メフィスト夢
雪花が拗ねた。
彼女が寝落ちするまで、兔の姿の彼女を彼女が怒らない範疇で好き放題に触った。兎の姿というのは仮装のバニーガールやうさ耳がついた衣服を着ていた状態ではない。正真正銘の動物姿の兎だ。正確には、この兔の姿はどの品種にも当てはまらない。兔であって兔ではない。
「一体何の気まぐれをしているのやら」
彼女の右耳、うさ耳を撫でながら呟く。
彼女はこの兔の姿をあまりしたがらない。それでもこの姿になってくれたのは今日がメフィストの記念日だからだろう。
メフィストとしては雪花のこの姿が気に入っている。
首回り、背中、そして尻尾の手前で止まる。
人の姿より腕の中に包みやすく、ふわふわの毛並みは癒される。
うたた寝から覚めた時には雪花は人の姿に戻ってしまっていた。
正十字学園の執務室でメフィストは大きくため息をつく。
記念日だからといって休みにはならない。腐っても理事長、やることが時間がいくらあっても足りないほどにある。
今日の執務を終え、自宅に帰る。今日がメフィストの記念日なのもあり、食事はパーティー仕様になっている。期間限定カップ麺とフライドチキンとメフィスト好みの食事と雪花用の食事が追加されている。徹底的にメフィストと同じ物を食べることはしないが、あくまでも健康に支障が出ない量を超える時は食べないとのことで、夜食では同じ物を共有して食べる。
来てみれば食卓には雪花がいない。記念日は祝いたいから、特に時間は合わせてと言われて来てみれば主催がいない。探す前にカトラリーケースを持ったベリアルが入ってきた。ベリアルの後ろに誰かが一人付いてきている。
メフィストの中の時が完全に止まった。
ハニハニシスターズがいる。
いや、正確にはハニハニシスターズのあるキャラクターだ。
はにかみながらハニハニシスターズのコスプレをした雪花がケーキを運んできた。
無論、雪花はハニハニシスターズにはさほど詳しくはない。メフィストの語りを聞いているうちに登場人物の何人かは覚えてくるくらいだ。
「雪花、貴女」
「おめでとうございます」
視線をそらしながらぶっきらぼうな言い方だが、
ケーキとカトラリーを置き終えるとベリアルさんは一礼し、退室した。
メフィストはふらりと、雪花に歩み寄る。
見覚えのある衣装にウィッグとコスプレで使うカラコンとメイクも綺麗に整えられている。
「雪花」
「ベ、ベリアルさんがメイクを手伝ってくれて」
「ええ」
「服は既製品で、その、最初から作るのは色々と難しくって」
「ええ」
「ハニハニシスターズっていっぱいいすぎです」
「いっぱいいるんですよ」
雪花の回りをぐるぐると回り、全身をつむじからつま先まで舐めまわすように見る。
「失礼」
雪花を軽く腕で包み、深呼吸した後、手を取り膝をつく。
「ありがとうございます。本当に愛らしいです」
恥ずかしそうにしながらも嬉しそうな雪花の顔に、メフィストもにやけが止まらない。
指を鳴らし、カメラを出現させるが、しれっと雪花に強奪される。照れていた雪花の顔はすんと冷めた。
「これはだめです」
「だめ」
雪花の睨む目つきは変わらないが、顔の赤みはほんの少し戻る。
「だめです」
「だめ」
もう少しお願いすれば折れてくれそうな様子にもう一押ししかけたその時、
きゅう
メフィストは雪花の腹部を見た。視線を上にすれば、真っ赤は真っ赤でも先程とは異なる意味の赤面の雪花だ。
メフィストが吹き出し、腹を抱えて笑えば、雪花が作り出した雪玉で投げつける。 笑いながら雪花を抱きながら宥める。
「では来年は別の子の衣装を着てくれることを楽しみにいたしましょう」
***
食事中に雪花から聞いたところ、やはり以前見た衣装で間違いないようだった。着替えは雪花の使い魔がしたと話したが、彼女の疑惑の目は一切晴れなかった。
今日はメフィストもかなり早く雪花のベッドに入る。メフィストがいつもよりかなり早くベッドに来たことと、犬の姿にならない様子に何か感じてか、雪花が身構える。
「メフィストらしからぬ早寝ですが、ドラマやゲームの続きはどうしたんですか。オンライン対戦のイベント始まってます」
「ええ、まあ一度抜けても問題ありませんよ。連絡も入れてますし」
雪花はまだ身構えている。
メフィストは指を鳴らし、犬の姿に、メッフィーになる。
雪花に近づき、膝に乗る。彼女は本当にこの姿に弱い。警戒はしているが、先程より遙かに気が緩んでいる。撫でる手つきも優しい。
雪花の腕の中に包まれ、寝転ぶ雪花から胴上げをされる。
「雪花、一つ私からお願いをしても宜しいですか?」
「なんですか」
「触らせてください」
「……どこを……」
掴まれる胴体がほんの少し痛い。メッフィーになったとしても緩和しきれなかったらしい。
「駄目な所は駄目と仰っていただけたら」
「目」
「急所は流石に除きます。貴女時々物騒なこと言いますね」
「メッフィーが馬鹿げたことを言わなければいいんです」
雪花が胸の上にメフィストを置く。犬の体としても大きくはない方だからか、ぬいぐるみのようにも扱ってくる。
煙がメフィストを覆う。雪花が逃げようとするが、両手を両手でしっかり掴む。
「“今日ぐらいは好きに触ってもいいですよ”では?」
「ううー……」
言質を取られたことに対し悔しそうに呻く。時計も見ても無駄。
「まだ“今日”ですよ」
今日は月の傾きがほんの少し遅かった。
彼女が寝落ちするまで、兔の姿の彼女を彼女が怒らない範疇で好き放題に触った。兎の姿というのは仮装のバニーガールやうさ耳がついた衣服を着ていた状態ではない。正真正銘の動物姿の兎だ。正確には、この兔の姿はどの品種にも当てはまらない。兔であって兔ではない。
「一体何の気まぐれをしているのやら」
彼女の右耳、うさ耳を撫でながら呟く。
彼女はこの兔の姿をあまりしたがらない。それでもこの姿になってくれたのは今日がメフィストの記念日だからだろう。
メフィストとしては雪花のこの姿が気に入っている。
首回り、背中、そして尻尾の手前で止まる。
人の姿より腕の中に包みやすく、ふわふわの毛並みは癒される。
うたた寝から覚めた時には雪花は人の姿に戻ってしまっていた。
正十字学園の執務室でメフィストは大きくため息をつく。
記念日だからといって休みにはならない。腐っても理事長、やることが時間がいくらあっても足りないほどにある。
今日の執務を終え、自宅に帰る。今日がメフィストの記念日なのもあり、食事はパーティー仕様になっている。期間限定カップ麺とフライドチキンとメフィスト好みの食事と雪花用の食事が追加されている。徹底的にメフィストと同じ物を食べることはしないが、あくまでも健康に支障が出ない量を超える時は食べないとのことで、夜食では同じ物を共有して食べる。
来てみれば食卓には雪花がいない。記念日は祝いたいから、特に時間は合わせてと言われて来てみれば主催がいない。探す前にカトラリーケースを持ったベリアルが入ってきた。ベリアルの後ろに誰かが一人付いてきている。
メフィストの中の時が完全に止まった。
ハニハニシスターズがいる。
いや、正確にはハニハニシスターズのあるキャラクターだ。
はにかみながらハニハニシスターズのコスプレをした雪花がケーキを運んできた。
無論、雪花はハニハニシスターズにはさほど詳しくはない。メフィストの語りを聞いているうちに登場人物の何人かは覚えてくるくらいだ。
「雪花、貴女」
「おめでとうございます」
視線をそらしながらぶっきらぼうな言い方だが、
ケーキとカトラリーを置き終えるとベリアルさんは一礼し、退室した。
メフィストはふらりと、雪花に歩み寄る。
見覚えのある衣装にウィッグとコスプレで使うカラコンとメイクも綺麗に整えられている。
「雪花」
「ベ、ベリアルさんがメイクを手伝ってくれて」
「ええ」
「服は既製品で、その、最初から作るのは色々と難しくって」
「ええ」
「ハニハニシスターズっていっぱいいすぎです」
「いっぱいいるんですよ」
雪花の回りをぐるぐると回り、全身をつむじからつま先まで舐めまわすように見る。
「失礼」
雪花を軽く腕で包み、深呼吸した後、手を取り膝をつく。
「ありがとうございます。本当に愛らしいです」
恥ずかしそうにしながらも嬉しそうな雪花の顔に、メフィストもにやけが止まらない。
指を鳴らし、カメラを出現させるが、しれっと雪花に強奪される。照れていた雪花の顔はすんと冷めた。
「これはだめです」
「だめ」
雪花の睨む目つきは変わらないが、顔の赤みはほんの少し戻る。
「だめです」
「だめ」
もう少しお願いすれば折れてくれそうな様子にもう一押ししかけたその時、
きゅう
メフィストは雪花の腹部を見た。視線を上にすれば、真っ赤は真っ赤でも先程とは異なる意味の赤面の雪花だ。
メフィストが吹き出し、腹を抱えて笑えば、雪花が作り出した雪玉で投げつける。 笑いながら雪花を抱きながら宥める。
「では来年は別の子の衣装を着てくれることを楽しみにいたしましょう」
***
食事中に雪花から聞いたところ、やはり以前見た衣装で間違いないようだった。着替えは雪花の使い魔がしたと話したが、彼女の疑惑の目は一切晴れなかった。
今日はメフィストもかなり早く雪花のベッドに入る。メフィストがいつもよりかなり早くベッドに来たことと、犬の姿にならない様子に何か感じてか、雪花が身構える。
「メフィストらしからぬ早寝ですが、ドラマやゲームの続きはどうしたんですか。オンライン対戦のイベント始まってます」
「ええ、まあ一度抜けても問題ありませんよ。連絡も入れてますし」
雪花はまだ身構えている。
メフィストは指を鳴らし、犬の姿に、メッフィーになる。
雪花に近づき、膝に乗る。彼女は本当にこの姿に弱い。警戒はしているが、先程より遙かに気が緩んでいる。撫でる手つきも優しい。
雪花の腕の中に包まれ、寝転ぶ雪花から胴上げをされる。
「雪花、一つ私からお願いをしても宜しいですか?」
「なんですか」
「触らせてください」
「……どこを……」
掴まれる胴体がほんの少し痛い。メッフィーになったとしても緩和しきれなかったらしい。
「駄目な所は駄目と仰っていただけたら」
「目」
「急所は流石に除きます。貴女時々物騒なこと言いますね」
「メッフィーが馬鹿げたことを言わなければいいんです」
雪花が胸の上にメフィストを置く。犬の体としても大きくはない方だからか、ぬいぐるみのようにも扱ってくる。
煙がメフィストを覆う。雪花が逃げようとするが、両手を両手でしっかり掴む。
「“今日ぐらいは好きに触ってもいいですよ”では?」
「ううー……」
言質を取られたことに対し悔しそうに呻く。時計も見ても無駄。
「まだ“今日”ですよ」
今日は月の傾きがほんの少し遅かった。