hzbn短編
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この小説の夢小説設定公式情報でも回収されていない伏線や背景、
判明していない設定など不明瞭な情報が多いため、
しばらくは短編で更新していきます。
時系列はバラバラ。
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「散歩がてら新しい肉屋を見てくるので、玄関を掃除しておいて下さい」
『…はーい』
「それとこの棚の中身とあちらの棚の中身を入れ替えておいて下さいね」
『……おっけー』
「こちらも今日中にお願いしま〜す」
『………はいはい』
「………?今日は静かですね」
ある日、いつもならアラスターに一度はつっかかっていたエマが大人しく指示に従っていた。
体調不良のようでもなく、何か考え事をしているだ。それが日中ずっと続いていたためアラスターはさすがに違和感を感じ訊ねてみることにした。
『いや、声だけはいいよなって』
「ンン?」
エマの想定外な返答にアラスターはスラっと長い首を傾けた。
自身の声について他より特別だと自負していたが、エマは毎度「日本人から謙虚さを教わってから地獄に堕とされてほしかった」「ひたすらうるさい」など否定意見ばかりだったのだ。
彼女が怒っているときばかり話題にあがるからか、珍しい言葉に熱でもあるのか?とアラスターは一瞬考える。
しかし馬鹿は風邪を引かないなんて言葉もある。すぐにそんな考えはありえないとし得意げな顔を見せた。
「そうですか!ようやく貴女も認めますか!聞きやすい声でしょう?加えてこのトーク力。ラジオスターになるべくしてなったと言いますか!」
『ドヤ顔むっかつくな』
アラスターの上機嫌な様子とは裏腹にエマは眉間に皺を寄せた。
世間で時折言われる、顔がうるさいというのはこういうことを指すのだろう。
一方のアラスターは意気揚々とエマの横に立ち、煽るように覗き込む。
それはもう人の神経を逆撫でするような表情で。
「でも大人しくなるほど私の声に聞き入っていたんでちゅよね〜?」
『ノイズ加工について観察してたんですー調子に乗らないでくださーい』
アラスターの態度にエマは同じテンションで突き返し、自身の尾を力強く地面に叩きつけた。
叩かれた床の音から彼女が今どれほど苛立っているかが伺える。
エマの反応にアラスターは笑い声のSEを流しながら変わらず楽しそうにしている。
悲しきかな、これが上級悪魔の余裕と力の敵わない悪魔の差だ。
「ニャハ!これも私の声ですよ?」
『もはやそうなんだけど、素の肉声ではないじゃん。まぁベースが良いおかげで普段の加工も良いんだろう、』
「それなら、これでどうですか?」
『ね……ん?…………ん!?』
「素の肉声ではない」と言われたあたりからアラスターは斜め上に目線を向け考える素振りをすると、エマが言い切る前に口を開いた。
空気を揺らしたのは、いつものラジオから流れてくるかのような少しくぐもった声質とは全く別のものだった。
エマもエマでアラスターを視界に入れる程度で注視していなかったため、聞き慣れない声に思わずギョッとした顔でアラスターを見上げる。
「ノイズ無しでも十分良い声でしょう?」
『びっくりした!ノイズ外せたの!?』
アラスターのノイズ混じりの声しか聞いた事がないエマは、くっきりとした肉声に開いた口が塞がらなかった。
そんな彼女の反応をアラスターは楽し気にケタケタと笑い、得意げに振る舞って見せた。
「外せないなんて一度も言ってませんよ。それよりどうなんですか?こっちも良い声でしょう?んーー?」
『待て待て待て……』
アラスターが感想を求めエマに近づく。
エマは反射的に後ずさりしたが、肩を抑えられことで耳元にアラスターの口がさらに近づいた。
「普段の声と今の声、エマはどちらが好きですか?」
『声を潜めるな…!』
知っているのに知らないアラスターの声が囁かれることでエマは混乱する。
耳がこそばゆく思わず下を向き目を瞑った。
エマのか細い必死の抵抗を聞いたアラスターは一瞬目を見開き、静かにエマを横目に見る。
「ん?ああ……これでよく聞こえますー?」
『ギャー!うっっっわ!うるさ!!』
「ニャハハハ!!」
エマの耳元にあったアラスターの声は、その位置のまま間近の相手にするとは到底思えないボリュームで彼女の鼓膜を攻撃した。
もちろんエマは、機能していないはずの心臓が大きく脈打ってもおかしくないほどに飛び上がり悲鳴をあげる。
悲鳴といっても、お世辞にも可愛らしいとはいえないが。
『その角引き抜いてやる!』
「やれるものならどうぞ〜」
エマは肉声も悪くなかったという率直な感想がよぎった自身にも心底苛立ちを覚えた。
今回で酷い目に遭うとわかったので、口が裂けても本人には言ってやるものかと胸に刻む。
しかし一方は新しい遊び方を発見。
それ以降エマと2人のときは時折アラスターのノイズが外れるようになったのだとか。