001.~
Please tell me your name
この小説の夢小説設定簡易的な夢主設定
夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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〝うちよそでもうちうちでもいいから、「あなたの愛する人は記憶喪失になり、もう2度と記憶は戻りません。しかし、愛する人と寸分違わない姿で今までの記憶をすべて持ったクローンがいます。あなたはどちらを選びますか」と言われた時になんて答えるのか聞きたい。〟
蟬ヶ沢は顔をしかめる。
システムを裏切ってまで守りたいと思っている人の代わりなぞいない。しかし、同じ顔で同じ声と記憶までもっているとしたら、気が狂いそうだ。
「精神によくないわね」
創作物の材料としての投稿とはいえ、考えるだけで胸が痛む。携帯端末をしまい、きつく目を閉じて首を振る。先程の投稿内容を忘れたくて仕方ない。
ぺたりと両頬に柔らかいものが引っ付く。蟬ヶ沢は付いたものを特に払おうとはしない。見える前に誰なのか解っていたからだ。この手の形は完璧に覚えていると言ってもいい。
「セミさん」
目を開けると、首を傾げて心配そうに見つめる蝶の姿があった。
「ストレス?」
「なんでもないわ」
蟬ヶ沢はここが事務職ではなく自宅であり、他に客がいない二人っきりであることに感謝した。
蝶の肩に頭を乗せ、包むように抱く。体格差があるため、こうでもしないと顔を埋められないのだ。
「ちょっと落ち込んだだけ」
情けないなと思いつつ、彼女に甘える。
今いるのは世界を救うために暗躍する合成人間でも、デザイナーとして活躍する人間でもない。好きな人を独り占めしている一人の人である。
肩にぴたりと付けた額を傾けて、首を見る。
蝶の首筋に切り傷を見つけた。
どこかで切ったのか、それとも昨晩の任務の時につけたものだろうか。
切り傷を見ながら、創作物の投稿のことで再び考える。
怪我をしていない状態ならば、記憶が無くなっても今後生きていく上では平気だろう。本人に記憶がなくてもない部分は家族なり自分なり、回りの人間が手助けし、今後の記憶を積み重なればいいのだ。
蟬ヶ沢の予想以上に創作物のことが気になっているらしい。一般の人間はクローン人間なんて倫理に反して作られないだろうと思われているのだろう。
蟬ヶ沢が裏で暗躍するシステムはクローンレベルのものではない生物を作り出している。素材があれば同一個体を作り出すことが出来るのだ。
そこまでは創作物の空想が実現している。残りは記憶の復元。機構の噂で現代の人間の精神をコピーが行われていると聞いたことがあるが、ただの噂であってほしいと思っている。
この記憶は、覚悟は自分のものだ。誰にも植え付けられたものじゃあない。
「セミさんのことだから、今の流行っている創作ネタを見ちゃったんでしょ。この手のにはセミさん考えすぎだって。第一、この手のは自分に当て嵌めるものじゃないよ」
「そうね……」
「あの投稿ネタは愛する者が相手であって、セミさんは別にそんな人…………」
急に言葉の歯切れが悪くなる。詰まらせた呼吸をして、続ける。
「……………いるの?」
甘えているのは自分だけではないようだ。自信はないように言っているが期待している。意地悪で誤魔化したくなった。
「さあ、どうかしら。蝶には素敵な人がいるのかしら?もしいたとしたら、その創作の状態に陥ったとき、どちらを選ぶ?」
この子がどんな顔をしているのか見たくて顔をあげたいが、今の顔を見られるのは恥ずかしい。それに、もう少し抱きついていたい。
蝶は蟬ヶ沢の頭を撫でつつ悩む。創作物の範囲でとしか考えなかったのだろう、軽い調子で言った。
「両方は駄目?」
「だめ」
「だめ、か」
彼女は再度考えるが結論を出すのは早かった。
「記憶喪失の方ね」
「…………そう」
やはり片方は選んでしまうのかと、つい手に力をいれてしまう。
蝶もそれに気付き、蟬ヶ沢の背中をぽんぽんと軽く叩く。
「選ぶってどういう意味としてかはわからないけど、もし選ばれなかった方も生きてくれるのなら、放っておいても大丈夫なんじゃないかって。記憶がない人だと真っ白な訳じゃない。なんか放っておけなさそう。好きな人なら尚更ね」
「そいつに記憶がなくても?」
「うん」
「…………」
「無責任だろうけど、じゃあ大丈夫かなって。記憶が寸分違わぬなら、処世術っていうの?それがあるなら、生きていけるんじゃないかなって」
「残された方は嫉妬に狂いそうね」
蟬ヶ沢が昏い目付きになったが、蟬ヶ沢自身も気づいていない。
「友人関係に戻せないかもね」
「奪ってしまおうかしら」
蝶の腰に回した手を服の中に忍び込ませる。インナーの隙間に滑り込ませようかと人差し指だけ触れて、そこで指は止まる。蟬ヶ沢の意思ではない。彼女はくすぐったそうに笑うが、声は笑ってない。
今日はそこまでは許してはもらえないようだ。
「そんなんだと記憶がそのままあるクローンも作らせない上、記憶喪失になっても自力で回復しそう」
「現に記憶喪失はなんとかしたじゃない。貴女の助力もあってだけどね」
「また記憶喪失なってもいいんだよ。その方が任務は楽になるし」
「充分よ。人でいられるのもいいけど、私だけのうのうと生きるのは苦痛よ」
「私はそれでも構わなかったけどね」
「私は嫌ね」
頑固だなあと苦笑いされる。
「そういえば、セミさんは結局どっちを選んだの?記憶がある方がいいようにも聞こえたけどさ」
「私?きっと選べなくて死んでしまうわね。でも」
首筋に噛みつく。
「貴女に触れるのだけは“私”だけがいいわ。クローンなんかに触らせたくない」