転生パロのダイポプ。 -再会して恋をして-
引っ越して数日。
初日の触れ合いにお互いギクシャクしていたが、日が経てばまたいつもの距離感に戻る。
ダイも通学とバイトに何不便なく行き来できているとのことで、とりあえずは安心した。
俺はというと、多少前のところよりは通勤の時間を取られるようになったが、難なく仕事を続けられそうだ。
家に帰れば人の作った飯があり、時には暖かい湯船につかれる。ベッドのシーツが洗いたてになったり、ワイシャツが丁寧にハンガーに掛かっている。通勤時間が伸びたことよりもメリットがでかい。人としてのマトモな生活が手に入ったんだから、ルームシェアが性急だったと後悔した気持ちは一週間立たずに吹き飛んだ。
そんな矢先、待ってました!と言わんばかりに、取引先のクライアント様の傍若無人が炸裂する。
「とっ、泊まり込みで仕事…?今から?!」
雷に打たれた様に、ダイは声を上げた。
「もうホント参っちゃうよなあのクライアントクソ野郎覚えてろよ畜生馬鹿野郎」
ローテーブルにめり込むほど顔を押し付けてオレは項垂れた。
「仕様の変更はもう少し前から申告しておけって言ったじゃねぇか、一日二日でなんとかなるモンじゃねぇんだぞ、くそぉ…」
頭を掻きむしり、ただただ愚痴が口から溢れ出る。
オロオロとするダイに顔を向け、申し訳ない気持ちで謝った。
「悪ィな、せっかくの愛の巣で育むラブラブ大作戦だったのによ」
へへっ、と笑うと、ダイは首を横に振った。
「お前を助けてやれないけど、俺は俺が出来ることをするからさ」
相変わらず頼もしい相棒だ。立ち上がり、ダイの頭を撫でてやる。
「うっし、じゃあお言葉に甘えて俺は出陣してくるぜ」
ワイシャツにネクタイ、スーツを着込む。必要最低限の道具をビジネスバッグに詰め込んで、俺は新居を飛び出した。もう夜の七時を回っていて、すれ違う人はみんなこれから帰宅するだけの同じ社会人たちだ。
早くコトを済ませてダイを安心させてやる、美味い飯作れるように頑張ってる相棒の飯かっくらってやる、もっと勉強のサポートして俺よりホワイトな職場に放り込んでやる。そのためにもクライアントの息の根を(仕事の出来で)止めてやる。
少しでも早く帰れるように、少しでも早く仕事を片付けられるように、走って駅に駆け込んだ。
:::
「⚪︎▪︎、仕様書は?」
⚪︎▪︎は俺の『今世』の名前だ。
忙しそうにデスクに駆け寄る先輩に目を向けずに、ひたすらキーボードを叩く。
「もう再提出済みです。どうせクライアントまともに目も通さないでゴーサイン出して捨てると思いますけど、念のため議事録とバックアップを共有ファイルの中にぶち込んでおいたんで、みなさんで共有してください」
「悪い、助かる。新しいところに引っ越したばかりで早々に泊まり込みとか、ついてないな」
ははっ、と先輩は笑った。
「ぜってークライアント泣かせてやります。工賃クソ程ふんだくってやる」
プログラムを仕込みながら意気込んだ俺を見て、「その粋だ、頑張れよ」、と先輩はまた忙しそうに駆け出して行った。
クソクライアントクソ野郎の気まぐれ仕様変更令から十日ほど。
オフィスには俺を含め4、5人の男たちが、ひたすらカチャカチャとキーボードを叩いていた。
他の部署の人間が出入りをしたりして、深夜を回っているのに妙に活気がある。
液晶画面との睨めっこで負けそうになってきた目に目薬を刺しながら、もはや何本目か分からないエナジードリンクを喉の奥に流し込む。元々積まれていた空き缶の上に、飲み終えた缶をそっとさらに上乗せした。仮眠をとっていてももはや頭はまともに回らなくなっており、積み上げた空き缶の数と高さのみを誇らしく思えてきていた。
手元にある携帯端末の画面が光る。
「おっ、夜更かしか?相棒」
律儀に毎日何かしらの連絡を入れてくれるダイからのメッセージは、この過酷な仕事の中での唯一の癒しになっていた。
【今日は魚を焼いた】
【レオナとマァムの三人で買い物】
【道にいた猫】
【夕陽が綺麗だよ】
なんてことはない、短い日記のようなメッセージ。
せっかくの二人暮らしが始まったばかりだったのに申し訳ねぇな、と思いながらも、意外とこう言うやりとりも悪くない、と送られてきた画像を保存していく。
【まだ頑張ってるの?休んでる?】
既読のついたメッセージに反応して、返信が届く。
【今仕事やっつけてる。お前も夜更かししすぎるなよ。】
タタッと返事を返して、またキーボードを叩く仕事に戻る。
直ぐに返事がついて、通知を見る。
【うん。おやすみ。また明日。】
明日もまた、何か何気ないダイの日常が見れるのか。
それだけで十分元気を貰えるもんだ、とまた画面と睨めっこを始めた。
そこで無意識に、“早くダイに会いたい”と願った感情に、俺はまだ気がついていなかった。
:::
さらに二週間かかり、なんとか要望よりも遥かに出来のいい仕上がりで仕事を片付けた。
これ以上の出来は今後ないだろう。文字通り(急な仕様変更のため請求金額を爆上げして)クライアントを泣かせてやった。
一大プロジェクトも終わり、夕日を拝む前に会社を出ることができた。
カンヅメだったが、なんとなく定時みたいな時間に上がれたのは気分がいい。ダイに土産でも買って帰ろう。甘いものがいいか、食いでのあるものがいいか。立ち寄った自販機で買ったコンポタージュを飲み干して小腹を満たす。
「 」
小さく聞こえた悲鳴。
かすかに恐怖が交じるどよめき。
よせばいいのに『昔』の癖だ。自然と足が声の方に向いて動き出す。
人通りの多い道に出た。
早くに帰宅できる社会人や親子、年寄りと年齢も性別も様々。客引きの声、笑い合う大学生、惣菜の匂い。
先ほどの悲鳴は、その中心部。駅近くの定食屋の前からだった。
「うあああああああ」
刃物を振り回す男が一人。
その周りからなんとか逃げようと人が押し合って人だかりが出来ている。
「てめぇ、金、返せよ。俺のだぞ。国のだぞ」
支離滅裂なことを口走り、虚ろな目で人を追いかけては刃物を振るう。
「なんなんですか、あなたなんか知りません。誰か、警察を」
見境なしに襲っている様子で、誰も男の名を呼ぶ奴もいない。となると、通り魔なのかもしれない。心神喪失で捕まっても罪って確か軽いんだっけ?
『向こうの世界で起きた事』と比べたらなんてことのない事件だ、と思いながら遠巻きに見る。今のところ怪我人は居ないようだ。
人が引き、男との距離が少し近くなる。
ばちっ、と視線がぶつかった刹那、男はコチラに向かって刃物を振りかざして走ってくる。
まずいな、『ここ』じゃ『ただの人間』だ。
魔法が使えれば帰宅だって楽だったのに。
定食屋の店主と思わしき老輩の男性に声をかけた。
「おっちゃん、ちょっとのぼり借りるぜ」
纏うのぼり旗を引き千切り、棒を構える。
間合いに入った男を難なく交わし、すれ違いざまに背中を小突いて距離を取った。
『ブラックロッド』が伸びたのをいいことに、カッコつけて棍術を習得していて良かった。
まさか『ここ』でも役に立つとは思わなかったが。
「お前、金」
ヨロヨロと振り向き、刃物を振り回す。
『修行』で飛んできた石なんかより遥かにゆったりだ。
軽くいなして距離だけは取り続ける。
人が少ない場所まで誘導しつつ、意識が俺以外に向かないようにあれこれと話しかける。
「金、大事だよねー。遊び回るには最近は物価が高すぎる」
「今すぐ返せよ、倍にして返せよ」
「いくら借りたか覚えてないんだけど、返せそうな額だったかな」
「財布、サイフだ、捕ったな、俺から財布」
「そんな、落ちてた財布なら交番に届けちゃう善人だぜ?きっと人違いだ、な?どちらかって言うとそのナイフ落として欲しいんだけどな、今は」
かなりの距離を稼げたか。パトカーのサイレンも遠くから聞こえてくる。
素早く男の手から刃物をはたき落とし、間合いを詰める。
「悪ィな、もっと話聞いてやりたいんだが、俺も帰らなきゃなんねぇんだ。あとはポリ公サン達に人生相談してくれや」
男の懐に入り込み、そのまま棒を上に振り上げる。
見事に相手の顎にクリーンヒットし、男はそのまま後ろに弧を描きながら吹き飛んでいった。
がらがら、がしゃん。
大きな音を立てて店先の空のケースにぶつかり、項垂れる。
そのままぴくりともせずに男は気を失った。
「おっちゃん、棒あんがとね。暖簾とか弁償したいんだけど、幾ら?」
カバンの中から財布を取り出そうとしたが、店主に大丈夫だよ、と止められた。
「兄ちゃん強いな、なんの人だい」
…『大魔道士』、なんて言っても通じねぇもんな。
「ただの気のいい男ですよん、ちょっと強いだけのね」
ファンファンと大きな音を響かせて到着するパトカー。
ことが済んで立ち去ろうとしたが、駆けつけた警官に呼び止められる。
群衆から聞こえるカメラのシャッター音。
取り押さえた男を見る好奇の眼差し。
指を指して別の警官に「あの人が抑えてくれました」と興奮気味に話す店主。
警官は職務を果たすために話を続けた。
「詳しい話をお聞きしていいですか」
あんなに明るかった空は、もうとっぷりと闇に染まって微かに星さえ見えている。
定時あがりとは何だったのか、と肩を落として警官の職務に貢献した。
初日の触れ合いにお互いギクシャクしていたが、日が経てばまたいつもの距離感に戻る。
ダイも通学とバイトに何不便なく行き来できているとのことで、とりあえずは安心した。
俺はというと、多少前のところよりは通勤の時間を取られるようになったが、難なく仕事を続けられそうだ。
家に帰れば人の作った飯があり、時には暖かい湯船につかれる。ベッドのシーツが洗いたてになったり、ワイシャツが丁寧にハンガーに掛かっている。通勤時間が伸びたことよりもメリットがでかい。人としてのマトモな生活が手に入ったんだから、ルームシェアが性急だったと後悔した気持ちは一週間立たずに吹き飛んだ。
そんな矢先、待ってました!と言わんばかりに、取引先のクライアント様の傍若無人が炸裂する。
「とっ、泊まり込みで仕事…?今から?!」
雷に打たれた様に、ダイは声を上げた。
「もうホント参っちゃうよなあのクライアントクソ野郎覚えてろよ畜生馬鹿野郎」
ローテーブルにめり込むほど顔を押し付けてオレは項垂れた。
「仕様の変更はもう少し前から申告しておけって言ったじゃねぇか、一日二日でなんとかなるモンじゃねぇんだぞ、くそぉ…」
頭を掻きむしり、ただただ愚痴が口から溢れ出る。
オロオロとするダイに顔を向け、申し訳ない気持ちで謝った。
「悪ィな、せっかくの愛の巣で育むラブラブ大作戦だったのによ」
へへっ、と笑うと、ダイは首を横に振った。
「お前を助けてやれないけど、俺は俺が出来ることをするからさ」
相変わらず頼もしい相棒だ。立ち上がり、ダイの頭を撫でてやる。
「うっし、じゃあお言葉に甘えて俺は出陣してくるぜ」
ワイシャツにネクタイ、スーツを着込む。必要最低限の道具をビジネスバッグに詰め込んで、俺は新居を飛び出した。もう夜の七時を回っていて、すれ違う人はみんなこれから帰宅するだけの同じ社会人たちだ。
早くコトを済ませてダイを安心させてやる、美味い飯作れるように頑張ってる相棒の飯かっくらってやる、もっと勉強のサポートして俺よりホワイトな職場に放り込んでやる。そのためにもクライアントの息の根を(仕事の出来で)止めてやる。
少しでも早く帰れるように、少しでも早く仕事を片付けられるように、走って駅に駆け込んだ。
:::
「⚪︎▪︎、仕様書は?」
⚪︎▪︎は俺の『今世』の名前だ。
忙しそうにデスクに駆け寄る先輩に目を向けずに、ひたすらキーボードを叩く。
「もう再提出済みです。どうせクライアントまともに目も通さないでゴーサイン出して捨てると思いますけど、念のため議事録とバックアップを共有ファイルの中にぶち込んでおいたんで、みなさんで共有してください」
「悪い、助かる。新しいところに引っ越したばかりで早々に泊まり込みとか、ついてないな」
ははっ、と先輩は笑った。
「ぜってークライアント泣かせてやります。工賃クソ程ふんだくってやる」
プログラムを仕込みながら意気込んだ俺を見て、「その粋だ、頑張れよ」、と先輩はまた忙しそうに駆け出して行った。
クソクライアントクソ野郎の気まぐれ仕様変更令から十日ほど。
オフィスには俺を含め4、5人の男たちが、ひたすらカチャカチャとキーボードを叩いていた。
他の部署の人間が出入りをしたりして、深夜を回っているのに妙に活気がある。
液晶画面との睨めっこで負けそうになってきた目に目薬を刺しながら、もはや何本目か分からないエナジードリンクを喉の奥に流し込む。元々積まれていた空き缶の上に、飲み終えた缶をそっとさらに上乗せした。仮眠をとっていてももはや頭はまともに回らなくなっており、積み上げた空き缶の数と高さのみを誇らしく思えてきていた。
手元にある携帯端末の画面が光る。
「おっ、夜更かしか?相棒」
律儀に毎日何かしらの連絡を入れてくれるダイからのメッセージは、この過酷な仕事の中での唯一の癒しになっていた。
【今日は魚を焼いた】
【レオナとマァムの三人で買い物】
【道にいた猫】
【夕陽が綺麗だよ】
なんてことはない、短い日記のようなメッセージ。
せっかくの二人暮らしが始まったばかりだったのに申し訳ねぇな、と思いながらも、意外とこう言うやりとりも悪くない、と送られてきた画像を保存していく。
【まだ頑張ってるの?休んでる?】
既読のついたメッセージに反応して、返信が届く。
【今仕事やっつけてる。お前も夜更かししすぎるなよ。】
タタッと返事を返して、またキーボードを叩く仕事に戻る。
直ぐに返事がついて、通知を見る。
【うん。おやすみ。また明日。】
明日もまた、何か何気ないダイの日常が見れるのか。
それだけで十分元気を貰えるもんだ、とまた画面と睨めっこを始めた。
そこで無意識に、“早くダイに会いたい”と願った感情に、俺はまだ気がついていなかった。
:::
さらに二週間かかり、なんとか要望よりも遥かに出来のいい仕上がりで仕事を片付けた。
これ以上の出来は今後ないだろう。文字通り(急な仕様変更のため請求金額を爆上げして)クライアントを泣かせてやった。
一大プロジェクトも終わり、夕日を拝む前に会社を出ることができた。
カンヅメだったが、なんとなく定時みたいな時間に上がれたのは気分がいい。ダイに土産でも買って帰ろう。甘いものがいいか、食いでのあるものがいいか。立ち寄った自販機で買ったコンポタージュを飲み干して小腹を満たす。
「 」
小さく聞こえた悲鳴。
かすかに恐怖が交じるどよめき。
よせばいいのに『昔』の癖だ。自然と足が声の方に向いて動き出す。
人通りの多い道に出た。
早くに帰宅できる社会人や親子、年寄りと年齢も性別も様々。客引きの声、笑い合う大学生、惣菜の匂い。
先ほどの悲鳴は、その中心部。駅近くの定食屋の前からだった。
「うあああああああ」
刃物を振り回す男が一人。
その周りからなんとか逃げようと人が押し合って人だかりが出来ている。
「てめぇ、金、返せよ。俺のだぞ。国のだぞ」
支離滅裂なことを口走り、虚ろな目で人を追いかけては刃物を振るう。
「なんなんですか、あなたなんか知りません。誰か、警察を」
見境なしに襲っている様子で、誰も男の名を呼ぶ奴もいない。となると、通り魔なのかもしれない。心神喪失で捕まっても罪って確か軽いんだっけ?
『向こうの世界で起きた事』と比べたらなんてことのない事件だ、と思いながら遠巻きに見る。今のところ怪我人は居ないようだ。
人が引き、男との距離が少し近くなる。
ばちっ、と視線がぶつかった刹那、男はコチラに向かって刃物を振りかざして走ってくる。
まずいな、『ここ』じゃ『ただの人間』だ。
魔法が使えれば帰宅だって楽だったのに。
定食屋の店主と思わしき老輩の男性に声をかけた。
「おっちゃん、ちょっとのぼり借りるぜ」
纏うのぼり旗を引き千切り、棒を構える。
間合いに入った男を難なく交わし、すれ違いざまに背中を小突いて距離を取った。
『ブラックロッド』が伸びたのをいいことに、カッコつけて棍術を習得していて良かった。
まさか『ここ』でも役に立つとは思わなかったが。
「お前、金」
ヨロヨロと振り向き、刃物を振り回す。
『修行』で飛んできた石なんかより遥かにゆったりだ。
軽くいなして距離だけは取り続ける。
人が少ない場所まで誘導しつつ、意識が俺以外に向かないようにあれこれと話しかける。
「金、大事だよねー。遊び回るには最近は物価が高すぎる」
「今すぐ返せよ、倍にして返せよ」
「いくら借りたか覚えてないんだけど、返せそうな額だったかな」
「財布、サイフだ、捕ったな、俺から財布」
「そんな、落ちてた財布なら交番に届けちゃう善人だぜ?きっと人違いだ、な?どちらかって言うとそのナイフ落として欲しいんだけどな、今は」
かなりの距離を稼げたか。パトカーのサイレンも遠くから聞こえてくる。
素早く男の手から刃物をはたき落とし、間合いを詰める。
「悪ィな、もっと話聞いてやりたいんだが、俺も帰らなきゃなんねぇんだ。あとはポリ公サン達に人生相談してくれや」
男の懐に入り込み、そのまま棒を上に振り上げる。
見事に相手の顎にクリーンヒットし、男はそのまま後ろに弧を描きながら吹き飛んでいった。
がらがら、がしゃん。
大きな音を立てて店先の空のケースにぶつかり、項垂れる。
そのままぴくりともせずに男は気を失った。
「おっちゃん、棒あんがとね。暖簾とか弁償したいんだけど、幾ら?」
カバンの中から財布を取り出そうとしたが、店主に大丈夫だよ、と止められた。
「兄ちゃん強いな、なんの人だい」
…『大魔道士』、なんて言っても通じねぇもんな。
「ただの気のいい男ですよん、ちょっと強いだけのね」
ファンファンと大きな音を響かせて到着するパトカー。
ことが済んで立ち去ろうとしたが、駆けつけた警官に呼び止められる。
群衆から聞こえるカメラのシャッター音。
取り押さえた男を見る好奇の眼差し。
指を指して別の警官に「あの人が抑えてくれました」と興奮気味に話す店主。
警官は職務を果たすために話を続けた。
「詳しい話をお聞きしていいですか」
あんなに明るかった空は、もうとっぷりと闇に染まって微かに星さえ見えている。
定時あがりとは何だったのか、と肩を落として警官の職務に貢献した。