0.5　秘匿

　少女を介抱した後、彼女に関する情報を調べた。彼女も家族もごく普通の一般家庭だ。家庭内暴力も、いじめも経験のない。精神衛生上は全く問題は無さそうだ。
　改めて彼女の能力に関して教えられたことを振り返る。
　感情の流れが視認でき、なおかつその方向を変えることが出来る。方向を変えた後に倒れたところを見ると、能力の使用には負担が生じる。
　紛れもなく彼女は 統和機構が草の根を分けてでも探しているMPLSと断定してもいいだろう。能力の負担を除けば彼女はさぞ従順な兵士にされるに違いない。
　そんな目に遭わせたくない。初めて 統和機構の忠誠を裏切った。後悔はしていない。能力を使ってこの世界を、社会を支配するのを阻止する為であっても、彼女がそれを実行するかはわからない。それに……。
　自分の作品を見たあの目が瞼に焼き付いて離れない。
　裏切るのはこれだけだ。殆ど声に出さず、口の動きだけで呟く。これは誰にも知られてはならない。