ゲルリッヒ砲の一撃
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夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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一人の合成人間の臓器を移植して増やす手段よりもウトセラの体液から増やす方が確実だと判断されて、スクイーズは後にウトセラの体液も体に入れられることになる。それはまだ先の、ドッペルゲンガーとの対決にあり……。
『砲身、弾丸の消耗の多さ、タングステンの不足、いずれも作られてきたゲルリッヒ砲は活躍の場も碌にないが砲撃の早さ、戦車の貫通は評価されており、最も見るべき点は量産するには圧倒的に足りないタングステンに代わるものであったと思うが、他に資源を見出すことは出来なかったのだろうか』
J・S・パド〈狭窄な思考〉
1.イベント
あるイベントの会場にスクイーズは来ていた。来ている理由は彼個人の目的もあるが、この後に行われるイベントで集まった人間の処理が今回の目的である。
スクイーズはため息を付きながら目の前を通過してく人間達を見る。ちょっとしたお祭りのような雰囲気もあってか、少し物珍しい格好をしている人もいたり、お洒落優先の為か気温にそぐわない格好をした人がいたり、見る分には退屈しない。
自分は全く持って暇である。それなりに目立つように工夫はしてみた。事前の告知(比較的近くにいる合成人間やカチューシャやミンサーにも声を掛けたが、どちらからも来れないと言われた)、このサークルの机にはポスターも貼り付けて見やすく、目立つようにした。
しかし、誰も来ない。接客業ではないので誰にも彼にも声を掛けて見てこないかという訳にはいかない。
誰も見てくれないのは悲しいわねとスクイーズは愚痴る。時代錯誤かと思うくらい古いヒーローものと自分の名前にちなんだ創作のヒーローと、ごってごてに着飾ったロリータの組み合わせは異色だろうか。バッタのヒーローがいるのなら、蟬のヒーローがいてもいいと思うのだが、未だに蟬モチーフのヒーローは見たことがない。
「うん?」
スクイーズが作った物を物凄く熱心に見ている少女がいる。机の縁に必死に手を乗せて足りない身長を伸ばしてみているらしい。
昔の自分を思い出して思わず頬を緩ませる。
「気に入ってくれたかしら?」
少女はわっ、と自分が見られていたことに気づく。恥ずかしそうにすっと机の下に隠れたが、ひょっこり顔を覗かせた。
「よかったら見て言って頂戴」
少女は花が咲いたように嬉しそうに笑う。しかし、このちょっと不便な状態で見せるの心すぐるしいので、この自分がいるスペースに座って存分に見てもらうことにした。どうせ誰も気やしないのだ。椅子に乗せた自分の荷物を下ろして、机に被せた布を捲る。スクイーズも下を覗くと、少女もしゃがみ込んで思わず目が合い。二人してクスクス笑う。
少女を隣に座らせて、ゆっくり見てもらう。少女は年の割には大人しく、しかし人見知りせずにスクイーズに接した。
一つ一つ展示している物を説明していく。今日は出品ではなく展示であって、今回は頒布が目的ではないことを詫びる。
スクイーズとてせっかく来てくれたことに何か礼をしたくなって、鞄を漁りながら考え、思い付いた。
後ろに置いたバックから一冊のスケッチブックを開いて見せる。
「この中なら何が好きかしら?」
少女は目を丸くしながらスケッチブックを受け取り、中身を見る。一枚ずつ見ていく。見終わると、選んだページを開いて教えてくれた。
そのページを見てスクイーズは苦笑いをした。
スクイーズが見せたのは商品開発のデザインの一覧で、モチーフとなったものは昔家の壁から見つけた自分のスケッチブックに描かれたものだ。そして、彼女が選んだのは他の人から不評だったものだった。
「私ならこれが一番好き……」
少女は不満そうに子供らしく頬を膨らませる。
「そう言ってくれると考えた甲斐があったわ」
スクイーズはふふっと笑み零し、少女が選んだデザイン画が描かれたページを切り取り、ファイルに挿めて渡しす。
「いいの?」
「これを好きだと言ってくれた人に持ってもらいたいわ」
少女は困惑した様子で受け取るか悩んでいたが、スクイーズの本心も伝わったのだろう、受け取ってくれた。大事そうに少女のスケッチブックに挟めて両手で抱きしめた。
「ありがとう……ございます」
「こちらこそ来てくれてありがとう」
にっこりとスクイーズは笑い、くしゃりと少女の頭を撫でる。
気になっていた彼女の腕に抱えられたスケッチブックを指す。
「ねえ、もしかして貴女も何か描いているの?」
少女は頷く。見ても良いかと聞くと、快く承諾してくれた。
デザイナーとして駆け出しの身で、仲間もあまりいない中で出会った同業者だ。小さくともアイディアはきっと素敵なものに違いない。
スクイーズは読み進めながら自然と鼻歌を歌っていた。
「将来が楽しみね」
「あ、あの!よかったら、気に入ったページがあったら……あげます!」
「いいの?」
少女は力強く頷く。
「そうね。それじゃあ遠慮なく」気になったページを少女に見せて「これがいいわ」
少女は驚いた顔をした。聞くと、このスクイーズが選んだものは友人に見せたものの中では誰一人気に入ってくれた人はいなかったそうだ。
「これで、いいんですか?」
不安な顔で少女はスクイーズを見つめる。
「これが一番好きなのよ」
これ以降は本当の彼女以外見る者も無かったが、それのおかげか話し込んでしまった。
「いけない、話すぎちゃったわね。ご両親が心配する前におかえり。私も……そう、帰らないと」
少女は名残惜しそうにしてたが、小さく手を振って両親の元へ帰って行った。
スクイーズは展示していた物を片づける。