『造られた人間』イリス 2 セブン スネーク


 その少女は変わり者だった。

 世界は二〇一五年から全て焼却され人類の未来はないと観測された。
 人理継続保障機関カルデア、その機構の存在は未来を先読みして未来への保険を掛けることを目的としている。
 人類を救うべく発足された任務を「グランドオーダー」といい、英霊召喚システムを用いて特異点の修復、焼却される未来に備えて活動している。
 ここにまた召喚された英霊、サーヴァントがいる。名はエルキドゥ。 第七特異点絶対魔獣戦線バビロニア後に召喚されたサーヴァントだ。特異点がバビロニアであり、そこでエルキドゥとの縁が結ばれたのだろう。第七特異点で見た姿と変わらず中性的な見目麗しさと苛烈な攻撃には同じ人物を思わせるが、このカルデアで召喚された彼ないし彼女は特異点での記憶は持ち合わせていない。
 サーヴァントというものは歴史にて結ばれた存在であり本人であって本人ではない。史実で語られた逸話、伝承、英霊として刻まれた物によって象られた影法師に過ぎない。
 影法師なれども、姿形、心はいたって生きている者と変わりない。第二の生といってもいい、かりそめの命であっても命だ。思考し、選択し、心迷い、選び取ることと人間と変わりない。その存在はマスターの存在によって得られる。これを言葉そのままの召使と使い捨てるか、一人の生命として扱うかはマスターの差配による。
 このカルデア唯一のマスターはお人よしにもほどがある善人だとエルキドゥは評価している。通常一人もマスターには一騎のサーヴァントが就くものだが、カルデアにおいてはこのマスターには幾騎ものサーヴァントがいる。マスターは分け隔てなく接する。
 エルキドゥも例外ではない。
 お人よしのマスター、複数の同業サーヴァント、通常の聖杯戦争では起こらない状況だからこそエルキドゥも呑気に他人を気にすることが出来る。
 その少女に会ったのは召喚されてからひと月も経過してからだ。ひと月もあれば職員全員と会話することはなくとも顔は覚える。だからこそ新しい顔には新鮮味を覚え、思わずここの職員や要注意人物にさえ聞いてしまうほどだった。

 その少女には話しかけようにも気が付けば姿を捉える前に姿を消してしまう。少女のことを考えても何故かすぐに別のことに意識が向いてしまう。何か不思議な術を掛けられているかと思うほどに気にしてしまう。
 気にすればするほど別のことを考えてしまう。
 マスターやダ・ヴィンチ助手、ドクターロマンに相談してみたがエルキドゥに何か魔術的なことも呪術が掛けられている様子はないと話す。彼らを疑うわけではないが、とてもじゃないがなにかをされている様な気がしてならない。
 この要注意人物なるものに相談してみる。この人物の名はフォー・スティックスという。要注意人物と言われる所以は、侵入困難なこのカルデアに入ってきたことだ。最初は厳戒態勢を取っていたが、様々な特異点や異常が発生した際のアドバイスによって導き出された答えは怪しいが使える。監視をされている身ではあるが、魔術師でもない人間一人がサーヴァントの巣窟のような身で何かできるはずもなくと半ば放置の状態にされている。現状フォー・スティックスはカルデア内唯一の暇人の一般人女性だ。
「で、暇人って言われてるだけで実際は雑用多くて相談される余裕もないんだけど」
「そういいながら聞いてくれてるじゃないか」
 フォー・スティックスはロマンに頼まれた書類を片付けている。要注意人物と評されつつも能力の高さは純粋に買われ、こき使われている。
「話しかけようにも話しかけれないからどうかしてくれって、あんた避けられてんのよ」
「何もしていないのにそんなことがあるかな」
「見た目がやばい……ことはないけど、まー、変な逸話とか聞いていたとかはないの?」
「残念ながら僕には思い当たることはないね。仮にあったとしても僕は直接攻撃するようなことはしないよ」
「……もしかしてだけどさ、あんたのあの子探しって毎日している?」
「そうだね、基本的にマスターから呼び出されていなければ探しているよ」
「いつから?」
「……それは……そういえば君が片付けた書類、僕がロマンまで届けようか?」
「…………。そうね、お願いするわ」
 フォー・スティックスは苦笑いしながら書類をエルキドゥに渡す。
「そうそう、マスターがそろそろコフィンから戻ってくるはずだから迎えてやったら?」
「ああ、そうだね。書類を届けた後に行ってみるよ」
 エルキドゥが去って二分ほど経過して、フォー・スティックスはにやりと笑う。
「……いい加減話してあげれば?」
「やだ」
 フォー・スティックスが作業していた机から出てきたのはやや小柄の少女。漆黒の髪がふわりと肩に乗り日本人形とも西洋人形の混ぜ合わせのような姿をしている。
「あんまりにやにやしないでくださいよ。もう」
「いやあ、あたしはそっくりって思っちゃう」
「誰とです?」
「あたしの友達」
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