メフィスト夢

「雪花、今度はこれを着てください」
「お断ります」

 今日は行くのが遅くなった。時間そのものは明確に約束してはいない。ただ、彼女が寝る寸前に来れなかったので、彼女は寂しがるだろう。
 雪花は既にベッドで寝ている。以前のように衣装を着て寝落ちではない。寝間着に着替え、ただの就寝だ。
 寝間着はメフィストが選んだ“シンプルかわいいうさちゃん”の柄の寝間着だ。あれだけ懇願しても着なかったのに着ている。着ているのは初めてで、なおのこと着たときの顔が見たかった。
 雪花の頬に触れても彼女は起きるはずもない。布団を雪花にかける。
「全く、布団も被らず寝るなんて」
 返事がないのは承知で囁く。雪花の髪を指で巻くが、するりと解けてしまう。解けた髪の毛が雪花の兎の耳に見える角に落ちつ、くすぐったいのか、角は落ちた髪の毛を振るい落とす。角を手で触れれても、硬くなく、触れられている違和感を振るい落そうと震わせるが、やはり挙動が兎の耳に見えてしまう。
 雪花の角を撫でながら、軽く揉む。厚みと柔らかさに、つい楽しくなり長く揉んでしまう。
「失礼」
 起こす気がない囁き声で断りを入れ、かけた布団を少しだけ捲る。寝間着を見る限り、多少皺があり何度か着たのが分かる。
 何度か着たのなら、他にも誰か着ている姿を見た者はいるだろう。まずベリアルは
見たことがあってもおかしくない。雪花の使い魔たる雪兎も確実に見ている。
 ここで彼女のこの姿を見たのは自分が最後な気がしてきた。
 雪花の角を優しく手で添えて持ち上げる。口を開け、角に甘噛みする。口内にひんやりとした冷気と力が伝わる。噛まれた違和感からか角が震えて抵抗するが、歯を立てないように手で支える。しばらくして、口を離し、付着した唾液を拭き取る。
 最低限必要なことは済んだので、あとは寝るだけ。
 布団に入り、
 顔を近づけ、
 瞼が開いた。
 雪花が寝ぼけ眼で名を呼ぶ。
「……めふぃすと…………………。うん?」
 目が合う。
 時を止めてはないはずだが、開いた雪花の目は閉じずにメフィストを見続ける。
 メフィストの体が冷風で吹き飛ばされた。メフィストはベッドから尻餅をつき、真っ赤になりながら布団で身を隠す雪花をにやけながら見つめる。
「何も隠さなくていいじゃありませんか」
 ぴょんと角が上を向く。
「この服は寝る前用の部屋着で!」
「詰まるところ着てくれている」
 角の角度が少し下がる。
「見せなくても」
「贈ったからには見たいですよ」
 メフィストは指を鳴らし、煙に身を包み姿を犬に変化させた。
 犬の姿で雪花の足下まで近づくと、雪花の角がへにゃりとしなる。
「で、寝ませんか?」
「……」
 角はすっかりぺたんと垂れて、メフィストを抱きかかえた。
 雪花が自身の垂れた角に視線を向ける。角を、特に拭いた場所を念入りに探る。
「ねえ、角に……なにしたの?」
「黙秘権を行使します」
 愛らしい犬の姿でも通用せず、しかし、抱きかかえられて連行される。扉まで運ばれ、開けばベリアルが待機していた。
 キャインキャインと抵抗虚しく、自室に強制連行された。
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