スプーキーE編

 数多く出会う人の中の一人のことなんて覚え続けることなんて出来ないだろうが、たぶん私はあの奇妙な人のことを忘れることが出来ないだろう。
 マルコ・ダンブロッシオという男のことを。

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 深陽学園は進学校として少しランクが高い高校だと言われている。交際が禁止されていたり、生徒の携帯電話の扱いにまで注意してくる、所謂お堅い学校だ。
 私は隠れて通学として使う駅の近くにあるコンビニで私は店員のアルバイトをしている。
別に他の生徒もこっそりアルバイトをしているし、先生が来ても案外見なかったことにしたりと校則なんて在ってないようなものだ。
 校則をやぶってまでアルバイトをしているのはこれから入る大学への準備資金のようなもので、一人暮らしをする上で大学では可能な限り親に頼る事がないように今のうちに貯金する為に働いている。
 大学を卒業すれば就職する予定なので、今から働くのも馬鹿らしいかもしれない。今隣のレジにいる先輩は私よりも一回り年上だというのに私と同じ仕事をしている。
 その先輩も私と同じく大学に通っていたらしいが、事情があって今はコンビニでアルバイトをしながら次の就職先を探しているらしい。
 コンビニ店員のアルバイトというのもレジ打ちだけではない、発注、商品の展開、商品の陳列、更に公共料金の支払いや予約の代理支払も受け持っているので、覚えること沢山ある上に、新商品は頻繁に入ってくる。本社からの指示だからと新しい商品は入ってくるが、それを捌くのは私達店員の仕事である。
 私はガラスケースに大量に詰み込まれた新商品を見て溜息を付く。
「これ売れると思います?」
 先輩は無言で左右に首を振る。
「インパクトは凄いんですけどね……」
 商品そのものは割とよくあるものだ。中身はからあげで、なんというか、パッケージのデザインが独特なのだ。商品の説明では有名なデザイナーが描いたものらしいが、どうにもパッケージに描かれた鶏がからあげを食べるというシュールな絵になっている。パッケージの口を開ければからあげを取り出せる仕組みになっていて、右翼で爪楊枝を持つように接着されている。絵柄としてはかわいいよりなので、引かれてしまうような絵ではないのだ。ただ、容器とあげものの相性が悪いせいか、置いてから時間があまり経たずに容器がくしゃくしゃになって残念な有様となっている。個人的感想としてはすごくもったいないと思う。
 ケージを開けて、トングを使ってパッケージを立たせるが、五秒ほどすればくしゃりともとのくたびれたにわとりに戻る。
 私と先輩は同時に深く溜め息を付く。
 入店の音が聞こえて、私達は挨拶をする。入ってきたのは奇妙な見目をした中年だ。
 彼はアルバイトに入る前から奇妙な人物を見かける。腹がやたら膨れているのにも関わらず、腕は細い奇妙な体型をしている中年男性だ。
「新作もいかがです?」
 男はふんっと鼻もならしてそれも入れろと要求する。
 ケージの中の新作のからあげがきれいさっぱりなくなった。
 彼が去った後、まだ店内にいるお客さんに聞こえないようにだが、よく食うわと本音を漏らした。
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