075.身染めの褐葉
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この小説の夢小説設定簡易的な夢主設定
夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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帰りの電車は指定席を取り、なるべく人がいないところに座る。蝶は窓辺で、蟬ヶ沢は通路側だ。
蟬ヶ沢は隣に座る蝶の様子をこっそりと見る。朝になると少し落ち着いたようだが、それでも咳は収まっていない。マスクから見える範囲からも彼女の顔はまだ赤いのが分かる。蝶からのお願いで、予防として蟬ヶ沢もマスクを付けている。
蝶と視線が合った。彼女はにやりと目を細め、手を鋏の形に変える。これから蟬ヶ沢以外の人が聞くと不味いことを言うつもりらしい。
不味いことを言うにしては気に病んでいたり、真剣な顔ではない。
何か冗談でもいうつもりだろうか。
「聞いてよ、今朝見た夢、セミさんが凄いことしてた」
「へえ。……どんな?」
「セミさんならしなさそうなことだったから起きた時びっくりしたよ」
「…………」
鞄を落とした。心なしか汗が吹き出した気がする。
蟬ヶ沢の異変を蝶は見逃すはずはない。あはははと笑う蝶の表情が固まる。赤い顔は確かに赤いが違う意味も入っているように見える。
「え、ええと、待って」
「はい」
観念した。
「もしかしてだけどさ、気のせいと思いたいのだけども」
マスクを更に上げて顔を更に隠すが、真直ぐ見つめてくる。
「その、体調を調べたくって……」
「何で首にもっかい、あの、あれ、あれ……あれを?」
マスクの下からでも顔をひきつらせているのが見えて、視線が怖いです。
「風邪移ればいいなって思っただけよ」
「移らないし、移さないし」
蝶の視線が怖いです。
「そうよねぇ」
「首じゃなくても良かった……じゃ、ん?」
どこなら良かったのだろうか。
ふむと頷いて、少し考える。
「切って血を採取するのも手だけども、嫁入りの子を傷つける訳にはいかないもの。それに、……口なんてもっとだめでしょう?」
「あたりまえだよ!」
過去にしたことは永久に明かさないと固く心に誓った。
「あんまりかっかっしていると風邪が悪化するわよ」
「誰のせいで」
蝶は咳き込み噎せる。蟬ヶ沢が背中を摩るが、止まるまでやや時間がかかった。
蝶は大丈夫と手を軽く前に出して伝えてきた。
「思ったより悪そうね。もう一度調べた方が良いかしら」
「平気だって」
「風邪引いといて何が平気よ。ほら、ちょっと首を貸しなさい」
「ま、待ってよ。人はいないけど、行動は考えよ?合成人間の倫理観のやばさはちょっと考えて?」
「……。不可視にして?」
「そんな、語尾にハートつけても絶対しないからね」
首を傾げてみたが駄目だったようだ。
「あら、私たちの仲を見せ付けようなんて、いいアイデアね」
「セクハラ中年蟬、怒るよ」
蟬ヶ沢はため息をつく。
「一応、純粋に心配だから知りたいってだけなのだけど」
手段こそ非難されたが、心配からしたというのは偽りのないことだ。
「……………ちょっと舐めくらいで終わる?」
「すぐに終わるわ」
「…………」
観念して、タートルネックの襟を手で下ろす。
指で首に触れるとぴくりと動いたが、目は固く閉じられている。
マスクを外して、袋に入れる。顔を近づけ、触れる寸前で蟬ヶ沢は止まる。ちらっと蝶の様子を見ると、まるで彫刻の様に固まっている。
「…………」
二秒ほど停止し、呼吸から漏れた程度に息を吐き、笑う。
触れていた手を一度離す。指を狐のように作り、首にかぷりと挟むもとい噛みつく。指についた汗を舐める。
首の感触が無くなったことに気づいた蝶はおそるおそる瞼を開けて、首を擦る。擦りながらぽかんと蟬ヶ沢を見る。彼は蝶のことなんぞお構い無しで、にっこり笑った。
「……そうね風邪は悪化してなさそうよ。良かったじゃな」
蟬ヶ沢の顔面は激しい衝突音と共に鞄で見えなくなる。
蝶が鞄を蟬ヶ沢にぶつけたのだ。相手が弾丸を視認出来るほどの動体視力を持っていようが構わないというような手際のいい綺麗なフォームで鞄を蟬ヶ沢の顔面にぶつけた。
蟬ヶ沢とて避けられるはずなのだが、毎回受けている。この程度では全くダメージはない。その証拠に、やれやれと首を擦って何かおかしいことをしただろうかと蝶を見る。
真っ赤になった蝶はこの紅葉一朱色になったのではないかと思うほど赤い。
「…………!……ばか!」
どすどすと席を離れ、何処かに行ってしまった。
しばらくしても彼女は戻らない。
蟬ヶ沢が席を離れて見に行こうするが、すぐに蝶を見つける。数座席先の腕置きにもたれている。
蟬ヶ沢が慌てて駈け寄ると、キッと睨んできた。
「ええと……」
睨む蝶にどうすればいいか。
とりあえず、しゃがみ込んで目線を合わせる。
「呼吸はどう?辛い?」
頷く。
「立てそう?」
首を横に振る。
「席まで運んで行ってもいいかしら?」
動かない。
「あー……、調べる時はもうちょっと、その、ごめんなさい」
すっと両手が蟬ヶ沢の首に伸びる。顔は俯いたままで見えないが、その手は直接蟬ヶ沢に触れることはない。開かれた掌はひらひらと偉そうに蟬ヶ沢に運ぶことを要求する。顔こそ見えないが首まで赤いのが見えた。
「はいはい」
お許しの反応を見たせいか、声音に笑いが入ってしまった。
蝶を抱えて蟬ヶ沢は元の座席に戻った。