001.~
Please tell me your name
この小説の夢小説設定簡易的な夢主設定
夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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休憩室に来ると先客がいた。軌川十助である。
室内に既に人がいたのは能力で視えていたが、十助だったことが分かり少し焦る。彼との接触は避けるようにとスクイーズから言われていたのだ。
扉が開く音に気づき、びくっと肩を震わせた十助だが蝶の姿を見て少し安堵の笑みを浮かべる。
彼の周囲は常に警戒しているようなぴりぴりした意識がある。端的に言えば、怯えている。彼が通常の人ではないのはスクイーズから教えられている。
十助は通常の人ではない。合成人間であるが、肌の色等が通常の人とは異なるらしい。特殊な能力は確認出来ていないが、寺月曰く、彼の作るアイスは特殊な効果を持つとされている。
アイスが好きな蝶としては任務のことがなければ食べていたであろうが、彼の作るアイスを食べることはスクイーズの許可がないと食べられない。
休憩として来ていたにしては彼はまったく休憩しているような雰囲気ではない。まるで合戦前の武者のような覚悟がある。
蝶は来てしまったことに少し後悔したが、自身を見たあとの様子とこのまますぐに出たら変に思われると思い、入っておく。蝶を視認した十助が椅子を引いて座れるようにしてくれたのもあるが。
「ありがとうございます」
素直にお礼を言って隣に座る。
立場上では天と地ほどの差があるのが、彼は気さくに人をファーストネームで呼び、表裏のない人柄もあり、スクイーズに注意されたものの距離を置くことに抵抗がある。
蝶も十助も無言だが、二人ともお互い気になっている。蝶もこうしてゆっくり話せるのは今は初めてでどう話したものか。
今の十助も意識の一部はいつもの外の警戒もあるが、楠木、そして蝶である。どこに向けらえた意識もびくびくとしてる。その臆病さもまたそれぞれ種類が違うが、説明は省略する。
蝶がこの部屋に入った瞬間、十助の蝶へ向けている意識の警戒は増えたが好奇心も増えた。この職場で他に若い人がいないので、どうしても目立つのだろう。
この職場の中での若い人といえば学校の先輩である竹田啓司もいる。彼はどちらかと言うとここでの活動は深夜ばかりで、竹田とここで会うことは滅多にない。
お互いが無言になって何分経過したことか。人の体感時間は苦痛の時ほど実際の時間よりも長く感じるので、分ほども経っていないかもしれない。
なまじ人の関心が見えるので、この状態は少し落ち着かない。
しかし、この二人の共通の話題はないに等しい。年がやや近いことぐらいだろうか。
無難に何か質問でも出すかと考え、あることを思い出した。
*****
「なんでペパーミントなんですか?」
「うん?」
蝶の質問に十助は首を傾げた。
十助のアイスクリームチェーン店ペパーミントウィザードの第一店舗の準備として蝶は蟬ヶ沢の手伝いとして来ており、今はその休憩時間である。実の所、蝶とはまともに話したことがないので、気にはなっていたのだ。
「商品として作っているアイスの他に、時間が空けばペパーミントのアイスも作っているじゃないですか、なんでだろうなって」
「得意……だったからかな?」
「得意?好きだったからじゃないんですか?」
「好き?」
「料理を得意として考えるなら、そのきっかけは美味しいかったからが基盤となっていて、そこからより美味しくしよう、美味しいものが作れるようにしよう、ってなると思って。でも、社長……」
「ああ、十助でいいよ。敬語も……今だけはまあしなくていいよ。気楽にして。景山や卓あたりがいたらそういうところうるさいけど、僕はあまりその話し方は好きじゃなくてさ」
蝶はくすりと笑った。
「おっけ。十助はアイスが好きだからって感じがないなってさ。勿論、好きだから作るのは極端な例だよ。私はアイスが好きだけど、作るまではしないのと同じでね」
「アイスが好きなんだ!じゃあ後で試作品食べない?どうせ全部食べきれずに捨てられるよりは誰かに食べてもらった方が僕は嬉しいな」
「うーん、食べたいのは山々だけどそこんとこは管理している人達に許可を取らないと怒られるから、蟬ヶ沢顧問に聞かないと分からないわ。……ごめんね」
「そうか……。いいや、いいんだよ、うん」
「お客としてはちゃあんと来るかさ!ただし、こっそりとね」
「僕がいる時に来れそうかな?」
「そこは天任せに。でさ、話は戻すけど、なんでペパーミントのアイスをよく作るのかなって話」
「なんで。なんでだろう?」
「ここでお店を出す前からアイスはよく作っていたんでしょう?誰かがよく食べてくれたとかじゃないの?」
「典助のこと?典助はあんまり好きじゃないから僕が食べていたよ」
「典助さん?」
「ああ、僕の育ての親。ここに来るまでは僕のアイスは彼が食べていたよ」
「典助さんが心底羨ましいわ。こんなにおいしいアイスが食べられていたなんて」
「この後で試作品食べられるから楽しみにしてよ」
「……そうだね。アイス以外に作ったことはあるの?」
「うーん、あるにはあるんだけど、一回だけなんだ」
「一回だけ?」
「ある時典助が病気で動けない時があって、その時おかゆを作ったんだ。
その日からかな、レトルト食品が増えたかもしれない。元々典助もずっと立っているのが辛いって言っていたからね。早く料理が渡せるから僕も賛成だったよ。
それでも僕のアイスは別格だって言ってくれて、キッチンはほとんどアイスを作る為として使っていたなあ。僕も僕の作るアイスが美味しいって言ってくれるから、アイスだけは毎日作っていたよ。色んなアイスを作ったなあ。本当にアイスに関しては誰にも」
「……」
「蝶のきっかけって何?」
「うん?」
「蝶がデザイナーを目指したきっかけさ。僕がアイスを作り続けてここで店を出すように、蝶も卓の所で仕事をしているならデザイナーだろ?そこで働くほど何かをしていたんじゃないのかい?」
「あー……、ここで手伝いをしているのは……まあ、それは別の理由。目指してんのは同じか」
「でも、卓に関係しているよね」
「……なんで分かるのさ。うん、……うん、まあそうだよ。これ、他の人には話さない?」
「おおっと責任重大だね。分かったよ。卓には教えるよ」
「こらあ!」
「はは、大丈夫教えないよ。ここだけの秘密なんだろ?」
十助はウィンクする。
「小さい頃さ、よく作ったり描いたりして遊んでいたのよ。友だちに作ったもんあげたりしてさ、でも自分が気に入っているものほど人気がないんだな、これが。
ちょっと凹んでいた時に両親にイベントに連れて来られたことがあって、セ……蟬ヶ沢顧問とはそこで始めて会った。お互いのスケッチブックを見せ合って、すごい褒められた気がする。勿論、蟬ヶ沢顧問のも素敵だったんだよ。うん。
あれでも、デザイナーに関してはセミさんに会う前に聞いた気がする。いつだろう?まあ、たぶんデザイナーを目指す大本はこれだと思う。自己満足だけなら、趣味だけで収まっていたけど。誰かが喜んでくれると思うと、もっと喜んでもらえるようなものを出したい、ってね」
「ああなるほど、だから同じ味なんだね」
「同じ……?」
「僕とは違う気がするけど、いつか卓と蝶にも好みのアイスを食べさせたいなあ」
蝶は少し息を吐いた。
「気分のあたたかさ、ね」
「うん?」
「いや、十助は優しいなと思ってさ」
蝶はへへと笑った。
扉が吹き飛んできた。無論、突風ではない。犯人は既に扉の前にいる。
扉が壊れんばかりにどころか、本当に扉を破壊して蟬ヶ沢が入りこんできた。慌てて走って来たのか、セットされた髪型はぼさぼさである。
「大丈夫!?」
「なにが?」
十助と蝶はきょとんと声を揃えて聞き返す。
「え、あの、あら?……その」
慌ててきた蟬ヶ沢は二人を交互に見るが、状況が呑み込めていないようだ。
十助も何故蟬ヶ沢が来たのは分からないが、蝶は何かを察したらい。
「セミさん、覗きに来たの?」
「ち、違うわよ!違うのよ、違うったら!」
慌てて否定する蟬ヶ沢にのんびりと先程蝶と話したことを相談する。
「あ、丁度いいや。ねえ卓、試作品のアイスを蝶に食べさせてもいい?」
「は?食べさせ!?…………。そうね、商品として出てからならいいわ。今は企業秘密としてまだ駄目なのよ」
「そうか……」
「一種類だけならよくない?どケチゼミ」
「……軌川君が趣味として作っているのならいいわよ。どうせまた作ってんでしょ」
「じゃあ卓も一緒に食べてよ!」
「え、ちょ、ちょっと!」
十助は蝶と蟬ヶ沢を座らせ。冷凍庫に入れておいたアイスクリームを取り出す。
席の順番は、真中は十助で左右に蟬ヶ沢と蝶だ。
蟬ヶ沢は恐る恐るとアイスを救う。蝶は彼がスプーンでアイスを掬う頃には三口目に入っている。蝶はアイスが好きと言うのは本当だったようで、明らか美味しそうに食べている。蟬ヶ沢もゆっくりではあるが、緊張気味だった顔が少しだけ緩んでいる。
「やっぱり食べてもらえるのはいいね」
ぽつりと十助はほとんど口だけの動きで囁き、ペパーミントアイスを食べた。