001.~
Please tell me your name
この小説の夢小説設定簡易的な夢主設定
夢主は
・女子高生(深陽学園の女子生徒)
・デザイナーの卵
・特殊能力の持ち主(MPLS)
・蟬ヶ沢(スクイーズ)とは昔からの知り合い
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表向きの職業を擬装して他の合成人間と任務を共にすることは珍しくない。自分が探索型なので、任務次第では戦闘型と組まされるのは必然だろう。戦闘型と組まされる時は必ずしも処理の為の任務とは限らない。
「じゃあ、瀬川さん今日の撮影はここまででいいわ。あとは楽屋で休みながら一緒に写真を選んで頂戴」
カメラマンの後ろに立っていた美術監督が手を上げて撮影を切り上げた。
瀬川は、はーいと返事をして、片づけをカメラマンやスタッフに任せて楽屋に戻った。
瀬川はそこそこ名の知れた女優である。大きく取りざたされることはないが、評判が悪い訳では無い、芸能人としてはやや控え目な方だろう。そんな彼女にスキャンダルどころでは済まされない秘密があるとは誰が予想できるだろう。
彼女の正体は特殊な能力を持つ合成人間である。とは言っても、せいぜい通常の人間より身体が向上と丈夫さを持っているのが取り柄。合成人間にそれぞれ与えられている能力も、人の心の様子を強化された視力で見抜くという、戦闘には向かない力である。
だからなのか、今しがた入ってきた楽屋にいた男が不満であることもすぐに読み取れた。
「スワロゥバード、撮影が終わったらすぐに来い」
撮影時に発していた女性のような言葉遣いとは打って変わって男性らしい言葉遣いで言ってきた。彼はいつもこうなのだ。
先程まで一緒に撮影に場にいた蟬ヶ沢卓も彼女と同じく合成人間なのだ。
彼はスワロゥバードと異なり戦闘用合成人間である。彼もまた表向きの仕事が多いタイプだが、彼女とは違って常に忙しい。今回の表向きの仕事では彼は美術監督をしている。
戦闘向き合成人間ではあるが、視認するまで気配がまったく悟らせなかったことに違和感を覚える。
「セミさんはこっちの時は毎回ぎっちぎちだよねえ。胃薬いくつあっても足りないよ?」
スクイーズの後ろからくすくすと笑いながらもう一人の撮影にいた若い女の子が出てきた。
「スクイーズだ」
容赦なく、しかし怪我をしない程度に加減してボードで彼女を叩いた。
スクイーズを視認するまで存在に気付けなかったと同じように、彼女も見るまで存在に気付けなかった。これは彼女の能力によるものだろうか。
「あの、彼女も……?」
「え?ああ、そ……そうだ」
ごほんと大げさに咳払いをし、声音と言葉遣いを直した。
(ああ、そっちが“素”なのね)
表向きでも裏としてでも知っている身としてはやや意外な反応が見えて笑ってしまいそうになった。
****
スクイーズが連れてきたのは今後一緒に行動することになるMPLSの一人だった。紹介された時こそ警戒はしたが、彼女のなんともとぼけた言い回しで、警戒するだけ無駄な気がしたので能力で見る気も失せた。
彼女はスワロゥバードが来る前からノートパソコンを取り出して編集のソフトを立ち上げて画像の加工の準備をしていた。どうやら写真を選ぶのも同時進行で任務をこなすつもりらしい。
「じゃあ、瀬川さん……じゃなくて、スワロゥバードさん」
「そっちではスワロゥバードでいいわよ」
「じゃあ、スーさんね」
「そこまでしなくてもいいわ……」
「それだと私もスーさんになるが」
「セミさんはセミさんじゃない」
若干だが、彼女はスクイーズに辛辣である。
話しながら彼女はスワロゥバードが選んだ写真を次々フォルダごとに分けていく。最終的に使われる写真は別になる可能性が高いが、本人の好みも入れておいた方がいいと蟬ヶ沢の指示にあったらしい。何百枚もの中から選ぶは面倒だが、コンマでの時間差であっても一枚一枚差異がはっきりして選ぶのは楽しい。
「この写真って何に使われるんだったかしら?」
「ああ、来年のバレンタインですよ。あ、ここ変えてもいいですか。せっかくのパールピンクのリップの色が飛んる。照明が強すぎたんですかね」
彼女はソフトで範囲選択をし、唇のところのみ彩度をいじくる。装丁に嵌めて確認すると、満足そうに資料のフォルダに保存した。
バレンタインなんてそれこそ自分には無縁のお祭りごとだと関心がなかったが、目の前に丁度好奇心がそそられる人物が二人いるので話題を振ってみた。
「ねえ、知っているかしら。フランスの上流階級の間で好意を寄せる人への思いや悪口・批判などを、花や植物に例えて詩にする文化があったそうよ」
「好意を寄せる人への思いや悪口や批判って、今のと逆ね。普通は告白とかするもんでは?」
「貴女はどうなの。いたりしない?」
隣にいる同僚を指さす。一瞬だが、彼が気になると顔に出していたのは言わないでおいた。
「文句なら腐る程」
「折角だから文句ごと送ってみたら?来年なら間に合うわよ」
「悪いが、任務の話に移ってもいいか?一応、こっちが本題なんだが」
「本体保存とクラウド保存してからね」
「ここに連れてきたの後悔してきたわ……」
スクイーズが額に手を当てて心底早く終えてくれと彼女に訴えていた。
****
合成人間同士はチーム以外で行動を共にすることはあまりない。縄張り意識が強い者がいるからか、他の合成人間との接触を好む者は多くはない。スワロゥバードも自ら他の合成人間と接触しようとは思わないが、今回は少し場合が違う。興味がある対象があるならば話が別である。
スクイーズは合成人間の中ではよくある部類だと思っていた。任務を淡々とこなし、社会にもほどほどうまく溶け込んでいる。擬装用の身分で言葉遣いが変わるのは多少奇妙だと思っていたが、素の言葉遣いが擬装用のはずの身分というのは興味深い。素の状態に戻りやすくさせている彼女の存在も気になる。
システムからの任務の話を終えた後、蟬ヶ沢と彼女をお茶に誘った。蟬ヶ沢はあまり行きたがらない顔をしていたが、彼女は乗りがよく快諾した。
蟬ヶ沢が運転する車の中で瀬川はトリスタンに電話をし、個室の席を予約する。
電話をしながら瀬川は助手席に視線を向ける。座席にはクッションが敷かれ、そこにいつも座る人間がいるように見えた。彼女の隣にいる彼女のクッションは綺麗にな状態で、あまり使われていない。
個室では先に瀬川が先に座り、間に彼女が座ろうとしたが蟬ヶ沢が半ば強引に入口付近の席に座らせた。
ここでの会話も大して中身のあることは言っていない。表向きの仕事の愚痴がほとんどだった。瀬川と彼女で殆ど話して、蟬ヶ沢はもっぱらパフェを黙々と食べていた。話題を振っても、一言二言言うだけで積極的には会話に参加しよとはしない。
彼女が席を外すと、蟬ヶ沢が大きく溜め息を付いて瀬川に話しかけた。
「お前といい、あいつといい、なんであの子に興味を持つのよ」
「いいえ?私が興味あるのは貴方よ、蟬ヶ沢サン?」
蟬ヶ沢は理解できないと言わんばかりに眉をひそめる。
「どうして今更興味が湧いたのかしらね。何も変なことはしていないわよ」
変なことを上げたらきりがないので、突っ込みはせずに本題に入る。
「で、来年のバレンタインってどうする気なの?」
彼女のバレンタインに向ける行動を気にしていた。蟬ヶ沢の中学生のようにそわそわとしていたのが気になったのだ。
扉の向こうで何かがたりと何かが落ちる音が聞こえたが、店員が伝票でも落したのだろう。一瞬意識が外へ向いたが、すぐに蟬ヶ沢に向ける。
「安心して。写真そのものは悪くないからちゃんと貴女のは使われるわ」
テーブルに手を付いて、蟬ヶ沢に迫る。
「違うわよ。そうじゃなくて、来年のバレンタインはあの子から貰えそうなの?」
蟬ヶ沢は飲んでいたコーヒーが肺に入ったのか咽た。ごほごほと咳をしながら、視線で何を言っているんだと聞いてきた。
「気になるんでしょう?」
「気になるも何も、毎年貰っている」
しれっと言った彼に失望してしまう。瀬川が思った以上に二人の中は進んでいるらしい。
てっきり蟬ヶ沢が彼女の事が気になっているのかと思いきや、既に出来上がっていたらし。
「なあんだ、つまらないわね」
「生憎、面白い関係でもないわよ」
「中年と女子高生って関係で充分面白い関係よ。どっちが先に告白したの」
蟬ヶ沢はすぐには答えなかった。肺の空気を出しきったかと思うくらい長く息を吐いた後、
「されてない」
と呟いた。
「されてないのに、毎年貰っているの?」
彼は頷く。
「自分からあげたことは?」
「お返しの時に、くらいね」
瀬川は最初にあった好奇心がなくなり、別の感情が湧いていた。
「じゃあ、来年くらいは貴方から送りなさいよ」
「なんで瀬川が張り切ってんのよ」
げんなりと蟬ヶ沢が肩を落とす。
「同僚の微笑ましい現場を見ちゃったからね」
助手席には、彼女の学生手帳が落ちていたのだ。
****
生きている限り関係というのは永久に続いていき、感情は関係を変えるには大きな起爆剤だとスワロゥバードは思っている。時には存続させたり、破滅に向かわせたり。
今見えている二人はある合成人間達を彷彿させる。片方が好意的で、もう片方はどっちつかず。この二人に彼等と違いがあるとすれば、もう片方はどっちつかずの反応をしているが、好意的な意識があるのは目に見えている。
おせっかいかもしれないが、この二人はお互いに好きならもう少し近づいてもいいのではないかと思ってしまう。自分たちが任務でいつ命を落とすか分からない中で自分の気持ちを伝えずに死んでしまうのは辛いことだろう。
****
瀬川は蟬ヶ沢に彼女に関して質問攻めをした。聞いていることは一巻して彼女の好みである。デザイナーの助手をしているだけあってお洒落なものを好んでいるかと思ったが、彼女の好みはスタンダードな大衆が好みそうな変なものはなかった。蟬ヶ沢と違って、好みがまともである。
「貴方の弟子にしては普通ね」
「失礼ね。あの子は普通よ。あと、弟子じゃないわよ」
「あの事務所での扱いはアルバイト、よりももっと下よ。親戚の手伝いみたいな扱い」
給料は支払われているのだろうかと心配になってきたが、蟬ヶ沢はそこのところ社会性はちゃんとしていると景山も言っていたので、気にしないでおこう。
「“こっち”では貴方の親戚としているの?」
統和機構に入った者で、社会的に繋がりを持たされることがある。若い合成人間はよく年長の合成人間と組まされ、戦闘や社会性を学ぶ。MPLSも監視がつくと、監視者と戸籍上何らかの関係が作られる。蟬ヶ沢―スクイーズが監視している対象の前任者がまさにそれだ。スクイーズはレインを監視していると聞いたが、戸籍上にも何か細工がされているかまでは聞いていない。
今スクイーズがメインとして監視している彼女も何か繋がりがあるのだろうか。
「みたいって言ったでしょ。違うわよ。戸籍は弄ってないから、全くの他人」
「貴方の近くにあれだけいて?事務所の人たちに怪しまれてないの?」
「怪しまれているよりも、もうネタ扱いね。あの事務所の中では親戚のようなものとして言ってあるわ。そうしないと、行きも帰りも一緒なのが怪しまれるもの」
「じゃあ、結婚しても問題なさそうね」
瀬川のすぐ脇を凄まじい衝撃の水が通り、壁がわずかに凹んだ。
瀬川は凹んだ壁にも気になったが、それ以上に目の前の同僚の反応に釘付けになってしまった。
咽ている。ぜーぜーと呼吸と乱して、胸を擦って落ち着かせようとしている。顔は俯いて見えなくて表情は読めないが、赤面しているのは分かる。
瀬川は大笑いしそうになったが、堪えた。呼吸を乱している姿は心配するが、それ以上にこうも露骨に動揺している様が面白くて仕方ない。
「その前に付き合うことが先ね」
「誰と誰が付き合うって」
蟬ヶ沢は俯いたまま呻きながら突っ込む。
「貴方があの子と」
「あのね、念を押して言っておくけど、あの子とはそんな関係じゃないの」
「あの子が他の子と付き合ってもいいの?」
上がりかかった顔から見える視線が泳いだ。
「それは」
葛藤も見えるが、腑に落ちないと顔に書いている。あの子が他人を好きになるのがよほど在り得ないとでも思っているのか、好かれている確信が強いのか。万が一起こらないわけも無いなと、思っていそうだ。蟬ヶ沢はそれはの後に少し時間を置いて言葉を続ける。
「あの子が好きなら」
瀬川はため息をついた。
****
「蟬ヶ沢は一生このままでいいの!?そんなんだと他の人に取られるわよ!」
「う、うう……、だから何で貴女が言うのよ。取られるなんてそんな訳」
「あのね、これまでは蟬ヶ沢があの子をガードしていたんでしょうけど、ここに入ったんじゃあそうもいかないわよ」
「そもそも、私はあの子とは」
「彼氏が出来てもいいの?」
蟬ヶ沢にぐいぐい詰め寄る。瀬川の圧に押されて、蟬ヶ沢が引いて手を向けて勢いを押さえようとする。
「あの子が」
「いいの!?」
蟬ヶ沢は口を“い”の字にしたまま視線を泳がせると、きつく目を閉じた。
突如、ノックが聞こえて、二人は止まる。
蟬ヶ沢が先に動いて、扉を開けると扉の前にいたのは彼女だった。
「ええと、そろそろ入ってもいい?」
蟬ヶ沢はうん、と力なく返事をして、彼女を迎え入れる。
「なんか熱弁していたけど……、セミさんも瀬川さんもそんなにバレンタインの企画に気合が入っているんですね」
「ま、まあ、バレンタインには関係しているわね」
「公私混同でね」
彼女に見えない位置で蟬ヶ沢が瀬川を小突く。
「なあに、来年はセミさんもチョコレートくれるの?」
「そのつもり。パッケージも専用に描いてあげるから楽しみにしてちょうだい。モチーフは」蟬ヶ沢は携帯端末で何か操作をする「うん、決まっているし、来年の新作に出るわよ」
瀬川はこっそりと蟬ヶ沢の携帯端末の画面を覗く。画面には苺の花言葉が見えた。
「蟬ヶ沢さん、あげるならちゃんと面と向かってあげなさいよ」
瀬川は今見てしまった携帯端末を取り上げて、彼女に見せたかったが我慢した。
「はいはい、ちゃんと直接手渡しするから安心してちょうだい」
「撮影のとは違うモチーフ?」
「そうよ。私が蝶へ送るなら苺かしら」
「はー、なんだかとても子供扱いされている気がする」
大袈裟にため息をついてはいるが、彼女の顔は蟬ヶ沢には見えない位置に向いているので彼には解らないだろうが、悲しそうにしている。
「子供?とんでもないわ」
「そう?」
「ちゃんと一人の人として見ているでしょ?」
蟬ヶ沢から賛同の視線を向けられたが、肩をすくめられて流した。