001.~
Please tell me your name
この小説の夢小説設定簡易的な夢主設定
夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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01.嵐の日
「はい、ホットココア」
「ん、ありがとう」
蟬ヶ沢が差し出した熱々のマグカップを蝶は受け取る。
外は暴風雨でとてもではないが外出出来るような天気ではない。この地域、いやほぼ日本全土と言ってもいいだろう、国を覆うほどの巨大な台風がこの地域を今通過しているのだ。
台風が本土に上陸する一週間ほど前、蟬ヶ沢は蝶と一緒に避難道具を揃えて、備蓄を揃えていた。
蟬ヶ沢のデザイン事務所も明日から三日ほど休みとし、三日目に他の職員の様子を見て出勤可能か聞いて人によって自宅待機にしてもらうようにした。
蝶がいる大学も既に休校となって、週が明けるまではどの科目も強制的に講義は出来ないようにしている。
「蝶は別に家にいてもよかったんじゃない?」
「暇だったし」
「親御さん寂しがるわね」
「いや、向こうも二人だし平気へーき」
蝶はPCを操作し、次に見るドラマを探している。
朝から終始テレビは台風のことで話題は変わらない。規模が規模なので放送に取り上げないようがおかしいともいえるが、ずっとこれを見ているのは飽きてくる。既にテレビは消して、ドラマを流している。
次に見るドラマを決めた。イギリスの国営放送の人気ドラマにした。流石に六十年以上も続くドラマなのでとても長い。一話乃至前後での完結の話が多いので、見る分には一時間の映画のようなものだ。
踵を返して、視聴する席に戻る。すると。蟬ヶ沢がおいでと両手を広げて、蝶を誘う。
「…………」
蝶は少しだけ口を尖らせて、ふんとそっぽを向く。蟬ヶ沢の腕の中には納まらず、隣に座るが肩にはもたれる。
これには蟬ヶ沢も苦笑いしてしまう。
「素直じゃないわねえ」
「別に、そんな雰囲気のドラマじゃないでしょ」
「シーズン2から4まではそれなりに恋愛が絡むわよ」
「なんであの俳優さんの時だけキスシーンが多いのか謎だわ」
「顔がいいからじゃない?」
「セミさんの好み?まあ、この俳優さんは男の人だけどさ」
「いや、私の好きな人は貴女よ」
しれっと言う蟬ヶ沢に蝶は飲んでいたココアで咽る。
「あのさ、あのさあ!」
咽ながら蝶は蟬ヶ沢をべしべしを叩くが、彼には一切ダメージは通らない。勿論蝶とて本気で叩いているわけではないので、痛くはないがやんごとなき事情で人よりも丈夫で強い体を持つ彼には痛みよりも痒みを感じていそうである。
「別に、私は貴女が男でもきっと好きになるわよ?」
顔を一切赤らめずに蟬ヶ沢は言う。蝶は反応に困りココアを再度口に付けるが、彼女の持つマグカップをそっと浚う。マグカップをテーブルに乗せ、ぐっと顔を近づける。
蝶は距離の近さに耐えきれず、後ろに仰け反り倒れる。倒れる寸前に蟬ヶ沢が左手支えたので、余計にお互いの距離は近くなる。
「貴女は?」
蟬ヶ沢は真剣な眼差しで再度問いかける。
「断言出来るわよ。仮に貴女が男の人であったとしても、きっとキスもしたいと思うし、もっと触れたいと思うわ」
「や、その……」
蝶は返答に困り言葉を詰まらせる。
蟬ヶ沢は困ったような照れているような溜息を付いて、額に軽く口づける。触れた瞬間、蝶はびくっと震え、顔が更に赤くなる。蟬ヶ沢には触れないと他の者のようにどんな感情を向けているのかどこを向けているのか分からない。
今額に口づけたが、本当は別の位置にしたかったのが分かった。
彼は一切言わない。恐らく蝶からして欲しいと遠回しに望んでるのだろう。狡い人だ。
睨んでもこの真っ赤に染まった顔では彼をにやつかせることしか出来ない。
蝶を抱き起し、向かい合わせにさせる。体格の差もあって、蝶はやや上向きで蟬ヶ沢を見ることになる。
にっこりと蟬ヶ沢はおねだりする。
蝶はむっと小さく唸り、手元のクッションを取り寄せる。蟬ヶ沢の顔に押し当て、
「ばか」
と罵る。対して綿が入っていない安物のクッションは布越しだが僅かに向こう側の感触が伝わった。
クッション越しに響いた言葉と感触に蟬ヶ沢は嗜虐心を擽られた。
もう少し触れて欲しい、触りたい。まるで人の様な欲に支配されそうなのを別の側面の自分が制止する。
これでお前のお望みは済んだだろうとでも言うように、蝶はテレビに向き直る。顔を見たいところだが、蝶はクッションに顔を半分埋めてしまった。きっと次のココアを出すまではとてもじゃないが顔を見せてはくれないだろう。さきほどと異なり、腕の中に納まってくれた。
「素直じゃないわねえ」
蟬ヶ沢は呆れながらも腕の中に収まる蝶を抱きながら流れっぱなしだったドラマに視線を移した。
ようやく上を向いた蟬ヶ沢を確認した蝶は目の前の彼の手を睨む。
嵐が過ぎるまできっとこのやりとりはまだ続くのだろうと思うと、蝶は少しばかり後悔した。
02.そっけない甘え下手
台風が過ぎれば、次は寒さが襲ってくる。
秋に入っても夏のような暑さもあったはずなのに、台風が過ぎ去った後は染みる寒さが襲いかかってきた。
早朝に目が覚めるのは生活習慣のたまものか、時計を見るもまだ四時だ。
早すぎるが、このまま二度寝をしてしまっても出社ギリギリになっては困る。
一つだけまだ起きたくない理由がある。
腕の中に収まる恋人だ。蝶、彼女はまだ夢の中にいる。
台風をやり過ごす間は本当に馬鹿みたいにべったり彼女に触れていた。彼女も最初はつんと突っぱねるがなんだかんだで、受け入れてくれるので自覚する限りでも相当浮かれた。
彼女の頭を撫でながら、外の変化を眺める。カーテンを開ければもっと部屋は明るくなるだほうが、それでは彼女が起きてしまう。
もそっと何かが蟬ヶ沢の懐で動き、手が背中に回され、ぎゅっと抱き締められる。
小さく寒いと言ったのは甘える為の言い訳だろうか。
下手くそな甘え方にクスクス笑うと、睨まれてしまった。
むっと睨む顔を両手で包み、重ねる。
人としての機能と武器を兼ねる役割は外し、愛しき人の認識に徹する。
重ねるのは一瞬。
さほど変わらない体温のはずなのに貴女の方が温かく感じるのは、触れられる喜びからか。
これが続けばいいのに。続いて欲しい。