『造られた人間』イリス 2 セブン スネーク

 弱い生き物ほど群れる習性がある。群れない生き物でも繁殖期ともなれば相手を探し最低限の対として群れの成す。
 弱い生き物であるならば人間は弱いに属するものだろう。このカルデア内はある種施設としての共通の目的意識を持つ。更に施設内では与えられた役割事、私事での繋がりと更に小分けされた群れがある。
 中には群れずに一人で過ごすものもいる。人間特有の思想の違いにより一人で過ごしたいと思う者、多人数で過ごしたい者、それぞれ思想をくみ取り合って必要な場合には手を組み過ごす。
 中には思想の汲み取りが困難な者がいる。サーヴァントと呼ばれる者には唯一の親友ですら引かせる者がいる。
 カルデア内をきょろきょろと歩きまわる一騎のサーヴァントがいる。
 たおやかな見目はすれ違う職員を振り向かせているが、このサーヴァントには職員達の視線を感知しても認識していない。
 今、エルキドゥが最も意識を占めているのは一人の少女。
 エルキドゥが召喚されてからひと月の間で一度しか会ったことがない。体の探知機関の故障で幻覚を見たのかと思ったが、ダ・ヴィンチ助手に検査をしてもらっても異常はないと言われる。周囲の職員、サーヴァント、マスターに聞くと彼女のことを教えてくれる。
 彼女本人は教えてくれない。教える以前に話してくれさえもしない。
 昨日はフォー・スティックスに相談したが、彼女の質問から毎日追いかけているせいもあると思うが最初に名前を教えてくれれば他の職員と同じようにそのほかに紛れる程度の関心しか抱かなかったはずだ。
 名前だけでもいいから話してほしい。
 切実に思いながらエルキドゥは今日も少女を探す。

  ***

 人は群れる。どんなに天才的な人間であっても、孤独を愛する者がいても完全なる孤独は得ようとしない。便利さ、文明の高さ、承認欲求というのは厄介なるものだ。
 琴陵イリスはこのカルデアに来て数年経過している。きっかけはフォー・スティックスの助言だ。彼女とはカルデアの外で会った。
 フォー・スティックスはこの世界唯一の味方だ。文字通りこの世界においてイリスと同じ世界にいた者。イリスの正体を知る唯一の人間で、同類種だ。
 人間は群れなくては生きてはいけない。それはイリスも例外ではない。彼女にとってはフォー・スティックスだけでいい。
 エルキドゥと初めて会った時に見られたそれは忘れてほしいことであり、秘密にしなくてはならない。あれ以来エルキドゥとは会っていない。
 目を閉じてエルキドゥの魔力の向きを探知する。今日も彼はイリスを探しているらしい。
 彼は今最初に会った場所にいる。

  ***

 エルキドゥは綺麗に整備された壁を見つめる。そこは少女イリスと初めて会った場所だ。
「覚えてない?」
「君と初めて会った場所、だろう?」
「頼みがあるの」
「僕でよければ受け入れよう。なんだい」
「この壁に起きたこと……忘れてほしいの」
 壁は奇妙な破壊をされた。振動により分子構造に揺らぎが起き、構造がもろくなり罅が入ったらしい。サーヴァントの暴走による破壊であれば魔力の残滓で分かる。人であっても魔力か機械操作か化学か、いずれにしも痕跡が残る。この破壊の痕跡は何も痕跡がなさすぎた。犯人も痕跡もない破壊として不思議がられながら壁は直された。
 エルキドゥは知っている。この壁を壊したのは目の前にいる少女イリスだ。理屈も構造も理解できないが、少なくとも彼女の能力か何かで破壊されたものらしい。
「そうだね。それなら僕にも出来ることだ。でもね」
 そっとイリスの手を握る。彼女がびくっと震えると、霊基が揺らぐ。物理的に何かが揺らいだ。
 申し訳なさげに見つめられる。
「まずは君の名を知ることから。僕はエルキドゥ。君の名前は?」
 小さい花が開くように少女の口は開き、名を口にした。
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