001.~
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この小説の夢小説設定簡易的な夢主設定
夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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1.秘密基地
雨の中、蟬ヶ沢と蝶は走っていた。蝶の頭には蟬ヶ沢のジャケットが羽織られていたが、蟬ヶ沢には水滴がほとんどついていない。奇妙な二人組はブティックのショーウィンドゥ前の屋根を見つける。蟬ヶ沢は蝶にそこに行くことを伝える。
ようやく雨宿りが出来て一安心だが、この時期には少しばかり不釣り合いな気温は、蟬ヶ沢にとっては平気でも蝶にとっては体調を狂わせるには充分だ。蝶は両肩を擦り、体温を上げようとしていた。いくら擦っても体温に変化はないらしく、擦るのを諦めて蟬ヶ沢のジャケットを握る。
「そのジャケット脱いだ方がいいわ。ずぶ濡れなら着ている方が却って冷えるわ」
「脱いだ方が寒いから着てる」
「風邪引いても知らないわよ」
平気だと蝶は言ったが、くしゃみを連発した。
蟬ヶ沢は早く蝶を帰してあげたかったが、蝶の自宅も遠く、蟬ヶ沢の住む家からも遠い。
(ホテルに連れていくと何か警察官に捕まりそうで嫌なのよね)
蟬ヶ沢と蝶の歳の差から二人で行動していると高確率で職務質問に遭う。
服をなんとかしつつ、体を休めそうなことろを考え、一ヶ所思い当たる場所を思い出した。
「蝶、私の家に行きましょう」
「いいけど、セミさんの家も充分遠いから、徒歩では厳しいし、車で行くと座席が濡れるよ」
「座席は別に濡れてもいいのよ。どうせ乾くもの。それと、今から行こうとしているのは今の家じゃないわ。前に住んでいたところ」
蟬ヶ沢がレインを迎える以前に住んでいた家がある。蝶は覚えていないが、気絶をしたときに休ませたことも。
書類上は空き家として存在しているが、引っ越したとはいえその家の所有は蟬ヶ沢のものになっている。簡易的なセーフティハウスとして残していたのだ。
蟬ヶ沢が以前住んでいたと聞いて、蝶の目は好奇心に満ちて眩しい。自身の寒さをどうにかするよりも純粋に言ってみたいと顔に書いている。
「行きたい?」
小さい子供のように大げさに首を縦に振って主張した。
蟬ヶ沢は蝶の手を取り、車まで走ることを示唆する。
「じゃあ、行きましょうか」
なんだか秘密基地に招待したようで、蝉ヶ沢もガラにもなくわくわくしてきた。
行く途中、蟬ヶ沢はあることに気がつく。
(着替え……あったかしら……)
2.パーソナルスペース
蟬ヶ沢はガスコンロの火を見つめながら大きく溜め息を付いた。
浮かれて自分のセーフティハウスに蝶を連れて来たはいいが、困ったことが起きた。
着替えが殆んどないのだ。下着とシャツとジーンズが一通りあるが、一人分である。男性用の衣類。蝶に着せるものがないのだ。
蟬ヶ沢は蝶がいるシャワー室の方へ視線を向ける。濡れた衣類は洗濯機に入れるように頼み、着替えを持ってくると言ったが、着せられそうなものがない。あるにはあるのだ。ただ、それだけを着せることに、かなり抵抗がある。
ここで保管していたシャツを広げて、考える。肩幅は明らかに広く、着る分には困らないだろう。実際に着たら太ももくらいまでは隠れてくれるだろう。
「セミさーん、着てもいいものある?」
角から顔を出して蝶が聞いてきた。バスタオルを巻いているのだろうが、見えているのが肩から上なので何も着ていないように見えて心臓に悪い。更に、これから心臓に悪いものを着せることになるのだが、仕方ない。
「い、いえね。あるにはあるのだけど」
腹を括って、シャツを渡す。
蝶は受け取とり、シャツを広げ、固まった。三秒ほど固まると顔をひきつらせ、Yシャツと蟬ヶ沢を交互に見て、
「新手のプレイ?」
と本気で引いていた。彼女の反応は予想出来たものの、実際その反応を見るのは心苦しい。
「これしかないのよ。ここ、定期的に掃除はしているけど、泊まることはないから衣類に関しては本当に忘れていて…………見ないし、出来るだけ見ないから、見ないわよ。見ないからね。そのままだと風邪を引くから、着て頂戴」
既に蟬ヶ沢の首は限界まで逆を向かせている。
蝶はしょうがないと言いたげに溜め息を付く。
「セミさんはちゃんと着れる服があるの?」
「安心して、捕まるような恰好はしないから」
「ならいいや」
そう言うと蝶は脱衣所に着替えに戻った。
後ろからタオルをかけられる。
なによ、と振り向いたことを後悔することになる。
蟬ヶ沢はとっさに視線を逸らした。気まずい。時間がかかってもいいから今の家に連れて行けば良かった。
首までボタンを止めて首はよく見える。余った袖をだらりと下げている。
シャツの下はほんのり赤みが増した足がさらけ出されている。
一瞬見ただけではあったが、瞼にさきほど見た素足が焼き付いて目から離れることが出来ない。
(心臓に悪いわ)
首を振ってなんとか忘れようとするが、どうしても完全に見ないようにするのは厳しい。
見ない為のせめてもの抵抗で掛けられたタオルで更に視界を狭くする。
「見るの禁止だからね」
声だけでも彼女がにやりと笑ったのが分かった。
蝶はタオルをしたままの蟬ヶ沢をシャワー室に押し込む。着替えはどうしようかと思ったが、すぐに着替えを見つけて渡してきた。
沸騰したお湯は蝶が引き継いでポットに入れてくれると言うので、お言葉に甘えてシャワーに入ることにした。
シャワーから上がると、蝶は寝室で髪の毛を乾かしていた。
サイドテーブルにはコップとポットが置かれ、来る途中で買ってきた茶菓子も置いている。
髪の毛を乾かし終えたのを見計らって珈琲を出したが、蝶は蟬ヶ沢の髪の毛も乾かしだしたので終えた頃には冷えてしまった。
ベッドに座り、淹れなおした珈琲も飲んで明日はどうしようかと相談する。
突如、部屋の明かりが消える。蟬ヶ沢はとっさに蝶を引き寄せる。
部屋を白く染める。蝶の顔が強ばるのが見えた。
一瞬敵の襲撃が来たのかと思ったが、ただの雷だったようだ。警戒の為、引き寄せたままにした。
部屋は再び暗くなり、互いの顔は見えなくなる。蝶にとっては見えない。強化された目を持つ蟬ヶ沢には緊張している蝶の顔が見えるのだ。
蝶の顔には雷に対して怖がっている様子はない。蟬ヶ沢が引き寄せていなければ窓に張り付いて見に行っただろう。
「部屋も暗くなっちゃ何も出来ないわね。寝ましょう。蝶はそこの部屋のベッドを使って。私はそこで横になるから」
蟬ヶ沢はベッドのすぐ横に横たわり、寝る準備をする。バスタオルを巻いて枕代わりに使えは寝るのには支障はない。
「セミさん待って!そこに寝たんじゃ起きたら腰とか痛くなるよ」
「カーペットの上だし、そこそこ柔らかいわよ」
「でも」
部屋は再び雷により白くなり、部屋が暗くなると落雷の感触が伝わった。近くで落ちたのだ。電気は復旧するのはいつになるのやら。ふと、雷が落ちた衝撃とは違う感触があることに気付く。
裾を摘ままれている。勿論、摘まんだのは蝶である。
慌てて降りたせいだろう。四つん這いの姿勢でシャツがずれて鎖骨より下が見えていることに気づいていない。シャツ の間から小さくはないふくらみも見えて、今すぐ逃げ出したい。
蝶は蟬ヶ沢を引っ張り、再び隣に座らせる。裾はまだ摘まんでいる。
「いやだから、雷ってたぶん怖いじゃない」
「たぶん?」
思わず突っ込んでしまった。
「こ・わ・い・で・す、ねっ!」
「そ、そうね」
「だから……まあ、その」
蝶が何を言わんとしているのかは分かった。しかし、嘘が下手過ぎる。雷が怖いから一緒に寝てくれてと少女漫画のようなことでも言うつもりなのか。
「よし」
何を思ったのか、蝶は蟬ヶ沢を押し倒した。本来ならば押し倒されることはないが、完全に気が緩んでいた。
先程のシャツの間も見えるわ、両手は押さえつけられるわ、下手な任務よりも辛い。
なんとか両手は解放してもらえたが、何をすればどいてもらえるか、これ以上近づかれては困るので右手で壁を作ってみる。
「ま、まままま、待ちなさい。蝶、落ち着いて。ダメよ!その、ダメ!」
「セミさんは左、私は右側で寝る。それでいいじゃない」
「え」
顔の温度が二度は下がった気がした。期待していた訳では無いが、何故か残念に思ってしまった。
「二人してこうもベッドの譲り合いしていたらいつまでも寝れないでしょ。一緒に寝るって訳じゃなくて、分けて寝ようよ」
「それはそうだけど……、余計に寝れなくないかしら。ほら、私の体格を考えると寝る場所が狭いわ。だから」
「このベッド結構広いけど」
「寝相が悪いの」
「押しつぶしてもいいよ」
「押しつぶすよりも別のことをしそうで怖いのよ」
「多少のセクハラは目を瞑るから安心して」
「違うことだし、何よりしません!」
「してもいいから。もう私は寝る!ほら、セミさんちょっとどいて」
と蟬ヶ沢の右側に寝転がり、左側に押し寄せるとすぐさま寝息を立てた。
蟬ヶ沢は小さく溜め息を付いて、布団をやや蝶側に多くかかるようにして寝た。
外の悪天候よりも騒がしいものが静かになり、聞こえるのは呼吸音だけとなる。
背中同士がぴったりと付けられているので呼吸音と共に背中の動きも伝わる 。
眠気が来ないまま小一時間は過ぎたことは腕時計から確認出来た。
彼女が寝てる間に床で寝てしまおうかと、起き上がる。
隣で寝ている彼女は熟睡しているらしく、起きる気配はない。このまま床に移動しても気付かれないだろう。
動こうとした時、寝顔が見えた。毎回のことだが、安心しきっている。
本当に蟬ヶ沢に対しては良い意味でも悪い意味でも警戒心がない。
彼女のパーソナルスペースは狭すぎる。特に自分に対しては妙な誤解をされる近さだ。
この距離をなんと汲み取れば良いのか。
結局、床で寝ることは止めて、このまま寝ることにした。背中も元の通り、ぴったりと付ける。
雨音で心臓の音が聞こえませんようにと密かに願った。
3.テリトリー
ううと、呻く声が聞こえて蝶は固まった。
そっと後ろを振り返り蟬ヶ沢が起きていないか確認する。大きい背中は静かに揺らし寝息を立てている。
ほっと胸を撫で下ろすと、起き上がり、己が今着ている服を見る。袖は腕よりも長く、明らかに大きさが合っていない。後ろにいる男、蟬ヶ沢のものなのだ。
着ている経緯は中々馬鹿げていている。蝶が雨でずぶ濡れになり、服が乾くまで着ていろと言われたのだ。
今いる部屋は蟬ヶ沢が昔使っていた家で、裏の仕事の都合に合わせて引っ越しをしたのだ。セーフティハウスとして残していたので私物は殆んど置いていない。
洗濯機がすすぎの音を立てている。温風の乾燥機付きなので朝までには乾くとは言ったが、乾くまで待つのがもどかしい。この家に最低限のものが置かれているとはいえ、
「だからってセミさんのシャツじゃなくてもいいと思うのに」
蟬ヶ沢の衣類を着ることに少し抵抗がある。
巷の女子はこの手のに受かれるのだろうが、着ている身としてはかなり恥ずかしい。ボタンを全て留めても、首は鎖骨まで露出し、ボタンの間からは素肌が見えている。
空調が効いているのでそれほど寒くないはずだったが、くしゃみをしてしまった。
「寒い?」
気がついたら蟬ヶ沢が振り返っていた。彼も蝶と同じようにとても薄着だ。下はズボンであっても、インナー姿は見ているこちらが寒くなりそうだ。インナーからも鍛えられた筋肉があると解る。
昔から一緒にいるが、服を脱いだ所を見たことがなかった。
「寒くはないけど、気まずい」
ぶらぶらと余った袖を揺らす。
「そんなに見ないから安心して」
そういうと彼はすぐに後ろを向いてしまった。
「ねえ、セミさん大丈夫?」
「藪から棒に何よ」
「さっき呻いていたから」
「…………今から聞かないふり出来る?」
蟬ヶ沢は手を左手を上げて、鋏の形にし空を切る。案に盗聴を防いでくれと言っているのだ。蝶は指を鳴らす。その瞬間外の音は聞こえず、聞こえるのはお互いの呼吸音だけとなった。
蟬ヶ沢にも盗聴を防いでいる状態になったことに気付いたのだろう、話を続けた。
「ここから引っ越したきっかけって、一緒に住むことになるレインを別の場所で迎え入れる為だったのよ。勿論、ここに住まわせることも出来るし、それも可能だったわ。迎える任務が来た時、レインの為の部屋をどこにするか考えて、ふと、ここを見て思ったのよ」
彼は深く息を吸い込む。
「ここに入れるの自分が決めた人だけにしたいと思ったの」
顔こそ向けてこないが、手を伸ばし蝶に向けてきた。蝶が蟬ヶ沢の手を握ると、蟬ヶ沢も引き寄せつつ握り返す。引っ張られるが、倒れるほどではない。ただ、どこにも行かないでと訴えるように少しだけ強く握られる。
「これまで任務の通達で他の合成人間が来ることもあったわ。それでもいるのは精々五分もかからない。なんてことないのよ、自分のテリトリーは守りたいだけ」
意識は蝶の回りを囲んでいるが、触れるか触れないかと距離を保ち、直接触れることはしない。
握る以外は何もしない。手は朝までずっと握っていた。