メフィスト夢
寒さには慣れている。
ふと目が覚め、窓を開ければ視界は白くぼやけている。雪は街灯の明かりでぼんやりとあかるい。雪花が暮らしていた東北とは異なり、オレンジとグレー、まばらに緑と赤とくすんだ色味だがカラフルな視界になっている。
冬になるとあの子を思い出す。真っ白な体で雪の中にいればすぐに見失ってしまう。雪花がいくらあの子を探しても、いつも先に後ろから飛びかかってくる。大型犬の大きさでのしかかられ、ベロベロ舐めてくるのだ。
思い出し笑いをしながら、窓を開けて雪を眺める。
「風邪を引きますよ」
肩に膝掛けがかけられた。振り向くと、一度は一緒に寝て、それから自室に戻ったはずのメフィストが立っていた。
「ありがとうございます……。自室に戻ったんじゃないんですか?」
「ええ、物音が聞こえたもので。来てみれば、寒い時期に窓を開けて雪を眺めるとは」
「平気ですよ。それはメフィストもご存じでしょう?」
へらへらと笑いながら言うが、メフィストの反応は薄い。セクハラ紛いの発言も、過保護発言もない。不審に思い、窓を閉めてメフィストに向き合う。
「メフィスト?」
彼の方が背は高い。見上げる形で顔を覗き込む。珍しく真顔で、不健康さが際立つ。
悪魔の考えていることは読めない。
「失礼」
「へ?」
突如、雪花はメフィストから抱きかかえられた。追いかけてきた使い魔達には雪花の部屋にいてもらうように指示をする。メフィストはそのままメフィストの部屋まで運ぶ。運ばれる間のメフィストの表情は眉が下がり、口元は緩んでいる。
メフィストの寝室に入り、ベッドの上に座らせられた。
「ありがとうございます……」
「いいえ」
メフィストも隣りに座り、指を鳴らしサイドテーブルやらティーセットを出す。
「今晩は私のわがままにお付き合いください」
「途中で寝ますよ」
「ではもう一度」
「いや、それはさっきしたからいいです」
「ちょっと貴女、ノリが悪すぎますよ」
「ここで寝たら申し訳ないですので」
「構いませんよ。ほら、眠くなる為にもこれを飲んで少し落ち着きなさい」
そう言って、メフィストはティーカップを差し出す。ミルクティーかと思いきや、ホットミルクだ。
「ありがとうございます……」
「いいえ」
ホットミルクは蜂蜜と溶かしたキャラメルが入っており、かなり甘い。これを作ったのはフィストだと確信した。当のメフィストも同じくホットミルクを飲んでいる。
「温まりすぎて寝られなくなりそう」
「糖分を一気に摂取したらすぐに寝られると聞いたのですが」
「それ、糖分上がり過ぎて失神するやつです」
「次はキャラメルショコラベリーフラペチーノにしましょう」
メフィストの妄言に突っ込む気も失せ、ホットミルクを飲み干す。
カップが空になったからか、温まった手はすぐに冷える。視線を窓に向ければ、外は雪が更に積もり、明日の交通機関は遅れが生じそうだ。
管轄外だが隣に理事長という責任者がいるのだ、除雪車を呼んでもらおうかと考える。それか、使い魔達に除雪と雪像を作ってもらおうか。
窓に何か塊がある。雪だるまでも雪花の使い魔達の雪兎の雪像でもない。雪ではない。色味こそ雪のような白さだが、ふわりとした毛並みは動物のそれだ。
「……」
へっっぶしっ!
誰かを呼ぼうとした名前はメフィストの派手なくしゃみでかき消された。
普段の紳士然とした振る舞いからは縁遠くしゃみに目を丸くする。メフィストは
メフィストに手を広げる。
「メッフィー」
照れくさそうな顔が一瞬で苦虫をかみつぶしたような顔になる。
「わんわん」
顔が嫌ですと語っている。
「そんなにメッフィーが良いのですか」
「もふもふしてますからね。でも」
ふくれっ面のメフィストの頬を潰す。
「一緒に寝たいことには違いありませんよ」
「この姿のままでも良いのでは」
「その姿だとセクハラしてくるので」
バレたと言わんばかりに視線を逸らす。
へっぶっっし
またメフィストはくしゃみをする。ティッシュを渡し、メフィストが鼻をかんだティッシュを入れる為のゴミ箱も足下に持ってくる。メフィストも感謝しつつ、威厳もへったくれもない豪快に鼻をかみ、捨てる。風邪を引いた様子ではないが、寒がっている。
「電子湯たんぽあるんで持ってきます」
「その必要はありませんよ」
メフィストは指を鳴らし、膝の上に雪花を乗せる。カーテンも完全に閉められ、月明かりも隙間から微かに漏れる程度だ。白さを彷彿させるものはなくなった。
雪花に腕を回し、そのままベッドに横になる。指を鳴らし毛布も掛けられる。
「今日は寒いですからね」
寒さのせいなのか。
「このまま寝ても構いませんよ」
雪花を腕の中に入れて離そうとしない。
「今日はもう一緒に寝なくてもいいんですよ」
「ええ、ですから、貴女はこのまま寝てください」
なんだか噛み合わない。このまま私が寝たとしても既に寝たメフィストはまた寝ることはない。
「見逃し配信見るんじゃないんですか?」
「後で見ますよ」
外は余程積もっているのか音が聞こえない。
「雪花」
メフィストが雪花の兎の耳の形の角を甘噛みしてきた。
「いつまで」
「雪花が寝るまで、ですよ」
ふと目が覚め、窓を開ければ視界は白くぼやけている。雪は街灯の明かりでぼんやりとあかるい。雪花が暮らしていた東北とは異なり、オレンジとグレー、まばらに緑と赤とくすんだ色味だがカラフルな視界になっている。
冬になるとあの子を思い出す。真っ白な体で雪の中にいればすぐに見失ってしまう。雪花がいくらあの子を探しても、いつも先に後ろから飛びかかってくる。大型犬の大きさでのしかかられ、ベロベロ舐めてくるのだ。
思い出し笑いをしながら、窓を開けて雪を眺める。
「風邪を引きますよ」
肩に膝掛けがかけられた。振り向くと、一度は一緒に寝て、それから自室に戻ったはずのメフィストが立っていた。
「ありがとうございます……。自室に戻ったんじゃないんですか?」
「ええ、物音が聞こえたもので。来てみれば、寒い時期に窓を開けて雪を眺めるとは」
「平気ですよ。それはメフィストもご存じでしょう?」
へらへらと笑いながら言うが、メフィストの反応は薄い。セクハラ紛いの発言も、過保護発言もない。不審に思い、窓を閉めてメフィストに向き合う。
「メフィスト?」
彼の方が背は高い。見上げる形で顔を覗き込む。珍しく真顔で、不健康さが際立つ。
悪魔の考えていることは読めない。
「失礼」
「へ?」
突如、雪花はメフィストから抱きかかえられた。追いかけてきた使い魔達には雪花の部屋にいてもらうように指示をする。メフィストはそのままメフィストの部屋まで運ぶ。運ばれる間のメフィストの表情は眉が下がり、口元は緩んでいる。
メフィストの寝室に入り、ベッドの上に座らせられた。
「ありがとうございます……」
「いいえ」
メフィストも隣りに座り、指を鳴らしサイドテーブルやらティーセットを出す。
「今晩は私のわがままにお付き合いください」
「途中で寝ますよ」
「ではもう一度」
「いや、それはさっきしたからいいです」
「ちょっと貴女、ノリが悪すぎますよ」
「ここで寝たら申し訳ないですので」
「構いませんよ。ほら、眠くなる為にもこれを飲んで少し落ち着きなさい」
そう言って、メフィストはティーカップを差し出す。ミルクティーかと思いきや、ホットミルクだ。
「ありがとうございます……」
「いいえ」
ホットミルクは蜂蜜と溶かしたキャラメルが入っており、かなり甘い。これを作ったのはフィストだと確信した。当のメフィストも同じくホットミルクを飲んでいる。
「温まりすぎて寝られなくなりそう」
「糖分を一気に摂取したらすぐに寝られると聞いたのですが」
「それ、糖分上がり過ぎて失神するやつです」
「次はキャラメルショコラベリーフラペチーノにしましょう」
メフィストの妄言に突っ込む気も失せ、ホットミルクを飲み干す。
カップが空になったからか、温まった手はすぐに冷える。視線を窓に向ければ、外は雪が更に積もり、明日の交通機関は遅れが生じそうだ。
管轄外だが隣に理事長という責任者がいるのだ、除雪車を呼んでもらおうかと考える。それか、使い魔達に除雪と雪像を作ってもらおうか。
窓に何か塊がある。雪だるまでも雪花の使い魔達の雪兎の雪像でもない。雪ではない。色味こそ雪のような白さだが、ふわりとした毛並みは動物のそれだ。
「……」
へっっぶしっ!
誰かを呼ぼうとした名前はメフィストの派手なくしゃみでかき消された。
普段の紳士然とした振る舞いからは縁遠くしゃみに目を丸くする。メフィストは
メフィストに手を広げる。
「メッフィー」
照れくさそうな顔が一瞬で苦虫をかみつぶしたような顔になる。
「わんわん」
顔が嫌ですと語っている。
「そんなにメッフィーが良いのですか」
「もふもふしてますからね。でも」
ふくれっ面のメフィストの頬を潰す。
「一緒に寝たいことには違いありませんよ」
「この姿のままでも良いのでは」
「その姿だとセクハラしてくるので」
バレたと言わんばかりに視線を逸らす。
へっぶっっし
またメフィストはくしゃみをする。ティッシュを渡し、メフィストが鼻をかんだティッシュを入れる為のゴミ箱も足下に持ってくる。メフィストも感謝しつつ、威厳もへったくれもない豪快に鼻をかみ、捨てる。風邪を引いた様子ではないが、寒がっている。
「電子湯たんぽあるんで持ってきます」
「その必要はありませんよ」
メフィストは指を鳴らし、膝の上に雪花を乗せる。カーテンも完全に閉められ、月明かりも隙間から微かに漏れる程度だ。白さを彷彿させるものはなくなった。
雪花に腕を回し、そのままベッドに横になる。指を鳴らし毛布も掛けられる。
「今日は寒いですからね」
寒さのせいなのか。
「このまま寝ても構いませんよ」
雪花を腕の中に入れて離そうとしない。
「今日はもう一緒に寝なくてもいいんですよ」
「ええ、ですから、貴女はこのまま寝てください」
なんだか噛み合わない。このまま私が寝たとしても既に寝たメフィストはまた寝ることはない。
「見逃し配信見るんじゃないんですか?」
「後で見ますよ」
外は余程積もっているのか音が聞こえない。
「雪花」
メフィストが雪花の兎の耳の形の角を甘噛みしてきた。
「いつまで」
「雪花が寝るまで、ですよ」
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