最後に見た光。
あたりは闇に包まれている。しかし時刻は朝の六時、朝日が昇っていてもおかしくはなかった。朝日が昇らなくなってから何年が過ぎたであろう。まっくらな朝にはとうに慣れた。
この世界はいつしかすべてが闇に包まれた。帝国軍の侵攻があって間もなく闇も共に侵攻してきた。
世界が暗闇に落ちてから人は明かりを手放すのを酷く怖がった。理由としては明かりがないと見えないという尤もな理由もあるのだが、それ以上に暗闇にはシガイとモンスターに遭遇しやすいのだ。まだ光があったころの世界にもシガイやモンスターがいたのだが、世界が暗闇に包まれてからは数が急増した。
昏い朝には慣れている。常に人は明かりを灯し、影からは身を置くことは選ばなかったのだ。灯りが合ってもあまりよくは見えない。五メートルも離れれば顔の判別は厳しい。
ドアを叩き、相手が起きているか確かめる。
「イグニスさん、起きてますか?」
「ああ、おはよう。起きている」
ドアを開けると、真っ暗な中でぼんやりと光る銀眼が見える。彼は部屋がくらくても困らない。目が見えないのだ。主君を守護した結果の負傷だという。
毎朝彼を起こしに行くのが日課だ。まず私が来ることには既に身なりは整えている。
彼はモンスターの退治や警護をしている。目が見えなくても支障はないというが、見てる分には心臓に悪い。
朝食を食べ、鞄や武具を身に着け彼は玄関に向かう。
「行ってくる」
「今日は付いて行かなくてもいいの?」
「今回はグラディオが一緒だ」
本音を言えば、付いていきたい。私が心配して付いて行こうとすると、嘘をついて一人で行ってしまうのだ。無理に行くのもなんだか、彼の心をへし折るようであまり無理についていくのもしたくないのだ。
イグニスさんが私の両頬に触れてきた。軽く指を押し当て、私の顔の部位を込まなく探っていく。しばらく人の顔を揉んで、彼はしょうがないなといいそうな苦笑いで溜め息を付いた。
「不満そうだな」
「分かります?」
「顔に書いてある」
膨らみかけた頬を彼に潰された。睨んでも見えはしないが、顔の向きから見られているのは分かるだろう。
「今回はちゃんとグラディオラスさんも一緒なんですね?」
「疑り深く頑固だな、誰に似たのやら」
「引き取ってくれた“おじさん”のせいでしょうね」
遠い親戚、シガイによって襲撃された家に積もった残骸の中から埋まっていた一人。最後に見た光。
「家を頼めるな?」
もう顔から手は離れている。彼には次に私が何を言うのか分かっているのだ。
「ちゃんと帰ってきてくださいね」
「勿論だ。家の帰りを待ってくれるのは一人では出来ないからな」
戸が閉まり、家は静かになる。
玄関にずるりと背をもたれて、私は自分の顔を覆う。熱い。真っ暗な世界で良かったと思うのは今だ。今の顔は誰にも見られたくない。
「ああもう、まったくあの人は……」
この気持ちをまだ言葉にはしたくなかった。
この世界はいつしかすべてが闇に包まれた。帝国軍の侵攻があって間もなく闇も共に侵攻してきた。
世界が暗闇に落ちてから人は明かりを手放すのを酷く怖がった。理由としては明かりがないと見えないという尤もな理由もあるのだが、それ以上に暗闇にはシガイとモンスターに遭遇しやすいのだ。まだ光があったころの世界にもシガイやモンスターがいたのだが、世界が暗闇に包まれてからは数が急増した。
昏い朝には慣れている。常に人は明かりを灯し、影からは身を置くことは選ばなかったのだ。灯りが合ってもあまりよくは見えない。五メートルも離れれば顔の判別は厳しい。
ドアを叩き、相手が起きているか確かめる。
「イグニスさん、起きてますか?」
「ああ、おはよう。起きている」
ドアを開けると、真っ暗な中でぼんやりと光る銀眼が見える。彼は部屋がくらくても困らない。目が見えないのだ。主君を守護した結果の負傷だという。
毎朝彼を起こしに行くのが日課だ。まず私が来ることには既に身なりは整えている。
彼はモンスターの退治や警護をしている。目が見えなくても支障はないというが、見てる分には心臓に悪い。
朝食を食べ、鞄や武具を身に着け彼は玄関に向かう。
「行ってくる」
「今日は付いて行かなくてもいいの?」
「今回はグラディオが一緒だ」
本音を言えば、付いていきたい。私が心配して付いて行こうとすると、嘘をついて一人で行ってしまうのだ。無理に行くのもなんだか、彼の心をへし折るようであまり無理についていくのもしたくないのだ。
イグニスさんが私の両頬に触れてきた。軽く指を押し当て、私の顔の部位を込まなく探っていく。しばらく人の顔を揉んで、彼はしょうがないなといいそうな苦笑いで溜め息を付いた。
「不満そうだな」
「分かります?」
「顔に書いてある」
膨らみかけた頬を彼に潰された。睨んでも見えはしないが、顔の向きから見られているのは分かるだろう。
「今回はちゃんとグラディオラスさんも一緒なんですね?」
「疑り深く頑固だな、誰に似たのやら」
「引き取ってくれた“おじさん”のせいでしょうね」
遠い親戚、シガイによって襲撃された家に積もった残骸の中から埋まっていた一人。最後に見た光。
「家を頼めるな?」
もう顔から手は離れている。彼には次に私が何を言うのか分かっているのだ。
「ちゃんと帰ってきてくださいね」
「勿論だ。家の帰りを待ってくれるのは一人では出来ないからな」
戸が閉まり、家は静かになる。
玄関にずるりと背をもたれて、私は自分の顔を覆う。熱い。真っ暗な世界で良かったと思うのは今だ。今の顔は誰にも見られたくない。
「ああもう、まったくあの人は……」
この気持ちをまだ言葉にはしたくなかった。
1/1ページ