075.身染めの褐葉
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この小説の夢小説設定簡易的な夢主設定
夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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隣で寝る蝶はずっと咳き込んでいる。
ここ最近の疲れから引き起こしてしまったのだろうか。
私の管理不足か。自分を責めそうになり首を振る。
ともあれ旅行は中止だ。一刻も早く家に帰して休ませなければならない。
蝶はまたひとつ咳をする。呼吸もいつもよりしづらそうに聞こえる。
苦しむ姿を見るたびに今の体調を調べたくなる。調べて少しでも楽にさせたい。しかし調べたいが、合成人間特有の体調等の調べ方は少々困る方法だ。
合成人間の物質の調査方法は様々だがスタンダードな方法は舐めて、その成分を調べる。
合成人間だけでなら、お互い特に躊躇なく受け入れ調べる。以前、蝶のことも同じ方法で調べようとしたとき、酷く嫌がられた。形としてはキス、それも舌を入れて相手の唾液を採取する方法で、蝶は調査方法を知ったときこれだけは止めてくれと頼むほどだった。
遥か昔、その調べ方を施したことがあるのだが、彼女には教えないほうがいいだろう。
蝶の背中を擦りながら、比較的起こさずに済みそうな方法を考え、思い付く。
「……怒る、かしら」
ほとんど口の動きだけで、ごめんなさいねと謝り、首に軽く舌を這わせる。首に流れ落ちる汗を舐める。
罪悪感と羞恥心で心拍数が上がるのが分かる。
合成人間の調べ方としては舐めることは一般的な身体の調べ方だが、行動そのものはとてもじゃないが事情を知らない人間には出来ない行動である。腕などなら良かったが、衣類で汗が吸い込まれてしまって、採取には向かない。脱がせてまで汗を採取するなんて方法では確実に彼女を起こし、引かれるだろう。それだけは避けねばならない。
妥協案としての首だが、これもこれで酷い。
舐めて、成分を調べた結果としては、彼女の風邪はウイルス性は多少あれども安静にしておけば治る一般的な風邪だった。
帰る前に医者に見てもらい、それから帰るのがよいだろう。
「………………」
もう一度首に口を推し当てる。今度は舐めるようはことはせず、軽く押し当てる。熱い。普段よりも高い体温のせいか、貴女だからなのか。
こんなことをしても風邪は自分には移らない。彼女を苦しめる風邪を吸い込めたらどんなにいいことか。
やや深い呼吸が喉からの振動で伝わる。呼吸が苦しいのかもしれない。
この程度では死ぬことはないだろうが、辛い状態には違いない。
漫画では風邪を感染させて治るものだが、現実はそうもいかない。
感染されても蟬ヶ沢ならばすぐに治してしまうだろう。
「せみさん?」
蟬ヶ沢の名を呼ばれて、はっと離れる。
蝶はぼんやりと蟬ヶ沢を見つめながら、首の、丁度蟬ヶ沢が降れていた箇所を擦る。
蟬ヶ沢は視線を逸らして情けなく思いながら弁明する。
「これはその、変なことがしたくてこんな、こんなことしているんじゃないのよ。風邪は風邪でもウイルス性とかあるかもしれないから……」
「しらべた?」
蝶は蟬ヶ沢に触らずに尋ねる。
「汗で、少しだけ。でも、普通の風邪だから安心しなさい。このまま安静にすれば治るだろうから」
どこにも行くなというように蟬ヶ沢の首に手を回し、引き寄せる。
「あ、あああ、あの、蝶?」
ぴったりと付いた頬は当然ながら熱い。
顔を逸らすなり抵抗した方がいいのだろうが、この状況に混乱した蟬ヶ沢は抵抗することを完全に忘れた。
ああだの、ううだの、言葉ではない発生ばかりで、ろくに言葉も吐けない。止まって欲しいはずなのだが、どうする気なのかも期待してしまう。
とんとんと肩を叩かれる。蝶は蟬ヶ沢を放すと、寝てくれとのつもりだろう、軽く肩を押してきた。
大人しく寝るが隣が気になって仕方ない。ちらちらと何度も蝶の様子を見てしまう。
蝶はふうと息を吐くと、布団から起き上がる。蟬ヶ沢が止める前に、ぺたりと彼の腹の上に乗っかってきた。
きょとんとする蟬ヶ沢を尻目に片方の手を狐の形に変える。口に当たる部位を広げて、蟬ヶ沢の首を挟む。形としては噛みついたと言うべきだろうか。
そのまま蟬ヶ沢の上でうつ伏せになる。
赤い顔で半分までしか目覚めてない顔は酔ったようにも見える。
ふふんと笑って、顔を伏せた。
「…………」
つんと頭をつつくが反応がない。
蝶はその後電池の切れたおもちゃのように眠っている。
どうして腹の上にうつ伏せで寝てしまったのか。両足も丁度足の間に収まっている。
「……………」
合成人間でよかったと思うべきか。悲しむべきか。
合成人間でよかったと思うことにしよう。この時点でも既にアウトである。この子は気にしない可能性はあるが。
「…………」
そっと蝶を下ろし、首を擦る。焼き印で焼かれたように触れたあとはどこだったのか明確に思い出せる。そこはもう熱くも色も変わらない。
深く、深く溜め息を付いた。
指で良かったと思った。
自分がしたように触れられていたと思うととてもじゃないが心臓がもたない気がする。
「…………」
大きく溜め息をついたのか落胆なのか安堵なのか。
誰も見ていないのは解っているが、腕で顔を隠す。
鼓動が早く、心臓が痛い。
きっとこの顔は紅葉よりも朱色に染まっているだろう。
呼吸がやたら深いのは気のせいと思いたい。
朝になって、蟬ヶ沢は少しだけ熱を出したが、それは風邪ではないのだろう。