078.白鳥と鷺鳥
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夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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左義長はどうやって 統和機構から逃げようか考えていた。逃げる手段は自身で生命を絶つか、逃げるかの二通りで、少なくとも左義長はまだ死にたくはなかった。
逃げる準備だけはしていた。最低限必要な荷物、逃げる道順。左義長が表向きにしていた職業は自衛隊。最初は海上自衛隊にいたのだが、変更したのだ。海上自衛隊ならば自力で逃げることは困難であり、所属として選んだのはただ逃げるなら陸地の方がいい。
彼は自衛隊員としては他の隊員と同じく真面目に励んだ。
ある紛争地域の派遣活動での出来事だ。
ややオレンジがかった色の肌の住民と話しながら会った男がいた。
***
TBDが林に向けて放ったファイアー・クラッカーの着弾音が聞こえた。一撃目の薬液に触れて凍り付く物体の音だ。
標的が当たったのを確認すべく近づくが周囲にファイアー・クラッカーを霧状に散布して警戒する。
茂みが動き、そこへ目掛けて高濃度のファイアー・クラッカーを放つ。
放ったファイアー・クラッカーは奇妙な弧を描き、別方向へ飛ぶ。
TBDは茂みにも別方向へ飛んだファイアー・クラッカーの行方を確認する暇もなかった。
――きん…!――
つんざつ音に頭を揺さぶられ、体は裂ける。
「がっ!」
飛びかける意識で見たのは茂みから出てがたがた肩を震わせた少女と口から垂れる血を拭ったスクイーズの走りかける姿だった。
後者は知っている。前者を直接見たのは今が初めてだが、確かに似ていると思った。
「日和伍長の姪御……さん……」
***
左義長は沈没した自衛艦について調書を受けたが、本当のことを話すわけにも行かず、かといって話したとて信じてはくれないことに途方に暮れていた。
釈放されたのは沈没してからそう経過してない。
取調室に来たのはこの場にはそぐわないフランス人形のように美しい少女。
「あんたのことはもう片が付いたから出なさい」
合成人間を鑑定する合成人間。合成人間の処分屋。カチューシャは自分を殺しに来たのだろうか。
彼女は何も言うことなく、左義長を連れまわす。やや時間をかけて海辺に着くと、片手をこちらに向けてきた。
「なにしてんの?早くファイアー・クラッカーを撃ちなさいよ」
左義長は言われるがまま放つ。同時にカチューシャもオルガンを放ち、双方の攻撃は丁度中間の距離で当たり水蒸気と爆風を巻き上げ、やがて風に流されていく。
「ま、使えるならいいわ。じゃ、あんたは元居たとこ戻っていいわよ。たぶん処分は受けるだろうけど、そこは社会に身を置くあんたの責任」
「待ってくれ」
「あ?」
「僕を殺すんじゃないのか?」
「必要なら殺してるわ」
「……」
「何よ殺してほしかったの?死にたかった?」
けらけらと無遠慮にあざ笑う。
「……そうだね。どうせなら君に殺されたらよかった」
「はあ?」
カチューシャの眉が跳ね上がる。
「TBDに対抗しうる存在は貴女だと思っていたんですよ」
「……なら裏切りなさいよ。そうすればお望み通り殺してあげる」
ふんぞり返ったカチューシャを見て思わず左義長は笑う。
「残念ながら、当分は裏切れそうにはないです」
***
血の匂いがした。冬場のような場所は特に匂いが鮮明に香る。
スクイーズはとっさに掌を雪で拭ったが、掌の指紋には赤い筋として血が残る。
〈フェイク・シーズン〉で自身とスクイーズに降りかかった粉雪を視る。予想通り、この粉雪はTBDが放ったものだ。成分が雪以外のものがある。蝶でも分解出来る成分と理解し安心するが気は抜けない。
「スクイーズ」
蝶を抱きかかえながら、保護してくれる相棒――蝶に呼びかける。口の端から血が滴りかけるが、彼は気づいていない。
スクイーズの首に触れる。彼は焦るが構わず手を更に下に、服の下に突っ込む。
「ま、まて、敵がいるんだぞ。ここでは我慢してくれ」
「我慢しているのはスクイーズ。……ごめんね、ちょっと服めくる」
首に突っ込んだ手を抜いて、腹からスクイーズの服の中に手を突っ込む。蝶の冷えた手にびくっと体が震えるかと思いきや静かにしている。
気のせいか能力で視る彼の意識のテンションが下がったような気がした。確認をしたいが、無理やり頭を押さえられて視認することは許してもらえない。
「……変態」
「任務中だぞ」
「セクハラで訴えてやる」
「”これ”はセクハラじゃないのか」
スクイーズは自身の胸に触れる蝶の手を指さす。
ばしりとひっぱたいてその手がないことを行動で説明するが、彼は冷たさと痛さに意識が向いていた。
「TBDのファイアー・クラッカーの除去してんだから仕方ないでしょ」
スクイーズの肺の中を視る。喉と、気管支、肺胞にまでファイアー・クラッカーが入り込んでいる。薬液に触れた箇所は凍傷している。肺に入った薬液を分解し、更に彼の体の表面に付着した薬液も分解していく。
全身に付着している薬液の分解を終えると、スクイーズが咳き込む。何か吐きそうな声を発したが我慢している。
「凍傷したところは痰として出されると思うから吐き出しなよ」
彼は恥ずかしがっている訳でもないが何か出し渋っている。
蝶は心の中でため息をついてティッシュをスクイーズの口に押し当てる。もごもごと言いたげな視線を向けつつもスクイーズは赤黒い痰を吐き出した。
「で、悪いんだけど、スクイーズはちょっと向こうに行って。私が囮になるから」
不服そうなスクイーズに容赦なく突き放す。
「スクイーズじゃないと攻撃出来ないし、たぶんこのファイアー・クラッカーは目印。少なくとも片方はちゃんと付いたままじゃないと怪しまれる。だから行って」
スクイーズはため息をつく。
文字通りへの字に曲げた口のままスクイーズはやや遠くに行って砲撃の準備に行ってくれた。
静かになると〈フェイク・シーズン〉を探索モードに切り替え、この地域全体の意識を視る。異様な速さで移動する人の意識が視えた。間違いなく合成人間の移動速度であり、TBDだろう。
視線でスクイーズの様子を確認する。ちょうど五十メートル先にいる。木から積もり落ちた雪のかたまりの中にいるらしい雪の間から顔を覗かせる。位置からは林側から見れば見えるが外からは見えない状態になっている。
一分もしない内に距離は一キロに迫る、数百、五百メートルのところでTBDの意識は彼自身の腕とこちら側にいる林に意識を向ける。
(来た)
スクイーズにTBDが来たことを合図すると、合図で返事が返ってきた。
TBDがファイアー・クラッカーを放った。手を上空に向けて広範囲に散布された薬液は冷えた木々を凍らせ、一点を更に凍らせる。
直後TBDが雪と共に吹っ飛ぶ。スクイーズが肺に溜めたエネルギーを放ったのだ。
***
彼が目覚めると視線はすぐさま蝶に向かった。
「日和伍長の姪御さん」
「ちゃんと会うのは初めてですね」
「ええ、さきほどは彼の邪魔が入りましたからね。まさか本当に攻撃するなんて」
図書館の奥にて既に会っていたのだ。部屋に招き入れたのは左義長だ。蝶も入ろうとしたところスクイーズに止められ、扉越しに話を聞くことになったのだ。
TBDの処分の任務そのものは 統和機構からの任務であり、それはスクイーズも蝶も承知している。レインとTBDの契約の手引きとして頼まれたこともあるのだ。
スクイーズはTBD、左義長とは以前任務で同じ場所にいたらしい。左義長は海上自衛隊にいたことから、当時蝶の叔父とも会っていたという。叔父の最後は教えてもらえなかった。
「そういえば、あの図書館で話した方がいいのでは?」
蝶は首を振り、TBDの手を握る。彼は視線だけ周りを巡らせ、微かに微笑む。
「……なるほど、イージス艦とは上手い異名ですね」
「対戦車砲と潜水艦じゃあ相性がわるい」
「私の相手は戦車だからな。でも、ミシンとこうもり傘も悪くないだろう?」
蝶の能力により盗聴も盗撮も塞がれていることを理解したと判断したのか、スクイーズが左義長を握る蝶の手をほどいた。
「もうちょっと握っておきたいんだけど」
「セクハラじゃないのか」
「セミさんの思考がセクハラだし。……そろそろだわ」
スクイーズの専用の端末から通信が入る。出ると馴染みの声が聞こえた。
“左義長もいるわね”
「カチューシャ」
上空から熱源を持った衝撃波が降りかかる。
“まあ、傍から見ればね。そうね……あんたには悪いけど、逃げがさないわ”