078.白鳥と鷺鳥
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夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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アウトレージが逃亡したのは遥か昔のことで、現在の統和機構では逃亡者のリストにすら入っていないらしい。
能力は発露していたが、まだ任務も与えられてない素体としての扱いだったらしい。
どうやって、どうして逃げたのかは左義長も知らない。
今回の逃亡の際、スクイーズも連れてこいと頼まれた。
***
「やれやれ交渉決裂ですかね」
TBDがのんきにカチューシャの方を見る。
二撃目のオルガンが降りかかる。TBDはファイアー・クラッカーを空に放ち、相殺する。着弾した薬液と衝撃により焼けこげた薬液だったものはTBD達の上に落ちる。
「カチューシャが来ていることは聞いてないぞ」
「ええ、話してませんでしたから」
TBDはあっさりと明かす。
「どうせ殺されるなら、彼女の方がいいなと思いましてね。彼女も貴方の鑑定もあるということで同行してもらいました」
「な……」
絶句するスクイーズに蝶は冷静にTBDの手を握る。それを見たスクイーズは思わず蝶のもう片方の手を握る。彼女の意識の示す先が視えた。
「ち……ウェザー」
「お願い」
気が付けば彼女はTBDから手を放している。
「無理はするなよ」
「りょうかい」
蝶の顔はなんともついでに卵を買ってきてくれと頼むような気軽さで、スクイーズは胃が痛むのを感じた。
***
渋々スクイーズが去った後、蝶は彼と握っていた手を三秒ほど見つめていた。
「さて、あのど過保護が行ったわけで、もうちょっと踏ん張る必要があるわ」
蝶はTBDの手を握り直し、再度彼の意識と体の組成を調べている。蝶が彼の体を調べている間、カチューシャからの攻撃をファイアー・クラッカーで相殺している。
「嫉妬深いって言われたことありません?」
「ああいうのは過保護っていうの」
「気にしてもらえるってちょっといいですね」
「TBDは」
「左義長でいいですよ。カチューシャもそう呼んでいたので」
「じゃあ、左義長さん。カチューシャとはどんな関係?逃亡したのってちょっと前なのに、今の今まで話をしていたレベルで繋がりがあるってカチューシャにしてみれば珍しいらしけど」
「……そうですねえ。世話焼き姉さんに構われている気がするですかね」.
「カチューシャも見た目よりも遙かにお姉さんですもんね」
「僕よりかはやや上だそうです」
「それにしは戦闘経験はあんまりなさそうですね」
「おや、分かります?彼女も実際のところ戦闘らしい戦闘をしたことがないですよ。あっても奇襲や安全圏からの砲撃で、対面として戦うのはこれが初めてじゃないですかね」
オルガンが降り注ぐ中、左義長はおもむろに立ち上がる。
「では、任せましたよ」
降り注ぐ爆撃は相殺され、左義長はゆっくり進んで行く。
「僕らはただ一方的に攻撃して処理をしてきた」
その場は既に着弾した場所で地面にあった雪は既に溶けている。
「この力をなんの為に使うか、考えたことがあるかい?」
左義長は左手を横に伸ばし、無防備にオルガンを迎える。
***
カチューシャは端末を手に取る。端末のバッテリーは残量が少ないのか通信が上手く起動せず、しばらくすると電源のランプは付かなくなった。
合成人間を殺す合成人間のカチューシャはいつもの不遜な顔を歪ませる。
「何が陸上の武器よ」
一撃目から再度構える。オルガンの名を冠するのもあり、攻撃は大雑把で広範囲に高い威力のある熱源の砲撃を撃つことが出来る。
着弾した地域は焼き尽くされた、そのはずだった。
カチューシャのいる場所は左義長、スクイーズ達よりも標高が高い位置だ。
撃った範囲の林は雪は解けているがそれでも残雪し、溶けた雪が氷として再度固形化している。
無効化されているのは明らかだ。
「ふざ、けんじゃないわよ」
左義長はカチューシャと近い期間に生み出された合成人間だ。
能力の性質が近く、やや後から生まれた後輩だったこともあり、何かあれば彼の鑑定は常にカチューシャが担当していた。
連続でオルガンを放って何度目かは数えていない。ソーサラーのように連続で撃てば無能人間になり下がりかねない。カチューシャが自身を守る手段、自分を生かす価値はこの能力にある。
「お前も、お前もだろうが」
カチューシャが左義長の逃亡を知ったのは逃亡からひと月してからだ。予想外の行動だとは思わない。十年ほど前から既に心身をやられていたのは分かっていた。それでも能力を扱えることが確認出来た。
いくら使えないと言われる合成人間といえども、最低限任務をこなす意思と生きる意思があれば生存くらいは許される。
左義長の逃亡により、処分を任されるのはカチューシャだと思っていた。予想に反し、左義長の始末を任されたのはごく最近のことで、それまでは他の合成人間が担っていた。
スクイーズの鑑定を任されたのと同時期に左義長から連絡が入った。
海岸の何も遮蔽物がない、しみったれた場所にいた時に話しかけられた。
「カチューシャにしてはロマンチックなところにいますね」
「お前!いままでどこにいた」
左義長はとぼけた様子でカチューシャに近づく。
「お前を鑑定するのは私だ」
「今は僕を鑑定する任務は与えられてないでしょう」
「そのうち他の合成人間がお前を捕まえて」
「わざわざ貴女の前に差し出すと?そこまで甘いところじゃないでしょう。もう僕は生かすことは許されない。カチューシャはもう僕を甘やかす必要はない」
カチューシャは左義長の襟をつかむ。カチューシャの身長の低さに引っ張られ左義長はよろめくが、堪える。
「甘やかす?私が?いつお前を甘やかした」
「“姉”にいつまでも頼りっぱなしになるのも申し訳ないですからね。独り立ちの挨拶をしに来たんですよ」
「……行くのか」
「殺さないんです?敵対するんですよ」
「敵対しに行くお前を」
「そうですね、カチューシャさえ来てくれれば敵対はしないでしょう」
「私が…?」
統和機構の端末から通信が入る。相手はチーフテンだった。
「カチューシャ、今いいですか。まあ、よくなくても任務なのでいやでも受けてくださいね」
「お前は私に任務を与える管轄じゃないだろう」
「ええ、実際はそうなのですが、些か私にも関わりが薄くないことでもありまして。TBDの逃亡に関してです」
カチューシャは隣にいる“弟”をチラ見した。彼は呑気に貝殻を拾い品定めをしている。
「現在、寺月恭一郎の財産管理をしているのですが、V∀にまつわる研究材料をTBDが持ち出したらしいのです。TBDの始末の任務はスクイーズが、――これはまだ彼には伝わっていないのですがね――受ける予定で、スクイーズの鑑定とTBDの持ち出した研究材料を鑑定して欲しいのです」
カチューシャは何も言わないが、チーフテンはそのまま話し続ける。
「TBDの場所が分かり次第、スクイーズもカチューシャもTBDの元へ行ってもらいます。スクイーズには貴女が一緒に同じ人物を追いかけていることは伝えてませんので、そこは気を付けてくださいね。仮に彼ごと始末してもさほど問題ないでしょう。それでは正式な任務は別途連絡が来ると思うので。では私はこれで」
通信が途切れると、カチューシャは左義長に飛び乗る。彼は動じることなくカチューシャを見つめる。
「話は終わりましたか。そのうちスクイーズが僕を殺しく来るので宜しく」
「スクイーズを鑑定しろだと」
「恐らく僕と繋がりがあるからでしょう。知っているからこそ僕の行動予測が可能で、かつ裏切らないかの確認もあってでしょう」
「お前を、お前を鑑定する」
「貴女が受けた任務はスクイーズとTBDが持ち出したV∀の鑑定。間違えちゃだめですよ?」
「お前を鑑定するのは私だろう?」
「……、カチューシャは正式な任務を受けてから頼みたいことがあります。大丈夫、僕はこのまま裏切りますが、スクイーズは裏切りませんよ」
何度オルガンを撃ったことだろう。周辺木々は徐々に蒸発し、一部は湯気が立っている。蒸気の熱さと冬の冷気でカチューシャの衣服は濡れて凍えながらも蒸気で表面温度は高いままだ。
湯気も風に流されて視界が広がると、前方から一人の男が歩いてきた。スクイーズだ。
「もう良いだろうカチューシャ」
スクイーズがカチューシャにあるものを出しだす。直径十五センチ長さ三十センチの棒状のそれは、人の腕だ。
「……チーフテンからの鑑定はもう終わりだ」
その腕には見覚えがある。何年見てきたと思っている。
「……左義長」
黒こげの炭化した腕を受け取る。能力を出し切り、オルガンに対抗できなくなったのだろう。
「TBDは死んだ。私の裏切りの鑑定をしに来たようだが、その必要もなくなった」