snobbism(龍如)
DREAM
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私と兄の話。
(2006年優姫20歳)
指定されたのはホテル街の奥まったところにある雑居ビルだった。屋上へ来るよう指示があったので、外の階段を登りながら、ふと街を見下ろしてみた。
もう日付は変わっていて、私の誕生日は通り過ぎた。それにしてもたった二日のことなのに、なんだか長い間ここにいたような気がする。
きっと、この階段を登りきっても兄はいない。電話の向こうにいた澤村という男とその仲間達が待ち構えているのだろうことは、さすがの私にも理解できた。けど、もう十分だと思ったのだ。桐生さんも真島さんも、見た目は強面だけど優しくて、良い人達だった。もう巻き込んじゃいけないんだ。
「綺麗だなぁ」
街中ネオンの明かりがキラキラ輝いて、夜も遅いのに人が沢山歩いていて、本当に賑やかな街だ。優しい人達にも会えたし、楽しい誕生日も過ごせたし、最後にこの街に来られてよかった。ふと、足が止まった。
「私、やっぱりダメだなぁ」
振り返ったら泣いてしまいそうだ。本当は行きたくないに決まってる。けどそれ以上に、私のせいで誰かが傷つく姿を見るのが嫌だった。
この先どんな扱いを受けるのだろうか。金目当てのために飼い殺しとやらにされてしまうのか。生きてさえいればどうでもいいみたいな人なら、物言わぬように口を塞がれてしまうかもしれない。ああ、行きたくないなぁ。
そういえば、錦山さんのことはほとんど覚えてないけど、背中に背負ってもらった記憶はなんとなくあるんだよなぁ。悪い思い出じゃなかったから、きっと良い人だったのだろうんだろうな。桐生さんの兄弟分って言ってたっけ。もっと話聞いてみたかったな。止まった足を、もう一度動かすことにした。
屋上へ到着してしまって、心が沈んでいきそうなのをなんとか耐えて、顔を上げると。
「本当は、東城会のトップなんてどうでも良かったんだよ」
男が一人、血溜まりの中で笑っていた。
人の善意を計るには、何を見ればいいだろうか。
優しさだろうか。それとも捧げられるものの大きさだろうか。
優姫に返されたのは、金だった。
《大丈夫ですか?いやー、辛いことあったら歌うに限りますよ!カラオケとかおススメです!》
《美味しいご飯を食べたら、その日ずっと幸せな気持ちになりますよー!》
《嫌なことって寝たら忘れません?あれ、私が単細胞なだけ?!》
なんでもない言葉達。そのどれもが特別でもなんでもなく、万人が感動するわけでもないありきたりな言葉の羅列だったが、優姫がそれを言った相手達は違った。
その言葉が、ずっと欲しかった。
誰かに、そう言って欲しかった。
笑い飛ばして欲しかったんだと、泣き崩れるほどに心を救われていったのだ。
どうすれば、自分の心を救ってくれた少女に恩返しができるだろうかと考えて、彼らは自分達の強みを思い出す。
お金なら腐るほどある。彼女は裕福そうには見えなかった。そうだ、お金を送ろう。彼女が美味しいご飯を食べれるように。彼女が好きなことをして遊べるように。彼女の生活が何不自由なく潤うように。
金を送るだなんて背徳的に思えるが、それらは紛れもなく、彼らの純粋な善意であったのだ。
「な、なに、これ」
組員達をマシンガンで撃ち殺して流れた血溜まりの中で、男は笑う。優姫は後退りながらも、そう声を振り絞った。
「不要だから処分した。お前の金は俺だけが手にするんだ。すごいよなぁ、金が成り続けるなんて。どんな薬物を使ったんだい?それとも洗脳かな?自分に生涯大金を振り込ませ続けるなんて、どうやったら出来るか教えてくれよ」
「し、らないよ。そもそも、私は誰がお金を送ってきてるかなんて知らない!ねえ、その人達は仲間だったんじゃないの?!なんで、お金なんかのために人を殺せるんだっ!」
「お金だからだろ。金さえあれば何でも手に入るんだ。美味い飯も女も、命だって買えるんだ。最高だよなぁ。お前の通帳の中身を知った時は、殺してやりたいくらい羨ましかったぜ。俺達が必死にシノギで稼いだって届きやしない額を、お前みたいな小娘が何の苦労もなく手にしてんだからよ」
男は羨望と憎悪を込めた目を、優姫へ向ける。返り血を浴びて高級なスーツは真っ赤に染まっているが、男はチグハグな笑顔で高笑いをしていて、この男がすでに狂ってしまったことが一目でわかる。手の届く距離の中で大金を目にしたことで、哀れにも目が眩んでいったのだ。
「……兄貴は、やっぱりいないんだね」
「当たり前だろ。そもそも死んだ人間なんて見つかるはずもない。わかってていつまで夢見てるんだ?」
「……それでも、私はまた会えるって信じてる。兄貴は賢いから、お前みたいなバカには見つけられないだけだ」
「なんだとてめぇ?!俺がバカだってぇ?!」
男が憤慨して歩く度に、足元の血溜まりが雨上がりの水溜まりのようにパシャンと音を立てる。優姫は逃げることもせず、男へ向かっていく。
「バカだろ、お金なんかのために人を殺して!そんなだから何も得られず私みたいな小娘を頼るんだ!仲間がいるなら、一緒に頑張れば良かったのに!」
「うるさいうるさい!!ガキは黙ってろ!!」
「黙らない!お前なんかのせいで……お前のわがままのせいで……ッ!!」
男が銃を構える。優姫はそれに向かって、ただ走っていく。どうなるかなど、一目瞭然だ。このままでは何の策もなく同じ血溜まりに倒れることになるが、優姫は意図せず最強の味方を手に入れていた。
「死ねクソガキがぁッ!!」
「そのガキに銃向けてんじゃねぇッ!!」
「ぐガッ?!」
マシンガンが数発発射され、わっ、と優姫がよろけるも、黒い革手袋がその身体を抱えて銃弾から逃れるように飛び退けた。男はグレースーツの龍に渾身の一撃を受けて数メートル吹き飛ばされている。自分を抱えている眼帯の男を見て優姫は驚いた声を上げた。
「ま、真島さんっ?!桐生さんもっ?!」
「間に合うたな。はー、ほんま勘弁してや優姫ちゃん。蜂の巣寸前やったやんか」
「えっ、えっ、どうしてここが」
「伝説の情報屋ってのがいてな。ここに一部の錦山組が集まっていて、優姫も向かってることを教えてもらってんだ」
「ちょ、伝説の情報屋?!なにそれ詳しく?!」
「後で話してやるよ。それより」
「ああ、澤村の阿呆どないしよか」
呻きながら身体を起こそうとするも、堂島の龍の一撃は伊達ではない。身体を起こすこともままならず、倒れたまま相変わらず羨望と憎悪に塗れた目で三人を睨みつけている。
「クソが、クソクソッ……、目の前に大金があるのに、金の成り続ける木が、あるってのによぉ……ッ!」
「……あの頃の錦がお前らを狂わせちまったのかもしれねぇな。けどなぁ、錦は最後にしっかりケジメをつけたぜ」
「俺に死ねってのか?何も得られず、何も成せないまま俺に惨たらしく死ねって言うのか四代目ぇッ?!」
「……いいや、死ななくていい。お前は務所で反省しろ。お前の身勝手な行動で死んだそいつらに呪われながら生きていけ」
龍は男に背を向ける。この男の悪いところはこういうところだ。甘いのだ。いくら狂犬が「お前は甘い」と言い聞かせても、理解することはなく、簡単に敵に背を向ける。
男がようやく手を動かせるようになったことに、気が付かない。
「お前が死ねぇッ!!桐生ッ!!」
ああ、本当に。
龍は甘いし狂犬は気が付かない。
男が懐に隠し持っていたピストルから放たれた銃弾は、龍を庇うように飛び出した優姫の腹部へ撃ち込まれた。
「優姫ッ!!!」
「優姫ちゃんッ!!!」
ああ、本当に。
俺も、甘くなったものだ。
龍と狂犬が倒れる優姫を抱えるために走り出すのと反対に、俺はサイレンサーをつけた銃を構えて澤村という哀れな男の側へ行き、眉間へ躊躇なく弾を撃ち込んだ。悲鳴もなく澤村は崩れ落ちる。
突如物陰から現れた俺の姿に、優姫を抱えながら強者の二人は目を見開いた。
「まさか、お前が……?」
「優姫の、兄貴なのか?」
優姫が虚な目を開けて、「兄貴、どこ」と手を彷徨わせるものだから、側まで行きその手をしっかりと握り締めた。
(2006年優姫20歳)
指定されたのはホテル街の奥まったところにある雑居ビルだった。屋上へ来るよう指示があったので、外の階段を登りながら、ふと街を見下ろしてみた。
もう日付は変わっていて、私の誕生日は通り過ぎた。それにしてもたった二日のことなのに、なんだか長い間ここにいたような気がする。
きっと、この階段を登りきっても兄はいない。電話の向こうにいた澤村という男とその仲間達が待ち構えているのだろうことは、さすがの私にも理解できた。けど、もう十分だと思ったのだ。桐生さんも真島さんも、見た目は強面だけど優しくて、良い人達だった。もう巻き込んじゃいけないんだ。
「綺麗だなぁ」
街中ネオンの明かりがキラキラ輝いて、夜も遅いのに人が沢山歩いていて、本当に賑やかな街だ。優しい人達にも会えたし、楽しい誕生日も過ごせたし、最後にこの街に来られてよかった。ふと、足が止まった。
「私、やっぱりダメだなぁ」
振り返ったら泣いてしまいそうだ。本当は行きたくないに決まってる。けどそれ以上に、私のせいで誰かが傷つく姿を見るのが嫌だった。
この先どんな扱いを受けるのだろうか。金目当てのために飼い殺しとやらにされてしまうのか。生きてさえいればどうでもいいみたいな人なら、物言わぬように口を塞がれてしまうかもしれない。ああ、行きたくないなぁ。
そういえば、錦山さんのことはほとんど覚えてないけど、背中に背負ってもらった記憶はなんとなくあるんだよなぁ。悪い思い出じゃなかったから、きっと良い人だったのだろうんだろうな。桐生さんの兄弟分って言ってたっけ。もっと話聞いてみたかったな。止まった足を、もう一度動かすことにした。
屋上へ到着してしまって、心が沈んでいきそうなのをなんとか耐えて、顔を上げると。
「本当は、東城会のトップなんてどうでも良かったんだよ」
男が一人、血溜まりの中で笑っていた。
人の善意を計るには、何を見ればいいだろうか。
優しさだろうか。それとも捧げられるものの大きさだろうか。
優姫に返されたのは、金だった。
《大丈夫ですか?いやー、辛いことあったら歌うに限りますよ!カラオケとかおススメです!》
《美味しいご飯を食べたら、その日ずっと幸せな気持ちになりますよー!》
《嫌なことって寝たら忘れません?あれ、私が単細胞なだけ?!》
なんでもない言葉達。そのどれもが特別でもなんでもなく、万人が感動するわけでもないありきたりな言葉の羅列だったが、優姫がそれを言った相手達は違った。
その言葉が、ずっと欲しかった。
誰かに、そう言って欲しかった。
笑い飛ばして欲しかったんだと、泣き崩れるほどに心を救われていったのだ。
どうすれば、自分の心を救ってくれた少女に恩返しができるだろうかと考えて、彼らは自分達の強みを思い出す。
お金なら腐るほどある。彼女は裕福そうには見えなかった。そうだ、お金を送ろう。彼女が美味しいご飯を食べれるように。彼女が好きなことをして遊べるように。彼女の生活が何不自由なく潤うように。
金を送るだなんて背徳的に思えるが、それらは紛れもなく、彼らの純粋な善意であったのだ。
「な、なに、これ」
組員達をマシンガンで撃ち殺して流れた血溜まりの中で、男は笑う。優姫は後退りながらも、そう声を振り絞った。
「不要だから処分した。お前の金は俺だけが手にするんだ。すごいよなぁ、金が成り続けるなんて。どんな薬物を使ったんだい?それとも洗脳かな?自分に生涯大金を振り込ませ続けるなんて、どうやったら出来るか教えてくれよ」
「し、らないよ。そもそも、私は誰がお金を送ってきてるかなんて知らない!ねえ、その人達は仲間だったんじゃないの?!なんで、お金なんかのために人を殺せるんだっ!」
「お金だからだろ。金さえあれば何でも手に入るんだ。美味い飯も女も、命だって買えるんだ。最高だよなぁ。お前の通帳の中身を知った時は、殺してやりたいくらい羨ましかったぜ。俺達が必死にシノギで稼いだって届きやしない額を、お前みたいな小娘が何の苦労もなく手にしてんだからよ」
男は羨望と憎悪を込めた目を、優姫へ向ける。返り血を浴びて高級なスーツは真っ赤に染まっているが、男はチグハグな笑顔で高笑いをしていて、この男がすでに狂ってしまったことが一目でわかる。手の届く距離の中で大金を目にしたことで、哀れにも目が眩んでいったのだ。
「……兄貴は、やっぱりいないんだね」
「当たり前だろ。そもそも死んだ人間なんて見つかるはずもない。わかってていつまで夢見てるんだ?」
「……それでも、私はまた会えるって信じてる。兄貴は賢いから、お前みたいなバカには見つけられないだけだ」
「なんだとてめぇ?!俺がバカだってぇ?!」
男が憤慨して歩く度に、足元の血溜まりが雨上がりの水溜まりのようにパシャンと音を立てる。優姫は逃げることもせず、男へ向かっていく。
「バカだろ、お金なんかのために人を殺して!そんなだから何も得られず私みたいな小娘を頼るんだ!仲間がいるなら、一緒に頑張れば良かったのに!」
「うるさいうるさい!!ガキは黙ってろ!!」
「黙らない!お前なんかのせいで……お前のわがままのせいで……ッ!!」
男が銃を構える。優姫はそれに向かって、ただ走っていく。どうなるかなど、一目瞭然だ。このままでは何の策もなく同じ血溜まりに倒れることになるが、優姫は意図せず最強の味方を手に入れていた。
「死ねクソガキがぁッ!!」
「そのガキに銃向けてんじゃねぇッ!!」
「ぐガッ?!」
マシンガンが数発発射され、わっ、と優姫がよろけるも、黒い革手袋がその身体を抱えて銃弾から逃れるように飛び退けた。男はグレースーツの龍に渾身の一撃を受けて数メートル吹き飛ばされている。自分を抱えている眼帯の男を見て優姫は驚いた声を上げた。
「ま、真島さんっ?!桐生さんもっ?!」
「間に合うたな。はー、ほんま勘弁してや優姫ちゃん。蜂の巣寸前やったやんか」
「えっ、えっ、どうしてここが」
「伝説の情報屋ってのがいてな。ここに一部の錦山組が集まっていて、優姫も向かってることを教えてもらってんだ」
「ちょ、伝説の情報屋?!なにそれ詳しく?!」
「後で話してやるよ。それより」
「ああ、澤村の阿呆どないしよか」
呻きながら身体を起こそうとするも、堂島の龍の一撃は伊達ではない。身体を起こすこともままならず、倒れたまま相変わらず羨望と憎悪に塗れた目で三人を睨みつけている。
「クソが、クソクソッ……、目の前に大金があるのに、金の成り続ける木が、あるってのによぉ……ッ!」
「……あの頃の錦がお前らを狂わせちまったのかもしれねぇな。けどなぁ、錦は最後にしっかりケジメをつけたぜ」
「俺に死ねってのか?何も得られず、何も成せないまま俺に惨たらしく死ねって言うのか四代目ぇッ?!」
「……いいや、死ななくていい。お前は務所で反省しろ。お前の身勝手な行動で死んだそいつらに呪われながら生きていけ」
龍は男に背を向ける。この男の悪いところはこういうところだ。甘いのだ。いくら狂犬が「お前は甘い」と言い聞かせても、理解することはなく、簡単に敵に背を向ける。
男がようやく手を動かせるようになったことに、気が付かない。
「お前が死ねぇッ!!桐生ッ!!」
ああ、本当に。
龍は甘いし狂犬は気が付かない。
男が懐に隠し持っていたピストルから放たれた銃弾は、龍を庇うように飛び出した優姫の腹部へ撃ち込まれた。
「優姫ッ!!!」
「優姫ちゃんッ!!!」
ああ、本当に。
俺も、甘くなったものだ。
龍と狂犬が倒れる優姫を抱えるために走り出すのと反対に、俺はサイレンサーをつけた銃を構えて澤村という哀れな男の側へ行き、眉間へ躊躇なく弾を撃ち込んだ。悲鳴もなく澤村は崩れ落ちる。
突如物陰から現れた俺の姿に、優姫を抱えながら強者の二人は目を見開いた。
「まさか、お前が……?」
「優姫の、兄貴なのか?」
優姫が虚な目を開けて、「兄貴、どこ」と手を彷徨わせるものだから、側まで行きその手をしっかりと握り締めた。