snobbism(龍如)
DREAM
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金庫番と。
(2009年なずな23歳)
「生まれ変わったら、俺もそっちにいれるかな」
屋上に柵がなくて良かった。足をずらせばすぐにでも飛び降りる事ができるから。
俺を呼び止める大吾さんの声が聞こえる。桐生さんの声も聞こえる。けれど、俺も極道になったからには今回起こした数々のケジメはつけなければならない。
後悔は、多分していない。俺は俺の意志で、東城会を守ろうと思った。大吾さんがいないなら、俺があの人の意志を継いで東城会を維持していこうと本気で思っていた。
後悔は、していないはずだ。だから、呼ばないでほしい。引き止めようとしないでほしい。そこにいられる資格はないのだから。
けど本当は、貴方の隣で、同じ夢を見たかった、なんて。
「えっ、今沖縄に住んでんの?えー、そうだったんだー!」
何もかもが靄がかかった世界で、軽い声が響いている。うるさい。頭が悪そうな俺の嫌いなタイプの声だ。
「沖縄はね、去年行ったんだよ。そっかー、養護施設かー!観光しかしてないからわかんなかったなー!」
沖縄の話をしているのか。……沖縄の養護施設?
「私?私はね、今病院にいるよ。あ、違う違う!ほら、前に撃たれたじゃん?痣がねー、季節の変わり目になるとじくじく痛くてしんどくて!痛み止めもらいにきたついでに闇医者先生のお手伝いしてるー」
撃たれた?
「うんうん。東城会の六代目さんが入院したってニュース見てびっくりして!なんか大変そうだねー。桐生さんはカタギ?だから直接関係はないんだっけ?それじゃ、真島さんがアレコレ忙しくしてるのかな?差し入れ持ってってみようかな?」
東城会。六代目。桐生。真島。
六代目が入院しただと?!
カバっと上半身を起こすと、激痛が走り声にならない声が出て体を丸めてしまう。その動作もさらに激痛が走る要因となり、いよいよ動けなくなってしまった。
「ちょ、大丈夫ですか?!ごめんね、桐生さん。患者さん起きたみたいだから、また連絡するね!」
傍に控えていたらしい女は、携帯をしまうと俺の体を支えてゆっくりと後ろへ倒す。その際も激痛が走ったが、仰向けに寝転ぶと先ほどよりは幾分マシになった。
「えっと、意識は大丈夫そう?自分の名前とかわかる?お兄さん、どっかの大きな建物から飛び降りたんだって?」
「……」
「なんか、黒服の人達がここにお兄さんともう一人運んできたんだけど、そんなこと言ってたから……。あ、でも……もう一人の人は、ダメだったんだって……知り合い、だった?」
「……どうして、俺は死んでないんだ」
「そりゃあもう闇医者先生が頑張って治療したからだよ!運が良かったんだって言ってたよ」
私はお兄さんが起きた時、混乱してるかもしれないから暴れたりしないように見張ってる役なんだ、と女はベッド横の椅子に座って笑っている。
沢山のチューブに繋がれて、俺は生きているのか。死ぬことすら、出来なかったのか。情けない。
「……俺は、ケジメも、つけらんなかったのか」
「ケジメ?……お兄さん、ヤクザさんだったりする?」
「……お前には関係ない」
「あのさ、東城会の人、だったり?」
「!」
そういえば、先程電話をしていた女の会話の中に、よく知る言葉達が入っていた。どうしてこんな若い女が、東城会と、桐生一馬と繋がりがあるのか。
俺の不信感を込めた視線に気付いたのか、慌てたように女は手振りを激しくする。
「あっ別に私は東城会の人間ってわけでも関係者ってわけでもなくて!前に桐生さんと真島さんにお世話になったっていうか、助けてもらったことがあるっていうか!だから、東城会の人なら、真島さんとかに頼んで迎えとかもお願いできるかもだし、良かったら連絡しようか?」
「必要ない。俺は東城会を乗っ取ろうとした敵だ。そのケジメとして飛び降りたのに、今更どのツラ下げて生きてましたと言えるんだ」
そうだ。言えるわけがない。会えるわけがない。
俺は、死なないといけなかった。自分がしてきたことのケジメを、それで取るつもりだったんだ。
なのに生き永らえただなんて、とんだ恥晒しだ。もう、俺は何者にもなれやしない。
絶望感を抱えながら、古びた天井を眺めていると、女が悲しげに笑う気配がした。
「それでも、もし会いたい人がいるなら、会いに行こうよ。本当に死んじゃったら、二度と会えないんだからさ」
「……」
「悪い事したけど、飛び降りてケジメをつけたんでしょ?お兄さんが生き延びたのは、たまたまだよ。だったら、もう罰は受けたんじゃないの?……お兄さんを待ってる人、いるんじゃないの?」
峯、と、最後に聞いた大吾さんの声が耳にこびりついて離れない。大吾さんは、こんな俺を待ってくれてるだろうか。あの人は優しい人達だから、きっと待ってくれてるだろう。生きていると、思っているなら。
そういえば、大吾さんが入院したとさっき言っていた。どういうことだ。
「六代目は、入院したのか」
「えっ?ああ、そうそう。一ヶ月前かな?六代目さん、撃たれて入院してたけど、その時内部抗争があって、一時的に退院して六代目として表立ってまとめてたんだけど、最近その疲労と傷が開いたとかで再入院したってニュースされててね。そんで、何となく桐生さん知ってるかなー?って雑談電話かけてたんだ」
「……そうか」
六代目は、大吾さんはご無事だろうか。相変わらず東城会のことを考えて、無茶をされたのだろうな。どうか、一日も早く復帰されることを祈るばかりだ。
だが、俺が飛び降りてから一ヶ月も経っていたとは思わなかった。きっと、俺は死んだことになっているだろう。闇医者のところに流れ着いているのがその証拠だ。
俺は、どうして生きているのだろう。
「それで、お兄さん名前は?あ、東城会に連絡してほしくないならしないから大丈夫!名前わかったほうが呼びやすいし、これからリハビリとかも手伝うつもりだし!」
「……リハビリ?」
「身体、まだ動かないでしょ?もう全身の傷凄かったんだって!ひと月も寝てたんだし、私もここまで付き合ったらお兄さんが歩くの見届けたいし!一緒にがんばろーね!あ、そうだ、名前!私の名前は、斎藤なずな。お兄さんは?」
「……義孝」
「んじゃよっしー!今日はお話しして交流を深めようぞ!」
苗字を言いたくなくて下の名前にしたが、こんなに馴れ馴れしく呼ばれるとは思わなかった。こいつ、本当に苦手なタイプの女だな。桐生さんと真島さんの知り合いじゃなければ、ぶん殴りたいほどだ。
ただ、女が一瞬見せた悲しげな笑顔だけは、何故だか無性に気になった。
(2009年なずな23歳)
「生まれ変わったら、俺もそっちにいれるかな」
屋上に柵がなくて良かった。足をずらせばすぐにでも飛び降りる事ができるから。
俺を呼び止める大吾さんの声が聞こえる。桐生さんの声も聞こえる。けれど、俺も極道になったからには今回起こした数々のケジメはつけなければならない。
後悔は、多分していない。俺は俺の意志で、東城会を守ろうと思った。大吾さんがいないなら、俺があの人の意志を継いで東城会を維持していこうと本気で思っていた。
後悔は、していないはずだ。だから、呼ばないでほしい。引き止めようとしないでほしい。そこにいられる資格はないのだから。
けど本当は、貴方の隣で、同じ夢を見たかった、なんて。
「えっ、今沖縄に住んでんの?えー、そうだったんだー!」
何もかもが靄がかかった世界で、軽い声が響いている。うるさい。頭が悪そうな俺の嫌いなタイプの声だ。
「沖縄はね、去年行ったんだよ。そっかー、養護施設かー!観光しかしてないからわかんなかったなー!」
沖縄の話をしているのか。……沖縄の養護施設?
「私?私はね、今病院にいるよ。あ、違う違う!ほら、前に撃たれたじゃん?痣がねー、季節の変わり目になるとじくじく痛くてしんどくて!痛み止めもらいにきたついでに闇医者先生のお手伝いしてるー」
撃たれた?
「うんうん。東城会の六代目さんが入院したってニュース見てびっくりして!なんか大変そうだねー。桐生さんはカタギ?だから直接関係はないんだっけ?それじゃ、真島さんがアレコレ忙しくしてるのかな?差し入れ持ってってみようかな?」
東城会。六代目。桐生。真島。
六代目が入院しただと?!
カバっと上半身を起こすと、激痛が走り声にならない声が出て体を丸めてしまう。その動作もさらに激痛が走る要因となり、いよいよ動けなくなってしまった。
「ちょ、大丈夫ですか?!ごめんね、桐生さん。患者さん起きたみたいだから、また連絡するね!」
傍に控えていたらしい女は、携帯をしまうと俺の体を支えてゆっくりと後ろへ倒す。その際も激痛が走ったが、仰向けに寝転ぶと先ほどよりは幾分マシになった。
「えっと、意識は大丈夫そう?自分の名前とかわかる?お兄さん、どっかの大きな建物から飛び降りたんだって?」
「……」
「なんか、黒服の人達がここにお兄さんともう一人運んできたんだけど、そんなこと言ってたから……。あ、でも……もう一人の人は、ダメだったんだって……知り合い、だった?」
「……どうして、俺は死んでないんだ」
「そりゃあもう闇医者先生が頑張って治療したからだよ!運が良かったんだって言ってたよ」
私はお兄さんが起きた時、混乱してるかもしれないから暴れたりしないように見張ってる役なんだ、と女はベッド横の椅子に座って笑っている。
沢山のチューブに繋がれて、俺は生きているのか。死ぬことすら、出来なかったのか。情けない。
「……俺は、ケジメも、つけらんなかったのか」
「ケジメ?……お兄さん、ヤクザさんだったりする?」
「……お前には関係ない」
「あのさ、東城会の人、だったり?」
「!」
そういえば、先程電話をしていた女の会話の中に、よく知る言葉達が入っていた。どうしてこんな若い女が、東城会と、桐生一馬と繋がりがあるのか。
俺の不信感を込めた視線に気付いたのか、慌てたように女は手振りを激しくする。
「あっ別に私は東城会の人間ってわけでも関係者ってわけでもなくて!前に桐生さんと真島さんにお世話になったっていうか、助けてもらったことがあるっていうか!だから、東城会の人なら、真島さんとかに頼んで迎えとかもお願いできるかもだし、良かったら連絡しようか?」
「必要ない。俺は東城会を乗っ取ろうとした敵だ。そのケジメとして飛び降りたのに、今更どのツラ下げて生きてましたと言えるんだ」
そうだ。言えるわけがない。会えるわけがない。
俺は、死なないといけなかった。自分がしてきたことのケジメを、それで取るつもりだったんだ。
なのに生き永らえただなんて、とんだ恥晒しだ。もう、俺は何者にもなれやしない。
絶望感を抱えながら、古びた天井を眺めていると、女が悲しげに笑う気配がした。
「それでも、もし会いたい人がいるなら、会いに行こうよ。本当に死んじゃったら、二度と会えないんだからさ」
「……」
「悪い事したけど、飛び降りてケジメをつけたんでしょ?お兄さんが生き延びたのは、たまたまだよ。だったら、もう罰は受けたんじゃないの?……お兄さんを待ってる人、いるんじゃないの?」
峯、と、最後に聞いた大吾さんの声が耳にこびりついて離れない。大吾さんは、こんな俺を待ってくれてるだろうか。あの人は優しい人達だから、きっと待ってくれてるだろう。生きていると、思っているなら。
そういえば、大吾さんが入院したとさっき言っていた。どういうことだ。
「六代目は、入院したのか」
「えっ?ああ、そうそう。一ヶ月前かな?六代目さん、撃たれて入院してたけど、その時内部抗争があって、一時的に退院して六代目として表立ってまとめてたんだけど、最近その疲労と傷が開いたとかで再入院したってニュースされててね。そんで、何となく桐生さん知ってるかなー?って雑談電話かけてたんだ」
「……そうか」
六代目は、大吾さんはご無事だろうか。相変わらず東城会のことを考えて、無茶をされたのだろうな。どうか、一日も早く復帰されることを祈るばかりだ。
だが、俺が飛び降りてから一ヶ月も経っていたとは思わなかった。きっと、俺は死んだことになっているだろう。闇医者のところに流れ着いているのがその証拠だ。
俺は、どうして生きているのだろう。
「それで、お兄さん名前は?あ、東城会に連絡してほしくないならしないから大丈夫!名前わかったほうが呼びやすいし、これからリハビリとかも手伝うつもりだし!」
「……リハビリ?」
「身体、まだ動かないでしょ?もう全身の傷凄かったんだって!ひと月も寝てたんだし、私もここまで付き合ったらお兄さんが歩くの見届けたいし!一緒にがんばろーね!あ、そうだ、名前!私の名前は、斎藤なずな。お兄さんは?」
「……義孝」
「んじゃよっしー!今日はお話しして交流を深めようぞ!」
苗字を言いたくなくて下の名前にしたが、こんなに馴れ馴れしく呼ばれるとは思わなかった。こいつ、本当に苦手なタイプの女だな。桐生さんと真島さんの知り合いじゃなければ、ぶん殴りたいほどだ。
ただ、女が一瞬見せた悲しげな笑顔だけは、何故だか無性に気になった。