snobbism(龍如)
DREAM
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続金貸しと。
(2010年なずな24歳)
きっかり1時間後、きりこちゃんはお客さんに惜しまれながらフロアを後にした。
桐生さんと谷村さんも時間いっぱいテーブルで飲んでくれて、なずなちゃんもナナミちゃんも楽しそうに接客していた。桐生さんが終始ビクビクしていたのは、少し面白かったが、逆に谷村さんのあの憮然とした態度はどうなっているのか。もしかして修羅場一歩手前になってることに気がついていないのか。
店を出る前に、ナナミちゃんがお見送りをしたが、改めて見るとこの場面、なずなちゃんに見られなくて良かったかもしれない。谷村さんに擦り寄りながら「大好き」と言うナナミちゃんの姿は以前も見覚えがあったが、今はよろしくない。俺の胃が痛い。しかし強メンタルの谷村さんはそれに一言「ああ」と頷くだけなので、本当に気付いてない可能性が浮上してきた。
「それじゃ、俺と谷村はミレニアムタワー前で待ってるぞ」
「ええ、俺もなずなちゃんの化粧直しが終わったら一緒に合流します。あ、夕飯食べに行くお店調べておいても良いですよ」
「わかった」
それじゃ、と桐生さんと谷村さんは店を出て、残された俺はすぐ後ろにナナミちゃんがいることに気がつかず、振り返って少し飛び上がって驚いてしまった。
「秋山さん」
「うん?!ど、どうしたの、ナナミちゃん」
「……谷村さん、きっともうここには来ないですよね」
「え?」
「男に去られる私が初めて追いかけたんですけど、ダメでした。……けど、私ここ、満足いくまではやめませんから!」
女の勘、というやつだろうか。今日久しぶりに会った谷村さんに、何か感じたのかもしれない。前向きになろうとする彼女に、俺は「そう言ってもらえると嬉しいよ。一緒に頑張ろうね」とエールを送った。ナナミちゃんに、素敵な人が見つかりますようにと祈りを込めて。
「なずなちゃーん、着替え終わった?」
「あっはい!終わりました!今ちょっと荷物整理してるんで、入って大丈夫です!」
ナナミちゃんが他の客のテーブルへ接客に向かうのを見届けてから、スタッフルームへ戻った俺は女の子達の控え室のドアをノックした。元気な声が返ってきて、了承を得たので中に入ると少し大きめの紙袋の中身をガサガサしているなずなちゃんがいた。
「どうしたの?何か無くした?」
「いやー、それがですね。さっきお客さんからプレゼント沢山貰っちゃって、紙袋にまとめてたんですよ。すごく高そうな鞄とか、香水とか……でも私、こういうのまだ少し怖いから、どうしようかなって」
そうだ、怖いに決まってる。
知らない人から贈られるものは、きっと彼女には過去の自分を思い出す恐怖の対象でしかないだろう。手放したいけど、心優しい故に捨てる事も売る事も頭にない彼女は紙袋に詰まった好意に悩んでいる。
「それじゃ、ここに置いていっていいよ。こっちで女の子達に適当にあげちゃうからさ」
「えっ?!でも、いいんですかね……」
「難しく考えなくて良いんだよ。君はちゃんと好意に感謝してるし、それを相手に伝えていた。それでお返しは終わってるんだから、ね」
ポンポン、と頭を撫でてあげると、安堵した笑みが返ってきてこちらも胸を撫で下ろす。それから、封筒を彼女に渡してあげると、キョトンとされてしまったので「融資だよ」と教えてあげた。
「テストは合格。というわけで、融資という名のバイト代です」
「!!やったあ!!ありがとうございます!!今日は私が奢りますね!!」
「自分の為に使いなって。あ、そういえばさ、今日エリーゼで働いてどうだった?」
「楽しかったです!!色んな話も聞けましたし、あと!谷村さんの話も沢山聞けました!!」
ぐう!!と、また俺の胃にダメージが入る。
いや、彼女が楽しんだのなら良いのだけど、これが強がりの可能性も捨て切れない。本当にそうなのか、と顔を見ると、たしかに嬉しそうな顔をしている。
「やっぱり谷村さんはすごいなぁって思いました。沢山の人を助けてて、感謝されて……いやもう!そりゃ好きになりますよ!!イケメンで強くて優しいなんて、好きにならないはずないですよね?!」
お、おお……そんな感じに受け取ったのか。とりあえず、強がってるんじゃないようで良かった。本当に良かった。
なずなちゃんは大きめの鞄を肩から下げて、準備オッケーです!と笑ったので、お客さんの視線を避けながらお店を出る。ミレニアムタワーはすぐそこで、公衆電話の近くの喫煙所でタバコを吸ってる桐生さんと谷村さんが見えた。
「そういえば、谷村さんがお店来た時顔赤かったけど、何か胸キュンポイントがあったりしたの?」
ふと訊ねてみたら、猫が飛び跳ねて驚いた時みたいな反応をして顔を真っ赤にしたなずなちゃん。
「ほあ?!あっ、いやその、えっ?!なんでわかったんです?!」
「お、やっぱりそうなんだ。教えて教えて」
「た、谷村さんには内緒ですよ?!……ナナミさんや他のお店の人が谷村さんに告白したけど同じ返事はもらえなかったって聞いて、その、昨日屋上で好きって言ってもらった事思い出しちゃって……なんか、あの、谷村さん、本当に私の事好きなのかなって、少し実感して……わー!でもなんかマウントっぽくて最低ですよね?!うわー!!私ってやな女だー!!」
真っ赤にした顔で頭を抱えるなずなちゃん。彼女との付き合いは昨日からでとても短いけれど、自己肯定感の低さはなんとなく理解していた。だからこそ、今こうやって少しでも肯定する気持ちが聞けたことをすごく嬉しく思うのだ。
「大丈夫大丈夫!恋人なんだからマウントくらい取っていこうよ!」
「えええー?!」
「これからはなずなちゃんしか知らない谷村さんが増えていくんだからさ」
さっきもしたように頭をポンポンしてあげたら、茹蛸状態のなずなちゃんはへにゃりとまた違う笑顔を見せてくれた。幸せそうな顔だ。この笑顔を見られたなら、俺と桐生さんの胃へのダメージもくらった甲斐があったというものだ。
喫煙所へ着くなり谷村さんに「さっき彼氏面してなかったですか?」と凄まれたのは解せないが。
夕飯は桐生さんの提案で喫茶アルプスへ行くことになり、全員でビーフカレーを食べることになった。その後桐生さんとなずなちゃんがデザートにパフェを頼んでいたのは何だか可愛かったので、写真を撮って真島さんに送っておいた。『いくらほしい?』と返ってきたのは怖かったが、喜んでもらえてよかった。
ちなみになずなちゃんにホテルの時間は大丈夫か尋ねると、途端に青白い顔になったので警察モードになった谷村さんが問い詰めれば『フラれてとんぼ帰りする予定だったから予約とってない』と半泣きで白状した。
仕方ないから、と谷村さんが自分の家に泊めると言ったのには驚いた。なずなちゃんは助かる!と目をキラキラさせて喜んでいたが、男が女を泊める行為に桐生さんと二人でニマァと笑ったら、谷村さんから「ここおススメですよ。ヒリヒリする体験が出来ますから」とどこかの地図が記された小さな紙を渡された。瞬時に脳内に過ぎる『実弾入りロシアンルーレット』という言葉。精神的にじわじわ追い詰めてこようとするのやめてください、谷村さん。
(2010年なずな24歳)
きっかり1時間後、きりこちゃんはお客さんに惜しまれながらフロアを後にした。
桐生さんと谷村さんも時間いっぱいテーブルで飲んでくれて、なずなちゃんもナナミちゃんも楽しそうに接客していた。桐生さんが終始ビクビクしていたのは、少し面白かったが、逆に谷村さんのあの憮然とした態度はどうなっているのか。もしかして修羅場一歩手前になってることに気がついていないのか。
店を出る前に、ナナミちゃんがお見送りをしたが、改めて見るとこの場面、なずなちゃんに見られなくて良かったかもしれない。谷村さんに擦り寄りながら「大好き」と言うナナミちゃんの姿は以前も見覚えがあったが、今はよろしくない。俺の胃が痛い。しかし強メンタルの谷村さんはそれに一言「ああ」と頷くだけなので、本当に気付いてない可能性が浮上してきた。
「それじゃ、俺と谷村はミレニアムタワー前で待ってるぞ」
「ええ、俺もなずなちゃんの化粧直しが終わったら一緒に合流します。あ、夕飯食べに行くお店調べておいても良いですよ」
「わかった」
それじゃ、と桐生さんと谷村さんは店を出て、残された俺はすぐ後ろにナナミちゃんがいることに気がつかず、振り返って少し飛び上がって驚いてしまった。
「秋山さん」
「うん?!ど、どうしたの、ナナミちゃん」
「……谷村さん、きっともうここには来ないですよね」
「え?」
「男に去られる私が初めて追いかけたんですけど、ダメでした。……けど、私ここ、満足いくまではやめませんから!」
女の勘、というやつだろうか。今日久しぶりに会った谷村さんに、何か感じたのかもしれない。前向きになろうとする彼女に、俺は「そう言ってもらえると嬉しいよ。一緒に頑張ろうね」とエールを送った。ナナミちゃんに、素敵な人が見つかりますようにと祈りを込めて。
「なずなちゃーん、着替え終わった?」
「あっはい!終わりました!今ちょっと荷物整理してるんで、入って大丈夫です!」
ナナミちゃんが他の客のテーブルへ接客に向かうのを見届けてから、スタッフルームへ戻った俺は女の子達の控え室のドアをノックした。元気な声が返ってきて、了承を得たので中に入ると少し大きめの紙袋の中身をガサガサしているなずなちゃんがいた。
「どうしたの?何か無くした?」
「いやー、それがですね。さっきお客さんからプレゼント沢山貰っちゃって、紙袋にまとめてたんですよ。すごく高そうな鞄とか、香水とか……でも私、こういうのまだ少し怖いから、どうしようかなって」
そうだ、怖いに決まってる。
知らない人から贈られるものは、きっと彼女には過去の自分を思い出す恐怖の対象でしかないだろう。手放したいけど、心優しい故に捨てる事も売る事も頭にない彼女は紙袋に詰まった好意に悩んでいる。
「それじゃ、ここに置いていっていいよ。こっちで女の子達に適当にあげちゃうからさ」
「えっ?!でも、いいんですかね……」
「難しく考えなくて良いんだよ。君はちゃんと好意に感謝してるし、それを相手に伝えていた。それでお返しは終わってるんだから、ね」
ポンポン、と頭を撫でてあげると、安堵した笑みが返ってきてこちらも胸を撫で下ろす。それから、封筒を彼女に渡してあげると、キョトンとされてしまったので「融資だよ」と教えてあげた。
「テストは合格。というわけで、融資という名のバイト代です」
「!!やったあ!!ありがとうございます!!今日は私が奢りますね!!」
「自分の為に使いなって。あ、そういえばさ、今日エリーゼで働いてどうだった?」
「楽しかったです!!色んな話も聞けましたし、あと!谷村さんの話も沢山聞けました!!」
ぐう!!と、また俺の胃にダメージが入る。
いや、彼女が楽しんだのなら良いのだけど、これが強がりの可能性も捨て切れない。本当にそうなのか、と顔を見ると、たしかに嬉しそうな顔をしている。
「やっぱり谷村さんはすごいなぁって思いました。沢山の人を助けてて、感謝されて……いやもう!そりゃ好きになりますよ!!イケメンで強くて優しいなんて、好きにならないはずないですよね?!」
お、おお……そんな感じに受け取ったのか。とりあえず、強がってるんじゃないようで良かった。本当に良かった。
なずなちゃんは大きめの鞄を肩から下げて、準備オッケーです!と笑ったので、お客さんの視線を避けながらお店を出る。ミレニアムタワーはすぐそこで、公衆電話の近くの喫煙所でタバコを吸ってる桐生さんと谷村さんが見えた。
「そういえば、谷村さんがお店来た時顔赤かったけど、何か胸キュンポイントがあったりしたの?」
ふと訊ねてみたら、猫が飛び跳ねて驚いた時みたいな反応をして顔を真っ赤にしたなずなちゃん。
「ほあ?!あっ、いやその、えっ?!なんでわかったんです?!」
「お、やっぱりそうなんだ。教えて教えて」
「た、谷村さんには内緒ですよ?!……ナナミさんや他のお店の人が谷村さんに告白したけど同じ返事はもらえなかったって聞いて、その、昨日屋上で好きって言ってもらった事思い出しちゃって……なんか、あの、谷村さん、本当に私の事好きなのかなって、少し実感して……わー!でもなんかマウントっぽくて最低ですよね?!うわー!!私ってやな女だー!!」
真っ赤にした顔で頭を抱えるなずなちゃん。彼女との付き合いは昨日からでとても短いけれど、自己肯定感の低さはなんとなく理解していた。だからこそ、今こうやって少しでも肯定する気持ちが聞けたことをすごく嬉しく思うのだ。
「大丈夫大丈夫!恋人なんだからマウントくらい取っていこうよ!」
「えええー?!」
「これからはなずなちゃんしか知らない谷村さんが増えていくんだからさ」
さっきもしたように頭をポンポンしてあげたら、茹蛸状態のなずなちゃんはへにゃりとまた違う笑顔を見せてくれた。幸せそうな顔だ。この笑顔を見られたなら、俺と桐生さんの胃へのダメージもくらった甲斐があったというものだ。
喫煙所へ着くなり谷村さんに「さっき彼氏面してなかったですか?」と凄まれたのは解せないが。
夕飯は桐生さんの提案で喫茶アルプスへ行くことになり、全員でビーフカレーを食べることになった。その後桐生さんとなずなちゃんがデザートにパフェを頼んでいたのは何だか可愛かったので、写真を撮って真島さんに送っておいた。『いくらほしい?』と返ってきたのは怖かったが、喜んでもらえてよかった。
ちなみになずなちゃんにホテルの時間は大丈夫か尋ねると、途端に青白い顔になったので警察モードになった谷村さんが問い詰めれば『フラれてとんぼ帰りする予定だったから予約とってない』と半泣きで白状した。
仕方ないから、と谷村さんが自分の家に泊めると言ったのには驚いた。なずなちゃんは助かる!と目をキラキラさせて喜んでいたが、男が女を泊める行為に桐生さんと二人でニマァと笑ったら、谷村さんから「ここおススメですよ。ヒリヒリする体験が出来ますから」とどこかの地図が記された小さな紙を渡された。瞬時に脳内に過ぎる『実弾入りロシアンルーレット』という言葉。精神的にじわじわ追い詰めてこようとするのやめてください、谷村さん。