snobbism(龍如)
DREAM
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続金庫番と。
(2009年なずな23歳)
リハビリなんて、本当はするつもりはなかった。
けれど、ただ寝転んでいるだけなのも退屈だったし、何より動けるようになったほうが、今後の身の振り方の幅が広がると思ったから、やってみただけ。
「やったー!!よっしーやったよ!!補助なしで歩けるようになったぁぁ!!」
相変わらずうるさい女だが、二ヶ月ほど一緒にいれば慣れてきて「うるせえ」と返すのが当たり前になった。女もその対応に不満を訴えるわけでもなく、ヘラヘラと笑っている。
「闇医者先生が、今日補助なしで歩けるようになったら、いよいよ退院が近いって言ってたんだ。やったね、よっしー!退院したら、行きたいとことかある?」
「別にない」
「えー?!美味しいクレープ屋とか、たい焼き屋とか、いっぱいあるじゃん?!」
「飯ばっかじゃねえか」
「美味しいご飯食べると幸せ〜ってなるからね!」
安い幸せだ。だが、貧困の時代を送った事のある俺にとっては、ほんの少しだがわかる感情だった。金を稼げるようになり、好きなものを好きなだけ食べられるようになった時、少し感動したことを覚えている。
「いやー、ほんと長かったなー。よっしーが歩くのも見届けたし、私もそろそろ移動かなー」
「そういえば、お前はこの辺に住んでるのか?」
「んーん!ホテルに泊まってるんだー。けど、ちょっと長居しちゃったし、また次の町に行かないと」
「なんだそれは。お前、何から逃げてるんだ?」
「えっ?あ、いや、その。逃げてるというか、一つの場所に留まらないようにしてるというか……いやー!変なこと言っちゃったね!ごめんね、気にしないで!」
どうやら訳ありのようだ。こんな、嘘をつけなさそうな女が、か。そういえば、以前撃たれた時の痣が、といった電話をしていた。極道と関わるようなことが、こんな若い女にあったのか。それも、撃たれて、今も一箇所に留まれないようなことが。あの悲しげな笑顔も、関係するのだろうか。
「……お前は」
「うん?」
「……なんでもない」
なんとなく、この女は今日を限りにここへは来なくなるのだろうと思った。
「よ、よっしー……」
「美味しいクレープ屋ってのは、どこにあるんだ?」
「行くの?!あ、いや、ていうかまだ退院は早すぎない?!やっと歩けるようになったのに即退院は無茶じゃない?!」
「うるせぇな」
いいから案内しろ、と凄めば、大きめのリュックサックを背負った女はしぶしぶと案内を始める。
案の定、病院を出た後姿を眩ますつもりだったらしい。ホテルに泊まっていると言っていたから、女が荷物をまとめるまで多少は時間があるだろうとその間に、退院手続きをすませた。と言っても闇医者の病院だからか、事務手続きなどなく後日金を振り込むようにと振込先の口座番号を渡されたくらいだ。ちなみに俺を運んだ黒服の男達とは一体誰だったか尋ねたが、ブラックマンデーの人間でもなく東城会の人間でもない、謎の組織のようで闇医者もよくわからないそうだ。
そして病院を出て、近くのホテルに当たりをつけて玄関で待っていたら、女が出てきたので腕を捕まえて、先程の会話に至る。
女の言うクレープ屋は、わりと近場にありすぐに到着した。女は何か言うのを諦めたようで、気持ちを切り替えたのか嬉々としてクレープの品定めをしている。俺はどれでもいいと言ったら「じゃあ、おすすめの抹茶ね!」と注文された。
飲食スペースで、向かい合わせに座り、クレープを頬張る。なるほど、たしかにこれは美味いな。そんな感想を抱いていたら、女がおそろおそる口を開いた。
「あのさ、どうして私のとこに来たの?やっぱり、東城会の人に連絡したくなった?」
「そんなんじゃない。ただ、聞いてみたいことがあった」
「えっ、なに?」
「お前、どうして会いたい奴がいるのに会いに行かないんだ」
ヒュッと女が息を呑んだ。どうやら図星のようだ。
「わ、たしは、その……」
「お前の名前、本名じゃないんだろう?」
「えっな、なんで?!」
「自分の名前なのに名乗り慣れてない感じがした。それに、お前が『本当に死んだら、二度と会えない』と言った時、俺にはそれが自分の話をしているように思えた。お前は、何者なんだ?」
「……何者もなにも、私は、斎藤なずなだよ。どこにでもいる普通の女の子だよ」
「なら、さっさと会いたい奴に会いに行けばいい。俺にはそう言うのに、お前はどうして会いに行かず旅なんてしているんだ」
「私だって!……私だって、会えるものなら会いたいよ。でも、ダメなんだよ」
この二ヶ月、俺は女の笑った顔しか見たことがなかった。
初めて、泣いている顔を見た。
「私のせいで、沢山の人を巻き込んだ。優しい人を、酷い目にあわせてしまった。私が斎藤なずなになれたのは、そんな沢山の犠牲の上に成り立ってる幸福なんだ。だから、私はこの名前で生きていくことに不満はないんだよ。……あの人が知ってる女の子は、もう死んだんだ。もう私なんかに、関わっちゃいけないんだ」
それは女の零した、初めての愚痴だったのかもしれない。今の生き方に不満はないけれど、ふとした時に置いてきた大切なものを振り返る。その繰り返しを続けて、今、初めて感情を溢れさせているのだろう。
女も自分の口にした言葉に驚いているようで、涙を強引に拭いながら笑おうとして失敗している。
「あ、はは。ごめんね、意味わかんないよね。でも、私は会いに行けないんだ。だから、よっしーが羨ましいよ。会いに行けるんだからさ。……会いに、行きなよ。きっと待ってるよ、よっしーのこと」
「……俺に、その資格はない。俺は、あの人を殺そうとしたんだ。チューブに繋がれてかろうじて息をしていたあの人を、こんなのは人じゃないと切り捨てて、殺そうとした。あの人の東城会を俺が引き継ごうと、そう思って」
「!もしかして、東城会の内部抗争の話って……?」
「俺が起こした騒動だ。けど、桐生さんとやり合って、大吾さんが俺の名前を呼んでくれて……目が覚めた。俺も所詮、他の奴等と同じく大吾さんを軽んじていたんだと」
大吾さんは、目を覚ますとすぐに敵を見定めて戦った。俺に、大丈夫か?と。もう心配ないと、そう言って。
自分の愚かさに、吐き気がした。この人の為に生きようと思っていたのに。この人のためなら命など惜しくないと本気で思うほど、好きだったのに。
「……初めて、掛け値なしに好きになった人を、俺は傷つけようとしたんだ。会いに行く資格なんて、俺にはない」
「……そっか。なんか、私達似てるね。会いたいのに会えない、なんてさ」
「……お前は、これからどこに行くんだ」
「そうだなー。今度は四国とか行こうかな?美味しい名産もあるし、楽しそう!」
「その旅に、ついて行ってもいいか」
「?!い、一緒に来てくれるの?!」
ダメだと言われるかと思っていたから少し拍子抜けしたが、思えばこの女は名前を変えてからずっと、一人で生きてきたのだ。どこにも留まれず、たった一人であてのない旅を続けてきたのだろう。こんな、人と話す事が好きな女が、一人きりで。
俺の言葉に目を輝かせた女に、同じ境遇だろうと笑ってやる。
「わぁー!よっしーが笑うの初めて見たー!よっ!イケメン!」
「まずはそのよっしーを止めろ。というか、俺もお前の苗字を名乗ることにするから、せめて家族みたいに呼べ」
「えっ?斎藤義孝って名乗るの?!家族設定で行くってことだよね?うーんと、よし兄!でどうよ?」
「まあそれでいいか。じゃあ、四国行きのチケットを買いに行くか、なずな」
「!うん!ねえねえ、六代目さんの話聞かせてよ!どんな人なの?」
「お前が会いたい奴の話をするなら話してやる」
「ぐあー!わ、わかったよー!話すよー!だからよし兄も話してよね!」
ああ、賑やかな旅になりそうだ。
いつか、あの人に会う勇気が持てるまでは、似たもの同士の二人旅を満喫するのも悪くない。
(2009年なずな23歳)
リハビリなんて、本当はするつもりはなかった。
けれど、ただ寝転んでいるだけなのも退屈だったし、何より動けるようになったほうが、今後の身の振り方の幅が広がると思ったから、やってみただけ。
「やったー!!よっしーやったよ!!補助なしで歩けるようになったぁぁ!!」
相変わらずうるさい女だが、二ヶ月ほど一緒にいれば慣れてきて「うるせえ」と返すのが当たり前になった。女もその対応に不満を訴えるわけでもなく、ヘラヘラと笑っている。
「闇医者先生が、今日補助なしで歩けるようになったら、いよいよ退院が近いって言ってたんだ。やったね、よっしー!退院したら、行きたいとことかある?」
「別にない」
「えー?!美味しいクレープ屋とか、たい焼き屋とか、いっぱいあるじゃん?!」
「飯ばっかじゃねえか」
「美味しいご飯食べると幸せ〜ってなるからね!」
安い幸せだ。だが、貧困の時代を送った事のある俺にとっては、ほんの少しだがわかる感情だった。金を稼げるようになり、好きなものを好きなだけ食べられるようになった時、少し感動したことを覚えている。
「いやー、ほんと長かったなー。よっしーが歩くのも見届けたし、私もそろそろ移動かなー」
「そういえば、お前はこの辺に住んでるのか?」
「んーん!ホテルに泊まってるんだー。けど、ちょっと長居しちゃったし、また次の町に行かないと」
「なんだそれは。お前、何から逃げてるんだ?」
「えっ?あ、いや、その。逃げてるというか、一つの場所に留まらないようにしてるというか……いやー!変なこと言っちゃったね!ごめんね、気にしないで!」
どうやら訳ありのようだ。こんな、嘘をつけなさそうな女が、か。そういえば、以前撃たれた時の痣が、といった電話をしていた。極道と関わるようなことが、こんな若い女にあったのか。それも、撃たれて、今も一箇所に留まれないようなことが。あの悲しげな笑顔も、関係するのだろうか。
「……お前は」
「うん?」
「……なんでもない」
なんとなく、この女は今日を限りにここへは来なくなるのだろうと思った。
「よ、よっしー……」
「美味しいクレープ屋ってのは、どこにあるんだ?」
「行くの?!あ、いや、ていうかまだ退院は早すぎない?!やっと歩けるようになったのに即退院は無茶じゃない?!」
「うるせぇな」
いいから案内しろ、と凄めば、大きめのリュックサックを背負った女はしぶしぶと案内を始める。
案の定、病院を出た後姿を眩ますつもりだったらしい。ホテルに泊まっていると言っていたから、女が荷物をまとめるまで多少は時間があるだろうとその間に、退院手続きをすませた。と言っても闇医者の病院だからか、事務手続きなどなく後日金を振り込むようにと振込先の口座番号を渡されたくらいだ。ちなみに俺を運んだ黒服の男達とは一体誰だったか尋ねたが、ブラックマンデーの人間でもなく東城会の人間でもない、謎の組織のようで闇医者もよくわからないそうだ。
そして病院を出て、近くのホテルに当たりをつけて玄関で待っていたら、女が出てきたので腕を捕まえて、先程の会話に至る。
女の言うクレープ屋は、わりと近場にありすぐに到着した。女は何か言うのを諦めたようで、気持ちを切り替えたのか嬉々としてクレープの品定めをしている。俺はどれでもいいと言ったら「じゃあ、おすすめの抹茶ね!」と注文された。
飲食スペースで、向かい合わせに座り、クレープを頬張る。なるほど、たしかにこれは美味いな。そんな感想を抱いていたら、女がおそろおそる口を開いた。
「あのさ、どうして私のとこに来たの?やっぱり、東城会の人に連絡したくなった?」
「そんなんじゃない。ただ、聞いてみたいことがあった」
「えっ、なに?」
「お前、どうして会いたい奴がいるのに会いに行かないんだ」
ヒュッと女が息を呑んだ。どうやら図星のようだ。
「わ、たしは、その……」
「お前の名前、本名じゃないんだろう?」
「えっな、なんで?!」
「自分の名前なのに名乗り慣れてない感じがした。それに、お前が『本当に死んだら、二度と会えない』と言った時、俺にはそれが自分の話をしているように思えた。お前は、何者なんだ?」
「……何者もなにも、私は、斎藤なずなだよ。どこにでもいる普通の女の子だよ」
「なら、さっさと会いたい奴に会いに行けばいい。俺にはそう言うのに、お前はどうして会いに行かず旅なんてしているんだ」
「私だって!……私だって、会えるものなら会いたいよ。でも、ダメなんだよ」
この二ヶ月、俺は女の笑った顔しか見たことがなかった。
初めて、泣いている顔を見た。
「私のせいで、沢山の人を巻き込んだ。優しい人を、酷い目にあわせてしまった。私が斎藤なずなになれたのは、そんな沢山の犠牲の上に成り立ってる幸福なんだ。だから、私はこの名前で生きていくことに不満はないんだよ。……あの人が知ってる女の子は、もう死んだんだ。もう私なんかに、関わっちゃいけないんだ」
それは女の零した、初めての愚痴だったのかもしれない。今の生き方に不満はないけれど、ふとした時に置いてきた大切なものを振り返る。その繰り返しを続けて、今、初めて感情を溢れさせているのだろう。
女も自分の口にした言葉に驚いているようで、涙を強引に拭いながら笑おうとして失敗している。
「あ、はは。ごめんね、意味わかんないよね。でも、私は会いに行けないんだ。だから、よっしーが羨ましいよ。会いに行けるんだからさ。……会いに、行きなよ。きっと待ってるよ、よっしーのこと」
「……俺に、その資格はない。俺は、あの人を殺そうとしたんだ。チューブに繋がれてかろうじて息をしていたあの人を、こんなのは人じゃないと切り捨てて、殺そうとした。あの人の東城会を俺が引き継ごうと、そう思って」
「!もしかして、東城会の内部抗争の話って……?」
「俺が起こした騒動だ。けど、桐生さんとやり合って、大吾さんが俺の名前を呼んでくれて……目が覚めた。俺も所詮、他の奴等と同じく大吾さんを軽んじていたんだと」
大吾さんは、目を覚ますとすぐに敵を見定めて戦った。俺に、大丈夫か?と。もう心配ないと、そう言って。
自分の愚かさに、吐き気がした。この人の為に生きようと思っていたのに。この人のためなら命など惜しくないと本気で思うほど、好きだったのに。
「……初めて、掛け値なしに好きになった人を、俺は傷つけようとしたんだ。会いに行く資格なんて、俺にはない」
「……そっか。なんか、私達似てるね。会いたいのに会えない、なんてさ」
「……お前は、これからどこに行くんだ」
「そうだなー。今度は四国とか行こうかな?美味しい名産もあるし、楽しそう!」
「その旅に、ついて行ってもいいか」
「?!い、一緒に来てくれるの?!」
ダメだと言われるかと思っていたから少し拍子抜けしたが、思えばこの女は名前を変えてからずっと、一人で生きてきたのだ。どこにも留まれず、たった一人であてのない旅を続けてきたのだろう。こんな、人と話す事が好きな女が、一人きりで。
俺の言葉に目を輝かせた女に、同じ境遇だろうと笑ってやる。
「わぁー!よっしーが笑うの初めて見たー!よっ!イケメン!」
「まずはそのよっしーを止めろ。というか、俺もお前の苗字を名乗ることにするから、せめて家族みたいに呼べ」
「えっ?斎藤義孝って名乗るの?!家族設定で行くってことだよね?うーんと、よし兄!でどうよ?」
「まあそれでいいか。じゃあ、四国行きのチケットを買いに行くか、なずな」
「!うん!ねえねえ、六代目さんの話聞かせてよ!どんな人なの?」
「お前が会いたい奴の話をするなら話してやる」
「ぐあー!わ、わかったよー!話すよー!だからよし兄も話してよね!」
ああ、賑やかな旅になりそうだ。
いつか、あの人に会う勇気が持てるまでは、似たもの同士の二人旅を満喫するのも悪くない。