ゲルリッヒ砲の一撃
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夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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スクイーズの能力は合成人間の臓器(肺)を移植して発露した為に、肺で圧縮されたエネルギーは放つ際自身に負担を掛ける。臓器の移植に耐えらえる素材が多ければよかったものの、実際のところ生きて活動したのはスクイーズ、コピ・ルアク、アウトレージの三人だけだった。三岐という“合成人間”が最終的に臓器専門の製造しかしなくなり、ウトセラの製造液がメイン製造方法となった。
『ゲルリッヒ砲はドイツのヘルマン・ゲルリッヒが対戦車砲に応用したものだ。威力もあり武器としては使えるが、ゲルリッヒ理論の構造上、口径に負担を掛ける為に通常の対戦車砲よりも消耗が激しい。タングステン弾芯の材料不足から量産が難しく、実際の大戦で使われることはそう多くはなかった。量産に見合う金属がなかったわけだが、この二つが解消されればドイツの戦果は大きく変わったのは想像に難くない。しかし、戦後でもタングステンの供給はドイツは輸入頼りなので、実現はやはり不可能だったのだろう』
J・S・パド〈狭窄な思考〉
1.肺
合成人間スクイーズの始まりは水の中だった。
その水はだったかもしれないし、川の水かもしれない。息苦しさもあった気もするが平気だった。肺は水で満たされ呼吸出来ないはずなのに、何故か呼吸が出来る。肺に水が入っていることにスクイーズも異常に恐怖を覚える。手足をばたつかせ、辺りを叩くが壊れる様子はない。なんとか水面へ顔を覗かせるがそこは何か蓋がされているらしく、びくともしない。僅かな隙間から助けてと叫ぶも誰もいないかのように反応がない。息を吸い込まねば死ぬ。何度も沈みながらも必死に肺に空気を取り入れ、限界まで肺に入れる。吸い込みすぎて過呼吸になると思う余裕もない。夢中で吸い、溜め込んだ息を吐き出した。
爆音と共に蓋が吹き破られ、水槽も割れてしまった。水槽を破壊した衝撃と、落下による怪我で全身を酷く打ち、ガラスもいくらか突き刺さった。
呼吸ができる。まともに呼吸が出来ると分かっても、まだ息を吸い続けてしまう。
水槽の外は周囲は半球状のくぼみになっており、自分は中心にいた。
刺さったガラスを取り除きながら更に周囲を観察すると、上から話す声が聞こえた。見上げると、ボードを持って何かを書き込んでいる者や、設備らしきものを弄っている者、金髪の少女が立っていた。
「成功した……と見ていいのか」
「だと思いたいな。このタイプは初めてなんだ。失敗されては困る。カチューシャ、彼は安全か?」
「何もしてこないのならそうでしょ。あの面じゃあ、何が起きたのかも分かってないかもよ」
「あれで本当に戦えるのか。同じような状況なら動くと言われて実験してみれば、合成人間にしてはただの子供と変わらず、まるで頼りない」
「唯一まともに適合した奴なんだから。少し様子を見たらいいんじゃない?」
スクイーズは無言ではあったが、現状とさっきまで自分に起きていた記憶の認識が合わず混乱した。溺れていたのは確かで、自分は川にいたと思っていたが、実際は真っ暗な水槽の中に閉じ込められていた。
あの溺れた記憶はなんだっただのだろう。
自分の命が助かったことよりも、記憶にない記憶のことが気になって仕方がなかった。
視界の端でカチューシャと呼ばれる少女が手を上げた。スクイーズへの何か身体的言語としての手振りかと思ったが、違った。ふと上空を見上げると何がが降ってきた。
スクイーズはとっさに横のひび割れた地面に吸い込んでいた空気を放つ。この地面を掘る程の威力があるか分からないが、この上空から降る何かは無差別に落ちており、雨から逃げるのと同じな状態から他に逃げるすべはない。
放たれた空気によって横の地面は抉られ、穴は開いたが、飛び散った石でスクイーズの身体は更に傷を負う。
激突する形で駆け込み、身体に刺さったガラスの破片や石がより深く刺さるが気にしていられない。
くぼみに落ちた何かはスクイーズがいたフィールドを穴だらけにしていった。
*****
カチューシャはオルガンを放った大地を見下ろし、ふんと鼻を鳴らした。
実験的に作られた合成人間を鑑定しろと言われたが、反応らしい反応がまったく無かったので、同じような状況下に置いたら何らかの動きは見せるだろうと思ってスクイーズを水槽の中に入れて閉じ込めたが、失敗したのか成功したのかよくわからない結果になった。
臓器専門の合成人間の臓器を移植の実験が成功すれば、同じような仕組みで合成人間がつくられていくのだろう。
合成人間が増えよう減ろうかがカチューシャには気にしない。仕事は仕事としてこれをこなしていくだけだ。
このスクイーズを手術した研究者と共に実験に来たはいいが、能力らしきものは使えるのが確認できたが、戦闘用の合成人間として使えるのかは別だ。
とりあえずオルガンを放って様子を見てみたが、死ぬ可能性は高いだろう。これで死んでも鑑定では失敗作だったとでも言えばいいのだ。
土煙が晴れると、スクイーズが置かれた半球状の地形はオルガンによって穴だらけになっていた。その穴の中で一か所不自然に大きく開けられた穴を見つける。他のは真直ぐ下に穴が空いているのに対して、その穴は横に開けられている。
土煙が完全に晴れると、カチューシャは大地に降りる。瓦礫を蹴り飛ばしながら、横に開けられた穴の前に立つ。
穴はだいぶ深く少し曲がっており奥は真っ暗で見えない。
「ええと、生きてる?」
幾度か声を掛けるが反応はない。
砲撃から逃れる為に作ったのだろうと思ったが、オルガンの衝撃で元々あった穴をあけてしまったのだろうか。生き埋めになったとしたら掘り起こして探さねばならない。最低でも腕一本でもいいので死んでいることが確認されないと死んだことの証拠として不十分と判断されるのだ。
周囲を見渡すが、肉片となった痕跡はない。となると自分が空けた穴で生き埋めになったと思うが、そうなれば面倒なことになる。
横に開けられた瞬間、後ろから"きん…!"という音が聞こえ、カチューシャは全身が切り裂かれた。
振り返る暇なく、カチューシャの首は裸絞により首を絞められるが、先に腕を挟めたので意識は飛ぶことは阻止した。
この様子に上に待機していた研究者は慌てて外部に連絡いれようとしたが、カチューシャは足元にある小石を蹴り、止めた。
「報告は私がする!お前たちは何もするな」
改めて後ろにいる合成人間に意識を向ける。通常の砲撃型なら発射に音が出るのだが、当たる直前まで聞こえなかった。ラッチェ・バムよりも早い攻撃なんてゲルリッヒ砲でもあるまい。
「今のはなんだ。まったく発射の音が聞こえなかったぞ」
「なんのことだ」
「お前の攻撃だよ。今の私に放っただろう。クソぬるい威力だが、出力を変えればそこの穴ぐらいは造作もないんだろう」
「死にたくなくて必死になって穴を開けただけだ。まったく、なんの意味があって私を攻撃した。それに私が今したのもだが、お前のも………これはなんなんだ」
こいつは生来の記憶が少し残っているようだ。その感覚から自分に備わっている特殊能力に驚いているらしい。
「あー、分かった。説明してやるから、まずこの腕を離せ」
解放されて、首を擦る。肺だけ移植したと聞いていたが、この肺の持ち主のせいなのか、筋力も子供不相応な力だった。攻撃方法も威力もまあ、そこそこ使えるとみて言いだろう。能力の解析はあの軍服馬鹿に任せることにした。