snobbism(龍如)
DREAM
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お巡りさんと。
(2006年優姫19歳)
「おい谷村ぁ……てめぇまた一課の仕事に首突っ込みやがったな」
思わず「げ」と嫌そうな声が出てしまった。実際嫌なのだけど、表面上は良い顔をしておくのが正解だろう。
「お疲れ様です、杉内さん」
「今更へらへらしたっておせーんだよ。あからさまに嫌なツラしてげって言っただろーが」
「そんなそんな。ところで一課の仕事ってなんのことです?」
「とぼけてんじゃねぇよ。中道通り裏の殺しの件、勝手に捜査して犯人捕まえたろ。てめぇは生活安全課なんだからそっちやってろ」
次はねぇぞといつものセリフを吐いて、杉内さんはそのままトイレから出て行った。たしかに犯人は捕まえたが、あれは成り行きでもあったのだ。亜細亜街の住人が関わっていたから、なるべく彼らに矛先が向かわないよう動いた結果が犯人逮捕に繋がったわけで。むしろ褒められるべきなのだが、まあ日頃の行いでもあるから仕方ない。
「はぁ、たまにはちゃんと仕事してみるかな」
ちゃんとする、というのが面倒だけど、人のために何かするということは実のところ嫌いじゃない。街のお巡りさん、なんていうものに憧れもあるし、今もなりたいものでもある。こんな話酒が入ってないとできないから誰にも話したことはないけれど。
「谷村さーん!ごめん、電話出てー!」
課に戻ると、手が離せないらしい同僚が鳴り響く電話の対応を求めてきたので、了承の意を示すように手を振ってから電話を取った。市民からの通報だ。焦るような声は大人の男性のようで、どうやら高校生らしい女の子が時計の針が9時を回ろうとしているこんなに遅い時間に人探しをしているらしい。しかもそのあと極道らしき男達に連れていかれそうになっていたとのこと。ここに電話をかけたのは、自分の彼女の勤務先としてここを登録していたから、まずは彼女に相談しようかと思ったから、だとか。彼女とはおそらく、今別件で手が離せないから俺に電話対応を任せてきた同僚のことだろう。緊急のようだし、急いで出ることにしよう。
「すみません、少し外に出てきます」
「えっ谷村さーん?!昨日の書類溜まってますよー?!」
君の彼氏の通報だよ、とはあえて言わないで、俺はさっさと街へ繰り出すことにした。書類仕事はまた今度だ。
「大人しく書類仕事やっておけばよかった!!!」
一課の奴にでも任せればよかった!と付け加えたら俺に手を引かれて共に逃げている彼女がすみません!と叫んだ。
通報のあった現場に着くと、高校生くらいの女の子が極道らしき男達相手に回し蹴りをかましていた。「これは正当防衛のうちに入るだろうか」と静観していたのだが、男の一人がドスを持ち出したので思わず飛び出してしまったのが運の尽きだ。男達の攻撃は彼女だけでなく俺の方にも向かってきて(しかも銃まで出してきて)、とにかく離れなければと彼女の手を引いて一目散に逃げ出したのだ。
「ほんとっ、すみませんっ!助けてくれて、ありがとうございますっ!」
「喋ると体力減るよ!いいから前見て走って!」
「はいっ!!」
ひとまず撒いてから亜細亜街に潜るのが一番か。後ろで騒ぎながら追いかけてくる奴らを屋上から地下からとにかく走り回って撒いた後、予定通りに亜細亜街へ駆け込んだ。
その後は馴染みの店の前まで来て、手を離してお互い大きな息を吐いてから、しばらくその場に座り込んでいた。
息を整えながら考える。先程の連中、以前見かけたことがある。たしか錦山組だったか。ミレニアムタワー爆破事件から勢力は衰えつつあると聞いていたが、まだ何かしようとしているのか。通報によれば、この少女は連れ去られようとしていたらしいが。
「ぜえ、はぁ……ほんと、あの、ありがとうございます……」
「はぁ……ふぅ、いや、とりあえず怪我はないようで良かった」
「えっ?」
「俺、一応お巡りさんでね。高校生くらいの女の子がヤクザに誘拐されそうになってるって通報があってさ」
「ええーっ?!いや私もう高校卒業しましたが?!大人ですが?!」
「何歳?」
「19です!!」
「未成年じゃないか……はいはいお家帰りましょーね。送ってくから」
「い、嫌です!!」
力強く、はっきりと拒絶された。どうしてか、それに少し驚きとチクリと痛みがした気がした。
「私は兄貴を見つけるまで家には帰らない!だって、帰ったってあの家には誰もいないんだ!だから、だから嫌だ!」
「……両親、いないのか?」
「っ、兄貴と二人暮らしで、兄貴、突然いなくなっちゃって……でも、お金は振り込まれてるから、きっと兄貴だと思って、それで」
何か理由があって動けないけど、自分のためにお金を稼いでくれてるのかもしれない。だから、兄を見つけて困ってたら助けて、あの家に帰るんだ。
彼女は涙を零さないように堪えながら、そう決意を露わにする。たった一人の肉親が突然消えて、彼女はどれだけ不安だったのだろう。もっと泣き喚いたって構わない年齢のはずなのに、しっかり立っている彼女を見て、胸が燻る思いがした。
「……手伝おうか、それ」
「え?」
「俺、生活安全課だし行方不明者の捜索も仕事だから、何か役に立つかも……ってうおっ!」
「ほんとに?!やった、やったー!!!ありがとう、お巡りさん!!」
所在なさげにウロウロしていた右手が、彼女の両手でしっかり握られて上下に振り回される。まだ子供の反応に少し安堵しつつ、やめろやめろと声をかけるが両手は離される気配はない。
「あ、そういえばまだ名前言ってなかったですね!私、水瓶優姫って言います!」
「俺は、谷村正義だ。あとまあ、敬語もなくて良いよ。特別ね」
「谷村さん!ありがとう!今の特別の言い方すごくモテる気配がした!!」
「マーちゃーん?こんな時間に何騒いでるんだい?あれ、女の子だ」
「あ、趙さんごめんね。この子迷子の子猫なんだ。俺お巡りさんだし、少し面倒見るからよろしく」
「今の子猫も色男にしか言えない単語だ!!」
ふへへっと、可愛らしさのかけらも無い笑い方だったが、やっと彼女らしく笑う顔が見れて俺もつられて笑ってしまった。両手は握られたままだが、今は少し、このままでいいかなんて俺らしくないことを考えたりして。
(2006年優姫19歳)
「おい谷村ぁ……てめぇまた一課の仕事に首突っ込みやがったな」
思わず「げ」と嫌そうな声が出てしまった。実際嫌なのだけど、表面上は良い顔をしておくのが正解だろう。
「お疲れ様です、杉内さん」
「今更へらへらしたっておせーんだよ。あからさまに嫌なツラしてげって言っただろーが」
「そんなそんな。ところで一課の仕事ってなんのことです?」
「とぼけてんじゃねぇよ。中道通り裏の殺しの件、勝手に捜査して犯人捕まえたろ。てめぇは生活安全課なんだからそっちやってろ」
次はねぇぞといつものセリフを吐いて、杉内さんはそのままトイレから出て行った。たしかに犯人は捕まえたが、あれは成り行きでもあったのだ。亜細亜街の住人が関わっていたから、なるべく彼らに矛先が向かわないよう動いた結果が犯人逮捕に繋がったわけで。むしろ褒められるべきなのだが、まあ日頃の行いでもあるから仕方ない。
「はぁ、たまにはちゃんと仕事してみるかな」
ちゃんとする、というのが面倒だけど、人のために何かするということは実のところ嫌いじゃない。街のお巡りさん、なんていうものに憧れもあるし、今もなりたいものでもある。こんな話酒が入ってないとできないから誰にも話したことはないけれど。
「谷村さーん!ごめん、電話出てー!」
課に戻ると、手が離せないらしい同僚が鳴り響く電話の対応を求めてきたので、了承の意を示すように手を振ってから電話を取った。市民からの通報だ。焦るような声は大人の男性のようで、どうやら高校生らしい女の子が時計の針が9時を回ろうとしているこんなに遅い時間に人探しをしているらしい。しかもそのあと極道らしき男達に連れていかれそうになっていたとのこと。ここに電話をかけたのは、自分の彼女の勤務先としてここを登録していたから、まずは彼女に相談しようかと思ったから、だとか。彼女とはおそらく、今別件で手が離せないから俺に電話対応を任せてきた同僚のことだろう。緊急のようだし、急いで出ることにしよう。
「すみません、少し外に出てきます」
「えっ谷村さーん?!昨日の書類溜まってますよー?!」
君の彼氏の通報だよ、とはあえて言わないで、俺はさっさと街へ繰り出すことにした。書類仕事はまた今度だ。
「大人しく書類仕事やっておけばよかった!!!」
一課の奴にでも任せればよかった!と付け加えたら俺に手を引かれて共に逃げている彼女がすみません!と叫んだ。
通報のあった現場に着くと、高校生くらいの女の子が極道らしき男達相手に回し蹴りをかましていた。「これは正当防衛のうちに入るだろうか」と静観していたのだが、男の一人がドスを持ち出したので思わず飛び出してしまったのが運の尽きだ。男達の攻撃は彼女だけでなく俺の方にも向かってきて(しかも銃まで出してきて)、とにかく離れなければと彼女の手を引いて一目散に逃げ出したのだ。
「ほんとっ、すみませんっ!助けてくれて、ありがとうございますっ!」
「喋ると体力減るよ!いいから前見て走って!」
「はいっ!!」
ひとまず撒いてから亜細亜街に潜るのが一番か。後ろで騒ぎながら追いかけてくる奴らを屋上から地下からとにかく走り回って撒いた後、予定通りに亜細亜街へ駆け込んだ。
その後は馴染みの店の前まで来て、手を離してお互い大きな息を吐いてから、しばらくその場に座り込んでいた。
息を整えながら考える。先程の連中、以前見かけたことがある。たしか錦山組だったか。ミレニアムタワー爆破事件から勢力は衰えつつあると聞いていたが、まだ何かしようとしているのか。通報によれば、この少女は連れ去られようとしていたらしいが。
「ぜえ、はぁ……ほんと、あの、ありがとうございます……」
「はぁ……ふぅ、いや、とりあえず怪我はないようで良かった」
「えっ?」
「俺、一応お巡りさんでね。高校生くらいの女の子がヤクザに誘拐されそうになってるって通報があってさ」
「ええーっ?!いや私もう高校卒業しましたが?!大人ですが?!」
「何歳?」
「19です!!」
「未成年じゃないか……はいはいお家帰りましょーね。送ってくから」
「い、嫌です!!」
力強く、はっきりと拒絶された。どうしてか、それに少し驚きとチクリと痛みがした気がした。
「私は兄貴を見つけるまで家には帰らない!だって、帰ったってあの家には誰もいないんだ!だから、だから嫌だ!」
「……両親、いないのか?」
「っ、兄貴と二人暮らしで、兄貴、突然いなくなっちゃって……でも、お金は振り込まれてるから、きっと兄貴だと思って、それで」
何か理由があって動けないけど、自分のためにお金を稼いでくれてるのかもしれない。だから、兄を見つけて困ってたら助けて、あの家に帰るんだ。
彼女は涙を零さないように堪えながら、そう決意を露わにする。たった一人の肉親が突然消えて、彼女はどれだけ不安だったのだろう。もっと泣き喚いたって構わない年齢のはずなのに、しっかり立っている彼女を見て、胸が燻る思いがした。
「……手伝おうか、それ」
「え?」
「俺、生活安全課だし行方不明者の捜索も仕事だから、何か役に立つかも……ってうおっ!」
「ほんとに?!やった、やったー!!!ありがとう、お巡りさん!!」
所在なさげにウロウロしていた右手が、彼女の両手でしっかり握られて上下に振り回される。まだ子供の反応に少し安堵しつつ、やめろやめろと声をかけるが両手は離される気配はない。
「あ、そういえばまだ名前言ってなかったですね!私、水瓶優姫って言います!」
「俺は、谷村正義だ。あとまあ、敬語もなくて良いよ。特別ね」
「谷村さん!ありがとう!今の特別の言い方すごくモテる気配がした!!」
「マーちゃーん?こんな時間に何騒いでるんだい?あれ、女の子だ」
「あ、趙さんごめんね。この子迷子の子猫なんだ。俺お巡りさんだし、少し面倒見るからよろしく」
「今の子猫も色男にしか言えない単語だ!!」
ふへへっと、可愛らしさのかけらも無い笑い方だったが、やっと彼女らしく笑う顔が見れて俺もつられて笑ってしまった。両手は握られたままだが、今は少し、このままでいいかなんて俺らしくないことを考えたりして。