001.~
Please tell me your name
この小説の夢小説設定簡易的な夢主設定
夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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知らない方が幸せなことだってある。私は知られたくない。知られるのが恐ろしい。人ではないこの身を少しだけ恨む事がある。
貴女にだけは知られたくない。
私は貴女と同じ人ではないのだ。
*****
新年度から一月が経過して新社会人、新入生がようやく新生活に慣れた頃、蟬ヶ沢の事務所も慌ただしいさから脱却出来た、はずだった。
蟬ヶ沢は頭を抱えてPC画面を見ている。新しい画像編集ソフトを導入して、使い方を学んでいるのだが、一向に慣れた気がしない。
教材通りのやり方なら出来る、応用や自分で編集したいものが思った通りに行かないのだ。
「……なんで、なんでよ……」
他のスタッフも蟬ヶ沢と同じくソフトを使っているが、同じく躓いている。彼らには依頼をこなすことを優先して、蟬ヶ沢が後から教えることにしたが、その教える身がこれである。使いこなせるのだろうか。一度入れて別のソフトに変えてもいいのだが、噂によるとこのソフトで作られた規格でないと難しい依頼もあると聞いている。使用しているところは多くないが、使えて損はないと思うのだ。
蟬ヶ沢は画面を睨み付ける。勿論、そんなことをしても解決はしないのだが、解決の糸口が掴めないのだ。
デスクに頭を置いて、頭を休めようとした。
「セミさん何してんの?」
「ひゃっ!」
後ろから聞こえる声に驚いて、派手に椅子を倒して転んでしまった。声を掛けてきたのは蝶だ。
彼女は小学生から中学生に上がり、現在中学一年生である。私服から制服に変わった姿も見慣れたものだ。
蟬ヶ沢は少し派手に腰を打ったが、多少痛みがある程度ですぐに立ち上がれる。蝶が支えようとしたが手でその必要がないことを伝える。
「あ、ごめんね?大丈夫?」
「蝶さん、今回はこのおじさんをほっといた方がいいかもよ。今日はいつもより迫力が凄いんですから」
他のスタッフがからかう。蝶のことは親戚の子として紹介している。蝶にもそういうこととして彼等に接してくれと頼んでいる。
「こらこそ、変なこと言わないで」
じろりっと助手を睨むが、彼は中年男性よりも女子中学生の方を見る。彼は蝶へ何かを耳打ちで話す。蝶もあの能力があるのにも関わらず無警戒に耳を貸す。
あの子はもうっ、つい心の中で毒づいてしまう。今すぐにでも助手と引き離したいが、ここで蟬ヶ沢がムキになってしまえば、助手からも蝶からもからかわれるに違いない。
蟬ヶ沢が必死に堪えていることに気づけない蝶は話を聞き終えると、にやりと笑った。笑ったのは一瞬だが、蟬ヶ沢はそれを見逃さなかった。
「その編集ソフトさ、私も使っていて結構扱えるのよ。そろそろ試験も受けるつもり。そのセミさんが解らないところ、解るかもよ?」
「教えてくれるならとても助かるわ……」
憎たらしいくらい可愛く首を傾げて、蝶は蟬ヶ沢に近づく。
「教えてもいいけどさ、一個お願いがあるんだけど」
「……なに」
思わず、仕事では使わない例の鞄を後ろにずらす。
「携帯電話の連絡先、交換しよ」
隣にいた男性の助手が驚く。
「えええ!蟬ヶ沢さん、蝶さんの連絡先交換していないんですか!俺と交換しません?」
「あはは、そこはまあ親の許可を得てからでお願いしまーす」
「あああー、フラれたー!」
「あんたは早く仕事しなさい。もう」
騒ぎ立てる助手を手で追い払い、蝶から導入ソフトの使い方を教えてもらう。
扱えると言っていたのは嘘ではないようで、蝶はあれとあれよと蟬ヶ沢が望む編集をしていく。
「ちょっと嘘でしょ。こんなの本に書いてないわよ……。数時間悩んでいた私の時間を還して」
「本に書いてあるのもだけど、一番は使い方を慣れることだもの。まあ、今のはオリジナルの使い方講座から知った方法。後でそのサイト教えるから見てみなよ」
「そうね……後で教えて……」
こんな年下に教えられるとはと情けなさも思いつつも、現代の若いこの方が最新の手腕に優れていることを痛感した。
蟬ヶ沢の問題が解決のしたこともあり、蝶は他のスタッフにも教えに行った。
談笑しながらも、完全に蝶は講師として働いてくれている。まだ中学生なのでアルバイトとして雇えないが、この場ではそういう扱いにしてもいいのかもしれない。高校生になれば、少なくとも正式に雇えて、ここにいることの不審さも少し減るだろう。
高校までいるか分からないのにね。
自身の楽観的な考えに少し笑ってしまう。
携帯電話がぶるると振動した。先に気づいたのは蝶だった。蟬ヶ沢に向けて渡そうとする。
蟬ヶ沢は一瞬しまったと焦り、蝶の元へ駈け寄る。こんな時にあの携帯を置いていくなんて失態を犯すなんて。
彼女は、ん?と受け取らない様子を不思議がる。それに気付き受け取る。
「ああ、ごめんなさいね。ありがとう」携帯電話を見る「……画面……見た?」
後半は少しだけ声が震える。仮に見られても困らない表示にしているが、それでも人によっては見たことそのものが危険な場合がある。
蝶はふざけてニヤリと笑う。
「なあに、浮気の電話だったの?セミさん不倫は駄目だよー」
「蝶さん、その人独身っすよー」
何故か蝶が嬉しそうな顔になり、真顔に変わる。更に困った顔で自身を指さして、
「ロリコンじゃないよね……」
と聞いてきた。
「違います!」
そんなわけないじゃないと否定はする。助手がやはりロリコンでしたかと言っていたのは後で追及することにしよう。
廊下に出て通話ボタンを押す。掛けてきた相手は分かる。お馴染みの無機質な機械音声の様なオペレーターの声だ。
通話を終えて部屋に戻る。先程の通話で、蟬ヶ沢は自身の顔が無表情になったことには気付いていない。
「セミさん?」
「ん?なあに?」
蝶が手を伸ばして、蟬ヶ沢の両頬をぐいっと引き上げた。
「なひ?」
「……なんでも」
蝶はまた蟬ヶ沢の両頬を引き上げた。
*****
帰りはいつも一緒ということにしている。しかし、蟬ヶ沢にはまだ仕事がある。スタッフには自宅で出来る分は家でやると告げて帰る。
いつもなら、この帰りにどこかしか寄るのだが、今回は出来そうにない。
「ごめんなさいね、今日はどこか寄れそうにないわ」
「別にいいって。いつも送ってもらっている身なんだし」
「このくらいはいいのよ。ところで聞きそびれていたけど、最近は変な人に遭っていない?ほら痴漢とか危ないニュースがあったじゃない」
「だいじょーぶ、痴漢とか遭う前に近づかないし」
蝶は手をひらひらさせて平気だと言うが、蟬ヶ沢は気が気でない。
蝶の能力は視るだけなら何も起きないが、操作するとなると身体に負担が生じる。向けている感情の向きを変えるには、感情の流れに直接触れなければいけないらしい。感情の感触そのものはものによりけりだが、触れたくないタイプの操作を例えるなら生ごみと死体の荒いミキサーに手を突っ込んだようなものだったりするものらしい。
「でも、視えるもんは視えるから、最近は電車はあまり使ってないや。使うなら空いている時間にしてる」
「流石に朝の迎えは出来ないわね」
彼女に人の感情や動きが見える力があると知ったのは最近のことではない。彼女が小学校低学年の頃。初めてイベントで会ったのが出会いであり、彼女が特殊な能力を持つMPLSであることを知ったきっかけだ。
「朝も一緒なんて贅沢過ぎる」
「私もそう思うわ」
*****
あらかじめ車の中で言っていたことだが、今回は蟬ヶ沢にこれから寄る予定があるということで彼女との道草は消えた。
蝶は車で待ってもらう。携帯電話も会社のは置いているが、これは見られて困るものではない。
車の鍵を閉めて、もう一つ、内側からでは開けらえない仕様の隠された鍵もこっそり閉める。恐らく蝶なら能力で開けてしまうだろうが、他の者から開けられなければいいのだ。
蟬ヶ沢は車が見えない位置まで距離を置いたのが分かると、通常の人ではありえない速さで走りだした。広々とした工場は肉の加工工場として稼働している。
工場に入ると受付嬢は先に待っている者がいると告げた。
待合室には一人の男が立っている。戦車の雑誌を眺めていが、蟬ヶ沢が近づくと鞄に仕舞い片手を上げる。
「またせたな」
「いいや、少しは調整できる。どうせこいつらはもう使えない」
「薬物でなんとか出来なかったのか」
「水で流しす為、だそうだ」
「シュバルツなら他の仲間とでも出来ることじゃないのか」
「ひとまとめでには出来たが、そこまで細かく出来るのはお前くらいだ。スクイーズ」
いつもなら会うときはふざけてあだ名で呼ぶ癖に、今回はらしくなくコードネームで呼んできた。
「面倒な仕事だよ」
シュバルツに案内されたのは工場の地下、主に“肉”が保存されている地下倉庫だ。
スクイーズ、裏の顔の彼の名前は、いや、本来はこちらが本名なのだ。蟬ヶ沢卓という名前は擬装用の名前で、いつかは捨てる名前だ。
この工場はただの工場ではない。合成人間の部品となる部位を作る為の工場でもある。再生能力に優れた合成人間の部位が使用され、培養されている。他には合成人間の素体もある。簡潔に言うならここは合成人間の為の生産工場なのだ。“特別製”レベルのコストを掛けた合成人間ならば失った腕も再生するだろうが、そこまでの再生能力がない合成人間は失った部位はつけるしかないのだ。
素体たちはぼんやりと周囲を眺める。いや、ほとんど考える事すら出来ない。肉体だけが成長しただけで、まともに教育も受けていないので文字通り何も知らないのだ。これから合成促進剤を投与されるはずだった。
ここにいる素体のはほとんどデザイナーズチルドレンで生産された生まれながらの合成人間だ。合成促進剤を打たれた後に発露する能力は特定の能力を発露させることは出来ない。数多くある能力で多いのはラッチェ・バムやワイバーンだが、この二種類でさえ発現する原因は解明されていない。
このような存在はもちろん表舞台には一切公表されていないものだ。まっとうな人ならばこのような非人道的なもの認める訳がない、それはスクイーズも分かっている。こんなことをしてまで彼等を作りだす理由は対抗する為だ。
MPLS、特殊な能力を持つ者を呼ぶ名称だ。 統和機構と呼ばれる巨大なものは人類を監視している。その中で人類に仇なすものとしてMPLSを狩っている。合成人間の基本的な任務は彼等を狩ることだ。見つけ次第 統和機構に即時報告し、処分や人によっては仲間に引き入れることが必須とされている。
そう、今スクイーズの車にいる彼女はMLPSだ。スクイーズは彼女のことを一切報告していない。
隠してから何年も過ぎている。隠し通せているかはわからないが、彼女の反応から見ても 統和機構に目を付けられている様子はない。
絶対に明け渡しはならない。
いくら蝶が人類に害を与えるようなことをしないとしても 統和機構は彼女を生かすかはわからない。仮に生かすことになってもここにいては何をされるのかは想像に難くない。同じことはして欲しくない。
ただのエゴなのは分かっている。彼女以外では他のMPLSと思しく存在、違反者、処分対象、いくら殺してきたのか数えること放棄した。
これから殺す人数も数えても報告を終えれば忘れる。忘れてしまいたい。
ここにいる合成人間のなりかけは能力を投与する以前に問題がある為に処理をしろということだそうだ。
スクイーズの能力は、特殊な肺に空気を圧搾し、無音で衝撃波を飛ばすこと出来る能力だ。無音での能力なので主に一般社会での暗殺、広範囲での抹殺を得意とするが、彼の能力の性能はチャージに時間を要する問題がある。時間を掛ける分威力はある。彼が本気になれば通常の人間よりも頑丈な合成人間ですら細切れにすることが出来る。
息を吸い、チャージを行う。危機意識の欠片もない彼等はぼんやりとスクイーズを見つめる。これから自分たちが何をされるか分かっていないのだろう。
口の動きだけですまないと謝る。言っても伝わらないだろうし、意味はないのだがスクイーズは癖で言ってしまう。
圧縮して、細切れにする。
一部屋を終えてまた一部屋。
こんなところ、視られたくないな。
車にいる彼女を思い出して、呟く。
蝶の能力は蟬ヶ沢だけ直接触れないと能力で何を感じているのかも向けている方向も視えない。これに何度感謝したことか。
顔に付いた返り血は仕事を終えるまで付いたことにすら気付かなかった。
*****
帰りの車は静かだった。いつもは流行りの音楽を流すのだが、今は静かな方がいい。それでも彼女が流して欲しいと言うのなら流すのだが。彼女も恐らく空気を読んで静かにしている。
「ねえ、セミさんさ」
「なあに」
「裏では殺し屋でもしてんの?」
急ブレーキを踏み、蝶も蟬ヶ沢も前のめりに倒れる。
蟬ヶ沢――スクイーズはばくばくと動く心臓を治めたくて、心臓がある場所を擦る。
小さくごめんと謝り、車を再発進させる。
蝶は気にせず話を続ける。見る事は出来ないが、恐らく彼女もこちらを見ていない。
「待っている間、なんていうのかな、普通の人よりも変質した感情って言えばいいのかな、まっとうな生き方をしていなさそうな人の感情が視えちゃって。たまにだけど、セミさんと帰りの時、そういう人と遭遇するのがあったんだよね」
見れない。貴女の顔を見るのが怖くて。
「とりあえずさ、ちょっとどっかと停められる?家の前の公園でいいからさ」
彼女の家の近くの公園の駐車場に停める。人はいないのが幸いだ。
「ありがとう。直ぐに終わると思う」
停車したはいいが、蟬ヶ沢は隣を見ることが出来ない。視線すら向けるのが怖くて堪らない。
そっと蝶が蟬ヶ沢の手を握る。そこで蟬ヶ沢はハンドルを握り続けていたことに気付く。
左手は蝶に握られてギアまで引っ張られ、右手は力なくハンドルに乗せる形で置いている。
「生活が苦しくてそういう……頭をすっきりさせるようなアレに手を出しているのかなって思っていたけど、視た感じじゃあセミさんはしていないし」
後ろめたさと、知られたくない不安、どちらも貴女に見せたくないものなのに、能天気に握られた左手に感じる暖かさに安堵もしている。
でも見る事が出来ない。
「セミさんさ、そのー……俯いたままでいいからこっち向けられる?」
言うとおりに向けると、いい匂いがすると同時に頭が何かに覆われた。蝶が抱き付いているらしい。ずるっと足に蝶の足が落ちる。少し頭を上げると肩が見えた。
「まだ特定の空間を聞かれないようにする、防音ってやつ?難しくってさ、この距離でないと難しいのよ。見えなくするのも不安定だし、同時操作は出来ないから口もとは肩に押し当ててとかで隠してよ。やってて小っ恥ずかしいだろうけどさ」
口を肩に押し当てるのは躊躇したので、額を押し付ける。今だけはこの口を付けるのはしたくない。
「まあ、防音もそんな長く続かないから、話続けるわ。大人の事情って奴で、セミさんが何か大変そうなことしている気はするなーって視えはするのよ。大それたことは出来ないけど、もしセミさんその危ないことから逃げたいとかなら、なんとかするよ」
殺し屋か、先程言われた言葉を思い出す。確かに間違ってはいない。彼がもっぱらしているのはそれに違いない。それだけではないのだ、もっと根本的に違うところがある。
「ねえ、蝶、もし私が」
「あ」
「“あ”?」
ばっと蝶は蟬ヶ沢から離れる。抱き合っていた体だったので眼前はお互いの顔で、目は合うに決まっている。とっさに視線を逸らすが、彼女は思い出したとこで頭が一杯らしく、まったくこちらを見ていない。
彼女は制服のポケットを漁ると携帯電話を取り出した。
「携帯の番号!!!そう!セミさんってば帰る前だからって、このまま忘れて流す気はないよね?あれだけ教えといてさ!」
「え、その」
「ほら早く!わたしの、ばん、ごう!入れ、て!」
蝶は自身のアドレスを表示し、蟬ヶ沢に見せ付ける。元の距離が近すぎるので顔に思いっきり当たり、少し仰け反る。
「は、はい」
蝶に気圧されて、表向き専用の携帯番号に蝶の携帯の番号とメールアドレスを入れる。しかし、長い上複雑なメールアドレスなので入力は彼女に任せた。
入力している蝶をちらっと見る。さっきのことなんて無かったかのようだ。
目が合う。
「そういえば、さっき言いかけてたけど、何言おうとしてたの?」
「ああ、忘れて。何言おうとしたか忘れちゃったわ」
とっさに視線を逸らしてしまう。これでは嘘だと思われただろう。
「了解。なんか知らないけど、これで何か起きたらすぐ連絡して、セミさんが何しているかは知らないけど力になるから!話はそれだけ」
携帯電話に蟬ヶ沢の番号が入ったことを確認すると、すぐに蝶は家に帰って行った。まるで竜巻のように帰った蝶を蟬ヶ沢は茫然と見送ってしまった。
「……何しているか知らないって、ちょっと……」
蟬ヶ沢は肩を落として、力なく苦笑いする。相手が何をしているか知ったこっちゃないのか。
“力になるから!”
彼女には蟬ヶ沢が後ろめたいことをしているのが分かっている。それでいてあの子はまだ蟬ヶ沢の味方でいようとしている。
「はー、ばかね……」
俯いて、深く息を吸う。誰にも奪われんと言わんばかりに携帯電話を強く握る。
誰にも聞かれないように小さく呟く。
明け渡したくない。
知られたくない。
怖がられたくない。
だから、もう少しだけ。