4043パロ小説まとめ
「…」
番犬は空を見上げた。
小さな村に滞在した翌日、その村に住む娘が朝から見当たらないという。
齢6つの娘の移動範囲などたかが知れているが、村の大人たちはそれでも、思い当たる場所を探したが見つからない、何か知らないかと余所者の竜の騎士とその番犬魔道士に食って掛かった。
「生憎6つの女の子を獲って食ったりする趣味は持ち合わせてなくてな」
飄々と番犬は言う。
顔の半分以上を覆う仮面をつけた竜の騎士も同じく、と言うように首を横に振る。
「なら娘は一体どこに消えたと?あんたらが来たことくらいしかこの村で起きた変化はないよ」
娘の父親は努めて冷静に話を進めているが、それでも愛娘の安否を心配し語気が強まって行くことは隠し切れていなかった。
「疑われることには慣れてるサ。こんな風貌の男が二人も彷徨いてたら俺だって怪しむよ」
無い両腕を振る素振りを見せ、眼帯をしていない右目を怪しく青銅色に輝かせながら、目元を細めて番犬は笑う。
「泊めてもらった礼…になるかは分からんが、どれ、俺が一肌脱いでみようか」
不思議な重心で片足のみで立つ男に、村の大人たちは怪訝な顔を見せる。
「ダイ、連れ出してくれないか」
それまで静かに横に佇んでいた体躯のでかい騎士は、その言葉を聞いてひょい、と番犬を片腕で持ち上げた。
「村の外れ…そうだな、森に近い東の方がいい。精霊の声が聴きやすいだろうよ」
二人は屋外に移動しながら会話を進める。その後を、ぞろぞろと村人たちが続いた。
村の外れには深く茂った林があり、そのさらに奥には森が続く。
顔色ひとつ変えず移動していた騎士と番犬は森の手前で立ち止まり、森の奥を見据えた。
「…」
番犬は空を見上げた。
大きく深呼吸をしたあと、唇を動かして何やら詠唱を始める。
辺境の地に魔道士が来ることなんて殆ど無い。村人たちは心配そうに二人の男を見守った。
小さく動く空気の振動がその場を取り巻き始める。かたかたと動く小石にさわさわと音を立てる木々。
番犬は空を見上げたまま告げる。
「死ぬぞ」
その声を聞いたのは竜の騎士のみ。
「わかった」
刹那、ずしん、という大地を揺さぶるような音と共に、竜の騎士は番犬を空高くに投げ上げた。
投げたと同時に騎士は背に携えた剣を掴み、一直線に森の奥へと消えていく。
森の奥から聞こえてくるのは空を切る音。村人たちには何も見えない。
投げ上げられた番犬はというと、身を捩り着地するかと思いきや、ぴたりと空に足を置き、その場に佇み騎士の進んだ方角を眺めた。
木々の間を縫って進む竜の騎士は、その勢いを止めることなく真っ直ぐに「ソレ」を捉えた。
大柄の獣にも似た魔物は、その腕に小さな命を抱えて連れ去ろうとしている。
魔物は口から瘴気を漏らしながらずしずしと森の奥へ逃げて行こうと必死に走る。その瘴気に長い間触れていれば、小さな体では長くは持たないだろう。
「"死ぬ"…ね」
言葉の真相を完全に理解した騎士は姿勢を低くし、地面に身体を擦りそうな勢いで魔物との距離を縮めていく。それは傍から見れば、滑空して獲物の命を地に叩きつけて奪おうとする竜のようだった。
魔物が、その勢いに慄き姿勢を崩した。
騎士は地面を蹴り、魔物に飛びかかる勢いのまま白く輝く剣を振るう。その剣の軌道は綺麗な半月を描きながら魔物の腕を切り落とし、騎士はそのまま魔物を飛び越えた。
地面に着地した騎士の腕には、気を失って項垂れている少女が大事そうに抱えられている。
「 」
この世のものとは思えない雄叫びを上げて、魔物が啼く。切り落とされた腕を口で咥え、そのまま走り去った。
「…」
騎士は腕の中の少女を確認すると、空を見上げて一声、高い音で啼き声を上げた。
「…終わったみたいだな」
空高く、文字通り高みの見物を決め込んでいた番犬はその声を聴き、無事に少女が見つかったことを察した。
だがその龍の騎士の声に微かに交じる音に、眉を釣り上げて訝しげに森の奥を見た。
「しゃーない、尻拭いしとくか」
ここからは何も見えない。はずである。
番犬は上腕を森の方へと向け、静かに目を瞑った。
ぱちぱちと電気を帯びたような音が混じり始め、なかったはずの前腕が光の粒子となって姿を表す。それは静かに、だが確実に形を形成し、指の先まで生成される。
森の奥。もはや反対側の森の端。
そこに人差し指を向け、小さく呟いた。
「爆烈呪文」
ぼんっ、と爆発音が聞こえ、森の端から天高く炎の柱が上がる。それは長くは続かず、瞬時に小さくなり、何事もなかったかのように消えた。煙一つ上がらず、森の木々を燃やすことなく。
少し満足気に番犬は笑い、自身の足元を見下ろす。
すでに待機していた竜の騎士が両腕を上げて待ち構えている。
番犬はそのまま重力に逆らうことをやめて、真っ直ぐに竜の騎士の腕の中へと落ちた。
小さな少女は恥ずかしそうに父親の後ろに隠れた。
無事に帰ってきたことに感謝し、疑ってしまったことを父親は詫びたが、竜の騎士は小さく首を横に振り、言葉を続けた。
「無事でよかった。あたりの魔物は殲滅する。またしばらくは怯えることなく過ごせるだろう」
せめてもう一日村に止まらないか。父親は提案したが、今度は番犬が首を横に振る。
「次の地もきっとまた魔物に苦しんでるだろうさ。そこも解放してやらんと、またそこのお嬢ちゃんみたいな被害が出る。今度こそ命を落とすかもしれないしな」
村を発った二人は、また静かに足を進めた。
「次はどこだろうな、飯がうまい所がいい。あの村の干し肉や野菜も良かったが、しばらくは魚が食いたい」
番犬はからからと笑いながら話す。
「なら次は海の方に向かおう。魔物の群れが発生した海岸沿いの集落の話を聞いた」
相変わらずその腕に番犬を抱き上げ、竜の騎士は遠くを眺めながら言う。
「いやにお誂え向きじゃねぇか。んじゃ、そっちに向かいますか。ダイ、よろしく頼むぜ」
上腕のみの腕で騎士の頭をぽんぽんと叩き、番犬は前を向いた。
「あぁ、次のところはどんなことが起きるだろうな、ポップ」
竜の騎士もまた、微笑みながら番犬と同じ方角に目を向けて歩みを進めた。
番犬は空を見上げた。
小さな村に滞在した翌日、その村に住む娘が朝から見当たらないという。
齢6つの娘の移動範囲などたかが知れているが、村の大人たちはそれでも、思い当たる場所を探したが見つからない、何か知らないかと余所者の竜の騎士とその番犬魔道士に食って掛かった。
「生憎6つの女の子を獲って食ったりする趣味は持ち合わせてなくてな」
飄々と番犬は言う。
顔の半分以上を覆う仮面をつけた竜の騎士も同じく、と言うように首を横に振る。
「なら娘は一体どこに消えたと?あんたらが来たことくらいしかこの村で起きた変化はないよ」
娘の父親は努めて冷静に話を進めているが、それでも愛娘の安否を心配し語気が強まって行くことは隠し切れていなかった。
「疑われることには慣れてるサ。こんな風貌の男が二人も彷徨いてたら俺だって怪しむよ」
無い両腕を振る素振りを見せ、眼帯をしていない右目を怪しく青銅色に輝かせながら、目元を細めて番犬は笑う。
「泊めてもらった礼…になるかは分からんが、どれ、俺が一肌脱いでみようか」
不思議な重心で片足のみで立つ男に、村の大人たちは怪訝な顔を見せる。
「ダイ、連れ出してくれないか」
それまで静かに横に佇んでいた体躯のでかい騎士は、その言葉を聞いてひょい、と番犬を片腕で持ち上げた。
「村の外れ…そうだな、森に近い東の方がいい。精霊の声が聴きやすいだろうよ」
二人は屋外に移動しながら会話を進める。その後を、ぞろぞろと村人たちが続いた。
村の外れには深く茂った林があり、そのさらに奥には森が続く。
顔色ひとつ変えず移動していた騎士と番犬は森の手前で立ち止まり、森の奥を見据えた。
「…」
番犬は空を見上げた。
大きく深呼吸をしたあと、唇を動かして何やら詠唱を始める。
辺境の地に魔道士が来ることなんて殆ど無い。村人たちは心配そうに二人の男を見守った。
小さく動く空気の振動がその場を取り巻き始める。かたかたと動く小石にさわさわと音を立てる木々。
番犬は空を見上げたまま告げる。
「死ぬぞ」
その声を聞いたのは竜の騎士のみ。
「わかった」
刹那、ずしん、という大地を揺さぶるような音と共に、竜の騎士は番犬を空高くに投げ上げた。
投げたと同時に騎士は背に携えた剣を掴み、一直線に森の奥へと消えていく。
森の奥から聞こえてくるのは空を切る音。村人たちには何も見えない。
投げ上げられた番犬はというと、身を捩り着地するかと思いきや、ぴたりと空に足を置き、その場に佇み騎士の進んだ方角を眺めた。
木々の間を縫って進む竜の騎士は、その勢いを止めることなく真っ直ぐに「ソレ」を捉えた。
大柄の獣にも似た魔物は、その腕に小さな命を抱えて連れ去ろうとしている。
魔物は口から瘴気を漏らしながらずしずしと森の奥へ逃げて行こうと必死に走る。その瘴気に長い間触れていれば、小さな体では長くは持たないだろう。
「"死ぬ"…ね」
言葉の真相を完全に理解した騎士は姿勢を低くし、地面に身体を擦りそうな勢いで魔物との距離を縮めていく。それは傍から見れば、滑空して獲物の命を地に叩きつけて奪おうとする竜のようだった。
魔物が、その勢いに慄き姿勢を崩した。
騎士は地面を蹴り、魔物に飛びかかる勢いのまま白く輝く剣を振るう。その剣の軌道は綺麗な半月を描きながら魔物の腕を切り落とし、騎士はそのまま魔物を飛び越えた。
地面に着地した騎士の腕には、気を失って項垂れている少女が大事そうに抱えられている。
「 」
この世のものとは思えない雄叫びを上げて、魔物が啼く。切り落とされた腕を口で咥え、そのまま走り去った。
「…」
騎士は腕の中の少女を確認すると、空を見上げて一声、高い音で啼き声を上げた。
「…終わったみたいだな」
空高く、文字通り高みの見物を決め込んでいた番犬はその声を聴き、無事に少女が見つかったことを察した。
だがその龍の騎士の声に微かに交じる音に、眉を釣り上げて訝しげに森の奥を見た。
「しゃーない、尻拭いしとくか」
ここからは何も見えない。はずである。
番犬は上腕を森の方へと向け、静かに目を瞑った。
ぱちぱちと電気を帯びたような音が混じり始め、なかったはずの前腕が光の粒子となって姿を表す。それは静かに、だが確実に形を形成し、指の先まで生成される。
森の奥。もはや反対側の森の端。
そこに人差し指を向け、小さく呟いた。
「爆烈呪文」
ぼんっ、と爆発音が聞こえ、森の端から天高く炎の柱が上がる。それは長くは続かず、瞬時に小さくなり、何事もなかったかのように消えた。煙一つ上がらず、森の木々を燃やすことなく。
少し満足気に番犬は笑い、自身の足元を見下ろす。
すでに待機していた竜の騎士が両腕を上げて待ち構えている。
番犬はそのまま重力に逆らうことをやめて、真っ直ぐに竜の騎士の腕の中へと落ちた。
小さな少女は恥ずかしそうに父親の後ろに隠れた。
無事に帰ってきたことに感謝し、疑ってしまったことを父親は詫びたが、竜の騎士は小さく首を横に振り、言葉を続けた。
「無事でよかった。あたりの魔物は殲滅する。またしばらくは怯えることなく過ごせるだろう」
せめてもう一日村に止まらないか。父親は提案したが、今度は番犬が首を横に振る。
「次の地もきっとまた魔物に苦しんでるだろうさ。そこも解放してやらんと、またそこのお嬢ちゃんみたいな被害が出る。今度こそ命を落とすかもしれないしな」
村を発った二人は、また静かに足を進めた。
「次はどこだろうな、飯がうまい所がいい。あの村の干し肉や野菜も良かったが、しばらくは魚が食いたい」
番犬はからからと笑いながら話す。
「なら次は海の方に向かおう。魔物の群れが発生した海岸沿いの集落の話を聞いた」
相変わらずその腕に番犬を抱き上げ、竜の騎士は遠くを眺めながら言う。
「いやにお誂え向きじゃねぇか。んじゃ、そっちに向かいますか。ダイ、よろしく頼むぜ」
上腕のみの腕で騎士の頭をぽんぽんと叩き、番犬は前を向いた。
「あぁ、次のところはどんなことが起きるだろうな、ポップ」
竜の騎士もまた、微笑みながら番犬と同じ方角に目を向けて歩みを進めた。
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