001.~
Please tell me your name
この小説の夢小説設定簡易的な夢主設定
夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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知らない方が幸せなことだってある。
別にこの香水に込めた意味は知らなくてもいいものだと思っている。
気付いた時の反応は見てみたいけども。
****
「香水しない?」
「うん」
蟬ヶ沢は蝶からの質問におうむ返しに聞き返してしまった。
「それだけおしゃれしといて、香水を付けないのももったいないと思って」
蝶はもじもじとしながらも、鞄からラッピングされた手のひらサイズの箱を取り出し、蟬ヶ沢に差しだす。
そこで蟬ヶ沢も何の事が思い出した。
「というか、一応、誕生日……じゃない」
蟬ヶ沢にも誕生日はある。システムから手渡された偽物の戸籍上での誕生日なのだが。偽物の誕生日と知ってからでも蝶は祝ってくれている。
「毎年のことだけど、貴女に言われるまで誕生日のこと忘れていたわ。ありがとう」
蟬ヶ沢は受け取ると、さっさく開ける。中身は香水である。ボトルをじっと見つめる。
「このボトル……見ないものね。蝶が考えた?」
「ほんとよく分かるよね……」
蝶が口の先をきゅっと噛むのが見えた。気付いたのが嬉しいらしい。
「なんなら一部だけオマージュしている所も当てましょうか?」
「…………やっぱ返して」
「もう貰ったからイヤ」
蟬ヶ沢が「開けるのが惜しいわね」と呟くと、蝶は別のボトルを取り出し、手渡してきた。
「中身はこれと同じ、嗅いでみて。フレーバーのセンスには自信があるのよ」
嗅いでみると確かに彼女が言った通り良い香りがした。
「この匂い、柑橘類ね。爽やかで酸味がある」
「じゃあ!」
「今は止めるわ。運びだけの任務言えども香るのは危ないもの。また今度ね」
蝶は残念そうに机に倒れる。
「もし付けているのに気付いたら、なんでもお願い叶えるわ」
「絶対つけたらすぐに分かるわ」
「さあ、どうかしらね。ところで、これって完全オリジナルオーダー?」
「なに?もう一つあった方がよかった?それに近いのなら近々店で出すよ。セミさんに上げたのはボトルデザインが店では出ない非売品」
「もったいないから、店で同じ匂いの買おうかしら」
「えぇ……貰ったもんつけてよ」
「付けた時当てて」
今回店で出す香水のコンセプトは花言葉。
意味なんて知らない方が幸せなことだってある。
困らせてしまいそう。
だから何の匂いかも意味も話すことはないだろう。
*****
蟬ヶ沢といるときは決まって親子だの、叔父さんと姪だの親類ということにしている。
蝶と蟬ヶ沢が初めて会ってしばらくのことである。この頃の蝶はまだ幼く、蟬ヶ沢もデザイナーとして売れだした頃だ。
お馴染みの能力練習の会議として、カフェ・アンブレラに来ている。ここでは能力の話を聞かれても店主が聞かなかったことにしてくれている。ただし、他に客がいない時に限る。
蟬ヶ沢はカフェオレ、蝶は無糖のミルク入りコーヒーである。
「セミさんの誕生日っていつですか?」
そうねと何故か少し悩んだ様子だが、教えてくれた。
「プレゼントされるなら何がいいですか?」
「ええと、そうね……香水とかかしら。でも、貴女からなら別のことをお願いしたいわね」
“貴女からなら”に少なからず特別視されているようで、心拍数が上がる。
「ちょっとデートして欲しいのよ」
蟬ヶ沢はウィンクをして言った。
蝶を連れてきたのは猫の姿をした女の子がメインのテーマバークだ。
ここに連れてこられた理由は彼女にもすぐに分かるだろう。どこもかしこも親子か仲良さげな男女、友達同士とおぼしきお姉さん達で、とてもじゃないが中年が来るには気まずすぎるところなのだ。
このテーマパークのいいところはかわいらしいキャラクターと一緒にアトラクションを楽しめるところだが、屋内に設置されているので天候に左右されないところも隠れた魅力である。
大きなゲートを通り、入場料を払う。入口は人ごみがごった返しており、蝶の手を引いてどこを巡ろうか話し合う。彼女が能力で視た様子だと、猫の女の子の家のアトラクションが一番空いているらしい。視るだけなら負担はないらしい。ある程度は見ないふりも可能だそうだ。しかし人が多い所は純粋に疲れてしまうだろうから、能力で視ることは控えさせるつもりだ。
「よおし、行こうか!」
蟬ヶ沢の言葉に蝶は不思議そうに首をかしげた。彼女の様子に気付き、耳打ちをする。
「こんなところでこの言葉遣いじゃとっても見られちゃうじゃない。だから、あんまり変に見られない話し方にしたのだけど……変だったかしから?」
人の注目も見える彼女ならあまり目立つことは避けようとは思ったのだ。“こっち”でいる時はあの言葉遣いの方が楽なのだが。
蝶は首を横に振る。
「いつもの方がすき」
「ちょっとだけ人から見られちゃうけどいいの?」
「いつもの“おじさん”がいい」
蝶はにっこりと笑った。
蝶は蟬ヶ沢に関しては直接触れていないと何に関心を向けているのかが見えない。だからという訳では無いが、この“おじさん”と共に行動するときは手を繋ぐことが多い。
何の血のつながりもない大人と行動するときは少し他の人の視線を考えないといけないのだ。少なくとも手を繋ぐことで親子にも見えるだろうし、そうでなければ親戚の叔父さんと姪に見えるはずだ。
二人だけの時はお互いを愛称で呼んでいる。そうでないところでは彼を“おじさん”と呼んでいる。仮に知り合いに遭遇したとき、遠い親戚の叔父さんと言えば納得するのだ。
本当なら愛称で呼んで遊びたいが、それこそ彼の話言葉よりも人目を惹きそうで彼に迷惑を掛けてしまう。
デートをして欲しいと言われ、最初こそ子供ながらに喜んだが、本当にその意味として言ったつもりではないだろう。
今は蟬ヶ沢の手を繋いでいるので彼がどれほど来たかったのは目に見えているが、能力で見えなくても充分分かるだろう。
手を引っ張り、半分はしゃぐ演技で、半分は本音で。
「早く行こう!」
それでもいいと思っている。
伝わらない、対象でないとしても。
だからもう少しだけ。
*****
いつもの帰り、この後二人とも時間があるのでショッピングモールで散策してから帰ろうということになった。
「ねえ、ちょっと待って」
蟬ヶ沢は蝶を止めると、先に外に出る。
直後、蝶は一瞬能力で周囲に人が見ていないか視て、いないことを確認すると深呼吸をした。
「デート中の貴女に変な虫がつかないように、ってね」
外に出た蟬ヶ沢は蝶がいる扉を開けて、舞踏会の迎えのように気障ったらしく右手を差し伸べる。ふわっと良い香りがした。
小さいころこそ喜んで手を差し出したが、高校生にもなってこれをされると死ぬほど恥ずかしい。しかも、差し出されるまでこの状態が続くのだから、最後に折れるのは決まって蝶である。
睨んではみるが彼には全く通じていない。そっぽを向むのがせめてもの抵抗である。
「そこにかなり大きくて変な虫さんがいるから必要ないでしょ」
「本当に防虫剤ぶっかけるわよ」
怒った蟬ヶ沢は乱暴にお姫様だっこをして蝶を車から出した。