もネガティブすぎるところがある。少しずつ、変わっていこう。兄貴が安心できるくらい、自由に生きていこう。
「よし!谷村さんとの未来の話、もう少し前向きに考えてくぞお!」
「フ……お前はそうやって笑ってる方がいいな」
「やだ……いきなり口説いてくるやん、桐生ちゃん……」
「なんでお前は兄さんのモノマネを挟んでくるんだ」
私が前向きになるのはさておき、今日は何をしようか。四年前は観光なんて全く出来なかったから、できれば神室町を堪能したいと思っているが、おすすめスポットとかあるのだろうか。
「神室町って観光するならどこ行くの?」
「観光か……ミレニアムタワーだろうか。神室町ヒルズはまだ完成してないが、見学に行くか?」
「神室町ヒルズ行ってみたい!真島さんが建てたんだよね?!」
「ああ、建設途中に悪徳不動産に妨害されて、俺が現場監督として指示を出して兄さん達が戦ったりと、色々あったが何とか完成しそうで良かったぜ」
「なんでビルの建設中にバトルが発生してんの??」
喫茶アルプスを出て真島さんにお願いして特別に入らせてもらった神室町ヒルズを堪能した後、桐生さんが馴染みのところに顔を出したいと言うのでついていくと、なんとそこはホストクラブでした。
中に入ると、イケメンが「桐生さん」とフレンドリーに駆け寄ってきた。
「よお、一輝。ユウヤは元気にやってるか?」
「ええ。店長らしく日々頑張ってますよ。桐生さんはいつまでこちらに?」
「ああ、もうすぐ神室町を出る予定だ。その前にお前達の顔を見たいと思ってな」
「ありがとうございます、桐生さん。ユウヤを呼んでくるので、良かったらゆっくりしていってください。そちらの彼女もぜひ」
「ほわぁあ?!お、お邪魔しまーす?!」
ニコッとキラキラ光る笑顔を向けられ、眩しさに目が眩む。これがファンサービス。ホストってすごい。イケメンってすごい。そんな私の様子を見て桐生さんが少し笑っていた。
「ホストクラブは初めてか?」
「初めてだよー!いや一度は来てみたかったけど、敷居が高くて……桐生さんの人脈どうなってんの……」
「フ、ならせっかくだ。少し楽しんでも良いんじゃねえか?(谷村だって理由はあれどキャバクラを楽しんでたわけだし)」
「??そうだよね、せっかくだし楽しもうかな!えっと、お酒は控えめにしたいから軽めのを一杯頼んじゃおう」
「なら俺も同じのを頼もう」
「桐生さん!来てたんすね!」
メニューを見ながらお酒を選んでいたら、先ほどのイケメンホストとはまた違うタイプのホストがテーブルまでやってきた。おお、弟タイプのやんちゃ系イケメンだ。
「忙しいのに悪いな、ユウヤ。帰る前にお前達の顔が見たくてな」
「もう帰っちまうんですね……寂しくなります。また神室町来たら顔出してくださいよ!」
「わかってる。そうだ。こいつ、俺のダチなんだが、ホストクラブは初めてらしいから、楽しませてやってくれねえか?」
「はい!私斎藤なずなと申します!桐生さんにはめちゃくちゃお世話になりまして!今日はよろしくお願いします!」
「……桐生さん。こんな若い子、いつひっかけたんですか」
「こいつはそんなんじゃねえよ」
結論から言えば、ホストクラブは凄かった。一輝さんもユウヤさんも、他にも数人が私達の所で接客してくれたが、もうイケメンの輝きと聞き上手話し上手、気遣い完璧な対応をされ、危うくシャンパンタワーをさせるところだった。桐生さんが「落ち着け」と財布を押さえてくれなかったらやばかった。
「楽しかったー!!めちゃくちゃ満喫したー!!」
「なら良かったぜ。この後谷村と合流するんだよな?」
「そう!でも、仕事忙しそうなんだよね……今は捜査一課にいるって言ってたし、やっぱり大変なんだろうなぁ……いやそれにしても捜査一課刑事の谷村正義、もう名前だけでもカッコ良すぎるな」
肩書きまでカッコいいとか、最強なのでは。
ちなみに今は以前ポケサースタジアムのあった建物の隣の児童公園で、暇人二人で雑談をしている最中である。時刻は夕方、谷村さんが定時で仕事を終えるならもうそろそろ終業の時間だ。
へへ、と笑っていたら、桐生さんもつられるように笑っていた。
「お前は本当に谷村に惚れてんだな」
「もちのろんよ!……でもまあ、ちょっと、思うところはあるんだよね……」
「ん?何をだ?」
「谷村さんのこと、私が好きでいてもいいのかとか……へへ、やっぱりネガティヴ思考は止めらんないんだよねぇ」
たった一日、一緒にいただけ。助けてもらって、一日遊び回って、楽しかったなぁって瞬間に邪魔が入って、私のせいで傷つく谷村さんを見て、それが最後だった。そこから生まれた思いが吊り橋効果でないのなら、なんだというのか。それは私だけでなく、谷村さんにも言える事だ。あの日救えなかったからずっと覚えててもらえたんだと、この数日何度も思い返した。あの日、綺麗に別れていたらきっと、谷村さんは私の事を好きとは言ってくれなかったはずだ。
だから、これは少し、ずるいよなあ、なんて。
「いいに決まってるだろ。なずな、恋ってのは、いつも綺麗なわけじゃねえんだ」
いつの間にか俯いてしまった顔を上げる。桐生さんはどこか穏やかな顔をしていて、それでいて寂しげにも見えた。
「お前が昔会った錦も、そういう恋をした。あいつは間違った叶え方を選んじまったが、本気の想いだったのは確かだ。俺もそうだ。愛した女がいたが、伝えるのが遅すぎた」
「……桐生さん」
「お前にはそうなってほしくねえんだ。どんな恋に落ちたとしても、伝えられないままでいてほしくなかった。想い合えたなら、幸せになってほしいんだ。……なんか、語っちまったな」
「……ああー!私ほんとダメだなぁ!!」
「うおっ、なんだ?」
上げた顔をまた下ろして、少し凹む。桐生さんに気を遣わせた挙句、きっとつらい過去を思い出させてしまった。しかもそれを言葉にさせてしまった。
けど、もうここまで後押しされたら、さすがの私も立ち直らないといけない。いつまでもうじうじしていたら、再会させてくれた桐生さんにも、待っていてくれた谷村さんにも、それから神室町に来る勇気をくれたよし兄にも顔向けできない。もちろん、自由に生きてほしいと願ってくれた兄貴にだって。
もう一度、顔を上げる。今度は泣いていない。
「桐生さん、私ちゃんと言えてなかったから言うね。四年前も、今も、助けてくれてありがとう」
「フ……好きでやったことだ」
「へへ!いつか桐生さんが困ったら言ってね!私すぐに助けに行くからさ!」
「困ったらな」
二人で公園を出ると、劇場前通りの方から谷村さんと伊達さんが並んで歩いてくるのが見えた。今日もバディとして働いていたようだ。この後桐生さんは伊達さんとニューセレナに行くと言うので、ママさんによろしく伝えてもらおう。そういえば、と歩いてくる二人を見ながら桐生さんに内緒話しをする。
「あのね、さっきまで谷村さんのこと好きでいいのかとかそもそもフラれるためにこの街に来たって言ってたけどね、私、谷村さんに会えたその日、ほんっとーに内緒の話なんだけどね?!」
「おう」
「谷村さんの手、というか薬指をめちゃくちゃ確認したの。結婚指輪してたらどうしようって!」
「……フフ、フ……っ、お前、ベタ惚れだろ、それは……っ、よくそれで諦めようと……フフっ」
「内緒だからね?!あと笑いすぎでは?!」
谷村さんと伊達さんが私達に気付いて合流した後も、しばらく桐生さんは笑いを堪えて可笑しな顔をしていたので、その写真を撮って真島さんに送っておいた。「おもろい。もっと欲しい」と秒で返信が来たのは少し怖かったが。
(2010年なずな24歳)
「昨日はね、ムードというのを考え込んでたらそのままテーブルで寝ちゃってね。起きたらベッドで谷村さんと寝てたよ。健全に。桐生さん、笑いたければ笑いなよ」
「笑いずれぇよ」
神室町滞在四日目。今日も今日とて谷村さんはお仕事で、他の面々も都合がつかず、暇なのは私と桐生さんだけだった。現在桐生さんは沖縄で養護施設を営んでおり、今は事件が収束してから一度沖縄に戻った後、一週間はこちらに滞在するとして神室町に来ているらしい。理由はおそらく私のためだ。私と谷村さんを会わせるために神室町で待っていてくれたのだ。
暇人二人で喫茶アルプスのモーニングを満喫し、これからどうするかと食後のコーヒーを味わっていた。
「桐生さんはいつ沖縄に帰る予定なの?」
「お前と谷村を会わせることもできたし、予定より早めに帰ろうかと思ってる。遥や子供達も心配だからな」
「アサガオの皆だよね!やっぱり、帰る場所があると安心するよね。私はいつ帰ろうかなぁ……元々飲み会終わったら帰るつもりで来たからなぁ」
「帰るってお前、谷村と離れるのか?」
なるほど。たしかにそうなるのか。
谷村さんは東京在住で、仕事も神室町勤務で、亜細亜街の人達の事をこれからも見守っていくのだろう。けど私は大阪に家があって、よし兄が待っている。いや、待ってないかもしれないけど、それでも私とって唯一の帰る場所は、やはりよし兄と暮らすあの家だ。
「……遠距離恋愛……というやつになる……のかな……」
「まあ、そうなるのか。今は兄と住んでるとか言ってたな」
「そうそう!神室町に来れたのも、斎藤になってからできた兄さんが後押ししてくれたんだよ」
いい加減はっきりさせてこい、と背中を押してくれたよし兄。ちゃんと報告して、ありがとうって言わないとな。
とはいえ。
「やっぱり谷村さんと離れるのは寂しいなあああ!」
「……後々一緒に住む、とかの選択肢はねえのか?」
「……いいのかな。それはちょっと、贅沢すぎるのでは……あたっ!!」
「お前の兄貴は、自由に生きてほしいって言ってたぜ」
桐生さんから軽めのデコピンをされて、そう言われた。顔を上げると、四年前の話をしてくれる。
「お前が気を失った後、ほんの少しだが話をしたんだ。自分の我儘で、お前の人生を変える事を悔やんでいた。それでも、あいつはお前に自由に生きてほしかったんだ。だから、もっと好きに生きてもいいんじゃねえか?」
「……でも、兄貴は……」
「あいつは誰かに強制されて、今の生き方を選んだわけじゃない。自分の意思で、たった一人の家族を守る道を選んだんだ。それを可哀想と言うのは、少し違うと思うぜ、俺は」
「……そっか。兄貴、意外とシスコンなとこあったしね」
「本人にも自覚はあったみたいだぞ」
へへっと、兄貴と共に暮らしていた日々を思い出して笑った。今も過保護なところがあるし、私が思うより悲しい生き方ではないのかもしれない。まだ、割り切るのは難しいけど、たしかに私もネガティブすぎるところがある。少しずつ、変わっていこう。兄貴が安心できるくらい、自由に生きていこう。
「よし!谷村さんとの未来の話、もう少し前向きに考えてくぞお!」
「フ……お前はそうやって笑ってる方がいいな」
「やだ……いきなり口説いてくるやん、桐生ちゃん……」
「なんでお前は兄さんのモノマネを挟んでくるんだ」
私が前向きになるのはさておき、今日は何をしようか。四年前は観光なんて全く出来なかったから、できれば神室町を堪能したいと思っているが、おすすめスポットとかあるのだろうか。
「神室町って観光するならどこ行くの?」
「観光か……ミレニアムタワーだろうか。神室町ヒルズはまだ完成してないが、見学に行くか?」
「神室町ヒルズ行ってみたい!真島さんが建てたんだよね?!」
「ああ、建設途中に悪徳不動産に妨害されて、俺が現場監督として指示を出して兄さん達が戦ったりと、色々あったが何とか完成しそうで良かったぜ」
「なんでビルの建設中にバトルが発生してんの??」
喫茶アルプスを出て真島さんにお願いして特別に入らせてもらった神室町ヒルズを堪能した後、桐生さんが馴染みのところに顔を出したいと言うのでついていくと、なんとそこはホストクラブでした。
中に入ると、イケメンが「桐生さん」とフレンドリーに駆け寄ってきた。
「よお、一輝。ユウヤは元気にやってるか?」
「ええ。店長らしく日々頑張ってますよ。桐生さんはいつまでこちらに?」
「ああ、もうすぐ神室町を出る予定だ。その前にお前達の顔を見たいと思ってな」
「ありがとうございます、桐生さん。ユウヤを呼んでくるので、良かったらゆっくりしていってください。そちらの彼女もぜひ」
「ほわぁあ?!お、お邪魔しまーす?!」
ニコッとキラキラ光る笑顔を向けられ、眩しさに目が眩む。これがファンサービス。ホストってすごい。イケメンってすごい。そんな私の様子を見て桐生さんが少し笑っていた。
「ホストクラブは初めてか?」
「初めてだよー!いや一度は来てみたかったけど、敷居が高くて……桐生さんの人脈どうなってんの……」
「フ、ならせっかくだ。少し楽しんでも良いんじゃねえか?(谷村だって理由はあれどキャバクラを楽しんでたわけだし)」
「??そうだよね、せっかくだし楽しもうかな!えっと、お酒は控えめにしたいから軽めのを一杯頼んじゃおう」
「なら俺も同じのを頼もう」
「桐生さん!来てたんすね!」
メニューを見ながらお酒を選んでいたら、先ほどのイケメンホストとはまた違うタイプのホストがテーブルまでやってきた。おお、弟タイプのやんちゃ系イケメンだ。
「忙しいのに悪いな、ユウヤ。帰る前にお前達の顔が見たくてな」
「もう帰っちまうんですね……寂しくなります。また神室町来たら顔出してくださいよ!」
「わかってる。そうだ。こいつ、俺のダチなんだが、ホストクラブは初めてらしいから、楽しませてやってくれねえか?」
「はい!私斎藤なずなと申します!桐生さんにはめちゃくちゃお世話になりまして!今日はよろしくお願いします!」
「……桐生さん。こんな若い子、いつひっかけたんですか」
「こいつはそんなんじゃねえよ」
結論から言えば、ホストクラブは凄かった。一輝さんもユウヤさんも、他にも数人が私達の所で接客してくれたが、もうイケメンの輝きと聞き上手話し上手、気遣い完璧な対応をされ、危うくシャンパンタワーをさせるところだった。桐生さんが「落ち着け」と財布を押さえてくれなかったらやばかった。
「楽しかったー!!めちゃくちゃ満喫したー!!」
「なら良かったぜ。この後谷村と合流するんだよな?」
「そう!でも、仕事忙しそうなんだよね……今は捜査一課にいるって言ってたし、やっぱり大変なんだろうなぁ……いやそれにしても捜査一課刑事の谷村正義、もう名前だけでもカッコ良すぎるな」
肩書きまでカッコいいとか、最強なのでは。
ちなみに今は以前ポケサースタジアムのあった建物の隣の児童公園で、暇人二人で雑談をしている最中である。時刻は夕方、谷村さんが定時で仕事を終えるならもうそろそろ終業の時間だ。
へへ、と笑っていたら、桐生さんもつられるように笑っていた。
「お前は本当に谷村に惚れてんだな」
「もちのろんよ!……でもまあ、ちょっと、思うところはあるんだよね……」
「ん?何をだ?」
「谷村さんのこと、私が好きでいてもいいのかとか……へへ、やっぱりネガティヴ思考は止めらんないんだよねぇ」
たった一日、一緒にいただけ。助けてもらって、一日遊び回って、楽しかったなぁって瞬間に邪魔が入って、私のせいで傷つく谷村さんを見て、それが最後だった。そこから生まれた思いが吊り橋効果でないのなら、なんだというのか。それは私だけでなく、谷村さんにも言える事だ。あの日救えなかったからずっと覚えててもらえたんだと、この数日何度も思い返した。あの日、綺麗に別れていたらきっと、谷村さんは私の事を好きとは言ってくれなかったはずだ。
だから、これは少し、ずるいよなあ、なんて。
「いいに決まってるだろ。なずな、恋ってのは、いつも綺麗なわけじゃねえんだ」
いつの間にか俯いてしまった顔を上げる。桐生さんはどこか穏やかな顔をしていて、それでいて寂しげにも見えた。
「お前が昔会った錦も、そういう恋をした。あいつは間違った叶え方を選んじまったが、本気の想いだったのは確かだ。俺もそうだ。愛した女がいたが、伝えるのが遅すぎた」
「……桐生さん」
「お前にはそうなってほしくねえんだ。どんな恋に落ちたとしても、伝えられないままでいてほしくなかった。想い合えたなら、幸せになってほしいんだ。……なんか、語っちまったな」
「……ああー!私ほんとダメだなぁ!!」
「うおっ、なんだ?」
上げた顔をまた下ろして、少し凹む。桐生さんに気を遣わせた挙句、きっとつらい過去を思い出させてしまった。しかもそれを言葉にさせてしまった。
けど、もうここまで後押しされたら、さすがの私も立ち直らないといけない。いつまでもうじうじしていたら、再会させてくれた桐生さんにも、待っていてくれた谷村さんにも、それから神室町に来る勇気をくれたよし兄にも顔向けできない。もちろん、自由に生きてほしいと願ってくれた兄貴にだって。
もう一度、顔を上げる。今度は泣いていない。
「桐生さん、私ちゃんと言えてなかったから言うね。四年前も、今も、助けてくれてありがとう」
「フ……好きでやったことだ」
「へへ!いつか桐生さんが困ったら言ってね!私すぐに助けに行くからさ!」
「困ったらな」
二人で公園を出ると、劇場前通りの方から谷村さんと伊達さんが並んで歩いてくるのが見えた。今日もバディとして働いていたようだ。この後桐生さんは伊達さんとニューセレナに行くと言うので、ママさんによろしく伝えてもらおう。そういえば、と歩いてくる二人を見ながら桐生さんに内緒話しをする。
「あのね、さっきまで谷村さんのこと好きでいいのかとかそもそもフラれるためにこの街に来たって言ってたけどね、私、谷村さんに会えたその日、ほんっとーに内緒の話なんだけどね?!」
「おう」
「谷村さんの手、というか薬指をめちゃくちゃ確認したの。結婚指輪してたらどうしようって!」
「……フフ、フ……っ、お前、ベタ惚れだろ、それは……っ、よくそれで諦めようと……フフっ」
「内緒だからね?!あと笑いすぎでは?!」
谷村さんと伊達さんが私達に気付いて合流した後も、しばらく桐生さんは笑いを堪えて可笑しな顔をしていたので、その写真を撮って真島さんに送っておいた。「おもろい。もっと欲しい」と秒で返信が来たのは少し怖かったが。