『造られた人間』イリス 2 セブン スネーク
その人は社交的で、能力も高く、とても素直な人だった。
人理継続保障機関カルデア、人類の未来を観測し保障する機関だ。どこまでが人類の未来に関わるのか計り知れないが、少なくともこの天候までは観測してくれないらしい。
天候の予測は周囲の警戒も含めて行っているだろうが、ただの職員には閲覧するものではないだろう。
仮に天候を聞いたとて、この曇り空が晴れることはそう滅多にない。
この寒さなら晴れた空はさぞかし綺麗だろう。
「そんなに天に昇りたいの?」
背後からくすくすと笑いながら高身長の男性が話しかける。彼は特に複雑ですっきりしている。細身ながら筋肉質さとお洒落な姿は、中性的な見目はまさに男性的な要素と女性的な要素を兼ねている。
憮然と呆れながら天を指す。
「昇れたとしてもこんな天候は嫌ですよ。ペペさんは分かるんでしょう?」
彼は強烈な笑顔から変わり、笑い飛ばす。
「あら、イリスちゃんから頼られるなんて悪くないわね。その調子でもっと人を頼りなさいよ」
「褒めてませんて。ペペさんは占いとかが得意なんでしょ。滅多に晴れないこの曇り空がいつ星空になるか占ってみてください」
「私が得意なのは恋占い。なんなら占ってあげるわよ?」
「居もしない相手と恋占いしても楽しくないです」
「つっぱねちゃってもかわいいわあ」
「……ここまで自分に正直なペペさんには敵いませんよ。正直でいて、嫌味でも愚昧でもない」
「でも私みたいにはなりたくないでしょ」
「なれない、でしょうね。たとえペペさんのように出来たとしても私が求めるものは恐らく出来ない」
「そういうときにやってくるのが白馬の王子様よ。貴女になら来るわ、きっとね」
「白馬よりももうちょっと利便性の高いものが欲しいですね」
「それこそ聖杯があれば貴女なら使いそうね」
「あれをそんなキッチンのお役立ち器具みたいなもの扱いしていいんですか」
「いいじゃない、日常のちょっとした時に助けてくれるような存在がいたって」
「ペペさんにもそういう人いた方がいいですよ。なんというか、代わりに怒ってくれる人とか」
「そんなに優しそうに見えちゃう?」
「……たぶんペペさんは今すぐここで死んじゃっても“あらそう?”ってならない?」
「……後悔はしないかもね」
「もし死んだら花くらいはあげる」
「あら!ここでデレるのね!かわいい!」
「枯れた花ぶっ指してあげる」
「じゃあここに指してね」
彼は心臓の位置に手でハートマークを作り、示す。
「………今すぐボールペンで穴開けておきます?」
「熱烈で独占欲が強くて悪くないわ。でも駄目よ。貴女は強いんだもの。私じゃ弱くて、なんにも出来ないわ」
卑下でもない、素直に彼はそう口にする。
「貴女の相手は別がいいわ。私なんかじゃなくてね」
***
アラームがかかるより前に起き上がり、時計を見て苦笑いする。
午前四時起床は健康のために起きているというよりも、人と重なる時間帯を取るのが朝くらいしかないので意識的に起きて、それが習慣化した。
キッチンには朝食担当はいるが常にいる赤いアーチャーの姿はいない。人もまばらで、いるのは関わりが薄い人物のみだ。
いるのは職員だけでなくサーヴァントもいる。サーヴァントは夢を見ないらしいが、それでも生活リズムはほとんど人と同じように過ごしていることが多い。
「やあ、おはよう」
淹れたての二杯の珈琲の内、一杯をこちらに向けられ、おずおずと受け取った。満足そうに笑みを浮かべる彼(彼女)と共に座る。
「おはよう、それとありがとう、エルキドゥ」
名前を教えてからはこれが習慣化している。
イリスの能力の練習をしようと思っても中々機会が見れず、こうして合える時には茶を啜りだべっている。
隣にいる美人な横顔を見る。ペペロンチーノとは方法性が異なる中性的な、どちらかと区別をするなら女性に見える顔は本当に綺麗だ。
彼(彼女)もまたペペロンチーノとは方法性が異なる素直さ、正直と言った方がいいだろう、偽るということをしない。
どちらも興味を持った相手への圧が凄い。
「僕の顔になにかついているかな?」
「ついてないけど、エルキドゥについてちょっと思ってた」
「へえ、何を考えていたんだい?」
イリスは夢の回想を思い浮かべる。
「エルキドゥは空を飛べる?」
彼(彼女)は少し考えて答える。
「なろうと思えばなれるけど、今の僕では叶えられそうにないだろうね。外に出ないといけなくなるし、そうなった時の許可や、何より君にが凍えてしまう」
「じゃあ、何になる?」
「…………龍かな。翼が生えた竜種の方ではなくて、胴体が長い中国や日本で伝わっている方」
「それ……あの姿で飛べるの?」
「やってみないと分からないけど、下に魔力を放出したら出来そうじゃないかな」
「そう思うと夢がない飛び方」
「何事も理屈や理由は付き物さ。ここでのルールみたいにね」
「……そうだね。エルキドゥには感謝しかないわ」
「それで、今日はどうだい?」
「むり」
「なら休憩の時にまた来るよ」
「ええ……」
エルキドゥは飲み終わったコップを持って行ってしまった。
出勤前に少し遠回りをする。カルデア施設内の立ち入り禁止区域。
数か月前はいたはずのマスター候補生。その中にペペロンチーノもいた。いるはずなのだ。
彼もまたこの先のどこかにいる。
奇妙なことに彼の意識は視えている。ここにはない。どこかにはいる気がするのだ。
「花を指すのはまだ先ってことですかね」
唐辛子のドライフラワーを持ってイリスは自分の持ち場に戻った。
人理継続保障機関カルデア、人類の未来を観測し保障する機関だ。どこまでが人類の未来に関わるのか計り知れないが、少なくともこの天候までは観測してくれないらしい。
天候の予測は周囲の警戒も含めて行っているだろうが、ただの職員には閲覧するものではないだろう。
仮に天候を聞いたとて、この曇り空が晴れることはそう滅多にない。
この寒さなら晴れた空はさぞかし綺麗だろう。
「そんなに天に昇りたいの?」
背後からくすくすと笑いながら高身長の男性が話しかける。彼は特に複雑ですっきりしている。細身ながら筋肉質さとお洒落な姿は、中性的な見目はまさに男性的な要素と女性的な要素を兼ねている。
憮然と呆れながら天を指す。
「昇れたとしてもこんな天候は嫌ですよ。ペペさんは分かるんでしょう?」
彼は強烈な笑顔から変わり、笑い飛ばす。
「あら、イリスちゃんから頼られるなんて悪くないわね。その調子でもっと人を頼りなさいよ」
「褒めてませんて。ペペさんは占いとかが得意なんでしょ。滅多に晴れないこの曇り空がいつ星空になるか占ってみてください」
「私が得意なのは恋占い。なんなら占ってあげるわよ?」
「居もしない相手と恋占いしても楽しくないです」
「つっぱねちゃってもかわいいわあ」
「……ここまで自分に正直なペペさんには敵いませんよ。正直でいて、嫌味でも愚昧でもない」
「でも私みたいにはなりたくないでしょ」
「なれない、でしょうね。たとえペペさんのように出来たとしても私が求めるものは恐らく出来ない」
「そういうときにやってくるのが白馬の王子様よ。貴女になら来るわ、きっとね」
「白馬よりももうちょっと利便性の高いものが欲しいですね」
「それこそ聖杯があれば貴女なら使いそうね」
「あれをそんなキッチンのお役立ち器具みたいなもの扱いしていいんですか」
「いいじゃない、日常のちょっとした時に助けてくれるような存在がいたって」
「ペペさんにもそういう人いた方がいいですよ。なんというか、代わりに怒ってくれる人とか」
「そんなに優しそうに見えちゃう?」
「……たぶんペペさんは今すぐここで死んじゃっても“あらそう?”ってならない?」
「……後悔はしないかもね」
「もし死んだら花くらいはあげる」
「あら!ここでデレるのね!かわいい!」
「枯れた花ぶっ指してあげる」
「じゃあここに指してね」
彼は心臓の位置に手でハートマークを作り、示す。
「………今すぐボールペンで穴開けておきます?」
「熱烈で独占欲が強くて悪くないわ。でも駄目よ。貴女は強いんだもの。私じゃ弱くて、なんにも出来ないわ」
卑下でもない、素直に彼はそう口にする。
「貴女の相手は別がいいわ。私なんかじゃなくてね」
***
アラームがかかるより前に起き上がり、時計を見て苦笑いする。
午前四時起床は健康のために起きているというよりも、人と重なる時間帯を取るのが朝くらいしかないので意識的に起きて、それが習慣化した。
キッチンには朝食担当はいるが常にいる赤いアーチャーの姿はいない。人もまばらで、いるのは関わりが薄い人物のみだ。
いるのは職員だけでなくサーヴァントもいる。サーヴァントは夢を見ないらしいが、それでも生活リズムはほとんど人と同じように過ごしていることが多い。
「やあ、おはよう」
淹れたての二杯の珈琲の内、一杯をこちらに向けられ、おずおずと受け取った。満足そうに笑みを浮かべる彼(彼女)と共に座る。
「おはよう、それとありがとう、エルキドゥ」
名前を教えてからはこれが習慣化している。
イリスの能力の練習をしようと思っても中々機会が見れず、こうして合える時には茶を啜りだべっている。
隣にいる美人な横顔を見る。ペペロンチーノとは方法性が異なる中性的な、どちらかと区別をするなら女性に見える顔は本当に綺麗だ。
彼(彼女)もまたペペロンチーノとは方法性が異なる素直さ、正直と言った方がいいだろう、偽るということをしない。
どちらも興味を持った相手への圧が凄い。
「僕の顔になにかついているかな?」
「ついてないけど、エルキドゥについてちょっと思ってた」
「へえ、何を考えていたんだい?」
イリスは夢の回想を思い浮かべる。
「エルキドゥは空を飛べる?」
彼(彼女)は少し考えて答える。
「なろうと思えばなれるけど、今の僕では叶えられそうにないだろうね。外に出ないといけなくなるし、そうなった時の許可や、何より君にが凍えてしまう」
「じゃあ、何になる?」
「…………龍かな。翼が生えた竜種の方ではなくて、胴体が長い中国や日本で伝わっている方」
「それ……あの姿で飛べるの?」
「やってみないと分からないけど、下に魔力を放出したら出来そうじゃないかな」
「そう思うと夢がない飛び方」
「何事も理屈や理由は付き物さ。ここでのルールみたいにね」
「……そうだね。エルキドゥには感謝しかないわ」
「それで、今日はどうだい?」
「むり」
「なら休憩の時にまた来るよ」
「ええ……」
エルキドゥは飲み終わったコップを持って行ってしまった。
出勤前に少し遠回りをする。カルデア施設内の立ち入り禁止区域。
数か月前はいたはずのマスター候補生。その中にペペロンチーノもいた。いるはずなのだ。
彼もまたこの先のどこかにいる。
奇妙なことに彼の意識は視えている。ここにはない。どこかにはいる気がするのだ。
「花を指すのはまだ先ってことですかね」
唐辛子のドライフラワーを持ってイリスは自分の持ち場に戻った。
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