snobbism(龍如)
DREAM
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私とお巡りさんの話。
(2010年なずな24歳)
ネオンが眩しい。四年ぶりだが、相変わらず神室町はギラギラした街だ。
桐生さんは昼からどうだと言ってくれたが、私の都合で夕方にしてもらった。というのも、昼間は谷村さんがパトロールしてるかもと思い勇気を出せなかったのが原因である。よし兄には散々ため息を吐かれているが、許してほしい。こう見えても私はメンタルが弱いのだ。ちなみにお土産はたくさん買って自宅配達も手配してるので、家で待っててくれてるよし兄よ、楽しみにしててほしい。
そうして身軽なままやってきた神室町で、桐生さんと待ち合わせているニューセレナというお店を探していると、いやまあ、絡まれたわけです。治安悪いよ神室町。
「お姉ちゃん、金持ってるー?出してあげよっか?いいことしてくれたらだけどぉ!」
ううん、やっぱり治安悪い!過去に錦山組に絡まれた時も困ったけど、こういうチンピラ集団に絡まれる方が困るかもしれない。どう切り抜けたものか。とりあえず。
「あのー、ニューセレナってわかります?」
「ホテル行きたいのー?いこいこー!」
話が通じない!困ったなぁ!!しかもこの人達酔っ払ってるのかー!殴りにくいなー!
「お兄さん達。その子困ってるでしょ?他行きなよ」
どう対応すればいいのか悩んでいると、私が絡まれて困っているのを見かねたであろう男の人が間に入ってくれた。少し気怠そうな態度でポケットに手を突っ込んでいる、無精髭を生やした男の人。スタイルが良い。神室町、桐生さんといい真島さんといい、こういうダンディな人多くない?
なんだとー!と暴れるチンピラ達。どうしよう、殴るか?!と身構えたら、お兄さんが足技で華麗に倒していく。手は使わず、流れるような足技は思わず見惚れるほどだった。
返り討ちにあったチンピラがその場から逃げていくと、お兄さんは私の方を見てニコリと笑った。
「大丈夫だった?いやー、ああいうの多くて困るよね」
「あはは、そうですね。助けてもらってありがとうございます!危うく拳で応戦するとこでした!」
「いやしないでね?!助け呼ぼうね?!」
お兄さんはツッコミ体質のようだ。ボケが捗るぜ!
あ、と当初の目的を思い出す。
「あの、ニューセレナってお店がこの街にあると思うんですけど、場所わかります?そこで待ち合わせしてて、地図だとこの辺のはずなんですけど……」
「分かるよ。分かるけど……あ、待って。もしかして、待ち合わせ相手って、桐生さんだったりする?」
「へっ?!そうですけど、桐生さんのこと知ってるんですか?!」
「ああー、そっかぁ。うん、知り合いだよ。今日ね、桐生さんの提案で飲み会しようって誘われてて、その場所がニューセレナなんだ。ちょうど俺も行こうとしてたから一緒に行こっか?」
「はい!お供します!」
「俺は秋山っていうんだ。君は?」
「斎藤なずなです!」
桐生さんは飲み会を企画してくれていたらしい。しかも、この感じは多人数のようだ。真島さんもいるのかな?もしかして、私がこの街に来るの怖がってたから、ワイワイ出来るようにセッティングしてくれたのかもしれない。さすが気遣いの龍だ。
「いやー、桐生さんが珍しくソワソワしてたから、絶対何か隠してると思ったんだよね。なずなちゃん、もしかして桐生さんの恋人だったりする?」
「私が?!いやいや!桐生さんは恩人ですよ!すっごく前に困ってたところをめちゃくちゃ助けてもらったんです」
「そうだったんだ。……俺もね、桐生さんに救われた人間の一人なんだよ。あの人、本当すごい人だよね」
「はい!いつか桐生さんが困ってたら、助けてあげたいって思ってます」
そんな話をしている間に、到着したらしい。秋山さんがここだよ、とエレベーターまで案内してくれる。ニューセレナと書かれたマットを通り、エレベーターに乗ると、なんだかドキドキしてきた。秋山さんにもそれが伝わったらしく、大丈夫?と聞かれてしまう。
「いやぁ、実は桐生さんに直接会うの久々で……電話はよくしてたんですけどね。なんか緊張してきちゃった」
「そうなんだ?今日集まるメンバー、個性強いし男率高いけど大丈夫かな。あ、ニューセレナのママもいるし、うちの事務所の女の子もいるから安心して」
「ありがとうございます!大丈夫です!今日は飲みまくりましょうね!」
秋山さんはお金を貸す仕事をしているらしく、その事務所の社長でもあるらしい。会社はニューセレナの上の階にあるが、今日は経営しているキャバクラのお店に顔を出してきたから集合時間ギリギリになったとのことだ。出来るサラリーマンだ!すごい!
「こんばんはー。あ、皆さん集まってますね」
ニューセレナの看板を掲げられている扉を、秋山さんが開けて入っていく。中から「ギリギリやないか」と呆れる関西弁の声が聞こえる。真島さんとは違う声だ。その後で、桐生さんの声も聞こえてきた。会話が続いているが、ここでもたもたしても仕方ない。よし、私も中に入ろう。
「秋山、店の近くに誰かいなかったか?」
「ああ、なずなちゃんのことですよね?さっき話聞いたらここで待ち合わせるってことなんで、一緒に来ましたよ」
「そうか。もう会ってたのか」
「なんや、女呼んだんか桐生」
「会わせたい奴がいたもんでな。無理言って神室町まで来てもらったんだ」
「こんばんはー!」
秋山さんの後ろから、顔を出す。記憶のままのグレースーツの桐生さんの姿が見えた。お気に入りの一張羅なのかな。それから、髪の長いガタイの良い男の人。あ、テレビで見た冤罪だった人じゃない?!もしかしてこの間の東城会絡みの事件の……。
その瞬間、まるで世界がスローモーションに動いているようだった。
四年前も見た、青いジャンパーが、濃茶の髪が、視界に入る。呼吸が、止まる。
「いっ?!」
気がつけば、同じように目を見開いたあの人に両肩を掴まれていた。顔が、見える。その顔を見てわかってしまった。
覚えてて、くれてたんだ。
谷村さん。
「……怪我は」
「へっ?」
「どこも、怪我しなかったか」
久しぶりに聞いた声は、少し震えていた。
どうして?
巻き込んで酷い目に合わせた私に、そんな優しいことを聞いてくるの?
怒ってくれてもよかった。忘れてくれてても、よかったのに。
ねえ、谷村さん。
「ないよ、どこも、ない。私より、谷村さんは大丈夫なの。後遺症とか、なかった?」
「見ての通りピンピンしてるよ。しぶといんだ、俺」
良かった。本当に良かった。
「そっちは、大変だったみたいだな」
そんなことない。谷村さんが受けた暴力に比べたら、こんなのなんでもない。
ああ、私、何を話そうと思ってたんだっけ。
四年ぶりに谷村さんに会ったら、どうやって挨拶しようと思ってたんだっけ。
谷村さんが、私の顔を覗き込んでいる。私が何か話そうとしてるから、待ってくれている。何か、言わなきゃ。
「あ、はは。あれ、私、何も浮かばない。会えたら、言いたいことあったのにな。ありがとうも、ごめんなさいも、たくさん言いたかったのに。もう、何でかな」
「……うん」
「谷村さんに、また会えて、嬉しくて、それだけでいっぱいになってる。ちゃんと、話、しようと思って、ここまで来たのに。……会えて、嬉しい。私ずっと、会いたかったんだ」
「俺だって会いたかった。ずっと探してたよ、お前のこと」
俯いていた顔を上げると、どこか安堵したような表情の谷村さんがいた。相変わらずイケメンだ。あ、でも顎ひげを生やしてる。イケメンにダンディ要素まで加わって、最強のイケメンが出来上がってしまった。なんて罪作りなんだ、谷村さん。
本当に、谷村さんが、目の前にいるんだ。どうしよう、私、どうしたら。
「泣いていいんだ、優姫」
桐生さんが、あの日死んだ女の子の名前を呼ぶ。
今度こそ自分の為に、泣けばいいと、そう言ってくれる。
「ぅ、ぅあ……谷村さぁん……ッ!うわぁぁ……ッ!!」
「うん。俺はここにいるよ、優姫」
四年間溜め込んだ想いが溢れて止まらなくなって、目の前の谷村さんに縋るようにしがみついて、過去一番の大泣きをしたのだった。
(2010年なずな24歳)
ネオンが眩しい。四年ぶりだが、相変わらず神室町はギラギラした街だ。
桐生さんは昼からどうだと言ってくれたが、私の都合で夕方にしてもらった。というのも、昼間は谷村さんがパトロールしてるかもと思い勇気を出せなかったのが原因である。よし兄には散々ため息を吐かれているが、許してほしい。こう見えても私はメンタルが弱いのだ。ちなみにお土産はたくさん買って自宅配達も手配してるので、家で待っててくれてるよし兄よ、楽しみにしててほしい。
そうして身軽なままやってきた神室町で、桐生さんと待ち合わせているニューセレナというお店を探していると、いやまあ、絡まれたわけです。治安悪いよ神室町。
「お姉ちゃん、金持ってるー?出してあげよっか?いいことしてくれたらだけどぉ!」
ううん、やっぱり治安悪い!過去に錦山組に絡まれた時も困ったけど、こういうチンピラ集団に絡まれる方が困るかもしれない。どう切り抜けたものか。とりあえず。
「あのー、ニューセレナってわかります?」
「ホテル行きたいのー?いこいこー!」
話が通じない!困ったなぁ!!しかもこの人達酔っ払ってるのかー!殴りにくいなー!
「お兄さん達。その子困ってるでしょ?他行きなよ」
どう対応すればいいのか悩んでいると、私が絡まれて困っているのを見かねたであろう男の人が間に入ってくれた。少し気怠そうな態度でポケットに手を突っ込んでいる、無精髭を生やした男の人。スタイルが良い。神室町、桐生さんといい真島さんといい、こういうダンディな人多くない?
なんだとー!と暴れるチンピラ達。どうしよう、殴るか?!と身構えたら、お兄さんが足技で華麗に倒していく。手は使わず、流れるような足技は思わず見惚れるほどだった。
返り討ちにあったチンピラがその場から逃げていくと、お兄さんは私の方を見てニコリと笑った。
「大丈夫だった?いやー、ああいうの多くて困るよね」
「あはは、そうですね。助けてもらってありがとうございます!危うく拳で応戦するとこでした!」
「いやしないでね?!助け呼ぼうね?!」
お兄さんはツッコミ体質のようだ。ボケが捗るぜ!
あ、と当初の目的を思い出す。
「あの、ニューセレナってお店がこの街にあると思うんですけど、場所わかります?そこで待ち合わせしてて、地図だとこの辺のはずなんですけど……」
「分かるよ。分かるけど……あ、待って。もしかして、待ち合わせ相手って、桐生さんだったりする?」
「へっ?!そうですけど、桐生さんのこと知ってるんですか?!」
「ああー、そっかぁ。うん、知り合いだよ。今日ね、桐生さんの提案で飲み会しようって誘われてて、その場所がニューセレナなんだ。ちょうど俺も行こうとしてたから一緒に行こっか?」
「はい!お供します!」
「俺は秋山っていうんだ。君は?」
「斎藤なずなです!」
桐生さんは飲み会を企画してくれていたらしい。しかも、この感じは多人数のようだ。真島さんもいるのかな?もしかして、私がこの街に来るの怖がってたから、ワイワイ出来るようにセッティングしてくれたのかもしれない。さすが気遣いの龍だ。
「いやー、桐生さんが珍しくソワソワしてたから、絶対何か隠してると思ったんだよね。なずなちゃん、もしかして桐生さんの恋人だったりする?」
「私が?!いやいや!桐生さんは恩人ですよ!すっごく前に困ってたところをめちゃくちゃ助けてもらったんです」
「そうだったんだ。……俺もね、桐生さんに救われた人間の一人なんだよ。あの人、本当すごい人だよね」
「はい!いつか桐生さんが困ってたら、助けてあげたいって思ってます」
そんな話をしている間に、到着したらしい。秋山さんがここだよ、とエレベーターまで案内してくれる。ニューセレナと書かれたマットを通り、エレベーターに乗ると、なんだかドキドキしてきた。秋山さんにもそれが伝わったらしく、大丈夫?と聞かれてしまう。
「いやぁ、実は桐生さんに直接会うの久々で……電話はよくしてたんですけどね。なんか緊張してきちゃった」
「そうなんだ?今日集まるメンバー、個性強いし男率高いけど大丈夫かな。あ、ニューセレナのママもいるし、うちの事務所の女の子もいるから安心して」
「ありがとうございます!大丈夫です!今日は飲みまくりましょうね!」
秋山さんはお金を貸す仕事をしているらしく、その事務所の社長でもあるらしい。会社はニューセレナの上の階にあるが、今日は経営しているキャバクラのお店に顔を出してきたから集合時間ギリギリになったとのことだ。出来るサラリーマンだ!すごい!
「こんばんはー。あ、皆さん集まってますね」
ニューセレナの看板を掲げられている扉を、秋山さんが開けて入っていく。中から「ギリギリやないか」と呆れる関西弁の声が聞こえる。真島さんとは違う声だ。その後で、桐生さんの声も聞こえてきた。会話が続いているが、ここでもたもたしても仕方ない。よし、私も中に入ろう。
「秋山、店の近くに誰かいなかったか?」
「ああ、なずなちゃんのことですよね?さっき話聞いたらここで待ち合わせるってことなんで、一緒に来ましたよ」
「そうか。もう会ってたのか」
「なんや、女呼んだんか桐生」
「会わせたい奴がいたもんでな。無理言って神室町まで来てもらったんだ」
「こんばんはー!」
秋山さんの後ろから、顔を出す。記憶のままのグレースーツの桐生さんの姿が見えた。お気に入りの一張羅なのかな。それから、髪の長いガタイの良い男の人。あ、テレビで見た冤罪だった人じゃない?!もしかしてこの間の東城会絡みの事件の……。
その瞬間、まるで世界がスローモーションに動いているようだった。
四年前も見た、青いジャンパーが、濃茶の髪が、視界に入る。呼吸が、止まる。
「いっ?!」
気がつけば、同じように目を見開いたあの人に両肩を掴まれていた。顔が、見える。その顔を見てわかってしまった。
覚えてて、くれてたんだ。
谷村さん。
「……怪我は」
「へっ?」
「どこも、怪我しなかったか」
久しぶりに聞いた声は、少し震えていた。
どうして?
巻き込んで酷い目に合わせた私に、そんな優しいことを聞いてくるの?
怒ってくれてもよかった。忘れてくれてても、よかったのに。
ねえ、谷村さん。
「ないよ、どこも、ない。私より、谷村さんは大丈夫なの。後遺症とか、なかった?」
「見ての通りピンピンしてるよ。しぶといんだ、俺」
良かった。本当に良かった。
「そっちは、大変だったみたいだな」
そんなことない。谷村さんが受けた暴力に比べたら、こんなのなんでもない。
ああ、私、何を話そうと思ってたんだっけ。
四年ぶりに谷村さんに会ったら、どうやって挨拶しようと思ってたんだっけ。
谷村さんが、私の顔を覗き込んでいる。私が何か話そうとしてるから、待ってくれている。何か、言わなきゃ。
「あ、はは。あれ、私、何も浮かばない。会えたら、言いたいことあったのにな。ありがとうも、ごめんなさいも、たくさん言いたかったのに。もう、何でかな」
「……うん」
「谷村さんに、また会えて、嬉しくて、それだけでいっぱいになってる。ちゃんと、話、しようと思って、ここまで来たのに。……会えて、嬉しい。私ずっと、会いたかったんだ」
「俺だって会いたかった。ずっと探してたよ、お前のこと」
俯いていた顔を上げると、どこか安堵したような表情の谷村さんがいた。相変わらずイケメンだ。あ、でも顎ひげを生やしてる。イケメンにダンディ要素まで加わって、最強のイケメンが出来上がってしまった。なんて罪作りなんだ、谷村さん。
本当に、谷村さんが、目の前にいるんだ。どうしよう、私、どうしたら。
「泣いていいんだ、優姫」
桐生さんが、あの日死んだ女の子の名前を呼ぶ。
今度こそ自分の為に、泣けばいいと、そう言ってくれる。
「ぅ、ぅあ……谷村さぁん……ッ!うわぁぁ……ッ!!」
「うん。俺はここにいるよ、優姫」
四年間溜め込んだ想いが溢れて止まらなくなって、目の前の谷村さんに縋るようにしがみついて、過去一番の大泣きをしたのだった。