健全小説まとめ

「生きてる」

寝息を立てる唇の上に自分の掌をかざす。

あの襲撃と、一瞬起きた友の死。
それからほぼ毎晩、自分が夜中に目覚めた時に、友の吐息を確認するようになった少年。

掌に当たる暖かい吐息を確認して、また寝床に潜り込む。
今のところ、全てに掌への暖かな息吹を感じて安堵できている。

抱き寄せた時に見た顔を思い出してしまう。
見開かれているのに虚無を見る瞳孔を。
いつもは忙しなく動いていたのに、今はぴくりとも動かない眉を。
こんな時に知りたくなかった、すっと通った鼻筋を。
血を滲ませて、薄くだらしなく開いた唇を。

青白い顔。
血の気が引くって、きっとああいう色。

それを少しでも忘れたくて。

今日も確認した友の顔はもちろん。
ちゃんと穏やかな寝顔で。
規則正しく寝息を立てて。
鼻水を垂らしながら。
涎を垂らして、薄くだらしなく開いた唇も。

「ふふっ、ヨダレだ」
少年は自分の服の袖で雑に拭ってやる。
痛かったのか、拭かれた側は眉を顰めて身じろいだ。
それでもゆるく笑う口元を見て、今日も安心して寝床に潜り込んだ。





「…生きてる」

『時代』を超え、『世界』も超えて。
奇跡的にまた一緒に暮らすことができるようになった、今は"恋人"となった友の唇に、立派な体軀に成長した青年は今日も掌をかざす。
付き合い始めの頃はしてなかったが、段々と床を共にするようになり、顔が近くにあればまた確認作業が始まっていた。
『魔法』も『敵』も存在しない世界ではあんな結果はもう起きないだろうけど、それでもふとした時に、『昔のように』確認したくなる。

あの時確認した顔と同じく。
穏やかな寝顔で。
規則正しい寝息で。
鼻提灯を膨らませ。
唇の端から涎を垂らしながら。

「ふふっ…涎だ」
ベッドサイドのティッシュを取り、優しく拭ってやる。
拭ってやった口の端が持ち上がり、にんまりと笑ったように見える。
その少し横に、そっとくちづけを落とす。

「明日も一緒に生きていこう。お休み、大好きだよ。ポップ」

青年は自身も深く布団に潜り込み、恋人の手を握って眠りについた。
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