メフィスト夢

 深夜、誰かが入り込む音が聞こえた。忍び足でこちらに向かってくる。
 驚くことはない。誰なのかは分かっている。
 侵入者はベッドに上がり、私の足を跨ぐ。両の手を枕の両端を押さえ込み、耳元でささやく。
「ハロー?」
「万年不眠障害寝てくださいよ」
心底鬱陶しいことが伝わるように、顔にも出して早く帰ることを頼む。
「寝れないからこっちに来たのですよ」
「こっちが不眠になりそう」
「私が子守唄を歌いましょう」
「聖水ふっかけますよ」
サイドテーブルに手を伸ばすが、置いていたはずの聖水はない。犯人は目の前の人物、もとい悪魔だろうか。
 メフィストを睨むが、彼は知らんぷりをする。
 布団を被り、無理矢理にでも無視を決め込むがお馴染みのカウントダウンをすると彼は犬になり。ベッドに潜り混んできた。
 私はため息をついた。
「朝まで犬の姿ならいいですよ」
「貴女ほんとこの姿に弱いですよね」
「うっさい」
 気楽に抱き締められる。
 そんなこと決して言えない。

 雪花が寝たのを確認するとメフィストは雪花の腕から外れた。
 メフィストから離れた雪花は段々と肌の色が白くなっていく。メフィストが触れると、その部位だけは元の色になる。触れているところはひんやりと冷たいが時間と共に温かさが増す。
 今日はとても“冷える”。ほとんど口だけでの動きで呟く。
 たまにこうして寝所に来るのは半分はこの“冷え”を押さえる為だ。もう半分は、
「貴女の側で寝るのはとても落ち着くのですよ」
ただの我儘だ。
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