メフィスト夢

 メフィストは風呂上りで上がった体温が冷えないように寝巻に室内用コートを羽織る。時間は深夜。執務を終えた後にやりかけのゲームを進め、時間を見れば日を跨いでいた。
 案の定、先に寝室にいた雪花はベッドで眠りについていた。明かりが灯っているのは彼女が限界まで起きていたことを示していた。
 雪花の頬を爪先でつつき、つついた場所がほんのり赤みを増す。さらに頬を撫で、冷えている雪花の冷たさを楽しむ。冷たさそのものを楽しむ場合ではないが、触れている間の雪花の表情は心地よさそうにメフィストの手に頬ずりをする。軽くつねればほどよい弾力に時間を止めたくなる。止めたい衝動は雪花の寝息でさえぎられた。
 メフィストはいつもの犬になり、雪花の様子を見る。瞼は閉じられているが、手はなにかを求めている。求めているものはひとつしかない。内心にやにやしつつ腕の中に入る。
 期待通り、寝惚けた雪花が犬に変化したメフィストを招き入れる。犬の姿のメフィストは優しく撫でられ、額にはキスもされる。
 今日の雪花の寝ぼけ方は悪くないと思い首元に顔をうずめる。
 ただし、犬の姿であっても辛辣な言葉を吐くのが彼女だ。寝惚けても罵倒は忘れない。
 そのはずだった。
「……しろ」
 悪くない心地とは裏腹に、メフィストの気分は下がっていく。
「……やれやれ、今日も“彼”に負けましたね」
 人の姿に戻り、起こさないように抱きしめて一通りされたことを返し、眠りにつく。

***

 早朝、悲鳴とともに真っ赤になった雪花に蹴られ、ベッドから落ちた。
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