001.~
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この小説の夢小説設定簡易的な夢主設定
夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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蟬ヶ沢の右側には必ず蝶がいると言われている。
*****
あーあ、大人しく家に居ればよかったかしら。
一人寂しく事務所で作業している蟬ヶ沢は、出勤でもないのに来ている。今日は年末の31日、蟬ヶ沢の事務所も正月休みとして職員は全員休みにしている。休みの中でなぜ職場にいるのかというと、どうせ家にいてもすることがないのだ。正月の準備も何もかも先に全て終わりすぎて、暇なあまり職場に来て少し業務を進めようと来てしまった。こんなこと蝶から知られたら、遊べばいいのにと苦笑いされてしまいそうだが、趣味らしい趣味はあるのだが、今一つやろうとは思わないのだ。
暖房ひとつつけられない中で、手に持ったカイロが唯一の暖房である。
常人よりは丈夫な体とはいえ、寒さには堪える。身を縮こめて両腕を擦る。
椅子に座ったまま丸まったので足が机に当たり、ごとりと何かが倒れる。倒れたのは蝶からもらったものと同じ香水だ。中身は一割ほど減っている。
香水の蓋を上げて、つけることなく閉める。
任務によっては匂いで気付かれたり、痕跡を残すことになるので、付けた任務に入ることは滅多にない。なにより、今つけても意味がないのだ。
ポケットに入れている携帯端末を見る。裏の仕事での知らせはない。あっても、よほどのことがない限り急に入ることはないだろう。
下の階段に誰かが上がっていく音が聞こえた。なんとなく誰が来るのかは分かる。右手に香水をつけて、ポケットに入れる。
唯一明かりが付いた部屋、この部屋のドアの前に止まるとノックが聞こえた。蟬ヶ沢はどうぞと入室を許可する。
「いたいた。もう職場が家みたいになってない?」
蟬ヶ沢同様に、学業、アルバイトともに休みのはずの蝶が、いつも通りに入ってきた。手に持ったコンビニの袋からスティック状のインスタントコーヒーの元を取りだして蟬ヶ沢に二本投げる。距離が足らず、やや前のめりになってだが受け取ることが出来た。扱いが荒いわねと苦笑いをしながらも給湯室に行き、珈琲を入れる。
「どこにいるかって教えてないのによく分かるわね」
「優秀な諜報部員がいますから」
何か更に袋を漁りながら彼女は得意気に話すが、諜報部員とは恐らくレインのことだろう。小一時間ほど前にレインから現在地を聞かれたのだ。
蟬ヶ沢がデスクに戻るとコンビニで買ったと思われる牛肥につつまれたアイスが小皿に置かれている。
コーヒーと香水を置いて、蟬ヶ沢も蝶の隣の椅子に座る。
寒い中でアイスを食べるのはあまり体に良くないが、熱い飲み物と一緒なら悪くないかもしれない。ただ、次食べるなら暖かいところで食べさせるべきだろう。
寒いと美味しいを交互に言いながら食べる蝶を見て心のなかで呟く。
「年末ならお餅とかじゃないの?」
「もちもちしているし、お餅みたいなもんでしょ」
そう言って、牛肥アイスを伸ばす。
「何言ってんの。牛肥アイスなんて、もうあるでしょ」
と、蝶の頬を軽くつねる。彼女の頬は牛肥アイスに負けないくらいよく伸びる。
「うふふ、本当によく伸びるお餅だわ」
「ん゛ー!セクハラ反対!」
頬をつままれて慌てた蝶が蟬ヶ沢が座っている椅子を蹴る。キャスター付が付いた椅子は勢いよく二メートルほど蹴り飛ばされ、勢いで蟬ヶ沢は周辺の小物を巻き込んで椅子から転がり落ちた。
慌てて蟬ヶ沢のもとに駆け寄り、蟬ヶ沢が先に起き上がるよりも先に小物を拾う。
「セミさん、大丈夫ー?」
「平気よ。それより、スカートで蹴るのはやめなさい。もう」
「スカートじゃないよ。これはスカートに見せたショートパンツ」
蝶は悪びれることなく裾をひらひらとなびかせる。
「そうであっても心臓に悪いわ」
落ちた小物を片付けていると、蝶があるものを拾う。先程蟬ヶ沢が持っていた香水だ。
蝶は香水のボトルを持って、眺めている。
「セミさん香水ってつけてたっけ?」
「毎日は付けてないわよ」
「今付けてもいいんじゃない」
「………まあ、そうね。蝶も付けてみる?」
蝶は遠慮すると言わんばかりに肩を竦めて、香水を返した。
突如、外が騒がしくなる。なんのことなと蝶も蟬ヶ沢も驚いて窓から外を見ると、道路にいる人々が声を揃えてカウントダウンをしている。十秒数えると、口々にハッピーニューイヤーと叫んだ。
真夜中にも関わらず外は人だかりが出来て、騒いでいる。ここが住宅街ではないオフィスビルばかりのところとはいえ、蟬ヶ沢がうるさく感じるほどだ。
あーあ、と蝶が苦笑いしながら、外にいる人たちを見ている。
「とうとう職場で年越しなんて、社畜の仲間入りをした気分。今年の年末はせめて家で過ごそうよ」
「少なくとも、未成年がこんな時間に来ないようにさせるわ……」
「それは出来ないでしょ」
「そうかしら?」
「うん、セミさんだし」
「どういう意味よ」
蝶はちらっと蟬ヶ沢を見る。
蟬ヶ沢もなんとなく見てしまって、互いにそのまま見つめあってしまう。二人の間に沈黙が続く。
「………………ふふっ」
堪えきれなくなった蟬ヶ沢が緊張のあまり吹き出した。
「いえ、ふふっ。そうね、あけましておめでとう」
つぼに入ってしまって、俯いてくすくす笑う。更に蝶が心配して蟬ヶ沢の背中を擦るものだから、余計に笑ってしまう。
「あけましておめでとうございます……って、セミさん大丈夫?」
「平気よ、平気。さて、さっそく貴女を送り届けるお世話をしないと」
「別に良いよ。朝になれば始発で帰るし」
「なら始発まで暇でしょ。どうせなら付き合いなさい」
「やだよ。セミさん早く帰って寝なよ」
「未成年をこんな朝まで放置するなんて保護者として見過ごせないわ」
「保護者じゃないでよ」
蝶がくしゃみをする。
「保護者でなくても、くしゃみをするような子は放っておけないわねぇ。デザート後に食べるのは変だけど、蕎麦でも食べに行きましょうか」
ありえないわと蝶の目付きが座ったのは気のせいだと思いたい。
「太る」
「ふふ、ますますお餅みたいになるわね」
「頬以外つねったら通報するからね」
「頬っぺたはいいんだ?」
「やっぱり頬も断るわ!」
事務所にいてもいつまでも寒いままなので、外に出るべく資料を片付ける。忘れ物がないか荷物を確認すると、蝶が香水が入ったポケットを指した。
「ねえ、セミさん、香水使ってもいい?」
ポケットから香水を取り出し、蝶に渡す。蝶は自分につけようとはせず、噴出口を蟬ヶ沢に向ける。
「付けないわよ」
「今日ぐらいよくない?」
「だーめ。私が貴女につけてあげるわ」
蝶がわざとらしく大きくため息をいた。
「なによ、なんか勝手に呆れちゃって」
「なあんでもない」
ほとんど呆れた状態で怒りながら、蝶は先にいってしまった。先に行く蝶を見て苦笑いをし、自身の右手首を嗅ぐ。そこから爽やかなフルーツの匂いがする。
「いつになったら気づいてくれるのかしら………」
運転席に置かれた未開封の香水が、街灯の光をキラリと反射した。