メフィスト夢
雪花の寝息を聞いて小一時間は経過した。寝付けないのはいつものこと。眠気は一向に来てくれない。雪花の頬に前足の肉球を当てて雪花の肌の様子から“冷え”てないことを確認する。
雪花の腕から体を慎重にずらし、ベッドから下りる。
寝れないのはいつものことだ。座椅子に腰掛け、携帯端末型のゲームを出現させる。
画面の明るさに目を細め、目が慣れるのを待つ。イヤホンを付けて音漏れがしていないか確認し、ソフトを起動させる。ターン制RPGゲームで、自分で作ったキャラクターを育て上げ、封印されし神を倒すゲームだ。パーティーのバランスはアンバランスでレベル上げが必要である。雪女は能力的には扱いやすいが、全面に出せばすぐさまやられてしまう。その上他キャラクターよりもやや経験値が入りづらい。
「まったく、かわいげがありませんね」
小一時間ゲームを進めて、背伸びをする。ボキボキと背骨がいい音で鳴った。
「メフィスト」
「ああ、どうも」
雪花がホットミルクが入ったマグカップを手渡す。さも自然な言い方に思わず受け取り、違和感に気付く。
「……ん?」
隣に雪花が眠そうな顔で座りメフィストが貰った飲み物と同じ色の液体を飲んでいる。
「貴女……いつから」
「……レベルが五つ上がる前」
「……覗き見はよくありませんよ」
「朝にレベル上げた進捗を言ってくる癖に」
雪花がゲーム端末を取り上げて側に置く。
「ゲームから手を離して、飲み物飲む。セーブもしたなら今閉じても大丈夫でしょ」
細かいところを確認済み
ホットミルクを飲む。
「育ち盛りは寝なさい」
「そこの寝不足悪魔が寝るなら」
「寝たとて一時間越えるかどうかですよ」
「ねえ、メフィスト」
「なんです?」
「人の姿で一緒に寝て」
三カウント唱え犬の姿になり、雪花の膝に前足を乗せる。
「おや、メッフィーの姿が好きじゃないんですか?」
雪花の呆れた顔に尻尾を振り返事をする。
じと目で見られながら、メフィストは雪花に抱えられベッドに運ばれる。抱えられたままベッドに入り、雪花はそのまま寝ようとする。雪花がメフィストにも毛布がかかっているか念入りに触って確認し終える。雪花が寝るぞと言わんばかりに頭を撫でた瞬間にメフィストは三カウント唱える。雪花のお願い通りに人の姿になったというのに、後ろから深い深いため息が聞こえ、背中に頭突きをされた。
変わらず腹には腕が回されているならば、このまま人の姿で寝るかと思いきや、雪花がメフィストを仰向けにさせる。淡い期待もしつつ次の行動を観察すると、雪花はメフィストに馬乗りになる。正しくは膝立ちで直接腹には乗らないようにしている。
べり。
色気もへったくれもない、ぬいぐるみの着替えよりも雑に、雪花はメフィストの浴衣を大きくはだけさせた。羞恥心が一切ない真顔は、お前に対して下心はないと言っている。
「きゃーーー!」
「喧しい」
メッフィー人形を顔面に叩き付けられた。
雪花は壊死し始めた部位に触れる。冷えたところは痛みもない。
「痛みは?」
「いいえ」
雪花はぺたりぺたりと壊死している所に触れて凍らせていく。悪魔でも壊死した部位のみで、他の肉体は冷えた感覚すらない。
はだけた浴衣を上半身だけ脱いで半裸になり、うつ伏せにする。雪花はメフィストの背中にある壊死の部位を凍らせていく。指先でなぞり、中身の壊死がないか探し、凍らせていく。精密な凍結の操作は努力の賜物だ。彼女とて人、完璧ではない。
「……」
僅かにまだ生きてる部位が凍らされ痛みが生じる。眉一つ動かす痛みではないのにも関わらず、痛みを隠しても何故か彼女に気付かれる。
雪花は凍らせるのを止め、優しく撫でる。
「……ごめんなさい。苦しいのに更に痛い目に遭わせて」
「それなら普段の暴力をなくしてくださいよ」
「セクハラしなかったら」
四秒前のしおらしい声はどこへ行った。
「割と貴女抵抗しないじゃありませんか」
「上位の悪魔から簡単に勝てたら苦労しないって」
「……ところで貴女」
「なに」
ぐるんと体を捻り再び仰向けになる。メフィストの体の向きの勢いに負け、雪花はバランスを崩す。先程と異なるのは、雪花が完全にメフィストの腹の上に乗っていることだ。雪花の腕を掴み、雪花の指先で自身の体を撫でる。
「随分大胆なことをするんですねえ」
「この悪魔!メフィストがさせてるんでしょうが!」
雪花の顔が静かに赤くなっていく。振り払おうとする雪花だが力負けして、諦めた顔で体重を掛けて座り直した。更に胡座をかき、足の骨で内臓を圧迫し、地味に痛いことをしてくる。
「もういいや」
雪花は腕を捕まれたままメフィストの側で横になった。
メフィストは浴衣を整えながら不貞寝する雪花を見つめる。視線は髪の毛で見えないが、僅かな動きでこちらを気にしているのは確かだ。浴衣を整え終えて、布団に入り直せば、彼女の背中が寄ってきた。
素直だが素直では無い行動に笑いを堪えて、左腕を彼女の体に回す。後頭部に顔を埋め、シャンプーは同じものを使っているはずだが違う匂いに感じた。
もう片方の手で顔に触れてれば、今の顔が赤いのが分かる。今日は温める必要すらないと思うくらい温かい。
右手は雪花が捕まえ、腕に抱えられる。
しばらくして寝息が聞こえた。
メフィストは苦しくない程度に雪花を抱き締める。
今日は長く寝れそうだ。
雪花の腕から体を慎重にずらし、ベッドから下りる。
寝れないのはいつものことだ。座椅子に腰掛け、携帯端末型のゲームを出現させる。
画面の明るさに目を細め、目が慣れるのを待つ。イヤホンを付けて音漏れがしていないか確認し、ソフトを起動させる。ターン制RPGゲームで、自分で作ったキャラクターを育て上げ、封印されし神を倒すゲームだ。パーティーのバランスはアンバランスでレベル上げが必要である。雪女は能力的には扱いやすいが、全面に出せばすぐさまやられてしまう。その上他キャラクターよりもやや経験値が入りづらい。
「まったく、かわいげがありませんね」
小一時間ゲームを進めて、背伸びをする。ボキボキと背骨がいい音で鳴った。
「メフィスト」
「ああ、どうも」
雪花がホットミルクが入ったマグカップを手渡す。さも自然な言い方に思わず受け取り、違和感に気付く。
「……ん?」
隣に雪花が眠そうな顔で座りメフィストが貰った飲み物と同じ色の液体を飲んでいる。
「貴女……いつから」
「……レベルが五つ上がる前」
「……覗き見はよくありませんよ」
「朝にレベル上げた進捗を言ってくる癖に」
雪花がゲーム端末を取り上げて側に置く。
「ゲームから手を離して、飲み物飲む。セーブもしたなら今閉じても大丈夫でしょ」
細かいところを確認済み
ホットミルクを飲む。
「育ち盛りは寝なさい」
「そこの寝不足悪魔が寝るなら」
「寝たとて一時間越えるかどうかですよ」
「ねえ、メフィスト」
「なんです?」
「人の姿で一緒に寝て」
三カウント唱え犬の姿になり、雪花の膝に前足を乗せる。
「おや、メッフィーの姿が好きじゃないんですか?」
雪花の呆れた顔に尻尾を振り返事をする。
じと目で見られながら、メフィストは雪花に抱えられベッドに運ばれる。抱えられたままベッドに入り、雪花はそのまま寝ようとする。雪花がメフィストにも毛布がかかっているか念入りに触って確認し終える。雪花が寝るぞと言わんばかりに頭を撫でた瞬間にメフィストは三カウント唱える。雪花のお願い通りに人の姿になったというのに、後ろから深い深いため息が聞こえ、背中に頭突きをされた。
変わらず腹には腕が回されているならば、このまま人の姿で寝るかと思いきや、雪花がメフィストを仰向けにさせる。淡い期待もしつつ次の行動を観察すると、雪花はメフィストに馬乗りになる。正しくは膝立ちで直接腹には乗らないようにしている。
べり。
色気もへったくれもない、ぬいぐるみの着替えよりも雑に、雪花はメフィストの浴衣を大きくはだけさせた。羞恥心が一切ない真顔は、お前に対して下心はないと言っている。
「きゃーーー!」
「喧しい」
メッフィー人形を顔面に叩き付けられた。
雪花は壊死し始めた部位に触れる。冷えたところは痛みもない。
「痛みは?」
「いいえ」
雪花はぺたりぺたりと壊死している所に触れて凍らせていく。悪魔でも壊死した部位のみで、他の肉体は冷えた感覚すらない。
はだけた浴衣を上半身だけ脱いで半裸になり、うつ伏せにする。雪花はメフィストの背中にある壊死の部位を凍らせていく。指先でなぞり、中身の壊死がないか探し、凍らせていく。精密な凍結の操作は努力の賜物だ。彼女とて人、完璧ではない。
「……」
僅かにまだ生きてる部位が凍らされ痛みが生じる。眉一つ動かす痛みではないのにも関わらず、痛みを隠しても何故か彼女に気付かれる。
雪花は凍らせるのを止め、優しく撫でる。
「……ごめんなさい。苦しいのに更に痛い目に遭わせて」
「それなら普段の暴力をなくしてくださいよ」
「セクハラしなかったら」
四秒前のしおらしい声はどこへ行った。
「割と貴女抵抗しないじゃありませんか」
「上位の悪魔から簡単に勝てたら苦労しないって」
「……ところで貴女」
「なに」
ぐるんと体を捻り再び仰向けになる。メフィストの体の向きの勢いに負け、雪花はバランスを崩す。先程と異なるのは、雪花が完全にメフィストの腹の上に乗っていることだ。雪花の腕を掴み、雪花の指先で自身の体を撫でる。
「随分大胆なことをするんですねえ」
「この悪魔!メフィストがさせてるんでしょうが!」
雪花の顔が静かに赤くなっていく。振り払おうとする雪花だが力負けして、諦めた顔で体重を掛けて座り直した。更に胡座をかき、足の骨で内臓を圧迫し、地味に痛いことをしてくる。
「もういいや」
雪花は腕を捕まれたままメフィストの側で横になった。
メフィストは浴衣を整えながら不貞寝する雪花を見つめる。視線は髪の毛で見えないが、僅かな動きでこちらを気にしているのは確かだ。浴衣を整え終えて、布団に入り直せば、彼女の背中が寄ってきた。
素直だが素直では無い行動に笑いを堪えて、左腕を彼女の体に回す。後頭部に顔を埋め、シャンプーは同じものを使っているはずだが違う匂いに感じた。
もう片方の手で顔に触れてれば、今の顔が赤いのが分かる。今日は温める必要すらないと思うくらい温かい。
右手は雪花が捕まえ、腕に抱えられる。
しばらくして寝息が聞こえた。
メフィストは苦しくない程度に雪花を抱き締める。
今日は長く寝れそうだ。
