転生パロのダイポプ。 -再会して恋をして-
波とそれを運ぶ風の音で我に返る。
ダイの、返事を待つような色を見せる顔にはっとした。
先程とは打って変わって震えて小さく揺らぐ瞳からは、己の発言に対して、ダイ自身も動揺していることを物語る。
何か言葉を返してやらないといけない。
必死に考えても、脳の回路が焼き切れてしまったように上手く言葉が出てこない。相変わらず心音は激しいままで、うるさいったらありゃしない。
やっと絞り出した言葉に、情けなさが滲み出る。
「それってさ、今俺、告白されたんだよな」
帰ってきた言葉にびくん、と体を震わすダイ。
唇を噛み締め、今にも泣きだしそうな笑い顔で言葉を絞り出す。
「うん。お前が好き。もう離れたくない」
やっとのことで、視線をダイから逸らした。
「そっか」とだけ、言葉を返して海を眺めた。
ダイの手が、戸惑う様子を見せつつも、もう一度俺の手と重なる。
その手を振り解くこともせず、ただ握り返した。
好きだ、と告げられたことに嫌な気持ちはない。
ただこの告白をどう受け止めていいのか、俺にはわからなかった。
俺もお前が好きだぜ。
結構長い間好きで居てくれたんだな。
ありがとな。
そう言えたら、どれだけ良かったか。
そんな単純なことでは済まない。
ダイの告白を”嬉しく”思うよりも先に、"当惑"と"戸惑い”が脳を小突いた。
『今の今まで』、”そういった感情”を向ける対象として、ダイを見たことがなかったからだ。
こいつは俺にとって特別な存在だろうとは思っている。
でもそれが"恋愛感情"に結びつくかといえば、違う。
好きだ、という感情を向けられて嬉しくないわけでもない。人を好きになる気持ちは分かるつもりだ。
ただ。
その対象に見合う感情が、覚悟が、今の俺にはまだ備わっていない。
俺にとってダイは大切な弟弟子であり、大切な仲間であり、大切な相棒だ。
今はそれ以上でも以下でもない。
この『勇者』に恋をすることが、今はまだ、出来ない。
でも、今伝えられる言葉はあるはずだ。
「俺のどこにそんなに惚れちゃったのかね、お前は」
ちゃんとダイの顔を見て笑いかける。
なんとなく、いつもの調子に戻せた気がする。
ダイは一瞬目を丸くしたが、ようやく笑顔を見せた。
”好意的な返答だった”と受け取ってくれたようでひとまず安心した。
そこからはまた昼間と同じ調子で会話ができた。
そのまま『昔話』に花が咲いたりしたが、二人とも無意識に、"この先の事"と"お互いの気持ち"については避け続けた。
話し込んでふと見上げた空。
時間はといえば、とっくに水平線の奥から薄っすらと光が漏れ、太陽が起きようとしていた。
始発の電車に乗り込む。
お互い窓の外を眺めたまま、特に言葉を交わさない。
流れていく景色が恐ろしくゆっくり見えて、時間が流れてるのかも分からなくなっていた。
あの一瞬の出来事が俺に与えた衝撃はデカかった。
まだそれ程時間は経っていないのに、なんだか遠く昔の記憶のようにも感じ始める。
悶々と考えて隣を見ると、なんとも情けないくらいに視線を泳がせて、落ち着きなく座るダイが視界に入った。
人に気持ちを伝えるのは重労働だ。
欲しい答えが帰ってこない可能性を考えると、無闇矢鱈に口から出していいモンでもない、と考える。
好きな子に、他に好きな奴がいたら?そっちと運命を共にする方がサマになってるとしたら?っていうか、告白して対象として見られてないと言われたらどうする?その先の未来をなんとか創造して振り向かせることは出来るのか?
…なんだ、コレは『前世』の俺じゃないか。
すとん、と何かが腑に落ちた。ならダイのあの気持ちをどうしてやればいいのか、答えはもう分かったも同然だ。
膝を叩き、突然立ち上がる俺を見て驚くダイに、とびきりの笑顔を向けてこう言った。
「よし、今からルームシェアの物件観に行くか!」
他に誰もいない車内に響き渡る突拍子もない提案に、ダイはただ目を白黒させて俺の顔を見つめるだけだった。
地元付近まで戻ってきて、お互いの生活圏で良さそうな物件を提示する不動産屋を見て回る。俺の会社から近くて、ダイの大学に近いところ。
いざって時は在宅で仕事すればいいか、技能はあるから会社を替えてもいいな、なんて考えながら見て回っていると、ずっと困惑していたダイがシャツの裾を引っ張った。
「どうして急に、こんな」
さっき気持ちに気付いて告白したばかりの相手が突然同棲しようと提案したら、そりゃそんな眉の端が垂れた顔にもなる。
「簡単な話よ、俺がお前との"未来"を検討するためだ」
話が見えない、と目で訴える相棒に向き直る。
「俺はね、好きって言ってもらえたのはすげぇ嬉しい。が、お前を恋愛対象としてはまだ見れちゃいないんだよ」
素直に言葉を伝えて話を続ける。
「だからこれからそれを"育てる"、"検討する"。その結果としてお前を恋愛対象として好きになれれば、お互い最高だと思わないか?」
かつて惚れた女に言われた事だ。
まだ今は分からない。でも、もしかしたら未来は。
「そんで、それを育む"愛の巣"として、ルームシェアをご提案したってワケ。オッケー?」
ふふん、と鼻を膨らませて話し終えた俺の顔を見て、ダイは俺の考えが少し呑み込めたようだ。
口をもごもごと動かし考えるように宙を見上げたあと、フッ、と口角を上げて俺を見据える。
「じゃあその気持ちを育てるチャンスをくれるんだ?」
まるで「絶対に好きにさせる」と言わんばかりの瞳の奥に、一瞬『碧』にも似た色合いの炎が揺らめいたように見えた。
「お前次第だよ。精進し給え、勇者クン」
この勝負、まだ始まってないのになんだか急に負けそうな気がしてきた。
そんな気持ちを悟られない様、俺はウィンクを飛ばして誤魔化した。
:::
残った2日の有給で、驚くほどトントン拍子で事は進んだ。
まずはダイの両親…バランにルームシェアについて説明しなければならないと考えた。
まさかド直球に「二人で愛を育みたいので」とは言えないので、ダイの将来について必要な勉強へのアドバイスやサポートをしてやりたいこと、バイトや大学への移動の負担を減らして勉強に集中できるようにしてやりたいことなどを伝える。
「ダイはどうしたい」
突然の訪問に嫌な顔一つとせず話を聞き終えたバランは、コーヒーをくいっ、と飲み干したあとにダイに質問する。
「入ったからには、ちゃんと医者になれるように勉強したい。そのためにも、ポップの協力が欲しい」
ダイの真っ直ぐな目に見つめられて、バランは目元を緩めた。
「お前がそうしたいなら、そうすればいい。ポップとなら、喜んで許可を出そう」
キッチンの奥から見守っていたソアラさんも、嬉しそうにこちらを眺めていた。
その日のうちに俺のアパートに戻って、次は金銭面。
…と思ったが、どうやら俺はかなり金を貯めこんでいたようで、当分は二人で余裕を持って暮らせるだけの貯えがあった。携帯端末から確認した貯金額を覗き見たダイが唾を飲み込む音が聞こえて、それがなんとも可笑しくて。
「でも二人で一緒に暮らすんだし、俺もお金出すよ」
「気持ちだけ貰っとくよ、気にすんなら出世払いでもいい。まずはバランに約束したように、無事卒業して就職することだな」
自分のベッドに端末を放り投げ、ソファーに腰掛ける。
続いてダイも俺の横に座って、手に持ったカップを口につけた。
「なんだかよく分からないスピードで話が進んでる気がするけど、コレって現実?」
イマイチこの状況が信じられない、とダイは頭を掻いた。
俺はお気に入りのマグカップからミルクティーを飲み下し、コトン、とローテーブルに置く。
「まぁ、"思い立ったが吉日"とも言うし、何もしないよりはいいんでない?」
「そういうモンかな」
「そーそー、そういうモンだよ。上手く行ってるならいいことじゃねぇか。気楽に行こうぜ、相棒」
カップの中身を飲み干したダイに笑い掛ける。
それを見てか、釣られてダイも口元を緩めた。
最後に物件。
必要最低限な条件としては、
・ダイの大学やバイト先に近いこと
・ダイの通学の便が悪くないこと
・できれば静かなところ
・部屋は一人ずつ個室が持てるようにすること
あとは俺が在宅になった場合、一箇所に留まらず動き回りながら仕事する可能性があるので全体的に部屋が広めなことや、バス・トイレ別など、欲しい機能なんかもいくつか選ぶ。
それだけの条件を盛り込んだ物件が、一件だけ、お誂え向きに近所の不動産屋に開示されているのをパソコンから突き止めた。
家賃も難なく出せる額だったので、家にダイを泊めて翌日真っ先に内覧と契約を済ませた。
怒涛の勢いで全てが片付いてしまい、昼頃にはあとは引っ越すだけ、とだいぶ先の予定だけがタスクとして残った。
引っ越しは半月後。
お互いまとめる荷物も少ないので、荷物詰めすらも時間つぶしにはならなそうだ。
ダイの、返事を待つような色を見せる顔にはっとした。
先程とは打って変わって震えて小さく揺らぐ瞳からは、己の発言に対して、ダイ自身も動揺していることを物語る。
何か言葉を返してやらないといけない。
必死に考えても、脳の回路が焼き切れてしまったように上手く言葉が出てこない。相変わらず心音は激しいままで、うるさいったらありゃしない。
やっと絞り出した言葉に、情けなさが滲み出る。
「それってさ、今俺、告白されたんだよな」
帰ってきた言葉にびくん、と体を震わすダイ。
唇を噛み締め、今にも泣きだしそうな笑い顔で言葉を絞り出す。
「うん。お前が好き。もう離れたくない」
やっとのことで、視線をダイから逸らした。
「そっか」とだけ、言葉を返して海を眺めた。
ダイの手が、戸惑う様子を見せつつも、もう一度俺の手と重なる。
その手を振り解くこともせず、ただ握り返した。
好きだ、と告げられたことに嫌な気持ちはない。
ただこの告白をどう受け止めていいのか、俺にはわからなかった。
俺もお前が好きだぜ。
結構長い間好きで居てくれたんだな。
ありがとな。
そう言えたら、どれだけ良かったか。
そんな単純なことでは済まない。
ダイの告白を”嬉しく”思うよりも先に、"当惑"と"戸惑い”が脳を小突いた。
『今の今まで』、”そういった感情”を向ける対象として、ダイを見たことがなかったからだ。
こいつは俺にとって特別な存在だろうとは思っている。
でもそれが"恋愛感情"に結びつくかといえば、違う。
好きだ、という感情を向けられて嬉しくないわけでもない。人を好きになる気持ちは分かるつもりだ。
ただ。
その対象に見合う感情が、覚悟が、今の俺にはまだ備わっていない。
俺にとってダイは大切な弟弟子であり、大切な仲間であり、大切な相棒だ。
今はそれ以上でも以下でもない。
この『勇者』に恋をすることが、今はまだ、出来ない。
でも、今伝えられる言葉はあるはずだ。
「俺のどこにそんなに惚れちゃったのかね、お前は」
ちゃんとダイの顔を見て笑いかける。
なんとなく、いつもの調子に戻せた気がする。
ダイは一瞬目を丸くしたが、ようやく笑顔を見せた。
”好意的な返答だった”と受け取ってくれたようでひとまず安心した。
そこからはまた昼間と同じ調子で会話ができた。
そのまま『昔話』に花が咲いたりしたが、二人とも無意識に、"この先の事"と"お互いの気持ち"については避け続けた。
話し込んでふと見上げた空。
時間はといえば、とっくに水平線の奥から薄っすらと光が漏れ、太陽が起きようとしていた。
始発の電車に乗り込む。
お互い窓の外を眺めたまま、特に言葉を交わさない。
流れていく景色が恐ろしくゆっくり見えて、時間が流れてるのかも分からなくなっていた。
あの一瞬の出来事が俺に与えた衝撃はデカかった。
まだそれ程時間は経っていないのに、なんだか遠く昔の記憶のようにも感じ始める。
悶々と考えて隣を見ると、なんとも情けないくらいに視線を泳がせて、落ち着きなく座るダイが視界に入った。
人に気持ちを伝えるのは重労働だ。
欲しい答えが帰ってこない可能性を考えると、無闇矢鱈に口から出していいモンでもない、と考える。
好きな子に、他に好きな奴がいたら?そっちと運命を共にする方がサマになってるとしたら?っていうか、告白して対象として見られてないと言われたらどうする?その先の未来をなんとか創造して振り向かせることは出来るのか?
…なんだ、コレは『前世』の俺じゃないか。
すとん、と何かが腑に落ちた。ならダイのあの気持ちをどうしてやればいいのか、答えはもう分かったも同然だ。
膝を叩き、突然立ち上がる俺を見て驚くダイに、とびきりの笑顔を向けてこう言った。
「よし、今からルームシェアの物件観に行くか!」
他に誰もいない車内に響き渡る突拍子もない提案に、ダイはただ目を白黒させて俺の顔を見つめるだけだった。
地元付近まで戻ってきて、お互いの生活圏で良さそうな物件を提示する不動産屋を見て回る。俺の会社から近くて、ダイの大学に近いところ。
いざって時は在宅で仕事すればいいか、技能はあるから会社を替えてもいいな、なんて考えながら見て回っていると、ずっと困惑していたダイがシャツの裾を引っ張った。
「どうして急に、こんな」
さっき気持ちに気付いて告白したばかりの相手が突然同棲しようと提案したら、そりゃそんな眉の端が垂れた顔にもなる。
「簡単な話よ、俺がお前との"未来"を検討するためだ」
話が見えない、と目で訴える相棒に向き直る。
「俺はね、好きって言ってもらえたのはすげぇ嬉しい。が、お前を恋愛対象としてはまだ見れちゃいないんだよ」
素直に言葉を伝えて話を続ける。
「だからこれからそれを"育てる"、"検討する"。その結果としてお前を恋愛対象として好きになれれば、お互い最高だと思わないか?」
かつて惚れた女に言われた事だ。
まだ今は分からない。でも、もしかしたら未来は。
「そんで、それを育む"愛の巣"として、ルームシェアをご提案したってワケ。オッケー?」
ふふん、と鼻を膨らませて話し終えた俺の顔を見て、ダイは俺の考えが少し呑み込めたようだ。
口をもごもごと動かし考えるように宙を見上げたあと、フッ、と口角を上げて俺を見据える。
「じゃあその気持ちを育てるチャンスをくれるんだ?」
まるで「絶対に好きにさせる」と言わんばかりの瞳の奥に、一瞬『碧』にも似た色合いの炎が揺らめいたように見えた。
「お前次第だよ。精進し給え、勇者クン」
この勝負、まだ始まってないのになんだか急に負けそうな気がしてきた。
そんな気持ちを悟られない様、俺はウィンクを飛ばして誤魔化した。
:::
残った2日の有給で、驚くほどトントン拍子で事は進んだ。
まずはダイの両親…バランにルームシェアについて説明しなければならないと考えた。
まさかド直球に「二人で愛を育みたいので」とは言えないので、ダイの将来について必要な勉強へのアドバイスやサポートをしてやりたいこと、バイトや大学への移動の負担を減らして勉強に集中できるようにしてやりたいことなどを伝える。
「ダイはどうしたい」
突然の訪問に嫌な顔一つとせず話を聞き終えたバランは、コーヒーをくいっ、と飲み干したあとにダイに質問する。
「入ったからには、ちゃんと医者になれるように勉強したい。そのためにも、ポップの協力が欲しい」
ダイの真っ直ぐな目に見つめられて、バランは目元を緩めた。
「お前がそうしたいなら、そうすればいい。ポップとなら、喜んで許可を出そう」
キッチンの奥から見守っていたソアラさんも、嬉しそうにこちらを眺めていた。
その日のうちに俺のアパートに戻って、次は金銭面。
…と思ったが、どうやら俺はかなり金を貯めこんでいたようで、当分は二人で余裕を持って暮らせるだけの貯えがあった。携帯端末から確認した貯金額を覗き見たダイが唾を飲み込む音が聞こえて、それがなんとも可笑しくて。
「でも二人で一緒に暮らすんだし、俺もお金出すよ」
「気持ちだけ貰っとくよ、気にすんなら出世払いでもいい。まずはバランに約束したように、無事卒業して就職することだな」
自分のベッドに端末を放り投げ、ソファーに腰掛ける。
続いてダイも俺の横に座って、手に持ったカップを口につけた。
「なんだかよく分からないスピードで話が進んでる気がするけど、コレって現実?」
イマイチこの状況が信じられない、とダイは頭を掻いた。
俺はお気に入りのマグカップからミルクティーを飲み下し、コトン、とローテーブルに置く。
「まぁ、"思い立ったが吉日"とも言うし、何もしないよりはいいんでない?」
「そういうモンかな」
「そーそー、そういうモンだよ。上手く行ってるならいいことじゃねぇか。気楽に行こうぜ、相棒」
カップの中身を飲み干したダイに笑い掛ける。
それを見てか、釣られてダイも口元を緩めた。
最後に物件。
必要最低限な条件としては、
・ダイの大学やバイト先に近いこと
・ダイの通学の便が悪くないこと
・できれば静かなところ
・部屋は一人ずつ個室が持てるようにすること
あとは俺が在宅になった場合、一箇所に留まらず動き回りながら仕事する可能性があるので全体的に部屋が広めなことや、バス・トイレ別など、欲しい機能なんかもいくつか選ぶ。
それだけの条件を盛り込んだ物件が、一件だけ、お誂え向きに近所の不動産屋に開示されているのをパソコンから突き止めた。
家賃も難なく出せる額だったので、家にダイを泊めて翌日真っ先に内覧と契約を済ませた。
怒涛の勢いで全てが片付いてしまい、昼頃にはあとは引っ越すだけ、とだいぶ先の予定だけがタスクとして残った。
引っ越しは半月後。
お互いまとめる荷物も少ないので、荷物詰めすらも時間つぶしにはならなそうだ。