075.身染めの褐葉
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この小説の夢小説設定簡易的な夢主設定
夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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外は川沿いの並木からライトアップされていた。夜の空に下から当てられた光で、非現実的な光景にも見える。性能のいいカメラで撮ればさぞかしいい写真が撮れるだろう。
昼間に行った方向とは違う道を歩いていると、突然、蟬ヶ沢が蝶を物陰に引っ張り込んだ。
体としては抱き締められているので、羞恥心で離れたいがそうはいかないらしい。
状況が飲み込めないが、蟬ヶ沢を見る限りでは誰かから隠れたようだが、蝶には特に不審な意識を向けている人間は視えない。
見上げて蟬ヶ沢にどうしたのかと聞くが、彼は指を口に当てて静かにしてくれと言う。
静かにしているのは構わないが、彼はこの状況についてなんとも思わないのか。
浴衣から覗く肌が見えるせいか、密着しているせいか、部屋で見た蟬ヶ沢の、スクイーズの身体中についた傷が脳裏をちらつく。
「…………」
こっそりと頭を預ける。聞こえる心音は早く、心拍数はやや高い。
頭の上で彼は唸る。よほど見られたくない人がいるらしい。
「セミさん、誰か教えてくれれば、こっちに意識が向かないように出来るよ?」
と、肩を包む右手に触れようとする。触れさえすれば、蟬ヶ沢が見ている対象が視えて、相手が向けている意識をこちらに向かないようにすることが出来る。
蟬ヶ沢は更に強く抱きめる。蝶が伸ばしかけた手はお互いの体に挟まれる。
「ううん、たぶん平気よ。何より、こんなことに蝶に負担を負わせるわけにはいかないわ。とはいえ、ごめんなさいね。ちょっと息苦しいでしょう?」
「平気。システム関係の人?」
「いいえ、仕事の仲間。蝶のお父様も知っている人じゃないかしら」
「ああ、そりゃあ見られたら気まずいね」
「でしょ」
蝶と蟬ヶ沢の関係は酷く複雑で、蝶にとっては一番当て嵌まるのは友人なのだが、世間一般の説明としてはアルバイトと雇い主で、たまにかなり遠い親戚ということにしている。
二人の状況、知り合いに見らえたら確実に妙な誤解を与えらえる。さきほどの世間一般の説明では到底補えない。一番二人の関係に理解があるのは奇妙なことに蝶の両親である。
流石に両親でさえ、二人がこうして密着しているのはざらではないことは知らないし、教えられない。
蝶はこっそりと蟬ヶ沢の胸に埋もれる。
あと五分ほどでいいので知り合いの何某さんはもう暫くうろついて欲しいと願ってしまう。ここで留まっている意識はもう見えているので、そうさせることは可能だ。それこそ蟬ヶ沢に提案したようにこちらに意識が向かないようにさせることも、別の方向へ意識を向けさせて別の場所へ消し掛けることも可能だ。
蝶はその動かない意識には触れない。触れたくないというのもあるが、触れて操作してしまっては今が楽しくないのだ。
自分は楽しんでしまっているが、彼はどうだろうと、見上げる。
おろおろと困った顔をしている蟬ヶ沢が親指の爪を歯でがりっと噛む。
蝶は苦笑いをしてしまう。この表情に可愛さを見出してしまうことに申し訳なさもあるが、もう少し見ていたいと思う意地悪な考えもあるのだ。
(あんまりこの状態が続けばセミさんの胃に穴が空きそうだし)
仕事と私生活の事情をそれなりに知っているので、日々ストレスに追われているのは知っている。特に、裏の仕事のストレスに関しては。
蟬ヶ沢に気付かれないようにこの場に長く留まっている人物の意識を探る。人数は五人、接待として来たのだろうか、一人は上機嫌な湯気を上げた意識を周囲に振り撒き、一人はぴりぴりと静電気のような意識でやや緊張しながらも上機嫌な湯気の人物に全神経を注いでいる。残りは逆に前者に対する緊張はあれども、後者に対しての緊張が高い。
蝶は心の中で溜め息を付く。この手の気持ちの人間を操作するのは気が重いのだ。それこそまともに彼が感じている意識を細かく視てしまえば蝶の胃に穴が空きかねない。
彼らの意識を操作するのは止め、別の人間の意識を変えることにした。
案の定、蟬ヶ沢が動いた。
「しめたわ!蝶、行くわよ」
蟬ヶ沢は蝶を抱き上げ、この場を去った。
後ろには修学旅行と思しき学生の集団がたむろっていた。